俺は彼女を壊したようだ。   作:枝切り包丁

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4.問答

 

 

 

他人の体温を忘れられないと言う少し不思議な感覚を俺は今始めて体験していた。

焼けるように熱いこの体温がいつになったら冷めてしまうのだろう。そんな事を考え思わず口に手を当てた。

 

その様子を不審に思ったのか目の前の席に座っていた少女、テスタロッサが首を傾げた。

 

「どうしたの、コースケ?」

 

声と共に顔が熱くなった。

辺りを見渡して思い出す。俺がテスタロッサに相談事があると言って近場の喫茶店に呼び出したことを。

不思議そうに此方を見るテスタロッサから顔を逸らしてこみ上げる言葉にならない羞恥の声を強引に飲み込んだ。

不覚だ。恐らくテスタロッサは気付いていないのだろうがこんな人前で我を忘れふしだらな考えにふけっていたとは。

「なんでもない」そう自分でもわかるくらい震える声でテスタロッサに返事をして赤くなる頬を頬杖を突く要領で隠した。

なんという見っとも無い姿だとは思う。

 

「……それで、相談ってなに?」

 

やはり納得とは行かなかったのだろう。変わらず不思議そうな表情を浮かべているテスタロッサが口を開く。

 

「ん、ああ。そうだった、こっちが呼び出したんだったな」

 

「もう……私だって暇じゃないんだよ? ただでさえ執務官試験に落ちちゃったのに」

 

ぷくりとテスタロッサは頬を膨らませて不満感を表す。

妙に子供っぽい仕草が彼女らしくなく余程執務官試験の不合格が痛かったのだろうと感じられた。

とは言ったものの、

 

「あれ……執務官試験、落ちたんだ?」

 

その話、俺は初耳だった。だからそんな言葉が零れた。零れてしまった。

その言葉が余程気に触ったのだろうテスタロッサは目を見開いて驚いた後、眉をひくつかせながら俺を指差した。

 

「お、落ちたよっ……コースケのせいでね!!」

 

「は?」

 

その言葉に俺は呆然となった。この時だけは唇の熱さを忘れていたと言ってもいい。

思わず辺りをキョロキョロと見渡してもう一度テスタロッサの顔を見る。

相変わらず頬を膨らませた駄々っ子のような可愛らしい表情であまり怒っているようには思えなかった。

 

「え?は、えっと、俺の、せい?」

 

「そうでしょ!!」

 

そうじゃ、ないよな?

テスタロッサが叫び声を上げたためか周囲にいる客の視線が此方へ集まる。

大勢の視線の中押しつぶされるように肩を縮めた俺は恐る恐るテスタロッサに問うた。

 

「ち、ちなみになんで俺のせい、なのかな……?」

 

「元はと言えばコースケが私の大事な時期にあんな大怪我をするのが悪いんだよ!!」

 

「け、怪我と試験は関係ないだろ!」

 

「心配させられたって言ってるの! 鈍感コースケ!」

 

「ど、鈍感!? お、お前、見舞いに来た時はそんな素振り見せ無かっただろ!」

 

「それはっ!もうっ、そう言うところが鈍感なんでしょ!」

 

「おまっ、そりゃ俺は人の機微とかに疎いけどさ。仕方ないだろ、わかんないんだから!」

 

「わからないから仕方ないってのは逃げじゃないかな? 結果的に私は試験に落ちたんだから!」

 

「それは……そう、だけど。って、おい。おい! お前が落ちたのはお前のせいだろ!」

 

「だ、だからそれはコースケが私に心配をさせて――」

 

「それとこれとは関係ないだろ!」

 

「か、関係あるよぉ!!」

 

情けない声をあげるテスタロッサの頭を一度叩いて黙らせる。

納得がいかない様子のテスタロッサはまだ俺を睨んでいたが此方が睨み返すと逃げるように視線を逸らした。

 

「……これだからコースケは」

 

「何か言ったか?」

 

「言ってません」

 

ぷい、と顔を逸らすテスタロッサに苦笑が漏れる。

 

「と、そう言えば」

 

「うん?」

 

