俺は彼女を壊したようだ。   作:枝切り包丁

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12.再会

 

 

 

 

「どうなってんだろ、これ?」

 

 

手を目の前で振るうと同時、俺の魔力が一度輝いて辺りを漂う炎を弾き飛ばした。

その魔力の光は以前よりも力強く辺りを照らしてはいるが幾分か濁りが見える。

元々の俺の魔力光は朱色、だが最近になってそれが変化を始めている。

揺れる炎を払いつつ、俺はもう一度確認するように魔力光を目に映す。

 

藍色。

 

簡単に言うならばマーブル色、元々の朱色が所々藍色が混ざっている。

歳をとる内に魔力光が変色すると言う話は聞いたことが無い。

アストラル器官に近いリンカーコアの変異、というのは事例が少ないわけではないけれど……そうなってくると手がつけられないわけであって。

まあ、色が変わったからと言って何があるわけでもないし変化の理由はなんとなくだがわかるような気がする。

恐らくこの腕、なんだろう。

クローニング医療での事例としては聞いたことは無いがかかった医師が医師なわけで。

まぁ、十中八九それ……なのだろう。

 

「ま、今更なんだけど、さっ」

 

言葉と同時に魔力を噴出し辺りの炎を消し飛ばす。

害は無い、はずだ。長年の修行と仕事での実践で魔力の出力や技術、体の面も伸びてきている。

まあ、魔法のことでは管理局の『高町なのは』のようにはいかないだろうが。

 

「いい気はしないけど」

 

でもまあ、本当に今更だ。

この両腕になってもう数年は経っている。

死にさえしなければどうって事は無い。

 

「が、何か混ぜられていたりしてな」

 

言ってカラカラと笑う。

そうだとするなら俺はすでに【七峰紅助】とは別の存在になっているわけだ。

それでも俺はまだ俺だ。ここにいて、ここに生きてる。

 

「っと、そんなこと考えてる場合じゃないか」

 

いつの間にか吹き飛ばしたはずの炎が巻き返してきている。

それをまた吹き飛ばし小さく息を吐いた。

 

この場所はミッドの北部に位置する臨海第八空港の中。

 

仕事のために利用しつつ何時大火災が起きるのかと警戒していたら、いきなりってわけだ。

今回も仕事で使用していたら完全に被害者として巻き込まれていたようだ。

洒落としては笑えない状況だったりする。

辺りを渦巻く魔力の感覚からして強力な魔導師が二人ほど存在する。

恐らくテスタロッサと八神か。それ以外は並みの魔導師といったところを見るとなのはだけはこの場にいないようだ。

しまった、と少しだけ頭を抱える。多分俺の影響なのだろう、なのはがこの場にいないのは。

 

だから俺が今向かっているのは天使だか女神だかの像の前。

 

目標はスバルの救出。

 

探知用の魔法を打ち切って歩を進める。

恐らく今の魔法でテスタロッサ達に俺の存在はばれただろうがこの俺が七峰紅助とまではわかってないだろう。

気にせず行こうと炎を払いつつ進んでいくと通路から出て広まった空間に入った。

見渡せば目的地の像もある。

その近くには小さな女の子がうずくまっているのも見える。

 

「あれがスバル、だよな?」

 

やけにびくびくと震えている女の子を見て思わず首をかしげる。

イメージとしてはスバルは風の子元気の子って感じでへそをだしたりなんだりしているなんて思っていたが、どうやらこの時代の彼女はまだ立派な女の子を勤めていたようだ、

 

「どうも最近記憶力がなぁ」

 

こんこんと頭を小突いてみるも忘れた記憶が戻ってくるわけでもない。

 

と、どうやらふざけている場合でもないようだ。

 

先ほどからぐらぐらと倒れそうだった像が一際大きく揺れて少女を押しつぶそうとしていた。

 

