この話を読む方は以下の注意事項を確認してからお読みください。
1:描写がヘボいです。
2:矛盾? 『スゴ味』でカバーしましょう。
3:作者より頭がいいキャラクターはいません。
「レッツパーリー!(訳:俺達も卒業したことだし、後輩として送別会でもしてくれよ)」
「焦るな、coolにいこうぜ(訳:送るのが一人で送られるのが二人の送別会ってのも変な感じがするけど、わかったよ。元からそのつもりだったしな)」
「奏丞ぇ、全力で来い!(訳:盛大に頼むぜー)」
「ねえ、なんで二人して伊達〇宗テイストなの? しかもなんで会話できてるの? ただでさえ私って孤立しがちなのに、これ以上置いてきぼりにしないでよ!」
卒業式を終えてすぐの奏丞達の会話である。意味がわからなかった。
さて今の通り、奏丞は在校生として夭歌といたみを見送る為に送別会を開く事となった。
奏丞が暮らす寮や両親がいるいたみの家では騒ぎたくとも騒げないので、会場は夭歌のマンションになる。防音設備も整っているので、多少騒いでも隣室に迷惑はかけないだろうという判断だ。
「にしてもでっかいケーキ送ってくれたなぁ、兄貴達。こりゃ食い出があるわ」
とある洋菓子店で働いている兄達に事前に頼んでおいた、手作りのチョコレートケーキを持って夭歌のマンションへ急ぐ。
食べるのは三人だと確かに断っておいたのだが、二人の姉が随分と張り切ったらしく、一日で食べきるには結構苦労するだろう。一般女性なら確実に脳裏を体重計がよぎる程の量だ。
もっとも、実際にこれから食べる女性二人に限って言えば、脳や身体にエネルギーを使っているので体重計にも縁がないかもしれないが。
「おーい夭歌ー、来たぞー」
ピンポーン。
インターホンを鳴らしてしばし待つが……返事がない。
「……夭歌?」
再度インターホンを鳴らしてみるも、やはり反応はない。
留守にしているのかとドアノブに手をかけてみると、鍵がかかっていない事がわかった。
勝手知ったる何とやら、訝しく思いつつも中に入ってみる。だがそこにあるのは見慣れた夭歌の部屋で、特に異常も見つけられない。
クローゼットの存在が忘れられているかの様に無造作にソファに放られた夭歌の私服、無駄に大きいテーブルに積み重なった少年ジャンプ、ショーケースに飾られた紙袋コレクション……変な物もあるが、これがいつもの夭歌の部屋だった。
「鍵開けっ放しで出て行ったのか? んな物騒な……」
しかし、何はともあれケーキを早く片付けるべきだろうと考え、奏丞が冷蔵庫に向かった、その時。
――とうおるるるるるん。
懐の携帯電話が鳴った。決して玩具や食べ物ではない事に注意。
「うわ、タイミング良すぎ……」
相手は今ここにいない夭歌達だろうという事は想像に難くない。しかし部屋に入ってすぐに電話が鳴ったあたり、何とも嫌な予感がする。
奏丞は一先ずケーキをキッチンに置いて、携帯電話を取り出す。
相手はもちろん……
『よぉ奏丞、俺だよ』
「わかってるよ……」
案の定夭歌だった。
「お前今何やってんだ? 玄関の鍵が閉まってなかったぞ。ちょっと物騒すぎるぜ」
『えーマジー? そりゃー大変だ、だったら早く閉めないとなー』
夭歌がそう言った次の瞬間。
ガシャン! ガシャン!!
「……どういうつもりだ?」
『こういうつもりだ』
突如降りて来たシャッターによって、窓も扉も封鎖されてしまった。
「……まさかとは思ってたけどよ、この送別会ってのはあれか? 思い出作りに俺と古賀先輩を戦わせるっつー……」
『ズバリだな、話が早くて助かるぜ。
その通り、俺の大親友と出来のいい後輩クンには今から殺し合いをしてもらいまーす』
「親友と後輩持ってる奴の発言じゃねーぞソレ」
奏丞は電話片手にガンガンとシャッターを蹴ってみる。どうやらそこらの鎧戸とは桁違いの強度らしい。
出入口を塞がれたという事はつまり、この部屋からは脱出出来なくなったという事か。
『おっと、安心してくれていいぜ。塞いでるのは外に繋がる所だけだ。部屋同士の間の壁や床なら頑張りゃブッ壊せるからよ』
「隣近所に押し入れってか。後でどんだけ賠償金払う事になると思ってんだ」
『んな心配しなくても請求しねーよ』
「いや、少なくとも大家は確実に請求するだろ。壁ブッ壊されたりしたら」
『その大家本人がしねーって言ってるだろ』
…………?