思い出したかのようにテスタロッサが指を一本立てる。

 

「今更、なんだけどさ。コースケって私と二人っきりで出かけたりしていいの?」

 

「……駄目なの?」

 

首を傾げる。そんな様子の俺にテスタロッサは小さく「やっぱり鈍感」と呟いて微笑んだ。

 

「なのはが気にしないかな、ってこと。コースケとなのはってそういう関係でしょ?」

 

頬を掻くテスタロッサを見て顔が熱くなるのがわかった。

確かに俺は高町のことをそういう風に思ってはいるししっかりと言葉にして伝えたのだが。

その、返事を貰ってなかったりするわけであって……高町の口から、聞いて無い。

だから、その……

 

「し、心配ないんじゃないかな?」

 

「……なんで目が泳いでるの?」

 

「泳いでねぇ!」

 

叫んで無理やり流れを断ち切った。

この話は駄目だ。この話はい嫌だ。

赤くなっているであろう顔をまた覆い隠して机に突っ伏す。

 

「そんなことより俺の相談を聞けよ! 聞いてくださいよ!」

 

「もう……しかたないなぁ、ふふ」

 

クスリと笑うテスタロッサの顔に羞恥心が掻き立てられる。

なんと言うか……よくお分かりで、と言うところか。

 

 

「そ、それで相談なんだけどさ……」

 

「うん、何かな?」

 

「えっと――――――あっ」

 

相談事を口にしようとして固まった。

その様子をテスタロッサが目を丸くして見ている。

 

「どうしたの?」

 

「あ、その」

 

言いよどむ。

先ほどの話を断ち切っておいてなんだ。

 

 

相談事は、高町の事だった。

 

 

「言い難い事?」

 

「あー、そんな」

 

「当てよっか?」

 

「は?」

 

またテスタロッサはクスリと笑う。その笑顔、苦手だ。

 

 

「なのはの事、だよね?」

 

 

はは、よくお分かりで。

 

 

「……まあ、そうだよ」

 

「コースケからの相談なんて大体なのはの事だからね」

 

「そんなこと、あるかもしれない?」

 

「あるよ?」

 

ある、けどさ。

不貞腐れた気分だ。

確かに俺はテスタロッサに良く相談事を聞いてもらったりしているがその話の大半は高町のことだ。

例えばアイツが何かを悩んでいる時とか。

例えばアイツが何か言いたそうにしている時とか。

例えばアイツが何を考えているかわからなくなった時とか。

例えばアイツのために何かをしてやればいいかわからない時とか。

 

 

今回はアイツとこの先、どう過ごしていけばいいのか。そんなことだ。

 

 

「高町がさ、ほら、魔法が使えるように戻ったじゃん」

 

「ああ、なのはから聞いたよ。最近は元気だし調子良いみたいだね」

 

「うん。ソレはいいんだけどさ、あいつすぐにでも魔導師に復帰したいなんて言い出して」

 

溜息と共に吐き出した言葉にテスタロッサは首を傾げる。

 

「なのはらしいって言えばそうじゃないの?」

 

「そう、だろうけどさ。別にすぐそうしなきゃいけないわけでもないだろ?」

 

「……うん、そうだね。でも、コースケはそれで何を悩んでるの?」

 

さら、っとテスタロッサは口にした。

俺の聞かれたくない事を。

勿論、それを口にしなければこの相談自体に意味は無いということはわかっていた。

わかっていたからこそ口に出せなかった。いや、出したくなかったって言うただの自分勝手だ。

 

所謂、口に出すのも恥ずかしい。

 

それだけ。

 

それを知ってか知らずかテスタロッサはゆっくりと微笑んだ。

 

 

「ずばり言っていい、かな?」

 

 

そういって指を突きつけられた。

正直、言わないでくれると嬉しい。なんて言うのは意味のないことだから口にはしない。

だから返事のように俺は顔に苦笑を貼り付けた。

 

 

「なのはが心配すぎる、だよね?」

 

 

そうですとも。

 

 

「確かにコースケとしては身をもって味わったわけだから、昔のコースケや今の私が立っている場所の危険性はよくわかってるよね」

 

