「いそげっ!!医療班は下がってけが人の手当てを!」
「暗部はっ!?暗部はまだかっ!!」
「こっちにきてっ!!手が足らないのっ!!」
「おかあさぁあああああんっ!!」
「うわぁぁあああっ!!」
阿鼻叫喚の絵を繰り広げる木の葉の里。
「くそっ!!くそっ!!くそくそくそっ!!」
ヒビキは風を切って走っていた。
『こっちだっ!!』
「っ!?」
あらかじめ口寄せをしていたカブトムシを数体、各所に飛翔させてある。
その状態で逆口寄せを行えば・・・
「っとっ!?」
煙が吹き出て目を開けるとそこはすでに移動した場所である。
隣にいる小型犬ほどの大きさのカブトムシにヒビキは目を向ける。
「コカブト、ここはどこ?」
『演習所のはずれの森ってとこだ。・・・いるぞっ!?』
ガガッ!何かを擦るような音が鳴り響く。
そして目の前には、マダラと四代目である。
「・・・好機・・・か?」
戦いを見る限り原作どおりマダラが押されているようである。
「・・・。」
二人の戦いを見ながらどうするかを手に汗を握りつつ、考える。
考える時間は少ない。
「・・・よし。封印術の準備をする。手伝って。」
そう言ってヒビキは太ももにある手裏剣のホルスターの横にある小さな巻物を入れるためのホルスターから、巻物を取り出した。
その巻物を広げて、手を置くとボンと音が発ち煙が出る。
そこにはこれまた大きな巻物があった。
さらにそれを広げてチャクラを込めると赤い巻物が次々に出てくる。
これには封印術を刻みこんだ術式が書き込んであり、印を必要とせずにチャクラを込めるだけで対象を封印することができる。
『・・・?火影のピンチなんじゃないのか?』
「彼は僕を知らない。下手に気を散らすよりも次に備えたほうがいい。リスクが大きすぎる・・・わかるだろ?」
『九尾の封印・・・だな。』
「うん。あたりは?」
『つけてある。カブとカブタックをはじめ、地形把握能力の高いカブトムシたちがお前に言われたことを念頭に探した場所。三箇所。死の森、死の森の外れ、里を覆う外周の森に約300メートル間隔で配置してる。』
「そう。ありがとう。」
これは原作知識だけではミナトが九尾を封じる場所が詳しくわからないためである。
口寄せしたカブトムシを配置して、すぐに駆けつけられるようにとの配慮だ。
そして、各カブトムシ達には逆口寄せの要領でこの場にある赤い巻物自体を口寄せしてもらうと、目の前の沢山の赤い巻物はポンポンと消えていった。
それぞれに配置してあるカブトムシ達が巻物を広げて封印式、もとい書き込まれた陣式の封印式を発動させる準備をする。
どれか一つでも九尾の近くに配置できれば連動するようにもできているため、配置はバラバラでも問題ない。
むしろどこに来るかが分からないがためにこのような手法を取った。
これは時間との勝負だ。
できれば念のための影分身も残しておきたいものの、あのクラス相手に影分身を残したところでチャクラの無駄遣いである。
かなりの数のカブトムシの口寄せに、封印式に込めるチャクラはカブトムシたちではなく自前だ。
下手にチャクラは使えない。
「急ぐ!まずは演習場周りから・・・」
演習場外れの森に行くと人はいなかった。
森でブービートラップや森林戦などの練習をする場合に使われるための場所で、さすがに九尾が来襲して里を破壊してる今は誰もいないようである。
いや、いないはずなのに。
「なんでここにいるのっ!?」
「ひぅっ!?えと・・・ヒビキが心配で・・・」
タマモが身をチヂこませながらきょろきょろとしてる姿を発見してヒビキは焦った様に声を荒げる。
普段から物静かで冷静に見える彼女のその姿に戸惑いながら理由を話すタマモ。
毎日欠かさず修行をしてるヒビキのことを知っていた彼女はヒビキを心配して探しに来たのだろう。
その気持ちは確かにうれしいが、今は都合が悪い。
「・・・くっ。とにかくここは危ないから早く非難を・・・」
幸い九尾は里中央にいる。
ここに被害が来ることはまずない。
今のうちに非難をすませて封印処理を、いや、それでは間に合わない。