「……夭歌」
『どーした?』
「なーんかお前の言う事聞いてるとよ、お前がこのマンションの持ち主みたいに聞こえるんだけど」
『そーだけど』
「…………」
『…………』
「……えっ、何それ怖い」
『……言ってなかったか? そこのマンションは土地ごと俺の所有物で、住んでる奴なんか他にいねーからな?』
「……マジか」
道理でこの二年間、一度もここで他人に会わなかったわけだ。
人に会わないなー、とは思っていたが、まさかマンション自体が夭歌の物だったとは。
『つまり、どれだけ暴れようと問題ねーって事だ。プロレスしようがガラスを割ろうが……天井をブチ破ろうが、な』
――奏丞の足下が爆発した。
「ぐぅっ!?」
突然の衝撃に吹き飛ばされて一瞬前後不覚に陥るも、辛うじてハーヴェストを展開し、受け止めさせる事に成功した。
下手をすれば机の角や食器棚に頭から突っ込む危険があったのだ。
今の衝撃で手放してしまった携帯電話から夭歌の声が響く。
『せっかくのバトルパートだからな、改めて紹介するぜ。
俺の可愛い
先の爆発の正体は、
「ジャジャジャジャーン☆ 可愛い名瀬ちゃんの
一人で戦う君に私達は倒せないよ!」
床をブチ抜いて来たいたみだった。夭歌の改造を受け入れて手に入れたそのパワーは、とうに人間を超えていた。
「さあさあいざいざ☆ ふふふ、宇城くん! 今日という日が来るのを待っていたのは名瀬ちゃんだけじゃない……んだけど……ちょっと聞いてるの? どっか打ち所が悪かったの……?」
その言葉にも奏丞は応えず、目もくれず、あらぬ方向に顔を向けている。
どういう事かといたみはそちらを見てみて……
「『……あ゛』」
隠しカメラで様子を見ていた夭歌と声を揃えた。
奏丞が見つめていた先は――
「…………ケーキが」
運が悪いのか、それとも必然か。飛散した瓦礫の直撃を受けた柔らかなケーキが、無事に形を保っていられる筈がなく。
「…………兄貴達に作ってもらったケーキが」
そこにあるのはただただ無惨な屍を晒す、潰れたチョコレートケーキだけだった。
そこに目を向けたまま、こぼれる様に口を開く。
「……あのケーキはさ、一ヶ月前から兄貴達に頼んでおいたケーキなんだ。二人いる先輩達の為に送別会をやりたいから、美味しいケーキを作ってほしいってよ。
最高のケーキを作ってやるって、兄貴達はわざわざ友達も呼んで、皆で構想を練って、結局あんなにでっかいケーキになっちまって……あれで三人分だぜ? はは、生物だから長持ちしないってのによォ……」
「…………」
『…………』
いたみも夭歌も、何も言わない。ともすれば独り言の様にも思える言葉を聞いて今、二人は間違いなく……気圧されていた。
「そのケーキによ、ええ? トッピングにコンクリートはいかがですかってか? ハハハ、大したジョークだぜ」
┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛
『……ヤバイぜ古賀ちゃん』
やっとの事で夭歌は声を出す。
事態は夭歌達の想定外の方向へ転がってしまった。
『奏丞は不意打ちされた事よりも家族に作ってもらったケーキを台無しにされた事を怒るタイプ!』
「そんなイカれたジョークをよォー、『知らなかった』とか『そんなつもりじゃなかった』とか、そんな虫がいい弁解で許すなんてのは無理ってもんだ……」
夭歌は長年の付き合いで奏丞がキレるかキレないかのギリギリの線を把握し、今回も辛うじてキレない程度の不意打ちにしたつもりだった。
その結果……地雷を踏み抜いてしまった。
「こんな事見せられて……頭に来ねえヤツはいねえッ!」
『古賀ちゃん来るぜ!』
「うりゃああああ!」
いたみが雄叫びを上げて、尋常ならざる膂力で傍のタンスを投擲し、その影に隠れて一気に接近する。
「…………」
勢いよく迫るタンスを、奏丞はスタープラチナで粉砕する。
バラバラに砕け散る破片の向こう側で、いたみが拳を振りかぶっていた。
「えいッ!」
パンッ、と乾いた音を立てて、いたみの拳がスタープラチナに受け止められる。
「せいッ!」
蹴りを放つ。
スタープラチナが受け止める。
「ウラララララララララララララララララララァ!!」
拳と蹴りの嵐が吹き荒れる。
まるでサンドバッグを殴るかの様な遠慮のなさで、いたみがひたすら攻め続け……その全てをスタープラチナが受け止める。
「むむ、全然当たらなー……いっとォ!」
いたみのハイキックを防いで、奏丞がようやく口を開く。
「古賀先輩、耐久力には自信ありますか……?」
「! ……へ、へへへ、名瀬ちゃんの改造はダテじゃないよっ!」
「そーですか、では……腹ァ行くぞッ!」
その言葉を聞き、いたみは即座に両手で腹をガードして腹筋に力を入れ――
「オラァッ!!」
「ごあっ!?」
凄まじい衝撃を受けて、いたみの身体が吹き飛ぶ。痛みを感じる間もなく背中が天井にブチ当たり、そのままコンクリートを破壊して突き抜ける。
奏丞は天井にできた穴を見、次に部屋の隅を見つめて、
「夭歌! 貴様見ているなッ!」
『!』
隠しカメラの向こうで戦闘を見守っていた夭歌は息を呑んだ。
「古賀先輩の次はお前の番だからな……」
『(怖ェー!?)』
奏丞はそう言い残し、上階に消えたいたみを追って天井に開いた穴に飛び込んだ。
入った部屋もさっきまでいた部屋、夭歌の部屋と同じ作りになっており、違いと言えばせいぜい置いてある小物が違う程度だ。
その部屋の中を見回してみたが……いたみがいない。
手加減をしていた(本気でやれば拳が貫通する)とはいえ、夭歌に話しかけている短時間で、あのダメージで即行動できる余力が残っている辺りは流石改造人間と言った所か。確かに人間離れした耐久力、そして回復力だ。
しかしこの部屋には隠れる場所はそう多くない。
キッチンの方に行ったか、洗面所の方に行ったか、あるいは……すぐ傍のクローゼットの中か。
「一番怪しいのがここなんだよな……」
そう呟いて、奏丞が勢いよくクローゼットの扉を開け放すと。
「こいつは……」
そこにはポッカリと開いた穴があった。
覗いてみれば、隣の部屋に通じているらしい。
ならばいたみはこの先に?