地面を蹴る。

蹴った地面の弾ける音が耳に届いた数瞬後に拳と像が衝突した。

盛大な衝突音とともに崩れ落ちる像を見て嘆息、足元にうずくまっている少女を見た。

 

「間に合った、助けにきてやったぞ」

 

呆然、そう言った様子の少女に軽く頭を撫でてやるとくしゃりと表情を崩し泣き始めた。

ティアナも普段からこれくらいしおらしいければな、なんて冗談も交えつつ少し困ったと辺りを見渡す。

この大火災、こんな子供をつれて逃げ道を探すのは若干つたない。

 

ふと、なのはならどうしただろう。なんて考え天井を見つめた。

 

 

「……そうだ」

 

 

あいつならそうする。何時だって一直線ななのはなら、絶対に。

答えを得た俺は撫でていた手にしがみ付いて泣く少女に笑みを見せてやる。

 

 

「もう大丈夫だ。安全な場所まで一直線だからな!」

 

 

天井を見上げる。少しだけ笑みがこぼれた。

 

 

「撃ち抜く!!」

 

 

《DivineBuster》

 

 

なのはの真似。

初めてするそんなことに少量の恥ずかしさと楽しさを覚えつつ外までぽっかりとあいた穴から少女を抱え飛び出す。

夜空の上は炎で少し熱され体を打つ風が心地よかった。

 

 

 

 

 

 

地面に降り立った俺と少女スバルが目にしたのは同じように地面に降りた魔導師と小さな影だった。

遠目から見ても見覚えのある金の髪に頬をひくつかせる。

向こうがこちらに気付いていないのが最後の助けでこそこそと逃げ出そうとする俺に少女が声を上げた。

 

 

「お姉ちゃんだ!!」

 

 

その声にびくりとしつつ少女の視線の先を見る。

あの金髪魔導師のすぐ傍、スバルと同じくらいの小さな影が彼女の姉らしい。

「目がいいんだな」なんて感想を抱きつつそのギンガだったかギャラクシーだったかいまいち名前が思い出せない姉の方へ少女の背を押した。

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

「名前、名前なんていうの、ですか!」

 

爛々と瞳を輝かせれ少女に苦笑を浮かべる。

ここはカッコ良く決めるところなんだろうか?

 

 

 

「俺の名前は相良紅助。ピンチのときに現れる正義の魔導師ってところかな」

 

 

 

言っておいて、少し後悔。

しかしそんな言葉を真に受けて更に瞳を輝かせる少女に笑み送る。

 

「それじゃあ、またいつか」

 

元気欲振られる手にこちらも振り替えし姉のもとへと駆けるスバルを見送る。

 

「任務完了、ってね」

 

満足げにつぶやく俺は気が付いていなかった。

一人の視線に。

見えているとは思わなかった。この距離、しかしスバルには姉が見えたように。俺があの金髪魔導師が彼女だとわかったように。

 

彼女も俺をわかっていたのだろう。

 

 

 

 

 

 

ピンポーン、と軽快な音で眠りかけていた意識が浮上する。

といっても体は動きたくないと言いやがるのでのそのそと腹の辺りに目を向けた。

案の定、そこには何時の間にやら俺の腹の上を陣取っていたティアナがいて何故か俺の腹を撫でつつテレビを眺めていた。

 

「ティアナ、客」

 

「……今いいところなんです。紅助さんがどうぞ」

 

「俺も凄くいいところ。後十秒も目を閉じていれば眠りにつける」

 

むぅ、と二人して呻いた所で二度目の呼び鈴が鳴らされた。

見つめう俺とティアナ。

 

 

そして両者の拳が同時に振るわれる。

 

 

「くっ、ああぁっ!!」

 

 

苦悶に顔を歪めたのティアナだ。

 

 

俺がグー。

 

ティアナがチョキ。

 

答えはただそれだけだ。

 

 

「紅助さんってジャンケン強すぎませんか?」

 

「俺の方が年上だからな」

 