「どうしてこううまくいかないんだ・・・とにかく、影分身を残していくからすぐに逃げて。いいね?」
「え、でも・・・」
「いいから。ほら、早く。ここはいつ巻き込まれるか・・・」
『こっちの作業は終わった。言われたとおりにセットしたぞ。』
「そう、ご苦労様。僕のチャクラを受け取って、封印式を起動しておいて。あとは・・・」
「ひ、ヒビキ?何を言ってるの?ヒビキは逃げないの?」
「僕は後で逃げるから大丈夫。だから・・・」
「だ、だめだよ。し、死んじゃうよ!」
「大丈夫だからっ!聞き分けて!!」
「だ、だめ!一緒に逃げないと・・・」
『・・・ヒビキ、影分身に任せて早く行ったほうが良いんじゃないか?その暇はないんだろう?』
「・・・そうだね。とりあえず一番可能性の高い死の森の外れで待機しておこう。タマモ、影分身についていって・・・」
「やっ!!」
「・・・口寄せして。」
『わかった。』
「ほら、離して・・・」
「やだってばっ!!今のヒビキ、危ないもんっ!!」
「何が危ない?」
「・・・ずっと張り詰めたような表情をしてる。お母さんがそういう人は絶対大きなミスをするって言ってた・・・」
「・・・。もうしたんだけどね。」
「だから、だめ!」
「いいから離・・・」
『呼ぶぞ。』
「まっ!?」
ボンと音を発てて煙が晴れたころにはヒビキの目の前に、死の森の外れの光景が広がる。
『なんだ?その譲ちゃんは?助っ人か?』
「・・・はぁ。これもミスに入るのかな・・・力づくで引き剥がせばよかった。」
「こ、ここどこ?」
「死の森って場所。すぐに離れないと・・・」
『手遅れ、みたいだな。結界が張られた。』
「・・・ああ、僕も見た。ほんと最悪だ。」
そして現れる九尾。
咆哮をあげて四代目を見据えている。
「・・・っ。」
あたふたとミナトとタマモの方を見比べた後、影分身を残してそのままヒビキはその場を離れる。
どっちを優先するかで言えばもちろん九尾である。
近づかなければタマモに危険は無いだろうと判断して。
☆ ☆ ☆
「君は・・・」
両手をあげながらミナトに近づく。
マダラと戦った直後の写輪眼ということで無意識にせよ意識的にせよ警戒しているようだが、クナイを構えるまでにはいたっていない。
「うちは一族、うちはヒビキといいます。」
「・・・そのヒビキ君がどうしてここに?偶然巻き込まれた・・・というわけじゃないんだろ?」
「はい。詳しくはいえませんが、今日この日をあらかじめ予測していたものです。」
「なるほど・・・どおりで・・・」
そういってミナトが見るのは九尾の方だ。その九尾の体にはクシナが巻きつける鎖とは別に、呪印のようなものが浮き上がっている。それらが糸のように九尾に絡みつき、チャクラを吸収。
術者であるヒビキに還元している。
これはあわよくば九尾のチャクラを自前のチャクラとして取り込めないか?という試みだ。
とはいえ、ほとんどうまくいっておらず、九尾のチャクラの100分の1も満たない量を吸収した段階で体の節々が痛み、ろくに還元できなくなったので術式が刻まれている巻物自体に吸収させるという形式に切り替えた。
巻物の数はできれば千単位でそろえたかったのだが、テンテンが使うような道具の口寄せ用の巻物と違って、封印用の巻物は高価だった。
せいぜいが50に満たない程度しか用意できなかったのである。
なんとかミコトに小遣いを前借して手にいれた白紙の巻物に封印用の術式を加えたものが約50近く。
もちろんその程度で九尾が封印できるはずも無く、新たに現れた闖入者(ヒビキ)に対して九尾はただただ殺気をこめて睨んでいた。
「あなたの九尾再封印を手伝わせてほしい。」
「・・・分かった。」
「信用できるの?」
クシナが怪訝な顔でたずねる。
ごもっともな疑問である。
「目を見れば分かるさ。ここまで追い込まれた目をした人間が俺たちに危害を加えるとしてこんなにあけっぴろげに会うわけが無い。それにうちはヒビキの名前は聞いたことがある。まんざらでたらめというわけでもないよ。」
「・・・。」
この人もまた目がうんぬんと。そこまで分かりやすい目をしているのだろうか?
