目高箱と幽波紋!!   作:人参天国

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 原作入りは二、三話先にしようかと思っていたんですが、リアル時間になるとかなり先になってしまうので、もう次回でさっさと原作入りしちゃおうと思う次第であります。

 そしてぶっちゃけ今回は手抜きな話だぜ! イ゙ェアアアアア!


第十一話:濃すぎる奴らと幽波紋!

 

 

 奏丞は今、高校生活を満喫していた。歌でもひとつ歌いたい様な、実にスガスガしい気分だった。

 しかし、実の所奏丞が箱庭学園に入学してからまだ三日しか経っていない。

 ならば何故、こんなに奏丞の機嫌が良いのかというと。

 

「ああ、誰も俺を避けない……」

 

 その小さな呟きが聞こえてしまった登校中の周りの生徒達が距離を置いた事には気付かなかった。

 揺籃中学校では根も葉もない噂のせいでとにかく人に避けられていた。避けられ過ぎて『列に並ぶ』事に縁がなかった程だ。

 まるでモーセの様だ! などとおどけてみたら余計に哀しくなった事を憶えている。

 しかし、揺籃中から遠く離れたこの箱庭学園ならば奏丞の事など誰も知らない。今度こそ普通の学園生活(と言っても原作に入ればそうも言ってられないが)を送られる筈なのだ。

 そして今日に至る。

 奏丞は今、普通の日常を満喫していた。

 

「登校中悪いがツラ貸してくれ、揺籃中の宇城そ……って早ぇ!? 逃げた! 逃げやがった!

 オイちょっ、待てコラァ!」

 

 満喫、していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「あががが……」

「うおーいどうした奏丞、朝っぱらからなんて声出してんだよ」

「善吉ィ……もしもの事があったら俺の死は三年程は伏せておいてくれ」

「伏せなきゃいけないお前はナニモンなんだよ……。

 せっかくまた同じ学校に通えるってのに、今度は死に別れなんて縁起でもないぜ」

「(やだ、さりげなくデレられた……)」

「そーいや今朝は校門の所でいきなり走りだしてたもんねー。

 なになにどしたの? もしかして『思春期の書』を片付け忘れたとか?」

「『悟りの書』みたいだなおい。

 残念ながら外れでーす。全然違いまーす」

 

 机でうつ伏せになっていた奏丞に話しかけてきたのは、人吉善吉と不知火半袖の二人だ。

 真黒からの依頼で奏丞は善吉とは違う中学校に通っていたので会う頻度は減っていたが、交流は変わらず続けていた。なので高校では同じ学校に行けるとわかった時にはお互い喜んだものだ。

 半袖とは昨日善吉に紹介されて知り合ったばかりで、付き合いはまだ浅いどころか無いに等しい。

 にもかかわらず、原作知識などなくとも腹に一物隠していそうな所が既に伺える辺り、なかなか濃いキャラをしている。

 そんな半袖と入学直後に知り合える善吉は、運が良いのか悪いのか。

 

「あ、もしかしてヤバイ奴に目をつけられたとか? うわありそー! 考えてみたらメッチャ逃げてる感じだったしー♪」

「おいおい穏やかじゃないな。流石に入学早々お縄にかかる様な事は……してねーよな?」

「なに微妙に疑ってんだよケシオトを極めし男」

「あっ、やめろそれを言うな! うわー、なんか今頃になって恥ずかしくなってきたんだけど!」

「あひゃひゃ☆ ねえねえ人吉、ちゃんとマイ消しゴムは用意したー?」

「うおおおお、不知火お前まで……用意はしたけど」

「「(したんだ……)」」

 

 人吉善吉。ウソかマコトか、中学時代『ケシオトを極めし男』と呼ばれた男である。

 

「まあ、あんま大した事じゃないから気にすんな」

「そうは言われても心配になるのが友達というもの。私と貴様の仲ではないか、困った事があるならなんでも相談するがいい」

「おい、後ろで真似られてるぞ……」

「……お前どっから湧いて出た」

 

 手をヒラヒラと振る奏丞の真似をして背後に立っていたのはめだかだった。

 