「ああ、できれば味わいたくなかった。なんて糞が垂れそうな言葉が吐けるくらいには」

 

「私もそうだよ。知ってる、よく知ってる」

 

テスタロッサが目を細める。

 

 

「私は生まれたときから味わっているもん」

 

 

表情からは何を考えているのかは読み取れない。

それが後悔か憤慨か、それともどちらでも無い何かなのか。

わかることの出来ない俺に少しだけ胸が痛んだ。

 

「だけど、私はその場所に立っている。どうしてかわかる?」

 

「…………それは」

 

「わからない、そうでしょ?それで当たり前だよ」

 

わからない事は当たり前、そう当たり前の事だ。

俺とこいつの関係が親友だろうと恋人だろうと兄妹だろうとなんだろうと、七峰紅助とフェイト・T・ハラオウンは他人だ。

他人の目的は理解出来ない、他人の過程は知らない、他人の結果はわからない。そういう風に出来ている。

 

「ソレはなのはとコースケにも当て嵌まるものでしょ?」

 

人間って結局のところ感じられる繋がりなんて無いのだから。

 

テスタロッサはそう言って笑う。

 

「私は私の目的のために《管理局の魔導師》っていう手段を使ってるよ。私の知る一番の手段がそれだからね」

 

 

 

――――――さて、なのははなんで《管理局の魔導師》に復帰したいって言ってるのかな?

 

 

 

「目的、ってことか。なんなんだよ、アイツの目的って」

 

「それは――――」

 

「【わかりません】だろ?クソ、結局のところ俺はアイツの事って何も知らないんだよな」

 

やりたい事だとかやってほしい事だとか、何も知らない。

聞けたはずだ。ただ言葉にして高町に聞けたはずなのに。

好意を伝えておいてなんだ、一から十と言わず百くらいまでは情けない。

 

「コースケは情に厚いからね、そりゃあ情けなくもなるよ」

 

「……言葉遊びは好きじゃない。それに俺ほど情に薄い人間はいません」

 

「またまた」

 

吐き捨てるように言った言葉に返ってきたのは笑い声。

 

「まあ、情に薄くて情けないコースケにはわからないかもしれないけど、なのはの目的を知るのは簡単だよ」

 

「わかるわけがない、なんて言っておいてか?」

 

「私はわからない、とは言ったよ。【わからない】は【わかる】ためにあるんだから」

 

 

わからないわけなんてない、でしょ?

 

 

「……で、その簡単な手段って?」

 

 

「そりゃ、聞いてみればいいんだよ」

 

 

「………………は?」

 

 

「ただし嘘は吐かないこと」

 

追加される言葉にも俺は呆けたままだった。

聞いてみる。そんな簡単な、それでわかれば――――

 

 

わかれば?

 

 

ふと思い出す。

 

 

俺は高町の話を聞いたことがあるか?

 

 

あの話し合いも結局のところ俺の言いたいことを言って終わった。

 

 

どこに、アイツの答えがあった。

 

 

俺は高町の事を何も知らない、そりゃあそうだ。

 

 

何も聞いてこなかったのだから。

 

 

「コースケは情に深いけどそれは一方通行だからね。ときどき振り返るのも大切なんだよ」

 

諭すように言われた言葉には頭が痛む。

どれもこれも最初から間違っていた、なんて教えられた気分だ。

 

「確かにさ、誰だって嘘を吐いたりして誤魔化すことが出来るよ。だからわからないしわかれない、でもわからないままじゃ今のコースケはいられないよね?」

 

「ああ」

 

「だったらコースケは本当のことを言葉にしなきゃ。回り道なんてコースケらしくないよ、いつだって真っ直ぐ、でしょ?」

 

「回り道、か。どのくらい回り道なんてしてなんだろう」

 

「ほんの少しだけ。なのはは強い子だから、自分のすべきことはしっかりと自分で気が付いてる。あとはコースケが追いつくだけだよ」

 

「うん」

 

頷いて胸が少しだけ軽くなったのを感じた。

気が付くとテスタロッサはずっと俺に微笑みかけていたような気がする。

それに合わせるようにして俺は苦笑を浮かべた。

 

