うちは一族として生き残る!   作:黒百合

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イタチの力量を測ってみる。

ヒビキが写輪眼を開眼して7年の月日が経過した。

第3次忍界大戦が終結し、2年が経った頃合である。

うちはヒビキ11歳だ。

 

「・・・母さん」

「・・・。」

 

声を押し殺して無くうちはミコト。

そしてうちはヒビキもまた瞳は潤み、今にも号泣しそうだ。

 

彼女達がいるのは慰霊碑の前。

そこにはうちはギタンの名がある。

 

「・・・かあさん・・・」

「・・・。」

 

さらに泣きそうになるヒビキ。いや、もう涙がこぼれていた。

そんなヒビキを抱きかかえて、声を出さずに無くミコト。

遺体は戻ってきた。

任務中に激戦の果て、敵の大将と相打ちとなったらしい。

死体となって戻ってきたギタンの手には7年前、父の誕生日にあげたクナイがあった。

あの後に家の手伝いをして、お小遣いをためて父親にプレゼントしたものだ。

何の変哲も無いただのクナイ。

そこにがんばって、とたどたどしい文字が刻まれてるだけの。

 

残されたのはまだ生まれたばかりの小さい妹と自分。

そしてヒビキの目の前で必死に何かを堪えるミコトである。

悲しみを、憎悪を、不幸を、強がりを、何を思っているのか。

 

「・・・お別れはすんだの?」

 

必死に声を整えてミコトは問う。

 

「別れてない。・・・まだ、ぱぱの目がある。」

 

万華鏡を、それを貰った。

もう潰れかけ、見えなくなっていた万華鏡。

パパと最後まで一緒にいたキリカさんによると大将と戦う前にはすでに目が見えなかったらしい。

それでも戦ったのは、逃げずに戦ったのは。

キリカを含めた自分の隊の味方を逃がすためだったと言う。

泣きながらに語ってくれた。

「隊長はさ・・・最後まで・・・締まらなかったよ。

泣きながら『お前達、先にもどれ。俺は死にたくない。愛する娘達に会えなくなるからな。だから本当ならお前らを盾にしてでも生きて帰りたいのだが、何を間違ったか隊長になっちまったからなぁ』とか言ってさ。ま、もちろん冗談だったんだろうけどね・・・いや、本音かな。本音であるからこそ、あそこに残るという選択をしたあの人を私は尊敬する。」

 

 

それでも、部下を盾にしてでも生きて戻ってきて欲しいと願った自分は冷たいのだろうか?

そんなことをキリカに聞いた。

 

「・・・さてね。私は孤児だったから・・・でも、そうだな。きっと私もヒビキちゃんの立場だったらそう思ってただろうね。」

 

僕はただ泣いていた。

父の万華鏡を引き継いだ。

これで失明の危険は無くなった。

きっとパパのことだ。

娘の失明とあらば喜んで自分の目を使えと言うだろう。

とはいえ移植に既に潰れた目を使っても大丈夫なのか?という不安があるが。

 

それにまだ万華鏡は開眼してない。

ゆえにこそ万華鏡が開眼したらすぐにでも試すつもりだ。父の目を。

そして父の意志を。

家族を守ると言う意志を継ぐ。

絶対に殺させない。

絶対に。

 

 

☆ ☆ ☆

 

ヒビキが決意新たに頑張るべく一歩を歩みだした。

まずは忍者学校(アカデミー)である。

ヒビキも11歳。

普通ならば7、8歳の頃から入るものだが、結局ギタンの教育方針でヒビキは表ざたには忍術に関われなかった。

ギタンに内緒でキリカに特訓を受けたりしてただけである。

うちはの血統を守るためにも、女性のうちはが忍になるのはあまり推奨されてないという点もあった。とはいえども戦争後で優秀な人材がいなくなった今、そうも言ってられない。

 

結果、忍者学校では一年生だったりする。

正直、小さな子供に囲まれた生活環境は苦痛なことこの上ないのだが、それでも強くなるためには上忍の監修の元、任務をこなしていく必要もあるだろうし、強い忍具をそろえるためにもお金も欲しい。

そのためには忍者学校を卒業せねばならない。

見た目的には身長の発育が悪く、歳の割にはいまだ初潮の兆しすら見えないので、別に問題は無かったりするのは余談。

 

ちなみにイタチも同じ学年だ。

イタチは8歳。

ヒビキが遅生まれの4歳の時に早生まれで産まれて来たので現時点では3歳差だったりする。

 

 

「ダンゾウを殺す・・・いやダメだな。

彼は暗部の総元。彼を殺せば木の葉の暗部が混乱するし、上忍の中でも優秀な人間が暗部になるんだ。それらを敵に回すのはまずい。そもそも殺せるか微妙だ・・・恨みを買う立場だから用心深いだろうし。第一、彼を殺したところでうちはのクーデター自体をどうにかしないと意味がない・・・」