もしくはガイ上忍と同類なのかも、と考えたところでそれはないなと判断する。
まじめに考え込むヒビキ。が、そんな暇はないのですぐさま思考を戻す。
「聞いたことがある?」
「ギタンさんとは何度か任務を一緒にやって以来、ちょっとした仲でね。」
「・・・父が?」
「忍としても一個人としても尊敬できる人だったよ。話すことと言えば君のことばかりだからね。聞いていた通り可愛らしい女の子だ。ま、その話はともかくとして・・・手伝ってくれるというのはありがたいけど、必要ないかな。九尾をナルトに封印する。」
「ど、どうしてっ!?」
「・・・。」
クシナは声を荒げ、ヒビキはただ黙している。
別にナルトに封印される分にはかまわない。
ただその方法が気になる。
「八卦封印でね。」
「そんなことをするくらいなら私が九尾を引きづりこんで死ぬわっ!!」
「いや、君の残り少ないチャクラはナルトに八卦封印と一緒に組み込む。」
その後の展開は同じである。
が、もちろんこれを是とできるわけがない。まずはヒビキが九尾を見る。
『貴様・・・その目・・・』
「・・・写輪眼っ。」
九尾に幻術をかけておとなしくさせようという魂胆である。
『・・・ぐ・・・ぐぬぬ・・・ぐおおおおおっ!!』
叫びながら九尾は腕を振るおうとするが二重の鎖に阻まれ、体勢を崩すに終わった。
「・・・はぁ・・はぁ・・・チャクラをだいぶ使ったのに・・・完全には無理か・・・やっぱりね。」
『ぐぬお・・・小娘ェ・・・』
目を押さえて片膝をつくヒビキ。
ただ、これであと数十秒は時間が稼げる。
九尾はガクガクと体を震わせている。動けないようだ。
「僕がこのまま九尾の相手をします・・・ので四代目は助けを呼んでください。」
できればヒビキが封印を肩代わりしたいのだが、そんな技術はない。
もちろん現在使ってるのもまたちょっとした足止めで精一杯である。あと1分2分もすればクシナの鎖以外の効果は消えてしまうだろう。
「・・・だめだ。」
「どうしてっ?」
「俺が火影だからだよ。里のみんなを犠牲にするわけにはいかない。当然、君もだ。」
「別に犠牲になるわけじゃない。ただの足止め。」
「ちょっと九尾を抑えるだけで肩で息をするような子供に頼らなくちゃいけないほど俺は・・・いや、里をこんなにしてしまった以上、俺が頼りないってのは分かる。」
「そういうことを言いたいんじゃない!あなたが死ぬべきじゃないってことを言ってる!!・・・確かに九尾を抑えるのは難しい。それこそ頼りないだろう。
・・・駄目だというなら・・・ほかの方法がある。」
「君が・・・屍鬼封尽を使おうって言うんだろう?」
「っ。・・・そうだよ。だから教えて。僕が使う。」
「それこそ犠牲だ。ここで犠牲になるのは俺の役目だ。」
「・・・そんな綺麗事を聞きたいんじゃないっ!!もっと合理的な話をしてるんだっ!!あなたが生きていれば、それだけで救われる人がいる!!人々がいるっ!!僕が生きてるよりもずっと多くの・・・」
ヒビキは別に死が怖くない。
そういうわけではない。
ただ合理的に。家族を、友人を。助けたいと願うならば自分よりも強く、人徳もある四代目火影が生き残ったほうがはるかに良い。
「確かに。それはれっきとした事実としてそこにあるだろう。だからこそ。だからこそ人は非合理的に生きるのだと思うよ。そしてそこが人が人たるゆえんなんだ。ゆえに俺は君を犠牲にするという選択はとらない。なによりもこれは俺の責任だからね。自分のお尻ぐらい自分で拭かないと。・・・できればナルトのお尻は拭いてやりたかったけど。」
