一刀ぇ……原作通りに書くと駄目や、この子。
こんな子だっけか……?
「……」
……。
「意外にあっさり答えるのね」
どうやら、曹操様は自分が素直に白状しないものと思っていたようだ。
微妙に心外である。
「華琳様」
「何かしら桂花」
「すいません。どうしてもお聞きしたい事が……」
「言ってみなさい」
そんな話をしていれば、荀彧様がおずおずと手を上げ質問をしてきた。
先ほどからずっと考え込んでいたことだろうか?
「どうして魏という文字で納得されたり、九十九があの怪しい輩と一緒だと?」
「魏は私が考えていた国の名前なのよ」
「……っ!」
なんと言うか、見事に言い切りますね。
他の勢力の人が居たら反逆罪として捕まるだろうに……。
あと、魏=曹操様につながりませんよね。
普通は、昔あった魏という国を連想させますし。
「私の心内で考えていた国の名。それを見せて納得したのは一人だけ……」
「それが九十九ですか」
「そうよ、まさかと思ったけど……あっさりと答えるなんてね」
曹操様達のことは信用も信頼もしております。
故に聞かれたら答えようと思っていました。
「あら、そうだったの」
まぁ……聞かれなくても機会を見て話すつもりでもいましたが。
「というと?」
曹操様の問いにどうしようかと悩む。
少々言うのが照れ臭いことなのでいいよどむ。
しかし、話さなければいけない。
この先に関わることなのだから……。
まずは前提条件として俺と北郷君の正体から話します。
自分と北郷君は、未来人ですね。
「未来……人?」
えぇ、何千年と先の未来に生きてた人です。
自分の正体を言えば、場がざわめく。
いきなり未来からやってきましたと言ってもピンと来ないのだろう。
というより、怪しい人である。
「……未来?」
あー……夏侯惇様が
「……会えるのか?」
今の自分がそうです。
「なんと!?」
分かってなさそうな夏侯惇様に説明を重ねる。
正直分からないですよね。
「……胡蝶の夢?」
みたいなものかと。
そんなことを思っていれば荀彧様が眉を顰めながら言ってきた。
やはり、一番分かりやすいのはその辺りか。
自分の時代では、曹操様達は英傑として数えられ、曹操様達の軌跡を描いた物語があります。
「ふふん、当たり前だ!」
「春蘭……少し黙ってなさい」
「あれ?」
得意げな夏侯惇様に睨んで止める荀彧様。
相変わらず相性悪いなと思い苦笑した。
夏侯惇様の反応は可愛いのだが、反応をされ続けると話が進まない。
二人が睨み合う姿を見つつも話を続ける。
その題名は三国志。
結構有名で史実を少し脚色した演戯と呼ばれる方がよく読まれてます。
「それは九十九も読んだことが?」
あります。
といっても読んだのは、学生の時ですから……六年前になりますかね。
「……だいぶ読み込んだのかしら?」
昔の自分を思い出しつつ、曹操様の言葉に首を横に振る。
中学、高校と中国の歴史物は一通り読んでいた。
太公望、楽毅、晏子、三国志、水滸伝……そういえば、項羽と劉邦は結局読まずに来てしまった。
演戯のような物は無理でも史実のほうなら読めるだろうか?
そんな事を思いつつ、思い出そうとするも大雑把な歴史しか思い出せない。
読んだと言っても長いシリーズだったので大抵が流し読みであった。
覚えてるのは大きな戦と……ここに居る人達の最後ぐらいですかね。
三羽烏の三人は少し怪しいです。
後は、細かい部分も覚えてません。
あの三人の最後はあまり覚えてない。
于禁は辛うじて覚えているぐらいだ。
他の二人はどうやって亡くなったのだろうかと考えるも出てこなかった。
「そう……北郷は何処まで覚えてると思うかしら?」
なんとも……少なくとも自分よりは覚えてそうですね。
北郷君の事を思い出す。
魏を知っていた所を見ると読んでいたと考えていいだろう。
何処まで読み込んだかまでは知らないが、高校二年生と聞いてる。
高校なら図書室にあるだろうし、丁度歴史物を読んでいてもおかしくない年齢だ。
むしろ読んだ直後に来ているという可能性も捨てきれない。
更には三国志はゲームでも出ている。
高校生ぐらいならまだゲームをやるぐらいの年、やり込んでいる可能性もあった。
「……まずは其処を探るところからかしらね」
それが良いかと。
「それで、未来から来たと分かったけど……最初の機会を見て話すというのは?」
あー……曹操様達の誰かが死地へと向かう場合は、正体を言って止める気でした。
「ふふ……そういうことね」
……はい。
素直に言えば、曹操様が口元に手を置いて笑う。
それに照れ、少し頬を掻く。
元々は千里がここに来ると分かっていたので入っていた。
しかし、時が経てば情も出てくる。
ここに居る人は、是非とも最後まで生き抜いて欲しいと思う。
……例え自分が夢半ばで朽ち果てようとも。
「大体の事情は理解出来たわ」
そうですか。
それで今後、自分はどのようにすれば?
