俺は彼女を壊したようだ。   作:枝切り包丁

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sts開始です。
この辺りから色々壊れだして純愛性が薄れてきます。
とりあえずはなのはから。


16.ready

 

 

昔。

 

それは私が思っているより遠い昔のことなのだろう。

 

ある少年と出会った。

 

その少年は自らを紅助と名乗った。

 

私がまだその彼をコウ君と呼んでいなかった頃のことだ。

 

彼は私を高町さんと呼び、私は彼をコウスケ君と呼んでいた。

 

私は彼のことは好きじゃなかった。と言っても嫌いというわけでもない。

 

苦手、だったんだろう。

 

小さい頃の私は人付き合いがいいとはお世辞にも言えなかったから向こうから関わってくる彼に少しだけ困惑していた。

 

あの日も、声をかけてきたのは彼、コウスケ君からだ。

 

 

雨、雨が降っていた。

 

寒いな、って思いながら傘を差して公園のブランコを揺らしていた。

勿論ブランコを揺らしているせいでさしている傘は殆ど役に立っていない。

でも、気にはしない。気にする程の余裕が無かったのかも知れない。

こんな事をしてお母さんが心配するんだろうな、っていう考えはあったけどそれより迷惑をかけるんだろうなっていう考えで胸が痛かった。

でも、家にいるよりはましだった。

お父さんが怪我をして、こんな日でも皆が急がしそうで、私だけ取り残される。

それを自分の目で確かめるのは苦痛でこっそり逃げ出してきた。それが今回の経緯だ。

だから本当は雨が冷くて寒いとか、誰もいない公園は寂しいとか、そんなことはどうでもよかった。

 

ただ、胸が痛くて。

 

締め付けられるように痛くて。

 

助けて、って言いたかったんだと思う。

 

だから、

 

 

「高町さん?」

 

そんな不思議そうな声と共に現れた彼を見て、不覚にも絆されそうになった。

 

コウスケ君は私を見るなり近寄ってきてこちらの手をとって私の顔をのぞく。

 

「冷たい、いつからここに?」

 

「わかんない。暇だったから、遊びに来たの……」

 

自分の口から出た言い訳としてはわかりやすい嘘。

口から出してすぐばれるんだろうなって思った。

コウスケ君は怒るだろうな、そんな予想を立てて彼の瞳を見る。

 

「そっか」

 

けど、彼はそれだけでまったく怒りを見せることは無かった。

不思議、に思った。コウスケ君はいいこだからこんなに迷惑な私を見て怒るものだと思っていた。

なのに彼は私の手を軽く引いて笑う。

 

「寒いね?」

 

「……うん」

 

ポツリポツリと会話としては拙い一言と共に頷くと彼は更に私の手を引いた。

 

「じゃあ、俺の家にでも行こう」

 

「……え?」

 

何故そうなったのかはわからない。

でも気が付くと私は彼の家にいて彼のお母さんに進められるまま冷えた体をお風呂で温めていた。

お風呂からあがり何処か居心地の悪さを感じつつ辺りを見ていると電話をしている彼のお母さんが見えた。

話からするに私の家に電話をしているようだ。距離としてはそんなに遠くなかったみたいだけど矢張り胸が少し痛んだ。

そのままぼんやりしていた私に様子を見に来たのだろうコウスケ君が声をかけてきた。

 

「俺の部屋に行こうか」

 

「……ん」

 

人の家、という勝手のわからない状況で流されるように頷く。

始めてはいる歳の近しい人物の部屋、でも彼の部屋は少し変わっていた。

あるのはベッドと本棚に机、何にも無いんだ。ポツリと思う。

男のこの部屋だからかな、とも思ったしそれとも彼だけがそうなのかなとも考えた。

結局答えは出なくてただぼんやりを部屋の様子を目に写し続けた。

そんな様子が可笑しかったのか私を見たコウスケ君が微笑む。

 

「やっぱり、なにも無いかな?」

 

考えてることがばれた?