「……チッ」
奏丞は舌打ちを一つして、クローゼットの中に入り――
「スキありィー!」
「ねぇよ」
「えっ……」
背後からの奇襲をあっさりと防がれ、いたみが目を剥いた。
「そこのテーブルの裏に張り付いてたな? そしてこの穴に意識を奪われて背中を向けている所を奇襲……悪くはないんじゃねーの」
それを聞いているいたみはこれから起こるであろう事を考えて、だんだんと表情を引きつらせていく。
「い、痛くしないでね……?」
「安心しろ……次も腹だからよッ!」
「ぐふっ!?」
スタープラチナの拳を受けて吹き飛んだいたみは、反対側の壁を突き破って隣の部屋へ。
しかし拳に伝わった感触は……
「腹に雑誌を仕込んでたな……!」
この分だと今のダメージもすぐに回復するだろう。
追撃の為に、奏丞は間髪容れずにいたみを追う。
思った通り、早くも立ち上がろうとしていたいたみを見て、奏丞は使うスタンドを変えた。
「これでも喰らいなッ!」
そのスタンドはかつて夭歌の前でも使った事があるスタンド。
「ホワイト・アルバムッ!!」
ついテンションが上がってスタンド名を喋ってしまう奏丞だった。
ホワイト・アルバムは冷気のスタンドだ。その気になれば人体を一瞬で凍らせて砕いてしまう事さえできる。
しかし加減して使えば問題はない。腕でガードしようが雑誌を腹に挟もうが、冷気からは逃れられないのだ。
そして冷気は運動能力を著しく減退させる。
いくら改造人間のいたみでも、その驚異的な身体能力を失えば素手での鎮圧すら奏丞には可能になる。
瞬く間に部屋は凍っていき、既にマイナス何十度という環境の中……
「はぁあああああ!!」
「はあっ!? まずっ」
「お返しだあああああ!!」
「ホワイト・アルバムッ……!」
極寒においてあり得ない程のスピードでいたみが接近する。
奏丞がスタンドを変える暇はなく、しかし辛うじてホワイト・アルバムの『スーツ』を腹の部分に纏い、初撃を防ぐ事はできた。
「この熱ッ、まさかシバリング……!? アンタ美食屋にでもなるつもりかよ!?」
「ガンガンいくぞぉぉぉぉおおおおお!!」
身体から凄まじい熱を発しながら、いたみが拳を繰り出す。
既に全身に纏い終わったスーツの防御力は、スタンドのラッシュすら防げる程のものだが……
「(ヤバイ、『冷気』が効かないッ! だがこれ以上パワーを上げたら殺しかねない……反撃できねぇ……!?)」
身に纏うタイプのホワイト・アルバムは身体能力を上げるスタンドではない。そして奏丞自身の力ではいたみの力に対抗できない以上、押し負けるのは必然だった。
「ダブルいたみキーック!!」
「ただのドロップキックだろうがあああ!?」
今度は奏丞が吹き飛ばされる番だった。
入って来た穴を更に大きく破壊し、壁を何枚も突き破って部屋を繋げていく。
スーツのおかげで身体に傷はないが、その衝撃は振動となって脳を揺らした。
ホワイト・アルバムを解除して立ち上がろうとしたが視界が揺れて上手くいかず、奏丞は思わず手をついた。
「ぐっ、予想外のダメージだぞ……」
『こっちは予想外の収穫だぜ』
「夭歌!?」
どこからか聞こえてきた夭歌の声に奏丞は周囲を見回すが、姿はどこにもない。
代わりに見つけたのが、呼び出し音も鳴らさずに作動していた電話だった。
『面白いもん見せてくれたな。さっきのスーツ……“ホワイト・アルバム”つってたか? なーんか見えて来たぜ、お前の能力が』
「……へぇ、俺の能力がわかったのか?」
『もちろん全てがってわけじゃねー。だがわかった事もある。
その一つが……お前が複数の能力を同時に使う事はできねーって事だ』
「…………」
『図星か? そもそも最初は古賀ちゃんの攻撃を完全に防げてたってのに、冷気の能力を使い始めた途端に氷のスーツで防御……おかしな話だぜ。そんなにフラフラになっても使わないって事は、使えないって事だろ。
