上司が猫耳軍師な件について   作:はごろもんフース

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亀更新? きまぐれ更新でした。


九十九、飲みにいく

 やぁやぁ、九十九(つくも)です。

今日も今日とて変わらず、計算の毎日です。

それでも今日は楽しみで仕方がありません。

 

「……気持ち悪い」

 

ふっふっふ、そんな事を言われても笑みは絶やしませんよ!

何を隠そう明日は一週間に一度のお休みの日。

今日は定時で上がらせてもらいます!

 

「はいはい、あんたの計算した奴が間違ってなかったらね」

 

あっはい。

 

「無駄口終わったら、さっさと寄越しなさい。本当に無能ね」

 

どうぞっす。

 

「……」

 

 出来上がったばかりの竹簡を渡せば、荀彧様が端から端まで目を通していく。

自分が行なった計算の確認をしているのだろう。

幾つもの数字が並ぶ中、それを全て暗算で計算をし直している。

こっちが何十分もかけ、そろばんを使ってまで計算をしたものをだ。

頭の構造が自分とは違い過ぎる。

 

「問題ないわね……ちっ、終われば?」

 

了解です。

お疲れ様でした。

 

 数分待てば、竹簡を仕舞い視線を此方に向けずにそう言ってくれた。

未だに荀彧様の隣には目を通さなければいけない書類が幾つも積み上がっていた。

毎回思うのだが、いつも何時に終わっているのだろうか。

少し不思議だ、今度最後まで残ってみようか……罵倒されまくる未来が見えるからやめとこ。

 

「それと……お酒。忘れないように」

 

……今日もっすか?

 

「悪い?」

 

何でもないです。

いつもの時間に行きます。

 

「……」

 

 それだけ告げて残る同僚達に挨拶して外へと出る。

そしてがっくりと肩を落とし、とぼとぼと街へと足を向けた。

 

 これから街に行ってお酒を買わなければいけないのだ。

先ほどの荀彧様の『お酒』という発言は、飲みに来ないか? というものだ。

二ヶ月前ぐらいからだろうか、いつも休みの前日の夜に飲みに誘われる。

 

 本来であれば、上司に飲みに誘われるのは嬉しいもの。

早く出世するには上司に気に入られるのが一番だから。

それはここでも変わらない、むしろ現代より重要かも知れない。

何より上司も仲良くなりたいから誘うのだ。

それを断るなんて勿体無い話だ……。

まぁ……相手が荀彧様以外だったらの話しですけど。

 

あっ……このお酒下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

へいへいへーい、九十九で御座います。

 

「……何その馬鹿みたいな挨拶」

 

適当に思い浮かんだ言葉を口にしてみました。

 

「頭空っぽて思ってたけど……本当に空っぽなのね」

 

哀れみの視線が心に刺さります。

すみません。こんばんは、荀彧様。お邪魔させていただきます。

 

 夕食も終えて、お湯を沸かし体と頭を洗って清潔にし荀彧様の部屋へとやってくる。

荀彧様と飲む際はいつも荀彧様のお部屋だ。

何でも外で飲むと、どうにも男が視線に入り不愉快に思うそうで。

俺の部屋だと『男の部屋で飲みたくない! 飲むぐらいなら死んでやる!』だそうな。

もはや病気の類ではと本気で心配になってくる。

 

「変なところ触ったら、ちょん切るから」

 

何をとは聞きませんよ。

というか変な笑いしないで下さい怖いです。

 

 荀彧様が黒い笑顔を見せて此方を見てくる。

それを見ないようにし、言われた通りに最低限の歩数で真ん中の机まで歩き、椅子に座る。

椅子に座りお酒を置けば、荀彧様がお酒を確かめ眉を潜めた。

 

「相変わらず、変に高いお酒買ってくるわよね」

 

給料使う暇ないですし、趣味もあまりないもので。

 

「つまんない奴ね」

 

 荀彧様の言葉に頭を掻いて答える。

現代に居た時は、ネットや娯楽も多くお金があってもあっても足りないぐらいだった。

しかし、此方の時代に迷い込んでからは娯楽も少なく使う機会に恵まれない。

本を読むのは好きなので其方にと思うも城の書庫で足りてしまう。

 

 なら同僚のように女性を買うかなと思うも今の上司が上司だ。

買ってるところを見られたり、噂が耳に入ればどうなるかぐらい簡単に想像が付く。

故に使うとなれば、こんな時の飲み代ぐらいになってしまうのだ。

 

「……んっ」

 

 そんなことを考えてれば、荀彧様が早速とばかりにお酒を飲んでいた。

特に乾杯の音頭とかはない。飲みたい時に飲んで食べる、それが荀彧様との飲み会だ。

 

「……ひっく」

 

相変わらず弱いですね。

ニ杯目でそれですか。

 

「うっさいわねー……あんたは黙ってればいいのよ」

 

はいはい、そうします。

 

「はいは一回! そんなことも覚えられないの? 単細胞!」

 

 お酒を飲み始めて数分後。

荀彧様は顔を真っ赤にさせて酔い始めた。

この人は、お酒を飲むものの極端に弱い。

最初の一杯で顔が真っ赤になり、二杯目でこれだ。

三杯目で呂律が回らなくなり、四杯目で目を回す。

五杯目にはいつも倒れて寝てしまう。それが荀彧様。

 