「高町は喜んでくれるかな?」

 

「コースケとならどんな未来でも」

 

「高町は耐えてくれるかな」

 

「コースケとならどんな道のりでも」

 

テスタロッサは微笑んで俺は苦笑する。

高町と俺の距離が最初からああだったように俺とテスタロッサが話すにはこの表情が丁度いい。

 

 

「まずは高町とはなさなきゃな」

 

 

「次はちゃんと聞いてあげてね?」

 

 

「大丈夫、かな?」

 

 

「コースケが気をつけていればね」

 

 

「手伝ってくれたり、とかは?」

 

 

「してあげない」

 

 

「なんで?」

 

 

「それはそれ、これはこれ」

 

 

「テスタロッサは案外ケチだよな」

 

 

「知らなかった?」

 

 

「……知ってた」

 

 

「友達だからね」

 

 

「ああ、友達だから」

 

 

「一人で出来る?」

 

 

「頑張る。やってみせる」

 

 

 

「ふふっ。じゃあ、頑張れ。なのはのヒーロー」

 

 

 

 

 

 

最近、高町の起床が早い。

 

 

この頃のアイツは俺が起きるより早く起床しているようで俺が起こされることが多い。

どうも彼女なりに努力をしているようで時々眠たそうにしているのを見るがどうやら無理はしていないようだ。

 

先日俺はテスタロッサとな話もありもう一度高町と話をした。

 

結果的に言ってしまうと俺は高町の目的を聞くことが出来なかったのだが少しだけ安心した。

高町の言葉は真っ直ぐに俺に届いて、芯のあるその声に自分の悩んでいることが馬鹿らしくなったくらいだ。

それに高町も努力を続けているようだ。なんていえばいいかわからないけど、負けられない。そんな風に思った。

 

ほら、今日も目を覚ますと高町が――――

 

 

あれ?

 

 

視界一杯に高町の顔が広がっていた。

近い、なんてもんじゃない。それこそぶつかりそうなほど……あ。

気がつくと唇が焼けるように熱くなる。

 

知ってる。この感覚。

 

ゆっくりと高町の顔が離れていき熱が顔に広がっていく。

 

「はぁ」

 

離れた高町が目を閉じたまま熱っぽい息を吐いた。

 

そして、

 

もう一度、

 

こちらに、

 

近づいて、

 

 

目が、合った。

 

 

「おはよう、コウ君」

 

 

囁かれたその声に体中の熱が爆発するような感覚に襲われた。

思わず返事をすることなんて忘れて高町から顔を逸らした。

 

「も、もしかしてっ、まい、毎朝こんなことをしていたのか!?」

 

口が上手く回らない。そんな様子の俺に高町は優しく微笑んだ。

 

「そんなことないよ?我慢できなかった時だけ」

 

「お願いだから、我慢、してくれよっ……」

 

声を搾り出して布団の中へ潜り込んだ。

 

「コウ君、起きなきゃ」

 

そんな声をかけられるだびに体が熱くなる。

 

「……あと五分」

 

熱が冷めるのを持とう、なんて言い訳だったがそれも高町には意味が無かったのだろう。

クスリと小さい笑い声が聞こえた。

 

「じゃあ、後五分ここで待つね?」

 

「―――――ッ、わかった!起きる、起きるから少し外で待っててくれ!」

 

布団から飛び出して叫ぶ。茹で上がったように熱い身体で高町を追い出した。

 

 

「――――――ッ」

 

 

声にならない呻き声を上げ暴れた。もう、一日の始まりから台無し感が酷い。

高町に遊ばれているような感覚に体中がむずがゆくなる。

嫌な気分では無い、嫌な気分では無いけれどッ。男として惨めだ、凄く惨めだ。

落ち着け、落ち着けとぶつぶつ呟いて身支度をした。

体から熱が抜けてくのを感じて部屋を出る。

 

高町が微笑んで出迎えるのを見て早速少しだけ残った熱が疼いた。

 

「高町」

 

「何、コウ君?」

 

出来るだけ真面目な顔を作った。そうしないとまた高町に遊ばれる気がして。

 