そして違う能力を使う際には、おそらく幾ばくかのブランクが生まれる。
まるで状況に合わせてメモリを変えて戦う仮面ライダーみたいだぜ』
「……で、そこまで結論出せたなら……どうする? 今終わらせて誠心誠意反省するなら拳骨で済ませてやらねぇ事もねーぞ」
『実に魅力的な提案だが、謝罪は後にするぜ。実験は続行だ』
「……古賀先輩はもう長くは戦えないだろ」
『へー、もう気付いたのか? 古賀ちゃんの弱点を』
「あの小さな身体であのパフォーマンスを発揮するなら、相当なエネルギーを使うんだろ? しかもさっきの……」
『シバリングか。確かにジャンプを読む人間なら、そっから連想できてもおかしくはないな。
その通り、古賀ちゃんは代謝が良すぎるせいで、全力で稼働できるのはせいぜい五分程度。エネルギー切れはまさに死活問題だ。
だが……』
壁の向こうに姿を見せるいたみ。
その手が握り潰して放った缶を見て、奏丞は顔が引きつった。
『俺様特製の超高カロリーエナジードリンク、その名も“デ〇ド〇ンドリンク”ッ!! お前も好きなだけ飲んでいいぜ、全室の冷蔵庫に用意してあるからよッ!』
更にいたみがどこからか取り出した、両手に構えたこの上なくわかりやすい凶器を見て、ついに奏丞は絶叫する。
「らうんどつー☆」
『ちなみにこれまた俺様特製の“突撃銃型麻酔銃”! 某少年探偵も大満足なシロモノだぜ』
「ふざけんなァアアア!?」
引き金が引かれる。
二丁のアサルトライフルから吐き出された弾丸が、奏丞に迫る。
「セックス・ピストルズッ!!」
『『『『『『イイイーーーッハァァァーーーッ!!』』』』』』
小さな小人の様なスタンドが現れる。No.1~3と5~7の数字が振られた六体のスタンドだ。
ちなみにNo.4はいない。元ネタのスタンドを遵守しているのだろう。
『ミンナガ待ッテタ俺タチノ出番ダゼェー!』
『久シブリスギダロォ! 奏丞ハモット俺タチ使ウベキダヨナァーッ!?』
『ツーカヤベェゼッ! 弾が多スギルッ』
更にセックス・ピストルズは一体一体が意思を持っている珍しいスタンドだ。それ故に賑やかで騒がしく、しかも定期的に食事をさせてやらないと拗ねてしまうという、少々厄介なスタンドでもある。
そんなセックス・ピストルズの能力は……
「ゴチャゴチャ言ってねーでさっさと跳ね返せ! 今日はトスカーナのサラミを奮発するぜ!」
『イヤッホォーウ! マジカヨ、ダッタラ張リ切ルゼェー!』
『うえええ~ん無茶ダヨォー! 無敵のキング・クリムゾンデモ使ッテヨォー!』
『馬鹿ッ、コレハ麻酔弾ダゾ!? コーユー時コソ俺タチナンダヨ!』
弾道操作である。
『オラオラオラァーッ』
『アリアリアリィーッ』
『無駄無駄無駄ァーッ』
セックス・ピストルズ達が飛び回り、弾を弾き返していく。
その弾丸の行き先は。
「きゃああああ!?」
外でもない、発射したいたみの元だ。
「撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだぜ、古賀先輩」
『ナーニカッコツケテンダヨ』
『ギャハハハ、針ネズミダゼッ!』
『痛ソーダナァ……』
大量の麻酔弾を受けてよろめいているいたみをセックス・ピストルズ達と一緒に見守っていると。
『奏丞、やっぱりお前の傍にはなんかがいるな』
「夭歌……」
『映像を解析してみたら、どれもこれもおかしな弾道になってたぜ。古賀ちゃんを殴った能力、冷気の能力、それとはまた違った能力だ。
しかもお前の視線は何もない空中を行ったり来たり……
まあ、何よりもさっきの発言がこの上ない答えだがな』
――ゴチャゴチャ言ってねーでさっさと跳ね返せ! 今日はトスカーナのサラミを奮発するぜ!
『たった今出た結論を言うぜ。
“お前の能力にはそれぞれの形がある”
物をブン殴る能力の形、弾道を変える能力の形……もしかしたら冷気の能力の形はさっきのスーツだったり?