すこしドキリとしつつ首を横に振る。正直に言うのは何だか失礼に思えた。

 

「いいよ。自分でもそう思うから」

 

適当なところにどうぞ、なんて言いつつ椅子をこちらに譲ってきた彼の好意に与りソレに腰を下ろす。

彼はその前にあるベッドへ腰を下ろしてこちらを見た。

 

「俺は、趣味ってものが良くわからなくてさ」

 

そんな風に語りだした彼の表情は何を考えているかわからない。

始めてみる顔だった。喜びでも悲しみでもない、ぐちゃぐちゃな表情。

 

「したい事だって、特に無い」

 

「そう、なんだ」

 

「うん。だから形に出てるんだと思うよ、この部屋は」

 

したいことが無い、かぁ。

私はある。お母さんやお父さんの役に立ちたい。

でも、無理かな。それはわかってる。

 

「今日は雨が降ってたからさ、いつも遊んでる時間に公園は使えないかなって思ってたけど。やることが無いから散歩をしてたんだ。そうしたら高町さんがいて、驚いた。高町さんはどうしたの?」

 

「……私は」

 

少し口ごもる。何と言えばいいのだろうか。

 

「私も、本当に暇で……やることが、出来ることがなかったから」

 

「そうなんだ。じゃあ、今出来ることでもやる?」

 

「できる、こと?」

 

「うん。別に何だっていいよ。その本棚から好きな本をとって読んでもいいしもう少し話をしたいのなら話をしよう。話題だってなんだっていいんだ」

 

何だっていい、か。

安心、というのだろうか。言葉にされただけで心が落ち着いたような気がした。

本当に彼は私が何をしても受け入れてくれるのだろうか。

 

わからない。

 

わからないけど、少しだけ笑える気がした。

 

 

「……コウスケ君の」

 

 

「うん?」

 

 

「コウスケ君の、事が知りたい」

 

 

彼なら、って。

 

 

 

 

 

 

 

コウ君と離れて過ごす日々の事を思い出そう。

 

正直、味気ない日常だったな。

コウ君がいなくなってから一ヶ月くらいは自分で言うのもなんだけど生きてるんだか死んでるんだかわからないような日々だった。

でも、ある日コウ君の部屋で泣きつかれて眠ってしまって紫さんに起こされた時、気が付けば首にかけていた指輪が一つだけになっていた。

おかしいとは思ったけど不思議とコウ君だ、なんて思った。

たぶん、夢のようなものを見ていたからだろう。私はコウ君と話して、少しの間のお別れを口にした。

だから、いつか会えるんだって信じてた。

それからはコウ君のため! なんて我ながらいじらしく頑張ってみた利していた。

が、今になるとその頑張りに見合ったものをもらえた覚えが無かったな。

そりゃあ、頑張ったら誰かしらに褒めてはもらえたけどさ。別にその人のために頑張ったわけじゃなくて……それならコウ君に馬鹿にされた方がましだったよ。

でも努力だけは怠らなかったよ? 再開するときに駄目な私じゃ嫌だから。

暫くして「もしかして名前が売れてきたかも」なんて思うときが来て、それが事実だということもすぐに理解できる事が起きた。

 

戦技教導隊。

 

そんなところに私は引き抜かれることになった。

みんなの話によるとそれはとても名誉なことだったらしい。

正直なところ私にはわからなかったけど、簡単に言えば「皆にちょースゴい魔導師としてみとめられたんや」って事らしい。

さすがはやてちゃん、わかりやすい説明だなぁ。って当時は納得したけど、ちょースゴいは無いよね。

でも、教導隊に引き抜かれたこと自体は良かったことだったんじゃないかな?