 

「何であんなことをする」

 

 

首が傾げられる。

 

 

「あんな事って、キス?」

 

 

真っ直ぐ投げられた言葉に熱が蘇った。それを高町が微笑んで見てくる。

 

「なんで、って言うと……私がしたかったから?」

 

「お前っ!そんなことで!」

 

「そんなことじゃないよ?唇をあわせると凄く気持ちいいんだよ。胸がキュンとしてお腹のあたりからポカポカって暖かくなるの」

 

「バッ」

 

可笑しな声が漏れた。

どう見ても動揺している俺に対して高町は余裕というように笑って俺に問う。

 

 

「コウ君は、気持ちよくない?」

 

 

「そんな問題じゃない!もうそんなことを勝手にするな!わかったな!」

 

 

怒鳴りながら階段を降りていく、そんな俺の背中にに投げかけられる言葉があった。

 

 

 

 

「勝手じゃなかったらいいんだ?」

 

 

 

 

 

 

「なのはちゃんの今日の予定は?」

 

朝食、いつもと一緒で母さんがみんなの予定を聞く。

 

「午前中は特にありません。午後からはミッドの病院に行ってくるつもりです」

 

「病院?」

 

隣に座る高町を見て首を傾げる。

 

「通院中に仲良くなった先生がいてその人から頼まれたものを持って行くの」

 

「ふぅん?」

 

別段気にしていないような素振りをしてみるが正直かなり気になる。

頼まれたものがなんなのか、先生って誰、とかかなり心配。

それが高町にも伝わったようでゆっくりと口が開かれた。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。少し変わった先生だけど面白い先生たよ」

 

「名前は?」

 

「名前?セルジオ先生、セルジオ・ピニンファリーナだけど」

 

一度だけ目を細めて高町から目線を外しす。

聞き覚えは無い。そんなに重要な人物でもないのか?

 

「病院に行くのはいいけど気を付けてね?」

 

「はい!」

 

「じゃあ、次はコウちゃん」

 

 

なにか、嫌な感じがする。

 

 

 

 

今日は特に用事がない、というこでテスタロッサの訓練に付き合う事になった。

 

遙か前方の空をテスタロッサが駆けているのをぼんやりと見る。

 

訓練に付き合う、と言ってもデバイスのないどころか両腕の無い俺にはそんな激しい事も出来るはずがなくテスタロッサの様子を見てアドバイスを送るという形になった。

 

しかしテスタロッサが魔法を使っているのはあまりしっかりと見たことが無いので少し新鮮な気分だ。

 

今まで仕事は違ったし士官学校では差ほど気にとめていなかった。

それ以前は同上。

闇の書事件は地球に来ていたことすら気が付かなかった。

 

多分一番しっかりとみたのはジュエルシードを奪い合った、

 

あの事件の時。

 

 

俺と彼女が初めて出会った時だ。

 

 

 

 

 

俺がテスタロッサと初めて出会った時に感じたのは驚愕だった。

 

 

ジュエルシードを回収していた俺に突然襲いかかった少女はデバイスをこちらに向けて睨みをきかせた。

これがフェイト・テスタロッサか、なんて感慨深いものすら感じるくらい実物を目にするのと知っているだけの違いを知った。

 

 

「それをこちらに渡して」

 

 

静かにそう告げた彼女は俺の手の中にあったジュエルシードに視線を送る。

 

この時点で原作知識の薄れかかっていた俺はテスタロッサの登場の仕方に若干違和感を覚えつつ高町を見た。

 

高町は突然現れた少女に驚きつつもジュエルシードを渡してはいけないと首を横に振った。

 

「どうやらこちらのご主人は渡したくないようだ」

 

俺の言葉にテスタロッサは目を細めデバイスを構えた。

 

 

「だったらっ!」

 

 

《BlitzAction》

 

 

俺が高町にジュエルシードを投げ渡すのと同時、テスタロッサの叫びがこだまする。

高速移動でジュエルシードを追おうとする彼女の前に邪魔をするように躍り出る。

振りかぶられた巨大な鎌を手甲型のデバイスで受け止めて押し合いの形になった。

 