しかもその全て、あるいは一部には意思すらある。
“お前の傍でスプーンを曲げている誰かがいる”って言えばしっくりくるな』
正解だ。
奏丞は内心驚愕し、そして同時に称賛した。
流石は夭歌だ、と。
見えない、しかも全く未知の能力であるスタンドを、結果という形では何度も見たとは言え、奏丞から何のヒントも与えられる事なくそこまで解き明かしたのだ。
その洞察力、そして何よりここまで来る執念は大した物だ。
「お前相手に色々見せちまったのは大きなミスだな。まさかノーヒントでそこまでバレちまうとは」
『むしろ解いてくれと言わんばかりだったぜ。あんだけ俺に見せておいて、隠し通せるわけねーだろ』
「だったらそろそろ出て来い。今回のお前の目的はほとんど達成されてるだろ?
それにあんだけ麻酔受けりゃ古賀先輩も「まだまだイケるよー☆」は?」
さっきまで麻酔弾を受けてよろめいていた筈のいたみは……その両足でしかと立ち直り、ニヤリと笑っていた。
「……まさか、夭歌」
『お前が当たれば一発で昏倒もんだけど、俺が改造した古賀ちゃんにはその程度の麻酔効かねーぞ。逆に撃たれた時を想定しとけば当然する処置だ』
「そーいう事! アクションゲームにもよくあるでしょ? 攻撃が敵には効くけど味方には効かない事。あれよあれ。
でも改めて考えてみたらあれって凄い有利なシステムだよねー☆」
つまり、まだいたみは奏丞と戦えるという事であり。
まだ、奏丞はいたみと戦わなければならないという事だ。
「……夭歌、もう止めねーか?」
『…………』
「さっきはトサカに来てつい攻撃しちまったけど、ぶっちゃけ古賀先輩をボコるのも気分が良いもんじゃないんだよ。
これ以上は……」
「それって殴ったら可哀想って意味? だとしたら凄く生意気! 名瀬ちゃんの
『……というわけだ。実験は続行する』
「……仕方ねー、だったらわかりやすく言ってやる」
もっと活躍させろと喚くセックス・ピストルズを戻し、別のスタンドを出す。
それは、凄まじいパワーを持ちながら他の近距離型スタンドよりも射程距離が長く、しかもレッド・ホット・チリペッパーと違っていたみには姿が見えないスタンド。
「
「『ッ!?』」
そのスタンドを展開した瞬間、向き合ういたみが、そしてモニター越しに見ている夭歌が、言い様のない怖気を感じた。
「性懲りもなく腹にいくぜ……ガードしな」
「くっ……」
いたみは慌てて両手の銃を交差させて腹を守り――吹き飛んだ。
「がはあっ!?」
飛んでいくいたみに反して奏丞はさっきの位置から全く動いていない。7メートルは離れていたにも関わらず、あれほどの威力でいたみを攻撃できたのだ。
夭歌は改めて理解した。
『攻撃が見えない』という圧倒的不利を。
「まあ、凄かったよ、お前らは。
古賀先輩のポテンシャルには驚きっぱなしだし、お前はドンドン秘密を解いていってる。てこずった事も素直に認めよう。
だけど、それでも俺には勝てねー。いくら回復力があろうと、立ち上がる度に攻撃されてりゃどうしようもない」
『…………』
「いくら丈夫だからって、何度ボコられても構わないって言う程お前にとって軽い存在じゃないだろ、古賀先輩は。
そろそろ引き際じゃねーのか」
『…………』
夭歌は無言だった。
その沈黙は奏丞の言葉を肯定しているとも取れる。
間を置いて、ようやく夭歌が喋ろうとした、その時。
「お前が言うなあああああ!!」
「!」
食器棚が突進して来た。いや、いたみがそれを盾にして突っ込んで来たのだ。
それを見て奏丞は横に避ける。
奏丞とすれ違った直後、いたみは急停止し、食器棚を奏丞目掛けて豪快に振り抜く。
世界の手が食器棚を受け止める。
いたみは躊躇なくそれを手放し、奏丞の懐に飛び込む。
「名瀬ちゃんの気も知らないでぇーッ!」
「オラァッ!」
「ぐふっ!」
両手が使えなくとも足が使える。
世界に蹴り飛ばされて、いたみが床を転がっていく。
「名瀬ちゃんも、名瀬だって知りたかったんだ!」
『こ、古賀ちゃん……?』
すぐさま立ち上がったいたみの叫びを聞き、夭歌が戸惑う様な声を出した。
「名瀬ちゃんから聞いたよ! 宇城くんは全然秘密を話してくれないって! ちょっとぐらい宇城くんの事を教えてくれたっていいのにって!」
「……は? いや、だってそんなもんバラしたら」
「何されるかわかんないって!?
馬鹿ッ、鈍感、唐変木!
何が心の声が聞こえるよ、ぜぇ~~~~~~…………んぜんわかってないじゃん!」
『古賀ちゃんマジで何言ってるのぉー!? 俺にはサッパリなんだけど!』
「もう、揃いも揃ってニブいんだから!
だったら名瀬ちゃん、お兄さんが奏丞の秘密を知ってるってわかってどう思った!?」
「ちょっと待て、何でそれを」
「名瀬ちゃんが集めた資料を見たけど、お兄さんはマネージメントの天才とか魔法使いとか言われてる人なんでしょ!? しかもトレーナーとしても抜群の能力!