教導隊には当時の私以上の実力を持つ人なんて大勢いたから簡単に褒められることも無かったし学べる事だって山ほどあったから。

 

結局、一時しのぎにしかならなかったけど。

 

当時の私以上、って言ったわけだけどその私以上の実力者も気が付けば私なんかより実力が下になっていた。

すると望んでも無い褒め言葉がまた流れ出して変な通り名まで出来てしまった。

エースオブエース、そんな風に呼ばれて持て囃されたが私としては何でそんなことになってしまったのかさっぱりだった。

だって、私は頑張っていただけだもの。皆も頑張れば出来るはずだよ。

なんて、思ってたんだっけ。

でも、もし頑張らなかったら、この声は消えちゃうのかな?

そう考え付いて、行動に移した結果。

 

 

「こんなものなんだ」

 

 

それが答え。

 

皆も頑張ってた。

 

頑張って、その程度。

 

その答えに悲しみも哀れみも無い。

 

ただ、少しだけ驚いた。

 

 

「世界ってこんなに色褪せてるんだ」

 

 

そんなことに少しだけ驚いた。ただそれだけ。

 

赤も青も緑も黄色も黒や灰色だっていらない。

 

私はただの一色が欲しいだけなのに。

 

 

彼に会いたい。

 

 

ずっと言わなかった。

 

涙みたいな気持ちが、零れた。

 

それから私は自分の実力を上げるより他人の実力を挙げることに力を注いだ。

せめて好きな色の画用紙が無いのなら、私が色鉛筆を持とう。なんて。

色んな場所で色んな人に魔法を教えた。

 

人それぞれの色を見て、

 

 

白い、

 

 

白い少女と出会った。

 

 

ティアナ。

 

 

ティアナ・ランスター。

 

 

それが彼女の名前。

 

 

彼女は私が魔法を教えていた生徒の一人だった。

 

初めて目にした時からなんとなく周りとは違うと思っていた。

彼女はけして強い魔力を持っているわけでも希少なスキルを保有しているわけでもない。遠くから見ればどこにだっている普通の女の子だった。

だけど彼女の周りには多くの人が集まり、その数だけ笑顔があった。

空気、雰囲気と呼べばいいのだろうか。彼女の周りのそれはやけに心地よくまるで昔に戻ったような気分にさえなった。

コウ君がいて私やフェイトちゃん達がいる、そんな昔の事の様。

目線に違いがあったのかもしれない。今と過去しかない私と先を見ているティアナ。

私に無いものを彼女はもっていたからこんなにも惹かれたのだろうか。

それは彼に対しても言えた。

彼は私に無いものを多くくれた。だから恋しくて、愛しくて。

だからティアナと出会えたことは本当に嬉しかった。

 

 

私はコウ君の事をまだ忘れていない。忘れられないんだなぁ、って。

 

 

 

 

 

 

魔力弾を飛ばしガジェット・ドローンⅡ型と呼ばれる機械兵器を撃ち落とす。

列車で運搬やれているレリックの回収任務。また簡単に終わりそうだ、なんて心の中でため息を吐く。

列車内は小隊の新人達に任せたため私は空の邪魔者を駆除する事が役目だ。フェイトちゃんもいるしそんなに時間はかからないだろう。

そう言えばこのガジェットⅡ型、Ⅱ型と言うだけあってⅠ型も存在するのだが、このガジェットシリーズはなんとあの先生の作品らしい。

先生の本当の名前はジェイル・スカリエッティとか言うらしくこのガジェットに堂々と名前が刻み込まれていた。

そこから人物の写真データへと飛び、先生の顔と一致したと言うわけだ。

今でも先生とは読んでいるがこんなガラクタを造ったり何の役に立つのかわからないレリックを狙ったりと何を考えているんだかまったくわからない。

しかし先生の本名が知れたのは大きい。

先生の影すら見えなかった過去とは違い背中まで見えてきていると思うのだ。

まぁ、しかし今もこんな塵掃除のような事をしているわけだけど。

 

