上司が猫耳軍師な件について   作:はごろもんフース

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天の御遣い云々でご指摘があったので修正しました。
原作同様スルーする方向でいきます。
突っ込むと駄目やね!


九十九、会議に出る

「そういえば、千里」

「ん、なんだい?」

 

 流石に話し合いに参加しなければと立ち上がる。

千里と共に幕舎の一つへと向かった。

その際に少し気になる点があり、疑問を投げかける。

 

「何で名前で呼ばないの?」

「あぁ……それか」

 

 気になったのは、千里の俺に対する呼び方だ。

真名を預かった際に自分の名前を真名代わりに千里に告げている。

なのに先ほどから名前で呼ばれていない。

ずっと九十九呼びである。

お蔭で先ほどの時も怒ってるのかと勘違いし、覚悟を決めた。

 

「呼ぶのは二人きりの時だけがいいかなって……重成、ごめんね?」

「いや、別に構わないけど……」

 

 改めて名前で呼ばれると少し気恥ずかしい。

彼女なりに名前を大事にしてくれてるのだろう。

そう思うと嬉しくはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて名乗りましょう。姓は曹、名は操、字は孟徳。官軍に請われ、黄巾党を征伐する為に軍を率いてるわ」

あー……始まってた。

「少し、のんびりしすぎたか」

 

 幕舎に入れば、既に話し合いは始まっていたらしい。

曹操様が真ん中の椅子に座り、左に荀彧様達、右に北郷君達が座っている。

千里は、するりと後ろから抜け、自分の定位置へと座った。

そんな彼女を見送り、どうしようかと悩む。

実は、このような会議に参加するのは初めてで自分の位置を把握していない。

自分の立場的に言えば、荀彧様の後ろ辺りなのだが……。

 

「……」

 

 そんな事を考えていれば、見かねたのか荀彧様が自分の後ろを手で軽く叩いた。

視線を此方に向けておらず、すまし顔だがそれが余計に荀彧様らしい。

 

遅れました。

「……っ」

 

 少し微笑み、そのまま荀彧様が教えてくれた場所へと座り、小さく謝罪する。

そうすれば荀彧様はぶるりと体を震わす。

……男性に後ろから声を掛けられてってことですね、分かります。

 

「わ、私は姓は劉、名は備、字は玄徳です……ご主人様と一緒に愛紗ちゃん達を率いてます」

「良い名ね……それにしてもご主人様?」

「は、はい」

 

 女性からご主人様呼びって……え、北郷君の趣味なの? いい趣味してますね。

ちなみに曹操様は、最初こそにこやかだったがご主人様呼びで少し眉を潜めている。

『可愛い女性は自分の物』的な曹操様のことだ。

ご主人様呼びが気に入らないのだろう。

 

「それで?」

「俺がそれかな……。北郷一刀って言う名だ」

「北郷一……」

 

 あっ、やばい。

自己紹介をのんびりと見ていて気付く、これってこの後の事を考えると非常にやばいのではないかと思いつく。

思いつけば即行動、このまま行けば場が荒れて話し合いが終了してしまう。

 

すみません!

「九十九?」

「えっと……?」

 

 怒られる覚悟で手を上げた。

主君の話を遮ったのだ、全員の視線が痛いほど此方に突き刺さる。

それでもあげなければいけない、聞かなければいけない。

これを聞けるのは自分と千里のみなのだ。

 

「ちょっと、アンタね!」

「桂花、待ちなさい」

 

 思いっきり手を上げていれば、荀彧様が呆れた表情で手を下ろそうとしてくる。

それを曹操様が抑えてくれて助かった。

 

「九十九……何かしら?」

いえ……北郷君に質問なんですが。

「俺?」

姓が北、名が郷、字が一刀でいいんですかね?

「いや、姓が北郷で名前が一刀かな」

なるほど……やはり天の御遣いとなれば名前も違うのですね。

「あっ!」

 

 そう聞くと何やらあちら側で声が上がる。

見れば小さな金髪の子が声を上げて顔を少し青くしていた。

どうやらあちらも気付いたらしい。

 

ところで……真名はあるんでしょうか?