そんな人が、個人の能力も把握せずに人を鍛えるわけがないって名瀬ちゃんが言ってたよ! そんな鍛え方したってロクな成果は出ないって!」
その通りである。
奏丞は自身を鍛えてもらう為に、スタンドの事を真黒に話している。
それはそうだ、そもそも奏丞の戦闘はスタンドを使った物になるのに、例えば善吉の様に格闘技を極めても仕方がない。
奏丞には奏丞に合った適切なトレーニングがあり、その為にはどうしてもスタンドについて真黒に話す必要があったのだ。
「それでどうなの名瀬ちゃん!? なんか宇城くんに言いたい事があるんじゃないの!?」
『ど、どうって言われてもよー……』
初めていたみが見せる剣幕に、夭歌は戸惑いながらもそれを話す。
『まあ、なんだかんだで生き方考え直す機会をくれた奏丞には感謝してるぜ?
やるだけやったら後は放置ってのはいただけなかったけどよ』
「「…………」」
『でも仕方ないとは思うぜ? やっぱそーいう“未知”って自分の力で見つけるもんだろうし。
まあ、先に知った上にこんだけ手間かけてる俺には全然話さねーのに、兄貴にはアッサリ話したってのも気に入らないけどよー』
「「…………」」
『大体鍛えたいなら俺に頼れば今以上に凶化してやれてたのによー。
いや、俺は家出してたから近場の兄貴を頼るのもそりゃわからなくはないぜ?』
「「…………」」
しばしの沈黙の後。
『……あれ、なんか結構ムカつくな』
夭歌は言った。
「えー……そう言われても……」
「でしょでしょ!? 名瀬ちゃんはこんなに頑張ってるのになんにも教えてくれないのって扱い酷すぎだよね!
男ならいいのかこのホモ野郎って感じだよね!」
『……なるほど、俺が柄にもなくムキになってた理由がよくわかったぜ。
サンキュー古賀ちゃん、なんだか視界が開けた様な気分だ』
どこか清々しさを感じさせる夭歌の言葉に、いたみがウンウンと頷く。
「これで今何をすべきなのかハッキリしたよね、名瀬ちゃん」
『ああ……そこのマヌケ面をいたぶる事だ』
「おい……」
「そうと決まれば戦闘再開! 乙女の敵を二人でボコボコにしよう!」
『そうしよう。まったく、持つべき者は親友だな』
「趣旨が変わってるんじゃねーの!?」
能力解明の為の戦闘だった筈が、いつの間にか単なる鬱憤晴らしとなっていた。
この分だと戦闘もまだ終わりそうにない。
いたみは改めて構え直す。
「というわけで宇城くん覚悟! この場にいない名瀬ちゃんに代わってお仕置きだー!」
「結局こうなんのか……!」
「おりゃああああ!!」
雄叫びを上げて、いたみが床を殴りつけた。
そこを中心に、見る見るうちに亀裂が床を走り抜ける。
「ライダーキーック!!」
「ッ! 床が崩れ……!」
跳び上がり、天井を蹴ってのそれに、亀裂だらけの床は耐えられなかった。
瓦礫と共に階下の部屋に落下しつつ、奏丞は一足先に着地した筈のいたみを探す。
その後ろ姿がキッチンへ逃げ込むのを見つけた。
「逃げても無駄だぞ!」
リビングとキッチンを隔てる壁を世界が破壊する。
そこにいたいたみは、冷蔵庫から見覚えがある缶を取り出していた。
夭歌特製のエナジードリンクだ。
「補給はさせね「くらええええ!」げぇっ」
ボールを投げる様に缶を振り下ろすのと同時に、その握力で缶を握り潰す。
得体の知れないゲル状の液体が奏丞に降り注いだ。
「くっ!?」
世界がテーブルを盾にして防ぐ。
ベチャベチャと音を立てて、液体だか固体だかわからない、おぞましい色をした物体が飛び散る。
「ライダージャーンプ☆」
「あっ、待ちやがれ!」
いたみは高く跳躍して、上の部屋の天井を突き抜けて姿を消した。
奏丞はすぐさま後を追うつもりだったが、またしても部屋の電話から夭歌の声が聞こえてきて出端を折られる。
『奏丞。思えばこの二年間、色々とあったよな』
「……なんだいきなり」
『部活作って、活動して、友達作って、遊んで……まさかこの俺がこんなに中学生らしい学生生活を送る事になるとは思わなかったぜ』
「…………」
『ハハッ、それももう終わりかと思うと、案外……』
夭歌は少し間を置いて、
『奏丞、囮学部部長としての最後のレッスンだ。よく聞けよ』
「……?」
『C3H8……プロパンは本来無色無臭の気体だ。ついでに空気よりも重いから底へ底へと溜まっていく』
「何を……」
夭歌が唐突に話し始めた説明を訝しく思いながらも、同時に嫌な予感が沸々と湧いてくる。
『だがガス漏れ時には気付きやすい様にって事で、家庭用のプロパンにはメチルメルカブタンっつー着臭剤が加えてある。
さて、それがどんな臭いかというと』
腐臭が奏丞の鼻をついた。
ハッとしてフルオープンになったキッチンを、コンロを見る。
スイッチが、入っていた。しかし火はついていなかった。
まさか、いたみがキッチンに向かった本当の理由は。
夭歌が突然始めた話の狙いは。
『タマネギが腐った様な臭いらしいぜ』
「うおおおおおおおおおおおおお!」