と、気が付けば対象の列車から思った以上に距離が離されている。

考え事のしすぎだ、そう自分の甘さを叱咤したその時、

 

 

紅色の光が空を貫いた。

 

 

ドクリと胸が跳ねる。

 

背後から迫る紅色の砲撃に振り向き様の手刀を合わせた。

 

《PhoenixWing》

 

魔力を纏わせた手刀が砲撃とぶつかり合いそれを弾き返す。

 

跳ね返った砲撃を軽く避けそいつは現れた。

 

 

「お前って後頭部に目でもあるのか?」

 

 

レッド。

 

 

こいつだ。

 

こいつがいたから私達は。

 

でも、こいつを生み出したのは私で、私の罪で、

 

だから、

 

私が終わらせないといけない。

 

 

軽い口調とニヤニヤと口元を緩めるソイツを見て胸の奥底から湧き上がるものがある。

怒り。煮えたぎるようなそれのせいで体が上手く制御できない。八年も前の事を今でも忘れていない自分に女々しく思うがそれを嬉しいとすら思っている自分がいる。

形にならないその怒りを型に流し込むようにレイジングハートへ魔力を注ぎ込んで数個の魔力球を発現させる。

 

「おいおい、物騒だな?」

 

「先に手をさしたのは、そっちでしょっ!!」

 

叫び、空を舞う。一瞬にして距離が詰まりすぐさまレッドの拳が振るわれた。

それをレイジングハートで受け止めお返しと魔力球を放つ。

一つ目、残っていた拳でつぶされる。二つ目、右足。三つ目、左足。

いまっ、

四つ目の魔力球が無防備になったレッドに触れた。

 

 

その瞬間、

 

 

レッドの体が霧のようにかすれて消えた。

 

高速移動、わかっていたものの思わず奥歯を噛み締める。

 

「そう怒るなって、折角の再会だろ? もう少し可愛らしくできないのかよ?」

 

「……する必要がないんじゃないかな?私としてはお前を堕とせれば満足だから」

 

「本当に可愛げがないのな。オリジナルがお前から離れたのも納得できるよ」

 

「っ、コウ君のことを。コウ君のことをお前がわかった風に言うな!!」

 

絶対にまた会えるんだ。

 

私とコウ君は、また。

 

「だから、だから私が終わらせなきゃ…お前も、先生も。全部、全部終わらせて、また私は!!」

 

私には、コウ君が必要なんだ、コウ君がいないと、駄目なんだ。

 

何も始まらないし、何も終わらない。

 

 

だから、邪魔なの。

 

 

偽者も、

 

 

先生も、

 

 

ねぇ、だから、

 

 

「消えてよ?」

 

 

じゃないと、コウ君に会えないよ?

 

 

 

 

 

 

繰り出される手刀を同じ様に魔力を纏わせた手刀で捌く。反撃として周囲に浮かせていた魔力球達を撃ち出すがそれらは腕の一振りで全てが切り裂かれ桃色の光は空に溶けて消えた。

 

 

私とレッドの相性はやはり最悪と言っていいものだった。

動きを止めて射撃魔法を使用する遠距離型の私と縦横無尽に動き回り相手の隙をつく近、中距離型のレッドとでは私が不利になることが簡単に理解できる。

高速で動き回る相手は狙いにくい上にヤツが放つ貫手や手刀は私が張っている魔力壁をいとも容易く打ち破ってくる。そのためこちらも相手の狙いを定めさせない為に動き回らなければならない。

自分のスタンスを捨てることは思った以上にストレスが大きい。思わず舌打ちが漏れる。

レッドは高速移動系統の魔法を多用し消えては現れ現れては消える。私から一定の距離をとりこちらの呼吸を乱しにきていた。

数度目の手刀を受け流し私は近くの岩場に足を下ろす。

一度短く息を吐き出し思考を切り替える。

実のところ私は別段砲撃手という訳ではない。

ただそれが一番長くそして最も得意と言うだけだ。

今までの間に他の方法にも手を出した事がある。

近接戦闘やオールラウンド、勿論高速間戦闘もだ。

 