「真名は……強いて言えば名前の部分になるのかな?」

なるほど……知らないとは言え、真名を呼んでましたか。申し訳御座いません。

「なっ!」

「はぁ!?」

 

 自分が焦ったのは名前の部分だ。

この世界には真名と言う風習が存在している。

自分もその風習に習い、名前部分を真名にしてることを思い出したのだ。

このまま行けば、曹操様は北郷君の真名を知らず知らずの内に呼んでしまうことになる。

 

 そして相手から真名を預かるというのは非常に重いこと。

相手から信頼を得るのだ、此方も信頼で返さなければいけない。

簡単に言えば、北郷君に曹操様も真名を渡さなければならなくなる。

別に理由を告げて拒否してもいいのだが、誇り高い曹操様のこと真名を渡すだろう。

そうなれば黙っていないのが曹操様思いのお方達。

正直血を見そうで怖い。

 

「貴様っ!!」

「あっ……!」

 

 北郷君も気付いたのだろう。

口を押さえるも夏侯惇様が飛び出し北郷君の首元を掴む。

完璧にお怒りである、やばい、怖い。

 

「春蘭、抑えなさい」

「華琳様~!」

「ごめん! 俺の国にそういう風習がなくて!」

「春蘭!」

「っ!」

 

 慌てて北郷君が謝り、曹操様が夏侯惇様を下がらせた。

まさに危機一髪、正直帰りたくなった。

 

「……はぁ、呼んでないし今回は見逃す。次はない」

「っ……すまない」

 

 曹操様の冷たい視線に向けられてないのに体が震える。

北郷君よ、ここから巻き返しは非常に大変だぞ。

 

「それで……天の御遣いってことだけど?」

「一応かな」

 

 ……凄いっすね、北郷君。

あれだけの事があっても普通に話せるのか、正直自分だと震えて縮こまる。

 

「一応?」

「証明する手立てがないからな。何が必要なのか分からない以上は、自称」

「そうね、正直私も与太話と思ってるわ」

「そうだよな。でもそれでいいと思ってる」

「へぇ……」

「信じてくれる人だけでいい、本物だとは言い張るつもりはないさ」

 

 その北郷君の言葉に感心したように頷く。

ここで信じてくれないことに対して自棄にならず、怒らないのは大人だ。

というより、この世界だと天の御遣いって与太話とかの扱いなのか。

 

「なるほど……一つの軍を率いるだけはあるか」

「俺の力じゃないさ、桃香達のお蔭だ」

「そういうことにしておくわ」

 

 先ほどの険悪なムードは何処へやら。

曹操様は機嫌を治し、会議は進んでいく。

 

「それで今後だけど、あなた達はどうする気なのかしら?」

「……早くこの乱を終わらせようと思います」

「奇遇ね、私も同じ考えよ」

 

 曹操様の問いに劉備さんが答える。

そこには先ほどの弱々しい人でなく、強い意思を持った瞳をした人が居た。

ここに来てようやく彼女が劉備であるのだと実感が沸く。

 

「それで……曹操さん。私達と協力しませんか?」

「……ふむ」

「私の願いはこの大陸を、誰しもが笑顔で過ごせる平和な国にすること」

「……」

「そのために、この乱を早く終わらせたいんです!」

 

 そう言って、彼女は頭を下げる。

それを曹操様は静かに見下ろし、少しばかり沈黙を保つ。

 

「そうね……あなた達と協力するに当たって私に利点はあるのかしら?」

 

 曹操様がそう言って笑う。

素人の俺が見ても義勇軍にしては異常な戦力があると思っている。

それでも利点を差し出せと言ってるのは見極める為なのだろう。

この劉備という存在を、天の御遣いの北郷君を……。

 

「……これとかどうだ?」

 

 そんな曹操様を前に北郷君が何やら動き出す。

何か思いついたらしい。

 

「何を?」

 

 北郷君は懐から手帳らしき物を取り出し、ボールペンを使い何かを書き込む。

懐かしい物を持ってるなと思いつつも見ていれば、すぐに書き終えたのか手帳を曹操様に見せた。

 

「……」

「……」

 

 それを見た曹操様は少し眉を顰めるも、じっとその手帳を見つめる。

全員が沈黙して見守っていれば、曹操様が一息ついた。

 

「なるほど……ね」

「……君ならたぶん、この意味が分かると思う」

「えぇ……ただし、私限定ね。それ」

「この通り俺は少しばかり知識がある。とっておきの……知識を」

「それを私に寄越すと?」

「この乱限定で」

 

 そう言って、曹操様は首を横に振りつつも笑う。

どうやら認められたようだ、協力する価値があると……。

それにしても一体何を書いたのだろうか、それが気になった。

手の動きや時間から少なくとも絵でなく、文字を書いた物と思われる。

平仮名などが通じる訳も無く、書いたのは漢字だろう。

しかも時間的に一文字か二文字程度の……。

 

 かなりある漢字の中で曹操様が納得し協力をするほどのもの。

そんな漢字はあっただろうか?