瞬間彼女から迸った金色の魔力に驚愕した。

押し合いという形式こそ古式な戦闘方はそれにより一瞬で常人が立ち入ることが許されないものへと駆け上がった。

 

力任せに俺の拳を弾き返したテスタロッサは鎌を振るう。

 

まるで三閃が一振りの内に放たれるような速さ。

 

振り下ろし、胴、逆胴。

 

ほぼ同時に襲いかかるそれを両腕と足で凌いで一度距離をとった。

 

睨み合う俺とテスタロッサ。

 

後方の高町はどうやら奇襲にあったらしく何者かと戦闘中、おそらくアルフだ。

 

拳を握りしめてデバイスの感覚を確かめる。

短く息を吐いてそれが合図になった。

 

同時に飛び上がり魔法を行使する。

 

 

「バレットスフィア!」

 

 

 

「フォトンスフィア!」

 

 

 

奇しくもそれは同種の魔法で俺達は同数の砲台を魔法で形成し互いの弾丸をぶつけ合った。

 

 

《BlitzAction》

 

 

《FastMove》

 

 

 

超高速間での激突。

 

 

 

弾け飛ぶ魔力が辺りの木々をなぎ倒す。テスタロッサが鎌を振るえば俺が拳を合わせ俺が拳を振るえばテスタロッサが鎌を合わせた。

潰し合い削り合う、超高速間で行われるそれはとても原始的な戦闘だった。

 

傍目から見れば嵐のようなその紡ぎ合いは百回にも登るぶつかり合いの中、鋼と鋼が打ち合う音だけを残し唐突に終わりを告げた。

 

 

デバイスへと叩きつけた拳でテスタロッサが数歩後ずさる。

 

 

俺とテスタロッサ、両者共に少なからず息を乱しており次の一撃で最後とおそらくどちらもが考えたのだろう。

 

テスタロッサが飛び上がり更に距離をとる。

来るならば砲撃魔法。

全身に流れる魔力を両腕に集中させる

 

 

辺りに鳥が鳴く音が響く。勿論結界内に俺達以外の生物はいない。

それはテスタロッサの体から漏れ出している音だ。

 

金色の光に包まれたテスタロッサはその莫大な魔力を次の一撃へと込める。

 

そしてそこから漏れ出した魔力が電撃としてテスタロッサの周りで音を奏でる。

 

 

思わず膝が笑いそうになった。

それをグッとこらえて更に魔力をつぎ込む。

 

朱色の魔力が中を舞って俺の両腕へと吸い込まれる。

 

準備が出来たのは、

 

 

同時だった。

 

 

両者はそれぞれのデバイスを己の敵へ突き立てる。

 

 

 

そして、

 

 

 

 

「サンダースマッシャーッ!!」

 

 

 

「アキシオンバスターッ!!」

 

 

 

 

雷を纏った砲撃と赤熱の砲撃が激突した。

 

 

 

 

「どうだった?」

 

思い出に耽っていた俺を呼び戻しのはテスタロッサの声だった。

 

ゆっくりと俺の前に降り立った彼女は呆けていた俺を見て首を傾げた。

 

「どうしたの?なにかあった?」

 

「いや、何でもない」

 

心配そうにするテスタロッサに俺は笑みを見せる。

少なくともあの時はこんな風にこいつと仲良く出来るとは思っていなかった。

 

テスタロッサも八神も別に仲良くなりたいなんて思ったわけではない。

 

 

テスタロッサには彼女の作られた運命に共感する所があったから。

意味もなく繰り返された人生を生きる俺と母に別人として望まれ作り出された彼女。

 

何もかもが違うけれど少しだけ似た俺達。

 

運命を切り開いた彼女、俺はそれに憧れたのかもしれない。

 

 

未だ世界への、そして自分自身への失望が消えない、納得も出来ない。

 

 

目の前のテスタロッサを見る。

まだ心配そうにする彼女はなぜ運命を切り開けたのだろう?

どうやって運命を切り開いたのだろう?

 

 

 

 

俺はその答えが知りたいようだ。

 


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