《CalamityWall》

 

「もう一回っ!」

 

私を中心に半円状の衝撃波が直進する。

それを二回、丁度円を描くように衝撃波が進んでいき進行方向に並ぶ岩を削り地形を平地へと変えていく。

案の定衝撃波を避けようと上昇したレッドにレイジングハートの穂先を向ける。

 

「ディバイン、バスターッ!」

 

桃色の柱が空を貫く。

 

《FastMove》《SecondMove》

 

続けて紡いだ魔法で一瞬にして感覚が高速化される。小さい頃にコウ君の真似をしようと覚えた魔法だそれなりに使い慣れている。砲撃を避けたレッドにレイジングハートを突きつけ足から魔力を爆発させるように噴き出させた。

吹き飛ぶように空を駆け抜ける。ついでとばかりにバリアジャケットを魔力に転換し噴き出す魔力に上乗せする。

擬似ソニックフォーム、といったところか。フェイトちゃんの真似をしてみたが思った以上の効果だ。守りを捨てる分だけ高速移動に魔力や思考を乗せやすい。ただ文句を言うとしたら体の各所がスースーすることかな?

 

高速移動時のレッドよりもう一段階速い超高速、ゆっくりと驚愕へと表情を変えるそいつを見て口角がつり上がった。

 

《BindShot》

 

レイジングハートがバインド効果を持つ魔力弾を吐き出しレッドを縛り上げる。

 

《ModeExcellon》

 

先端部に構成したストライカーフレームをレッドの腹に突き刺して収束させていた魔力を解き放つ。

 

 

「エクセリオン、バスターッ!!」

 

 

桃色の魔力が空を染め上げた。一撃必殺、勝利を確信して、

 

 

「なっ!?」

 

 

突然、背後からの衝撃に地面まで落とされた。

視界の端に紅色の光がちらつく。

 

 

「なん、で」

 

立ち上がった私は見る。レッドの姿を。

ダメージがないどころか汚れの一つもない姿に驚愕する。

レッドが喉を鳴らす。

 

 

「悪いね、俺って幻影系の魔法適正もあるんだ」

 

 

言葉と同時にレッドの姿がぶれる。

 

高速移動、身構え、目を凝らした。

 

が、レッドはその位置から動く事はなかった。

不穏に思うと私にヤツの声が飛ぶ。

 

「どこを見てるんだ?」

 

声は、後ろから。

即座に振り向く私にレッドが笑い顔を向ける。

前を見直す、確かに先程の場所にもレッドの姿があった。

本当に幻影魔法?いや、そんなものを使う素振りはなかった。

頭を回転させる私にレッドが笑う。

 

「高速移動による魔術痕跡の隠蔽って所かな。高速移動で使われる大量の魔力で幻影に使った痕跡を吹き飛ばしてるって単純なものだけどさ」

 

ニヤニヤ笑うそいつは得意げにそういう。

簡単にこそ言っているがその行動事態は高ランクスキルなのだろう。

今の方法を聞いただけで試して見ても恐らく作り出した幻影ごとかき消してしまう。

恐らくやつは幻影魔法の魔方陣やその痕跡に的を絞って高速移動の魔力をぶつけている。

 

単純かつ繊細で、攻略し難い。

 

相変わらず笑顔のレッドに歯を食いしばった。まるで怒りが体を燃やすような感覚を感じる。

 

 

「あ、そういや」

 

ふと、思い出したようにレッドは口を開く。

 

 

「ソイツも幻影だ」

 

 

声は、横から。風を切る音と共に耳へ届いた。

 

振るわれた拳を転がるように避けて睨む。先ほど話していたレッドは空気に溶けるようにして消えた。

 

「そらそら、どんどん行くぞ?」

 