「あー……もう! あの馬鹿は何時も何時も! 邪魔をして!」

 

……。

 

 暫く、荀彧様の言葉に従い用意されていたツマミを食べていれば始まった。

荀彧様は酔いながら愚痴を零し怒り出す。

この人が男の俺をわざわざ自分の部屋に呼んでまで飲みに誘ったのはこのためだ。

何時も何時も堪ったストレスを発散する人形として自分を扱う。

前に男の俺ではなく他の女性の人を誘えばよくないですか? と聞いてみたのだが……。

 

『何言ってるのよ。あの子達にはしっかりと休んでもらって英気を養ってもらわないと……』

 

 そう言われた。

つまるところ、男の俺なら次の日どうなろうが知ったこっちゃないと言うことなのだろう。

泣けるぜ。

 

「こっちが策を立ててやってるのにっ! 脳筋はこれだからやなのよっ!」

 

……。

 

 暫くしても愚痴は止まらない、やめられない。

荀彧様は曹操様が好きで好きでたまらない人だ。

そんな一途な荀彧様だが、敵もまた多い。

曹操様の事を慕っているほかの人が居て、なかなかに独り占めは出来ない。

特に強敵なのが夏侯惇様、彼女は荀彧様よりも長い間曹操様の下に居た人で、曹操軍きっての猛将だ。

故に曹操様も頼りにしていてよく可愛がられている。

 

 そんな夏侯惇様と荀彧様は相性が悪い。

武将と軍師、しかも恋のライバル同士……油と水の関係であった。

 

「あんな奴より役に立ってるのに! ねぇ! 聞いてる!?」

 

聞いてますよ。

 

「ならよしっ!」

 

 適当に相槌を打てばそれで納得してくれる。

既に此方を向いている視線が怪しいほどに変な方向を向いていた。

そんな荀彧様を見て、静かにゆっくりとツマミを食べてお酒を飲む。

 

「そいでー……あのねー……?」

 

……。

 

 お酒を少し煽りながら頷いて話を聞いていく。

この際に同情したりしてはいけない。

前に境遇に同情したら……

 

『びえーーん!! 男に同情されたー!! 死ね! 死ね!』

 

 と錯乱状態で物を投げられまくった。

解せぬ。あと気をつけないといけないのは動きだ。

早く急に動いてはいけない、変な動きをすると本当に泣き叫ぶのだ……この人。

野生の人慣れてないような猫を相手にするように扱う、それがこの人と過ごす秘訣だ。

 

「それでー……それでー……」

 

眠りました?

 

 暫くすれば、荀彧様は可愛らしく寝息を立てて机に倒れこむ。

声を掛けて確認するも返事はなし。

そのことを確認し、立ち上がると荀彧様を寝台に運び布団をかける。

 

今日も徹夜だ嬉しいなー……はぁ。

 

 そして扉を開け、外に出ると少し横の壁に座り込み一夜を過ごす。

どうして、こんな事をするのかというと鍵が掛けられないのだ。

部屋の主である荀彧様は寝ている。そのため内側から鍵が掛けられない。

前にそのことに困り、しょうがなく荀彧様の部屋で一夜を過ごしたのだが、そのときは荀彧様に殺されるかと思った。

 

 ちなみにそのまま鍵を掛けずに部屋に戻り、荀彧様に何かあったら俺の首が飛びます。

故に廊下に出て荀彧様が起きて部屋の鍵をかけるまで時間を潰さないといけない。

まぁ……あの人、酔いつぶれたら朝まで起きないんですけどね。

 

「あら……こんな所で何をしてるのかしら?」

 

こんばんは、曹操様。

 

 のんびりと壁を背に一杯していれば、曹操様がやってきた。

曹操様は、此方を見ると何が可笑しいのかくすくすと笑う。

 

見ての通り、月をツマミに花を愛でてました。

 

「ここからじゃ月も花も見えないわよ?」

 

 そんな笑った顔が可愛らしい曹操様に手に持っていた杯を上げて挨拶をする。

 

いえいえ、先ほどまで見てましたよー?

綺麗に月の光を浴びて輝く花を。

 

「あぁ……寝てしまったのね」

 

残念ながら……。

 

 私も愛でたかったのにと呟き不満そうにする曹操様。

そんな彼女を見て自分の上司を思い出す。

 

『うぅ……なんで春蘭ばかり』

 

……。

曹操様ー。

 

「何かしら?」

 

今宵は少し寒いです。

 

「確かに……少し肌寒いかしら」

 

この部屋に丁度いい感じに暖まってる抱き枕さんが居るのですが、いかがですかー?

 

「! ……ふふ、なるほど。確かに丁度いいわね」

 

 此方の言いたい事が伝わったのだろう。

曹操様は微笑み、荀彧様の部屋へと入ってく。

少しお酒臭いけど、そんな些細な事を気にする人でもないだろう。

 

 扉が閉まり、鍵が掛かった音を聞いてから立ち上がり歩き出す。

今日はゆっくりと寝れるようだ……明日は久々に寝て過ごす必要も無い。

休みは何をしようかなと考えながら残ったお酒をぐいっと飲み干した。

 

 

 




そろばんのネタはそのうちに~

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