『それでは奏丞――
「
☆ ☆ ☆
マンションから少し離れた所にある専用駐車場。
そこに停めてある10トントラックの中で、現在夭歌は多数のコンピュータに囲まれていた。
これらのコンピュータはマンション内に隠されているあらゆるカメラ、センサーなどと繋がっていて、更にシャッターを降ろしたりコンロを再点火したりと、マンション内の仕掛けの操作も可能だ。
夭歌はここからいたみに指示を出しながら様々な角度から奏丞の能力を観察、解析していた。
「…………」
ガス爆発をやり過ぎだとは思わなかった。
夭歌は漏れたプロパンの量は正確に把握しており、そこから起こる爆発は奏丞が防げなかったとしても治療できる規模であると計算していたのだ。
しかし、夭歌の注目は既に爆発した部屋から離れていた。
「古賀ちゃーん、言っちゃダメだぜー……」
夭歌がコンソールを叩きながら、モニターの中のいたみに呟く。
せめて自分がタネに気付くまでは
言った瞬間にゲームオーバーと言っても過言ではないあの言葉を――
『やったの!?』
「(言っちゃった!)」
『違うな、やられるのさ』
『!?』
「(ほらゲームオーバーじゃんもー!)」
いたみは力が抜けたかの様に崩れ落ちた。
「古賀ちゃん!?」
『何をしたのか、あらかじめ言っておく。
“古賀先輩のエネルギーを吸い取った”。
怪我一つないから安心しろ』
「くっ……」
ここにきて新しい能力。
つくづくブラックボックスを相手にしている様な気分だ。
「(だが、本当の問題はこれだ……!)」
爆発前後の映像を見る。
それまでは下にいた筈の奏丞が爆発の直前に姿を消し、かと思えば既に上階のいたみの背後を取っているという異常。
否、姿を消してはいない。一ミリ秒たりとも、奏丞の姿は消えていないのだ。
ただ、過程だけが抜け落ちていた。
途中のセル画をなくしたアニメーションの様に、脈絡もなく移動していた。
「(こ、これは! ワープだとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねェ!)」
奏丞の足下にできていた、存在しない筈の穴が決定打だった。
どこぞのサイヤ人よろしく
どこぞの聖闘士よろしく超スピードで動いたなら、それによる影響が小さい穴一つで済むわけがない。
ならば移動する過程は、一体いつ行ったのか。
答えは一つしかなかった。
「奏丞!」
『…………』
夭歌はマイクを掴んで叫んだ。
「お前、時間を止めたなッ!?」
それが答えだった。
『……最初は瞬き程の一瞬しか止められない能力だった。
しかし練習を重ねるにつれ、1秒……2秒と長く止められるようになった。今では4秒は止めていられる。
時が止まっているのに4秒と考えるのはおかしいが、とにかく4秒ほどだ……ハハ。いずれは一分……十分……一時間と思いのまま止められるようになってやろう。
楽しみだ。だんだん長く時間を止めるのはな……』
そう語る奏丞に、夭歌は得体の知れないスゴ味を感じた。
まるで悪の帝王か何かを相手にしている様な感覚。
この道に入ってからは
時を止める。
一体どんな屁理屈を使えばそんな事ができるのか。
『さて夭歌、そんな所でふんぞり返ってないでそろそろ出て来い』
「む……男の方から来るのが甲斐性ってもんだろ?」
『人閉じ込めといて何言ってやがる。
さっさと来ないと……』
「来ないと?」
『古賀先輩の髪は武藤遊戯になる』
「や、やめろォ! 古賀ちゃんのお団子ヘアへの並々ならぬこだわりを知らねーのか!?」
とんでもない外道だった。
髪型が遊戯なんて女からしたら拷問以外の何物でもない。
よくそんな恐ろしい事を考えつくものだ。
『な、名瀬ちゃん、私の事はいいから……来ちゃ、ダメ……!』
『あれれ~、先輩、こんな所にポマードがあるよ~?』
『い、いやあああああ!?』
「古賀ちゃん!? 古賀ちゃーん!」
『それじゃあ夭歌、早く来いよー』
「待っ……なに!?」
部屋中のカメラとセンサーが次々に動かなくなっていく。おそらく、何らかの方法で破壊されているのだ。
部屋の様子がまったくわからなくなってしまった。
「ぐっ、クソッタレ!」
夭歌はマンション内のロックを全て外してトラックから飛び出す。
電話は破壊されていないのか、階段を駆け上がりながら携帯をかけてみると目的の部屋に通じた。
「奏丞! 古賀ちゃんは無事なんだろうな!?」
『古賀先輩には今、三つ目の団子を味わってもらってる』
「てめーサザエさんみたいな髪型にしやがったな!?」
夭歌は息遣いを荒くして部屋に突入する。
そして奏丞を警戒しつつリビングに行ってみると、
「うっ……ううっ……」
「こ、古賀ちゃんが……古賀ちゃんが……!」
ソファにぐったりと座り込んで泣いていたいたみは、
「アトムみてーな髪型に!?」
「うえーん!」
既に手遅れだった。
「くそっ、なんてひどい奴だ、うら若き乙女をアトムヘアにするなんて!