「そうね……まずは歴史を私に話さないように」
……ふむ。
曹操様の言葉に少し考え込む。
正直、この人からこの言葉が返って来るのは分かっていた。
私の歩む道は自分で切り開く……ですか?
「分かってるじゃない。例えそれがどれだけ苦痛で困難であろうと、私は他人の作った道を歩む気はない」
……。
「九十九が知る物語の曹操と私は別人よ。例え似ていてもね?」
御意。
「でも……」
うん?
「他の子が死にそうな時は限りではないわ」
死んで欲しくないのでしょう? とくすくす笑い聞いて来る。
答えは分かりきってるくせに相変わらずドSだ。
そう思いつつも大きくため息を付いて、素直に頷いた。
「あとは……天の知識で使える物があったら伝えるように」
それはいいんですね。
「私の道に関わる事でなければ構わないわ。むしろ言いなさい」
承知しました。
「思いついたものがあれば、書いて桂花に渡しなさい。それから吟味して
……。
「言っとくけど掛かるお金は、私の私財から出すわよ?」
なら冷蔵庫! 是非とも冷蔵庫を!!
民の税金でないなら遠慮はない。
現代で使っていた道具を片っ端から作ってもらおう。
そう思い手を上げて訴えれば、呆れた表情をされた。
何故だ。
「……その冷蔵庫ってのは?」
食べ物を常に冷やし長期保存しておける物です。
「……作り方知ってるのかしら?」
……。
何とか原理を思い出そうとするも思い出せない。
気化がどうだらこうだらと読んだ記憶はあるのだが、微妙だ。
それでもドリルを持ってる
却下されても駄目元で直接言ってみよう。
「保留ね。それにしても九十九は、食べ物関連ばっかりね」
あー……自分がこの世界に来た時に一週間ほど彷徨いまして。
「餓死しかけたと?」
はいっす。
野生動物が怖くて森にも入れず、木の下でぐったりとしてました。
その後いろいろとあって助けられまして……そんな経緯があるので食べ物関連が。
よく考えれば、女性と遊ばなかったりするのはそういった危機的状況を味わって、性欲が食欲に回ってるせいなのかも知れない。
この時代に来て作った物が殆ど食べ物関連なので、あながち冗談で済まされない。
あと、自分の給料は上がるのだろうか?
最近市場の食べ物関連の質が上がっていて少々お金が足りない。
「九十九」
はい。
そんな事を考えていれば呼ばれた。
いけない、いけない。
前のことに集中しなければ……。
「今後のあなたの扱いだけど変える気はないわ」
それは、天の御遣いとしてでなく。
ただの部下の一人として扱うということですね。
「えぇ……下手に動くべきではないし。いざって時の対策になるわ」
それは自分も賛成です。
北郷君が未来知識で攻撃してきた時に不意を打って反撃できる。
それを考えれば、自分を隠していた方がいいだろう。
しかし……給料は上がらなそうだ、残念。
「ちなみに今の騒ぎはどれ位、関知してるのかしら?」
敵の頭領の名前と大まかな流れ程度ですね。
「微妙ね」
微妙です。
演戯の殆どが劉備を主軸に話が進む。
その為もあり、曹操様がどのように動いていたのかは細かく覚えていない。
というより、街の名前すら怪しい。
「ないよりはましか、むしろ日常的に使える知識の方が私にはありがたいわね」
そう言って貰えると助かります。
役に立たないとか言われたら流石にへこむ。
怒られるより、あきられるほうが辛いのだ。
「それと、今後は私を真名で呼ぶことを許可するわ」
はえ?
「華琳様!?」
曹操様の言葉が理解出来ず、少しばかり呆ける。
隣で上司が思いっきり悲鳴をあげてるのは辛うじて理解出来た。
えっと?