「もうすぐ朝のホームルームだぞ。お前の教室遠いんだから早く戻った方がいいぞ」

「やれやれ、相変わらずつれない男だな。昨今の趨勢では例えメインヒロインでもツンデレは後塵を拝すものだというのに」

「善吉、黒神めだかの真骨頂その2を教えてくれ」

「めだかちゃん、ブーメランがマジやばいからそろそろ教室戻ろうか」

「わーお、なんか面白い奴だね♪

 人吉、ちょっとあたしの事も紹介してよー」

 

 場が程良くカオスになってきた所でふと奏丞は教室の扉に目をやり、そして次の瞬間顔をひきつらせる事になる。

 

「オジャマーっと」

 

 大男が教室に入って来た。

 

 ガンッ!

 

「うおっ!? なんだどうしたいきなり机に頭ぶつけて!」

「むむ、明らかに様子がおかしいな。やはり何かとてつもない懸念があるのでは?」

「どしたの急に。なんか見えちゃいけない物でも見たの?

 ……ん? 見えちゃいけない……ああ、なるほど」

「いいかお前ら、今から俺の名前を一切言うな。俺はこのまま寝る。チャイムが鳴るまで顔を上げないからな」

「いや、意味わかんねーぞ……」

 

 その男は今朝奏丞に話しかけてきた男だった。

 その身長は天井に頭が届く程大きかったが、しかし奇妙な事にそれだけ目立つ男がやって来たにもかかわらず、周りは一切ざわめかない。

 善吉達も含めて、姿どころか扉が開いた事にすら誰も気付いていないみたいだった。

 目的が奏丞なのは考えるまでもない。かと言って関わりたくないのも確かなので、奏丞はこうして顔を隠して事無きを得ようとしたが……

 

「おっ、いたいた。まったく、声かけた途端に逃げるなんてあんまりじゃねーの?」

 

 すぐ傍でそう言われて、奏丞がとった行動とは……

 

「…………(人違いだからどっか行ってください、お願いだから)」

 

 狸寝入りだった。

 

「おい、無視すんなよ。寝てるフリすんなって。

 ……あれ、聞こえてるよな? おっかしいな、さっきは反応してたし……仕方ねぇ」

 

 次の瞬間。

 

「おい、これで聞こえるだろ」

「「「「「!!?」」」」」

 

 教室内に激震が走った。

 奏丞以外の生徒達には、その大男が突然現れた様にしか見えなかったのだ。

 

「うおおおお!? アンタどっから出て来たんだ!? デビルデケェのにまったく気付かなかったッ!」

「おう、驚かせて悪いな。ちと用事があったもんでな、大目に見てくれ」

「しかも気さくだ!」

「あー、やっぱり日之影先輩だったかー」

「知ってんのか不知火!」

「ああ、あれは伝説の『知られざる英雄(ミスターアンノウン)』……っていうかウチの生徒会長なんだけどね♪」

「なにぃ!?」

「わははは、照れるぜ」

「待て、問題はその生徒会長の日之影先輩が何故ここに来たかだ。一体何用で一年生の教室まで……」

 

 めだかがそこまで言った所で、善吉達の視線がそこに集まる。それにつられて、騒然としていた他の生徒達の視線もまた、そこに集まる。

 すなわち……狸寝入りしていた奏丞に。

 

「奏丞、お前まさかさっきから様子がおかしかったのは……」

「日之影先輩に目ぇつけられてたからって事だね。なんでかは知んないけど♪」

「……日之影先輩、差し出がましい事を言う様ですが、一体奏丞にどんな用が? どうやら彼は拒絶しているらしいのですが」

「いや、俺としては少し話してみたかっただけなんだが……」

「話すとは、何を?」

「ちょっと揺か「わっかりました腹を割って話し合いましょう赤裸々に話し合いましょう! でももうすぐチャイムが鳴るんで続きは昼休みって事でどうでしょうかねぇ!?」お、おう、それでいいよ……」

 

 跳ね起きて言葉を遮った奏丞に、空洞は若干引き気味である。

 初めて見る幼馴染みの様子に善吉とめだかも目を丸くしていた。

 