「関係ないですよぉ」と文句を垂れるティアナに勝ち誇った笑みをプレゼント。

実のところは拳を振り下ろす瞬間に相手の手を見てこちらの手を変えているだけだ。

近接戦闘型の魔導師なら誰でも出来る芸道である。やるやらないかは別としてだが。

 

俺の腹から飛び降りるティアナを見送って目を閉じる。

 

さあ、眠るとしようか。

 

と意識を沈ませたわけだが。

 

ティアナが戻ってきたのはその十秒も経たない内だった。

 

 

「紅助さんのお客さんです」

 

 

若干憎たらしげにこちらをにらむティアナから目を逸らしつつ玄関に向かう。

 

まったく俺の眠りを妨げてティアナを怒らせたのはどこのどいつだ。なんて責任転嫁もしつつ足を進めた先に待っていたは、

 

 

数日前に見たばかりの金糸の髪と揺れる赤い瞳。

 

 

そして胸にかかった軽い重みだった。

 

 

 

 

 

 

久しぶりに顔を合わせたテスタロッサは弱弱しいというのだろうか、どこかはかなげな雰囲気を背負っていた。

 

俺を見るなり胸に飛び込んできた彼女を受け止める。

想像していたよりも身長が伸びていたりするところを見ると時の流れを感じずにはいられない。

 

「コースケ、コースケコースケコースケ。コー、スケェ」

 

何度と無く呼ばれる名前に懐かしさすら覚えつつ胸に感じる冷たさに苦笑がもれた。

あれから何年も経っているからなぁ。思わず天井を見上げ思考にふける。

 

俺としては数年後に会うんだから、とは思っていたが。

先日の彼女を見てから少しだけ会うのが怖くなっていたりもしていた。

今更会いに行ってと言うのもあったし俺は彼女達に自分の安否すら伝いえいなかった。

だから、子供のような理由ではあるが……怖かった、怒られるのが。

 

でも本当に顔を合わせてみるとこれだ。

怒るのではなく、心配してくれていた、のかな?

 

涙を流すテスタロッサの背を撫でる。

本当に最近は女性の涙ばかりを見ているような気がして嫌になる。泣かせるつもりはこれっぽっちも無いのだけれど。

 

しばらくして少しは落ち着いたテスタロッサは俺の胸から抜け出すとまだ潤んだ瞳のまま俺を睨み付ける。

 

「心配、したんだからねっ」

 

「心配させたよ」

 

「ずっと会いたかった」

 

「会わないようにしてた」

 

「意地悪なところは変わってない」

 

「テスタロッサは変わったな」

 

「そ、そうかな?」

 

「うん、綺麗になった」

 

「も、もう、 からかわないで!」

 

「はいはい」

 

「…………」

 

「うん?」

 

「…………久しぶり」

 

「……ああ、久しぶり」

 

テスタロッサが微笑む。

俺は苦笑した。

 

 

 

 

 

 

「それでなんでテスタロッサがここにいるんだよ?」

 

どうやってこの場所を知ったんだ? という俺の言葉にテスタロッサの表情が歪む。

ただそれだけでなんとなくわかってしまうのは小さい頃の付き合いゆえなのだろう。

どうせまた周りを見ずになんやかんやたってしまったりしたんだろう。

案の定俺から目線を逸らしつつ頬を掻くテスタロッサはぼそぼそと口を開く。

 

「えっと……数日前に空港で、コースケのような人を見つけて、ね?」

 

恐らくあの事件の時だろう。

まさか見つかっていたとは思わなかったが……

 

「って、それはこの場所を知ってるのと関係ないだろ? ま、まさかつけてきたんじゃないだろうな、ストーカー!?」

 

「ち、違うよ! ストーカーなんてしてないよ!!」

 

「じゃあ何で……」

 

「く、空港の使用者をちょっと……教えてもらって。ほ、ほら……大火災があったし、その、私こう見えても執務官だから」

 