 

ヒビキはブツブツと呟きながら今後の目標を立てる。

もちろん第一は修行して強くなることだ。

でも、未然にうちは一族抹殺の危機を取り除くというのも試す価値はある。

手元のメモに自分で作った自分しか分からない言葉で作戦を書き込んでいく。

 

「おまえ、何言ってんだよ?」

 

隣の席のガキ大将的な子供がヒビキの書いてるものに興味を引かれたのか、つっかかる。というのは建前で、実際は郡を抜いて可愛いヒビキにちょっかいをかけたくなったのだ。

好きな女の子に虐めをするのは男の子の本能であるからして。

一体どうしてそんな本能があるのか理解に苦しむのだが。

もちろん単純にいじめっ子である可能性もある。

 

「黙れ。臭い。死ね。」

「なっ!?人に死ねとか言うなよな―――ひっ!?」

 

何事も一生懸命やってるときに邪魔されるのは腹が立つものだ。

写輪眼で睨むヒビキ。別にわざわざ目を変えたのではなく、自然と写輪眼が出てしまったのだ。

その異様な剣幕と、見たことが無かっただろう写輪眼の目の紋様に気味悪さを抱いたのかすぐに立ち退くガキ大将。

もちろんすぐにヒビキは態度をあらためる。

 

「・・・はぁ。やってしまった。」

 

大人気ないと分かっているのだが―――自分で思う以上に父親の死は衝撃的だったのかもしれない。

最近、感情の起伏が激しい。興奮で写輪眼が浮き出るほどに。

後で彼には謝らなくてはなるまい。

そしてなんだかんだで良い子ジャン。みたいなギャップを相手に与え、その見目麗しさも手伝って今日もヒビキに惚れる男の子が増えるのである。

そのため、女子には大層嫌われているヒビキであった。中身が中身なので、実際は男よりも女の子に好かれたいと思っているのだが。

 

忍者学校(アカデミー)の授業は殆ど聞かず、基本的に授業中はトレーニングメニューを考えたり、写輪眼の使い方の模索、どうすれば悲劇の回避法などなど。

授業は聞いているフリだけだ。

 

ヒビキはそのまま静かに椅子に座っているイタチに目を向ける。

 

「ここで殺したほうが良いんだろうけど・・・それは根本的な解決にならないし・・・」

 

ぞっとした殺気を感じたのかイタチは身震いをする。

クナイまで抜く始末だ。

それを教員に咎められ、周りを警戒しながらも座り込むイタチ。

ヒビキはすぐに視線を逸らして、机に向かう。

 

「あの年から殺気に反応できるとは・・・ほんと恐ろしい。」

 

ただイタチの才能の深さを思い知らされただけである。

何よりもうちはマダラと名乗る男の問題だって残ってる。

頭が痛い。

本当に頭が痛い問題だ。

 

次の日。

この日は全て実習に当てられる。

手裏剣の投げ方。

クナイの持ち方、扱い方。

忍具を入れる際のホルスターのつけ方や位置の調整など。

本当に初歩的なものである。

もちろんヒビキもやる。

いかにも初心者ぶる演技をして。

平穏に暮らすために目立たちたくないとか、力を隠していざという時に本気を出してギャップ萌を狙おうなどという、そういった転生物にありがちな理由ではなく、イタチに自分の実力を、ひいては自分の手の内をばらさないためだ。

むしろ目立つだけなら問題は無い。

イタチがヒビキの方を見て「俺も負けられないっ!」とか思われちゃ叶わないのである。

ただでさえ天才なのだから、そこに努力が加わってもらっちゃ叶いっこない。

 

そんなことを考えながらホルスターを左腿(ひだりもも)に付けていると、おおぉっ!というどよめきが沸く。

どうやら手裏剣の的のど真ん中に当てたものが居たようだ。

いわずもがなイタチであるが。

 

「まぁうちはの頭領の息子だしな。これくらいは・・・は?」

 

4歳ごろから手裏剣に触らせてればイタチのことだ、それくらいは出来るだろうとイタチを見たのだが、どうやらイタチの才能はそれでは終わってくれないらしい。

 

地面に数点手裏剣が落ちていた。

 

これだけを見ればどこに投げてんだよ、コイツは!とバカにされるだろうが、ギャラリーの雰囲気と女子の熱の篭った視線。イタチの顔色。

そして教師すら驚いているところを見るに。

 

「・・・厄介な。この時点で手裏剣の当て投げが出来るのか。」

 