だがとにかく今はエネルギー補給だ。古賀ちゃん、早くこれを飲め!」
「うう、ありがとう……ああっ!?」
腕も上がらない程疲弊したいたみが、目線で夭歌の背後を示し、
「後ろに、いる……!」
「…………(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ)」
「なんか、スゴくスタイリッシュなポーズしてる……!」
夭歌の背後に奏丞がいた。
腕を組んで爪先立ちで立っていた。
「……一つだ。奏丞、一つだけでも教えてもらうぜ」
振り返らないまま、夭歌は奏丞に話しかける。
「お前はその『能力』を、何て言ってるんだ?」
奏丞が応える。
「
「スタンド、か……」
記憶に刻み込む様に、夭歌はその言葉を呟いた。
「はは、やっぱスキルとは違うのか。
そのスタンドとやら、もう少し観察してみたい所だな」
「いいや、もう終わりだぜ。夭歌、お前が出て来た以上はな。
お前はチェスや将棋でいう『
「……くくく」
「……何がおかしい」
おもむろに紙袋の中から笑い声が漏れ出してきた。
「奏丞よー、確かに俺は古賀ちゃんと違って非力だぜ。てめーの『スタンド』と殴り合いなんてできるわけねー。
だからこそ! そんなか弱い俺が何の対策もなしに、ノコノコ姿を現すと思うか?」
「ほぉー……」
「『詰めろ逃れの詰めろ』……将棋にはこんな言葉があるな。
相手が防いでくれなきゃこっちが詰む状況、『詰めろ』。そんな時はどうするのか?
……相手に『詰めろ』をかけるのさ」
「今が『詰み』ではないと?」
「そう、つまりここは……果敢に攻める時ッ」
突如、夭歌の紙袋の内側がグネグネと蠢き始めた。
まるでそこに、夭歌の頭以外の何かがいるかの様に。
次の瞬間、金属の触手達が紙袋を突き破って奏丞に殺到した。
「ぬウフフフフ、たまげたかァああ! これこそが、俺の脳波でコントロールできる触手型注射器! その名も『
「完全にアウトだボケェエエエエエエ!! ハーミット・パープルッ!」
「うおおおお!! なっ、何をするドゥービー!? さ、刺され…………ぐぅ」
ハーミット・パープルによって触手が操作され、麻酔を打ち込まれた夭歌は意識を失って奏丞に倒れかかってきた。
奏丞は夭歌を抱き止めた所で事の成り行きを見守っていたいたみと目が合い、しばしの沈黙の後同時に口を開いた。
「「なんだこのオチ……」」
この上なく釈然としないオチだった。
☆ ☆ ☆
「って事があってからもう一年たったのか。
……あれ、キング・クリムゾン独り歩きしてね? まさか俺の中に別の人格がいるなんて事は……」
頭を抱えて唸る。
卒業式を目前にして、今日奏丞は理科室に足を運んでいた。
「……ここも今日で見納めだな」
揺籃中学校を卒業すれば囮学部に来る事はなくなる。
なんだかんだで今まで在籍していた部だ、感じる所もあった。
「……思えば夭歌達は色々と残していってくれたんだな」
この部だったり、揺籃中に残る伝説だったり。
内二人が卒業した今でも『囮学部の三人』は語り種になっており、『三者を避くべし』と教訓の様に言い伝えられている。奏丞はその評判に負けない様にと奮闘していたのだ。
夭歌といたみが卒業した今でも、彼女達の影響は色濃く残っていた。
「……よし、そろそろ行くか」
中学生活の思い出の整理を終え、奏丞は席を立つ。
扉まで来て振り返り、最後にもう一度中を見回して……奏丞は理科室を後にした。
「結局中学生活がボッチで終わってしまった……」
誤解から始まった悪しき風評は、ついに払拭できなかったのだった。
いたみ「宇城くん、私達いつまで正座してればいいの……」
奏丞「改造人間の古賀先輩なら大丈夫でしょ」
いたみ「いやいや、結構精神的な疲労が……」
夭歌「こっちはまったく大丈夫じゃねーぞ……お前まさか正座フェチとか言わねーよな?」
奏丞「追加三十分」
いたみ「名瀬ちゃん……」
夭歌「ゲッ! もう勘弁してくれ、ケーキは『直った』んだし、反省もしてるからよー……」
奏丞「反省ねぇ……」
夭歌「マジだって。お詫びに今日は無礼講って事で、古賀ちゃんの胸に触ってもいいから」
いたみ「こらそこー! 何言ってるのー!」
奏丞「…………反省が見えないから十分追加な」
夭歌&いたみ「「今の間は何だコノヤロウ」」