本来はこうなるはずだったifです。
サブタイの通り3話からの分岐になります。
私、高町なのはにとって彼という存在は所謂ヒーローと呼ばれるそれと同じ意味を持っている。
それは私が作り出した偶像だったとしても、彼は確かに私の物語のヒーロー、主人公で最も憧れて恋い焦がれた存在だった。
それは、今この時も、
彼は私の世界の中心だ。
※
私のために悩んでいることは知っていた。苦しんでいることも知っていた。
それなのに私は何も出来なかった。
私は魔法と一緒に無くしてしまった何かが、私にその一歩を踏み出せなくさせていた。
だけど彼は立ち上がり、今、私の前にいる。
目の前に広がる彼の顔は涙で歪んでしっかりとは見えない。
いつもみたいに微笑んでくれているのだろう。
それは簡単に想像できた。
コウ君は、私みたいに泣かないもんね?
「次は高町の番」
彼の声はやけに落ち着いていた。それが私には悲しくて。
私はいつだって彼の背中を探している。
見えないほどの差を感じるその背を。
彼と私の違い。
目の前の壁を越えられるか、越えられないか。
小さな違いでこんなにも遠い。
昔はそんなけとを考えもしなかっのに。
二人でいるだけで楽しくてそれで幸せだった。
彼と見た多くのは綺羅々々と輝いていて、全てのものが新鮮だった。
二人で歩いた街の風景だったり。
二人で口にした料理の味だったり。
魔法だって、そうだ。
ユーノ君との出会いから始まって、コウ君の本当の姿を知った。
私にも出来ることがある、彼に今までの恩返しが出来る。
そうすれば、彼と対等な私に、
なんて、
夢を、見ていた。
彼の両腕からは二度とあの温かみを感じる事は出来なくなり、私は返しきれない程の恩をもらった。
もう、あの掌で撫でてくれることもあの腕で抱きしめてくれることもない。
私が、そうした。
それでも、
そうだから、
私は弱くて、
彼に甘えてしまう。
自分の罪を認めたくなくて、
必死に甘えて、逃げて、隠して、
今の私が、彼に出来ること。
そんなのって、あるのかなっ?
※
「わたし、はっ」
口を開けば声は情けないほどに震えていて、それでもコウ君は笑って聞いてくれる。
それが、辛い。
「コウ、君にっ、何かしてあげたくて……コウ君が、私にしてくれたみたいに」
涙を流せば流すほど情けなくなる。
「コウ君は、十分私を幸せにしてくれてるよ、次は、私からってずっと思ってた」
でも、ね。
「私は、アリサちゃんみたいに頭はよくないし、すずかちゃんみたいに体を動かすのが得意じゃない。だから、私が出来るのは魔法だけでっ」
みっともない私にコウ君は頭を撫でてくれる。
嬉しくて、
幸せで、
でも、冷たくて。
涙を拭ってコウ君を見た。
やっぱり、笑ってるんだね。
なんで、笑えるの?
私は、無理だよ。
「私はっ、私は、もう、嫌だっ」
奥歯を噛み締める。
私に出来ることがなんて一つもなくて。
魔法だって、私には無くなってしまった。
毎日が怖くて、寂しくて、苦しい。
「コウ君と、一緒にいたい」
「ずっとそばにいてほしい」
「魔法も、もういらないから」
「一緒が、いいよ」
「一緒に笑って」
「一緒に泣いて」
「一緒に生きて」
「私は、君が、好きなの」
「だから、寂しいときは隣にいて」
「もう、一人にしないで」
「一生、私の隣にいて」
「だって」
「私が」
「コウ君を」
「愛してるから」
「だから」
私を、助けて。
声が、風に乗った。
私は、なんてみっともないんだろう。
泣きながら、
笑って、
こんな事を口にしてる。
なんて様だ。
この様が私で、
私のヒーローは、
笑って、
頷いた。
やっぱり。
私は、
今この瞬間、
彼に救われたようだ。