「あー、じゃあ俺は行くよ。昼休みになったら「先輩の教室に行かせてもらいます!」そ、そうか、待ってるよ。ま、一緒にメシでも食いながら話しようや。

 ああ、ちなみに教室は三年十三組だからな」

 

 

 そう言って空洞は去って行った。

 それを見送って再度机に突っ伏した奏丞に善吉が声をかける。

 

「……つまりどういう事なんだ、奏丞?」

「……これは『試練』だ。過去に打ち勝てという『試練』と、俺は受け取った」

「何故ここでいい台詞を言うのだ……おっといかん、私も戻らねばホームルームに遅れてしまうな。

 奏丞、詳しい話は後で聞かせてもらうぞ」

 

 そう言ってめだかも教室を出て行く。 今後の事を考えて、少し憂鬱になった奏丞は、こっそりため息をついた。

 ホームルームはめだかと入れ替わりにやって来た担任の下で進められたが、最後に一言、

 

「理事長がお呼びだから、宇城は放課後に理事長室に行きなさい」

「あばばば……」

「あひゃひゃひゃひゃ♪」

 

 全てわかっているとでも言う様な半袖の笑い声が、イヤに耳に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「来たか」

「……どーも」

 

 昼休み。

 奏丞は空洞との約束通り、三年十三組に来ていた。

 

「弁当か」

「ええ、まあ……先輩も?」

「ああ、買いに行ってもなかなか店員が気付いてくれないからな。自然と自炊する事が多くなったよ。

 席はどーすっか……誰もいないし、いいか」

 

 空洞は正面の席を、まるでペンでも取る様にヒョイと片手で持ち上げ、自身の机と向かい合わせに置く。

 奏丞はそこに座り、お互いに弁当を広げはじめた。

 

「……で、先輩。今回は俺にどんな用件が?」

「んー、いや、とりあえず一度お前と話しておきたかったんだよな。どっちつかずの名瀬に唯一近づく男、『魔王の懐刀(メス)』。ガタイの良さから『名瀬夭歌(フランケンシュタイン)の怪物』とも呼ばれていたとか」

 

 ベキッ。

 

「!」

「……ああ、失礼」

「い、いや、いいけどよ、お前の箸が……折れてない……?」

 

 思わずへし折ってしまった箸をクレイジー・ダイヤモンドで直す。

 その二つ名は中学校でできた物だ。夭歌と関わっているうちにいつの間にかできたそれは、夭歌達が卒業した後でも生徒達の間で真しやかに囁かれていたのだ。

 結局奏丞が卒業するまで、修正できなかった過去の一つである。

 

「まさかとは思いますが、その話はこの学校にまで轟いてるんですか?」

「いや、一般生徒はまず知らないだろうな。知る人ぞ知るって程度だ。

 ……もしかして、つーかもしかしなくても、あんま知られたくない事だったか?」

「そりゃそーですよ! 誰が好き好んで『俺って腰巾着なんスよー』なんて広めたりするんですか!

 俺は! 懐刀でも怪物でもなァーいッ!(プチュッ)」

「おい、プチトマトが潰れ……てない。どうなってんだこりゃ……まあ落ち着け落ち着け」

 

 興奮した奏丞を宥める空洞。噂に聞いていた人物とはキャラが違っている事がわかり、これは話が一人歩きしたパターンだな、と徐々に察していた。

 

「単刀直入に聞くが、揺籃中で何か問題を起こした事は」

「イメージアップの為に花に水をやってみたら停学になりましたが何か」

「(どんな過程があったんだ……)誰かを傷つけた事は」

「高い所にある本を取ってやったら気絶されましたが何か」

「(ああ、やっぱマジモンだわ)……ならこの学園を選んだ理由は?」

「家から近くて俺の噂を知ってる奴がいなさそうだから」

「……そうか」

 

 そう言って空洞は黙り込み、再び弁当をつつき始める。それを見て、奏丞も同じく食事を再開した。

 

「(本当は何故俺が見えてるのかも聞きたかったんだがな……)」

 

 日之影空洞の『知られざる英雄(ミスターアンノウン)』。その強大さから誰もが目を逸らし、存在を忘れたくなるという異常(アブノーマル)