言葉と同時にレッドの体が消える。

現れたのは目の前でこちらも腕を振るうがたやすく避けられ纏わり付くように近距離にまた現れる。

 

離れようと、しないならっ。

 

 

「モードリリースッ」

 

 

レイジングハートを待機状態にまで戻し両の拳に魔力刃を発現させた。

 

「近接戦闘が出来ないわけじゃない!」

 

繰り出される貫手を弾き数度切り結ぶ、思った以上に相手側もこの距離では行動を制限されるのかまだ目で追える。

これならば、私でもっ。

足をバインドで絡め取りバランスを崩したところで両腕を跳ねる。

がら空きになった胴体に魔力刃を突き刺しそのまま力任せに引き裂いた。

 

血液の代わりに紅色の魔力が噴出す。

 

 

「残念無念、それも幻影だ」

 

 

声は後ろから。

ズタズタになった幻影が消えるのを見てレッドを睨む。

ニヤニヤとした表情は消えず一々頭が煮え返りそう。

そんな私に対して余裕を見せるレッドは笑うだけに留まらずこちらに拍手を送り出す。

 

「凄い凄い。お前って本当に何でも出来るんだな。流石エースオブエース」

 

パチパチと送られてくるその音が耳に付く。

 

あいつに褒められたところで怒りが更に湧き上がるだけだ。

 

 

「よし、じゃあ次はっ」

 

 

 

レッドの姿がぶれる。残像が一体作られる。

 

 

「どれが」

 

 

もう一度、二体目。

 

 

「本物でしょう?」

 

 

四体、八体、十六体。増える、増える増える増える増える。

 

気持ちが、悪い。コウ君の形をした偽物が何人も。何人も、何人も。

どれもこれも偽物だ。そんなやつがなんでコウ君の形をしているの?

 

 

もう、我慢、出来ないよっ。

 

 

「消え、ちゃえ」

 

 

もう、もうもうもうもう!!

 

 

「消して、斬って潰して折って曲げて摩って千切って集めて蹴って埋めて刺して抉って壊して飛ばして沈めて解して焼いて溶かして固めて落として刎ねて殴って縛って晒して裂いて轢いて撃って詰めて剥いで磔て」

 

 

全部、

 

 

 

「消してやる」

 

 

 

飛び出す。一体を串刺しにして右肩を殴られる。

 

二体目を引き裂いて左足を殴られる。

 

三体目の首を跳ね飛ばし背中を殴られる。

 

四体目をバラバラにしてお腹を殴られる。

 

五体目を、

 

六体目を、

 

七体目を、

 

八体目を、

 

殴られる。

 

殴られる。

 

殴られる。

 

殴られる。

 

 

ふざけるな。

 

私のコウ君を汚すな、貶めるな。

 

偽者の癖に、作り物の癖に。

 

私は、コウ君と一緒にいたいだけなのに。

 

何で邪魔をするの?

 

なんで、どうして、

 

私が、悪いの?

 

何が、悪いの?

 

どうすればよかったの?

 

痛い、痛いよ。

 

そんな顔で叩かないで。

 

そんな形で触らないで。

 

止めて、

 

許してよ、

 

コウ君は、迷惑だったの?

 

私じゃ、駄目だったの?

 

でも、

 

私はもう、一人じゃなにも出来ないよ。

 

コウ君がいないと、私は。

 

 

これでも私、頑張ったんだよ。

 

 

一人でちゃんと頑張った。

 

 

ずっと泣かなかった。

 

 

寂しいけど、寒いけど、我慢したよ。

 

 

だから、だから、

 

 

助けて。

 

 

誰か助けて。

 

 

ねぇ、

 

 

助けてよ。

 

 

コウ、君。

 

 

「――――――なのはっ!!」

 

 

誰の声?

 

わからない。

 

まるで、

 

私が擦り切れていくようだ。

 

 

 

 


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