「華琳様! 駄目です! 男に華琳様の真名を呼ばせるなんて!」
「……桂花」
あー……。
自分の代わりに騒ぐ人が居るからか、冷静になれた。
冷静になって考えれば、当たり前かと思う。
自分は天の知識を持った貴重な人間。
それこそ大きな戦しか覚えていなくても貴重な情報だ。
そんな自分を逃がさない為に真名を楔として打ち込んだのだろう。
「ちなみにこの遠征が終わったら渡す気でいたわよ?」
……軽く人の心を読みますね。
「今回の遠征で桂花から進言があったものを試していたのよ」
……道理で食べた事がある物が出てくると。
「う゛ーっ」
そんな事を考えていれば、考えを見透かされ言われた。
天の御遣いとしてでなく、ただの九十九として渡そうとしていた。
それがたまらなく嬉しい。
「それで……どうするのかしら?」
「自分の国に真名という風習はありません」
「……」
「故に今まで自分の名前を真名として扱っていました。……俺の真名は『
恭しく頭を下げ、自分の真名を告げる。
答えなど最初から決まっていた。
彼女が歴史に名を残す人だからとか、そう言うのは関係ない。
男嫌いな上司と共に敬愛している一人なのだ。
「よろしくね、重成」
「はい」
さてと真名を預かってしまったのだ。
頑張らなければいけない。
まずは――北郷一刀、彼を見極める。
「春蘭! いいの? あれ!」
「ん? 九十九なら別にいいと思うのだが……」
……はぁ。
と思ったが、真名を授かって初めての仕事は上司をなだめる事になりそうだ。
~なぜなに三国志! トキドキ間違いもあるよ!~
《人物紹介》
【姓:
《人物紹介》
日本人の二十四歳。人が居ればにこやかに笑ってる青年。
実際は笑いたくて笑っているのでなく、理不尽な世の中に負けないようにと笑っている。
仕事中や空気を読む場合、一人でいる時のみ真面目な表情を作る。
笑っている時の九十九は無理矢理テンションを作ってるため、お調子者。
調子者の故によく荀彧からあきれられている。
《生い立ち》
二十歳の時、一刀が三国志の世界に行く際に巻き込まれ三国志の世界に迷い込んだ。
巻き込まれたせいか、一刀とは違う年代……四年前に迷い込む。
その際、一週間ほど彷徨い倒れている所を華佗達に助けられた。
その時に 貂蝉にこの世界の事を聞いており、一刀の事も知る。
貂蝉からは『これも外史の一つの形』と言われて自由に生きるように告げられた。
ニ~三ヶ月ほど華佗達と共に旅を続けるも、とある村で徐庶の家に厄介になることになる。
理由としては、水や食事に環境が合わず弱り、旅を続けられなくなった為。
《砂糖を作る》
村に住んでる時に砂糖を作っている。
その砂糖を村の名産にしようと思うも、色々と面倒な事になりそうだと思い商人に作り方を売って面倒事を回避した。
ちなみにその際のお金は千里の塾代と贈り物で消えた。
その後、砂糖がどうなったか知らなかったのだが、街に行った際にペロペロキャンディーを売ってるのを見てこの世界の応用力の高さに戦慄した。
《モデル》
モデルは木村重成。
「智・仁・勇の三徳を兼ね備えている」と評価されてる豊臣の家臣。
色白の美丈夫で、立ち振る舞いや言動は涼やかで、礼儀作法を身につけ、粗暴なところが無いという人。
ちなみに初陣をしてなかった為、家臣団の中でも軽んじられ、時に馬鹿にされていた。
重成はそういった侮辱に対して特に気を止めずスルーしている。
しかし、それがいけなかったのか茶坊主にまで馬鹿にされるようになり、果てには言葉では表せないほどの侮辱を言われる。
これには周囲も刀を抜くだろうと思われていたが、重成は違った。
『本来ならばお前を打ち捨てにするべきなのだろう。
だがそうすると私も責任をとって腹を切らなければならない。
しかし、今は秀頼様のためにこそ死ぬべき時であり、
お前ごときのために私は死ぬわけにはいかないのだ。』
と言って豊臣秀頼への忠義の為にどんな侮辱にも耐える覚悟を見せる。
ちなみに二十三歳に時に戦で亡くなっている。
白髪は『九十九髪』と言われているので、色白=九十九 名前を貰い 九十九重成 となった。
《泣き虫弱虫諸葛孔明》
泣き虫弱虫諸葛孔明が書物でオススメ。
ヘンな服を着て宇宙哲学を説き、稀代の醜女を娶り(大女で、発明の才あり)、あの手この手で臥竜伝説を作ろうと腐心するセコイ男、諸葛亮と。
敗れては魔性の勘で生き延びる放浪雑軍の軍将・劉備玄徳。
な蜀を描いたへんてこ三国志。
徐庶が母親とプロレスしたり、龐統の諸葛亮の印象が変人だったり、呉がヤクザになってたり、と面白いです。