 実はこの異常は、奏丞が教室に入って来る前から発動していたのだ。

 本来ならば空洞と約束した事すら忘れてしまう筈だが、しかし奏丞は約束通りにここに来て、しかも難なく空洞を見つける事ができた。

 空洞にとって初めての出来事である。

 そしてそんな芸当をするには、

 

「(スキルが効かないカラクリがあるのか、あるいは忘れる必要がない程の実力があるのか……だが見た感じだと前者っぽいんだよなぁ?)」

 

 一般生徒より体格が良いのは確かだが、ならば空洞に匹敵する程の身体能力がありそうかと言われると、それは否だ。何らかの異常を持っている可能性の方が高いだろう。

 お互いの弁当を空にした頃に、ようやく空洞が喋り始めた。

 

「まあ、こっちとしちゃあ問題を起こすつもりがないなら何も言う事はない。お前が普通の生活を送りたいって言うなら、俺は応援するよ。なんか中学では苦労してたみたいだしな」

「わかってくれますか……ううっ」

「な、泣くなよ……とにかく頑張ってくれ、な?」

「ありがとうございます……校門で会った時に問答無用で叩き出されるかもしれないなんて思った俺に説教してやりたい気分です」

「(やっべ、その可能性も考えてた事は黙っとくか)」

 

 初めて赤の他人に自分の苦労を理解してもらえ、労われて感動する奏丞だった。

 互いの警戒の壁が薄くなったおかげで、食後は雑談を楽しんだ。

 空洞が生徒会長になるまでの紆余曲折を聞いているうちに昼休みの終わりが近くなると、奏丞は席を立った。

 

「じゃあ俺は自分の所に戻りますね」

「ああ、続きはまた今度話してやるよ。

 ……そういやお前、理事長に呼ばれてるんだよな」

 

 別れ際に、空洞はそんな事を言い出した。

 

「そーですけど、それがどうしたんですか?」

「大丈夫だとは思うが……気をつけろよ。たぶんヤンチャな奴らが待ってるだろうからよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「ほいっ、到着! ここが理事長室。中でおじいちゃんが待ってるよ♪」

「サンキュー不知火」

 

 その後何事もなく放課後になり、奏丞は半袖に案内されて理事長室の前まで来ていた。

 

「全然道覚えてなかったから、マジで助かったわ」

「気にしない気にしなーい。代わりに何話したか後であたしにも教えてよ! 結構気になるしー♪」

「んー、まあ話していい事ならな。

 じゃあこれ、俺のバイト先の『チャーシュー増し増し券』。今度善吉と一緒に来てくれや」

「まいどー♪ 今度と言わず、明日にでも行ったげるよー。あたし一日にラーメン五リットル飲むって決めてんだよねー♪」

「水ですら一日五リットルも飲む奴いないと思うんだけど……まあいいや。じゃ、行ってくる」

「頑張ってねー♪」

 

 そう言って半袖は来た道を戻って行った。

 それを見送った後、奏丞は理事長室の扉を四回ノックする。礼儀が必要な時の回数だ(ちなみに二回だとトイレ、三回だと親しい人を相手にする場合となる)。

 

「どうぞ、入ってください」

 

 すぐに部屋から返事が返って来る。

 失礼します、と言って奏丞は中に入った。

 そこで待っていたのは……アホ毛が一本伸びた老人だった。

 

「(おお……血は争えねぇな)一年一組の宇城奏丞です。お初にお目にかかります」

「おやおや、これはご丁寧に。初めまして、私はこの学園の理事長をさせてもらっている不知火袴です。

 そう畏まらなくてもいいですよ。どうか楽にしてください」

 

 そう言って、袴は湯飲みを奏丞に差し出す。淹れたての熱いお茶だ。

 

「さて、本日はわざわざお呼び立てして申し訳ありませんね。私としては、一度君に会っておきたかったもので。

 袖ちゃんからも話を聞いていますよ」

「……ちなみに、どんな話を?」

「彼女曰く、『ツッコミにもボケにもなれる人』だとか」

「なかなかユニークな話ですね……」

 

 どういうつもりでそんな評価を下したのか、一度聞いてみたいものだった。

 