当て投げ。

手裏剣同士、クナイ同士を当てて本来なればありえない軌道を描いて物の影などに隠れた敵に当てる技術。

 

「・・・写輪眼で見ておけばよかった。」

 

模倣(コピ)っておきかったと後悔するヒビキ。

さすがのイタチでもそこまでとは思ってなかったのである。

羨望、嫉妬、情欲といった物がないまぜになった視線を受けて少し頬を赤くしているイタチ。

 

「歳相応なのは人格だけか。まったく・・・とんだ化け物だ。」

 

その後、ヒビキは手裏剣の授業を適当に終わらせた。

その成績は平均程度だった。と言っておこう。

 

お昼をはさみ午後の授業。

今度は体術である。

組み手をしろと言われる。

ヒビキの相手はイタチ。

これは好都合。

現段階の戦闘力を見て、その後の戦闘力も見ていけば大まかな成長率が分かる。

成長率が分かれば自分の修行のペース配分も幾分か楽になるはず。

 

ちなみにこのクラスにはうちはが三人。

イタチを除けばヒビキともう1人の女の子。

おそらく教師はうちはにはうちはを当てるしかないと思ったのだろう。

もう1人の女の子は特に小柄で男の子のイタチとは戦えなさそうだったためにヒビキを選んだと思われる。

 

「よろしくおねがいします。」

「・・・よろしく。」

 

行儀良く対立の印を作りつつ、挨拶をするイタチ。

どこまで本気で行っていいものか。

いや、むしろ本気でいかないとダメだったりして?

そうだったら嫌だなぁ。

ヒビキは顔を顰めた。

 

「どうかしましたか?」

 

イタチが不思議そうに言うが、それには答えずヒビキは憮然としたまま口を開いた。

 

「・・・準備は?」

「大丈夫です。俺はちょっとだけワクワクしてます。」

「・・・。」

 

ヒビキは何も言わない。

ずーっと喋らないようにしてきたせいか、独り言意外ではあまり喋らないと言う悲しいくせが付いてしまったせいでもあるし、喋ることは情報であることからできるだけ普段からうっかり喋らないように口を噤むようにしているというのもある。

 

「今まで他のうちはと戦ったことが無かったので。」

 

そのイタチの言葉には父親や母親からオマエは天才だとか言われていても比較対照が無いゆえにこその不安が込められていた。

本当に父と母の言うとおりなのか?

自分は強いのか?

 

「俺はようやっと俺の器を計ることが出来る。」

「・・・。」

 

図らずもあのセリフに近い言葉を言うイタチ。

ここで自分は強いと驕らせておきたいものだが、どうせ父親と母親がすぐに気づかせるだろう。

当初の予定通り底が見える程度には戦うつもりだ。

というかこの歳の子供は普通、親に褒められたらそれで満足するものである。だというのに。

 

内心でやっぱりコイツは歳相応じゃないな。と認識を改めるヒビキだった。

 

「始めッ!」

「しっ!」

「っ。」

 

教師の合図と共に、勢い良く息を吐いて突きを繰り出すイタチ。

それを難なく避けるヒビキ。

イタチも初撃で決まるとは思っておらず、そのまま回転して回し蹴りをくりだす。

しかし軸足に向けて足払いをするとすぐにドテっとしりもちをつくイタチ。

そのまま蹴り上げようとするヒビキだが、イタチはすばやく立ち上がり背後に下がる。

だが、距離を取らせまいと追い込むヒビキ。

ここからが本番。仕掛ける。

 

「くっ!」

「ほっ。」

 

突きと瞬時に回し蹴り。

図らずもイタチと同じパターンで攻める。

が、イタチはこれをヒビキの軸足を払って対応する。

 

「っ!?」

 

驚いた演技をしつつもコレはイタチの対応を見るため。

自分がやった対応策をそのまま模倣してきた。

これすなわち、それだけの目と体術をすでに持っているということに他ならない。

そのままドテっとこけるヒビキ。

欲しい情報は全て取りえた。

現在の身のこなし、対応力。

追い討ちの蹴り上げも一緒だ。

受ける覚悟でヒビキは両腕を交差させ防御する。

が、ここで止めの合図が入った。

 

「勝者、うちはイタチ!」

 

きゃーきゃーと女の子からは声援が上がり、男からは嫉妬の怒号を受けるイタチ。

 

「ありがとうございました。」

「ありがとう。」

 

和解の印をしてそのまま下がる二人。

イタチは少し不満足そうだった。

まだまだやりあえそうなところを止められたためか、手加減されたことを理解してか。

おそらく前者だろうが。

 

 

「なかなかどうして、今からアレか。先が思いやられる。」

 

 

すっかりクセになった独り言をぼつりとこぼし、ヒビキは帰宅するのであった。

 

 


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