 

「それじゃ!?」

「えぇ、協力しましょう」

「そうですか!」

 

 不思議に思い首を傾げていれば協力する運びとなった。

そういえば、千里はこのまま北郷君に付いて行くのだろうか。

正直やっと会えた家族なので一緒に居たいのだが……難しいだろうか。

 

「なら一度休憩をいれましょう。共同作戦については後で軍師同士で話し合わせる」

 

 それだけ言うと北郷君達に退出を促す。

その際に北郷君が大きくため息を付いて汗を拭いて出て行く。

 

「俺のせいでごめんな」

「ううん、ご主人様はまだこの国に降り立って短いもの。これから学べばいいと思うな」

 

 いや、正直君は凄いよ。あの場から曹操様を納得させる所まで持っていったのだから……。

劉備さんと北郷君の言葉を聞きつつそう思い彼等を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……」

 

 北郷君が隊退出した後、曹操様が一言呟く。

それを大人しく見守りつつも会議とはこういったものなのかと雰囲気を味わう。

 

「九十九」

はい?

 

 先ほどと比べ剣呑な雰囲気でもないのでのんびりとしていれば呼ばれた。

不思議に思い首を傾しげれば、曹操様が手でこっちに来いと呼んでいる。

先ほどの件で何かしらあるのだろうか?

一応防いだとはいえ、割り込んだのも確かだ、少しお小言を喰らうのかも知れない。

そう思い、腰を上げ移動し曹操様の前に正座で座り込む。

 

「九十九」

はいっす、何でしょうか?

 

 目の前で曹操様がにっこりと笑う。

それに対して此方もにっこりと微笑んだ。

もしかしてお小言でなく褒められるのだろうか?

そうであれば、今まで褒められた事があまりないので少々嬉しい。

 

「これ分かるかしら」

むっ。

 

 そう思っていれば、曹操様が手帳の一部を見せてきた。

先ほどの時に北郷君が書いた物を貰っていたのだろう。

そして、そこに書かれている文字を見て納得も出来た。

曹操様を納得させた文字は――

 

 

『魏』

 

 

の一文字であった。

後に曹操様が旗揚げをする場合、魏を名乗り建国する。

今現在、曹操様の中でそこまで考えているかは不明であったが、これで納得した事を考えると既に思いついていたらしい。

自分の中で考えていた名を天の御遣いを名乗る人物が当てた。

つまりは先ほどの特別な知識とは『未来』を知っているということを伝えていたのだろう。

現在の黄巾の乱で分かってるのは、張角と言う人が起したという事……。

それ以外は本拠地なども分かっていない。

そこに曹操様は価値を見出したのだと納得した。

 

「分かるのね」

あれれ?

「他の者はこれが何か分かるかしら?」

 

 そう言って、自分の反応を見て曹操様は先ほどの手帳の一部を他の人に見せた。

返って来た反応は、首を傾げる者、考え込む者、スパっと分からないと言い切る者と様々だ。

勿論、その中に自分みたいに納得した者はいない。

 

「先ほどの名前の件といい……これを見て納得したことといい」

あはは……。

「更には、アナタも姓と名だけだったわよね?」

 

 いい笑みでそう言ってくる曹操様。

どうやら察したらしい。

自分と北郷君の出身が同じであることを……。

 

「九十九……アナタは……」

はいっす。北郷君と同じ国の出身です。

 

 曹操様の悩ましいといわんばかりの表情に笑顔で頷いた。

 




~なぜなに三国志! トキドキ間違いもあるよ!~

【姓:荀 名:彧 字:文若 真名:桂花】
《人物紹介》
魏の軍師で華琳を敬愛しており、その敬愛の高さにより華琳専用でドM。 
優秀さからか教養のない者を見下している為、春蘭の様な者を目の敵にしている。
極度の男性嫌いで男性を完全に見下し、仕事以外だと罵倒罵倒の嵐。
九十九が部下になる前は、華琳も少し緩和しようと男性の文官を部下につけていた。
(女性だけで軍を保てるわけもなく、致命的な男性嫌いは将来的に困る為)
しかし、文官になる男性は桂花同様プライドが高く、桂花の罵倒に耐えれず去っていった。
そのことに困ってる時に見つけたのが九十九である。

《九十九》
九十九の第一印象は『とにかく気味が悪い』。
罵倒されてもニコニコと笑顔で受け入れる。
そんなほかの男性と違う態度が非常に気持ち悪かった。
しかもお調子者であるのが更に拍車を掛け、追い出そうとしていた。
(現在は諦め中、罵倒しようが何しようが堪えない為)
最近では、ある程度使えるので視界に入らなければいいやの精神。
お調子者も作っているという性格と知ってる為慣れた。

《天敵》
九十九は天敵である。
何しろ美味しい物を作って来るのだ。
最近体重が気になりつつも今日もドライフルーツを頬張る。

《春蘭と栄華》
とにかく九十九を攫っていこうとする輩。
一応アレでも華琳がわざわざ付けた部下な為、渡す気はない。

《真名》
渡すわけがない、字ですら渡さない。

《千里》
何か沸いて出た。

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