「さて、今日君を呼んだ理由は他でもありません。一つ、この老人の実験に付き合ってほしいのですよ」

「……実験、ですか」

「ははは、実験とは言っても手間はとらせませんよ。腕を一振りしてもらえればそれで済みます」

 

 そう言って袴は一客のグラスを差し出してきた。

 見れば中には液体ではなく、数個のサイコロが入っている。

 

「このサイコロを振ってみてください」

「……はあ、わかりました」

 

 奏丞には半ば予想できていた実験であり、そして結果も既にわかっている。

 少なくとも、袴が望む結果になりはしない。

 

「…………」

 

 奏丞は無言でサイコロを転がした。

 テーブルに投げられたそれらが出した目は……何の法則性もないバラバラの目だった。

 

「お、おや? おかしいですね……」

 

 それを見て驚く袴。

 

「何か気に入らない事があったなら、もう一度振ってみましょうか?」

「いえ、もういいですよ。最初の一回でなければ意味がないのですから」

「そうですか。では他に何か要件は?」

「……いえ、特にありませんね。唐突に呼び出してしまい申し訳ない。もう帰っていただいて構いませんよ。ご協力ありがとうございました。

 ああ、あと袖ちゃんとは仲良くしてあげてくださいね。なんだかんだ言っても、あの子は良い子ですから」

「言われるまでもありませんよ。それでは失礼します」

 

 そう言って奏丞は席を立ち、退室前に礼を一つして出て行った。

 それを見送った袴は、まだ温かいお茶を一啜りしてため息をついた。

 

「さて、どうしましょうかね。まさか彼の異常度がここまで低いとは思いも寄りませんでしたよ。

 こうなると十三年前の研究データの消失も果たしてどういうわけだったのか……あるいは彼が普通(ノーマル)の皮を被っているのか」

 

 そう言った袴は、虚空に声を投げかけた。

 

「……皆さん、彼はどうでしたか?」

「妙な人だ。強いのか弱いのか全然わからない」

「そうか? 確かに一般人よりはスキがねーけど、()ろうと思えばいくらでも殺れたぜ。

 俺達にも全然気付いてないみたいだったし、マジでアッサリ死にそうだから止めといたけどよ」

「あはははは……」

「…………」

「研究所を一つ潰したと言うからどんなモノかと思えば、アレはどう見ても凡人(ノーマル)ではないか。

 行橋、お前読めたか?」

「おいおい王土、無茶を言うなよ。お前みたいに存在感がある奴が傍にいちゃあ読めるものも読めないぜ。

 でも実力的に怪しいのは確かだ。周りが過大評価してる可能性が高いんじゃないかなー」

 

 端整な顔立ちの男、色黒な男、天井からぶら下がる女、それぞれ包帯と仮面で顔を隠している者、なんかボロい恰好をしている男。

 六人の人間が、袴の背後に現れた。

 『十三組の十三人(サーティンパーティ)』と呼ばれる集団の内の六人だ。

 

「宗像くんの言葉は気になりますね。

 十三人の内、最も殺す技術に長けた『枯れた樹海(ラストカーペット)』。その君がわからないと言うとは」

「……スキがある、という点では高千穂と同意見です。殺すビジョンも見える。しかしどういうわけか殺した(・・・)ビジョンが見えてこない。

 『殺しても死にそうにない人間』といった所ですか」

「でも彼は『スキルの干渉を防ぐ異常(アブノーマル)』かもしれないんでしょ? それに妨害されてるって事じゃないの?」

「僕の殺人衝動は『殺害に特化した観察力』を備えてる。ゲームで言えば自分に支援魔法をかけている様なもので、相手のステータスに干渉する異常じゃない。

 それでも駄目なら、例えば高千穂の反射神経(オートパイロット)なんかも彼に反応できないという事になるね」

「それはないと思うぜ。少なくともアイツの動作を見てて、違和感はまったく感じなかった。

 なんでもかんでも無効にするってのとは違うんじゃねーか?」

「そうなるとボクの異常はどうなるんだろうねー。体外に漏れ出た電磁波を受信して解析してるんだから、もしかしたらセーフ判定だったりするかも☆」

「しかし俺の異常はほぼ確実に通用しないという事か。やれやれ、まるで頑丈な金庫に閉じ籠っている様だ。あの男の異常は偉大なる俺にこそ相応しいと思うんだが」

 