くすりと笑うミナト。
「責任をとるなら別の方法だってあるっ!!そんなおためごかしで責任から逃げるなよっ!!僕はもう嫌なんだっ!!どうして僕が戦わなくちゃいけないっ!!やりたくもない修行をしなくちゃいけないっ!!うちは一族なんて滅びてしまえばいいっ!!でも、母さんやキョウカ、タマモを殺されたくない!!だったらやるしかないじゃないかっ!!でも・・・でもっ!!僕じゃ駄目だっ!!あなたの・・・あなたがやってくれたらそれだけでみんな助かるはずなのにっ!」
ヒビキは慟哭を上げる。
その瞳はゆらいでいた。
そのゆらぎはギタンが死体となって帰ってきた日と似通っている。
しゃべる内容もどこか自分のことを考えていない自虐的な部分もある。
「・・・確かに君の言うことも一理ある。君の話から察するに、なるほど。心当たりはある。うちは一族のクーデターのことだろう?たしかに俺のほうがうまくやれる。その可能性はある。でも、君のほうがうまくやれる可能性だってある。俺だって失敗する可能性がある。失敗するかもしれないことを成功に導く秘訣。それはなんだと思う?」
だだをこねる子供に相対するようにやさしい声音で諭すようにつぶやく四代目。
ヒビキの自分を棚に上げたセリフに対して嫌な顔ひとつせず。
まるで自分の子供に接するかのように優しい瞳で語る。
「・・・わ、分からない。」
「成し遂げようとする、助けたいという意思。それが大切なんだ。」
「きれいごとは・・・」
いらない。
そう言おうとしたのだが。
目を見て悟る。
直感的に理解した。
目の前の彼は本当にそう信じているのだと。
「確かに俺も君たちの事は留意してた。でも、君の助けたいという意思にはかなうはずが無い。家族の愛というのはそれほど簡単に他人に理解できるようなものではないし、あってはいけない。あって欲しくない。そう俺は思うよ。今ナルトを思う俺の気持ちは誰にも分かりはしないだろうし、分かってもほしくない。
俺の気持ちは俺のものだ。そして俺が犠牲になることはナルトのためでもあるんだよ。」
「あら?
私にもわかって欲しくないの?妻なのに。」
息も絶え絶えながらクシナがそんなことを言う。
「・・・き、君は例外かな。」
「そう。」
嬉しそうに笑うクシナ。対するミナトは少し頬が赤い。
「・・・。」
「俺はナルトが大きくなったときに、自分の責任を里の仲間に押し付けた男だなんて思われたくないんだ。」
「それはあなた自身のためじゃない?」
「・・・それもそうだね。」
クシナは何を言っても無駄と悟ったのかもはやミナトの死を受け入れたようである。
「・・・そんなはずないじゃないか・・・そんなはず・・・」
「それにだ。君が死んだら悲しむ人がいるだろう?」
「そんなのあなただって同じ・・・っ!?」
「そう。同じだ。同じ里の同じ仲間だ。だからどちらが犠牲になった方がいい・・・なんてこと、絶対にありえない。」
「詭弁だ。」
「ああ。でも真実だ。それに・・・」
「ヒビキっ!!」
「タマモッ!?なんで・・・ここに・・・」
影分身は?と思えばどうやら写輪眼の幻術に集中しすぎたせいか、影分身は消えていたらしい。
「さっきから死ぬってどういうこと?」
「べつにどういうこともなにも・・・」
「し、死んじゃやだっ!!」
それを聞いてビクリと震えるヒビキ。
足が震え、手がかじかんでるかのようにうまく動かない。その目には不思議と涙が沸く。
「君は言うほど覚悟ができていない。」
結局、ミナトは死んだ。
封印術の礎となって。
最後の一言がやけに耳に残った。