 袴は、そんな彼らの話し合いに参加していない二人に気付く。

 彼女達は、確か宇城奏丞と同じ出身校だった筈だ。

 

「名瀬さん、古賀さん。

 彼の先輩として、是非とも君達のお考えを聞かせていただきたいのですが」

「うーん……まあ、ぶっちゃけ肉弾戦なら(・・・・・)私や仕種さんは圧勝できるし、形さんも暗器ありなら確実に勝てるし、あんまり気にしないでいいと思うよ。

 というか宇城くんに関しては気にするだけ無駄無駄」

「おやおや、これは随分な評価ですね。

 では名瀬さんはどうでしょう。君も古賀さんと同じ考えですか?」

「……右に同じく。あの男にわざわざ手を出す必要はない。放置しておけばいい」

「ふむ、君もそう思うのですか……」

 

 サイコロの実験で結果を出さなかった以上、奏丞の異常度が低いのは確かだろう。

 仮に持っている異常が本物だとしても、それがフラスコ計画の趣旨に沿うモノかと聞かれると、現時点では否と答えざるを得ない。

 天才を量産する計画において、天才の能力を無効化してしまう能力は役に立たないだろう。

 

「かつて研究所を潰した異常についても知りたい所なんですがねぇ……」

「ふん、ならば偉大なる俺が折を見て試してこよう。王の言葉もはね除けるなど不遜この上ないが、異常自体はなかなか興味深い。

 行橋、お前も来るといい。お前の異常があの凡人に通じるかどうか、試してみるのもまた一興だ」

「えへ! 言われずともついて行くさ! (きみ)のいる所に道化(ボク)ありってね!」

「つー事は俺は出番なしだな。ま、俺としちゃああんま興味ねーし、ここは二人に任せとくぜ」

「僕もわざわざちょっかいをかける理由はないな。精々道で会った時に殺す程度にしておくよ」

「ふふふ、お手柔らかにしてあげてくださいね(頼もしい限りですよ、『十三組の十三人』! 彼の異常が紛い物か否か、確と見極めてやりましょう)」

「あはは~(止めといた方がいいんだけどな~、ホントに……)」

「……(都城先輩はどーせ口で言っても聞かねーだろうしな。いざバトったらボコボコにされそうなんだけど……せめて五体満足で帰って来られる事を祈っとくか)」

 

 当事者がいない所で話が進む。

 迫り来る『十三組の十三人』を相手に、果たして奏丞は生き残る事ができるのだろうか。

 奏丞の命運や如何に。

 

 ――ブブブブ。

 

 その時、夭歌の携帯電話が振動する。メールが届いた様だ。

 

「……私の携帯だ。少々失礼する」

 

 周りに断って見てみる。

 その相手は……今話題の奏丞だった。

 

『そこで試すとか殺すとか物騒な事言ってる先輩方をなんとかしてくれ』

 

 ゲンナリした奏丞の顔が目に浮かんだ。

 しかしやはり夭歌達の存在に気付いていたらしい。しかも現在進行形で事態を把握している様だ。

 

「どうするの、名瀬ちゃん……?」

 

 横から覗き込んで内容を見ていたいたみにそう訊ねられ、夭歌は力強い頷きで返して。

 

「『無☆理』と」

「うわぁ……」

 

 奏丞の明日はどっちだ。

 




都城「『なんかボロい恰好をしている男』ってなんなんだそれは! 偉大なる俺の扱いが粗雑過ぎる!」
行橋「(うん、まあ、確かに間違っちゃいないんだよなあ。ぶっちゃけなんでボロい服着てるのかも知らないしね……)」
高千穂「それに比べりゃ俺の『色黒な男』の方がまだマシか? もうちょいハンサムな描写してほしいんだけどよー……」
宗像「『端整な顔立ちの男』……悪くはないか」
いたみ「私なんか『天井からぶら下がる女』だよ? なんか妖怪みたいなんだけど」
夭歌「……(俺、行橋先輩と一纏めかよ)」

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