「しょ、職権乱用だ!?」

 

「ち、違うってば! これは……その、数年前から行方不明のコースケの捜索っていう……あのね?」

 

「さすがに言葉も出ないって感じだ……」

 

「うぅ、も、もうこの話はいいでしょ!! コースケの話を聞かせてよ!」

 

捲くし立てる様に声を上げたテスタロッサに若干の納得のいかなさもあるがある程度は飲む込むとしよう。テスタロッサのことだし。

先ほどとは違う意味で涙目になっているテスタロッサを宥めつつ話を聞く側に回る。

数度話を続けるうちに落ち着いてきたのか彼女は静かに目を細めこちらの顔を見た。

 

「何で地球に出たのかとか、あの日何があったのかとかは言えないんだよね?コースケのことだから」

 

「ああ、悪い」

 

「いいよ。慣れっこだから、はやてとかなのはとかでね」

 

クスリと笑うテスタロッサが少し懐かしく思う。

確かに八神やなのはは人の話を聞かず突っ走る事は多々あったが。

 

「なのはにも何も話してないんだよね?」

 

「ん、ああ。出来ればこの場所も教えないでくれるとありがたい」

 

「……理由は?」

 

「いえない」

 

「だよね」

 

少し残念そうに微笑むテスタロッサに申し訳なさは感じる。

しかしなのはと会うのはまだ早いと思っている。

ティアナのこともあるしまだ自分に自信が無いと言うのもある。

 

「なのは、どうしてる。元気にしてるか?」

 

おずおずと口にした俺にテスタロッサは小さく微笑み、

 

「うん。元気……うん?」

 

何故か首をかしげた。

 

「どうした?」

 

「え、いや……コースケ、今なのはって」

 

「言ったけど?」

 

「あ、えと、ごめんね。コースケがなのはの事を名前で呼ぶから」

 

「だからびっくりした」と控えめに笑う彼女を半眼でにらむ。

俺をいったいなんだと思っているんだ。

 

「コースケって恥ずかしがりなとこがあったから……えへへ」

 

「……否定は、しないけどさ。それでも俺だった歳はとるし考えだって変わるんだよ」

 

「そうだけど、私のことはテスタロッサって」

 

「ふむ、不満?」

 

「べ、別にそういうわけじゃ」

 

ふと昔のことを思い出す。

確かバニングスも同じような事を言って名前に拘っていた様な。

何かを期待するようにこちらの様子を伺っているテスタロッサにため息を耐えつつ仕方ないと口を開いた。

 

「……フェイト」

 

つぶやいた言葉に彼女は少しだけ驚きもじもじと体を揺らす。

こちらと言えば改めて名前を呼ぶのは何故か気恥ずかしく頬が少しだけ熱い。

 

「ちょっとだけ、恥ずかしい」

 

「なら、やめておく?」

 

「ううん。恥ずかしいけど……嬉しいよ」

 

頬を染めつつ小さく笑うフェイトに女性としての成長を感じ思わず目を逸らす。

名前一つでフェイトに驚かれるのも少しはわかる気がした。

 

「それで、なのはは?」

 

「えっと……元気、だよ?」

 

「なんか、引っかかりある言い方だな?」

 

「だって元気なんだもん」

 

フェイトの言い分が理解できず首を傾げる。

元気だから引っかかりがある?いったいどういうことだ。

 

「コースケがいないのに元気なのがおかしいんだよ」

 

「…………?」

 

「なんかそれのどこがおかしいんだ、って顔だよね?」

 

いや、まさにソレなんだが。

 

「コースケがいなくなってから一ヶ月くらいは酷かったんだよ?凄く不安定だったし…その、危ないこともしようとした」

 

フェイトの顔が悲しげに歪む。

罪悪感をおぼえる。

 

「でも、一ヶ月くらいしていきなり元気になった。色んなことをしだしたし管理局にも積極的に関わるようになったんだ。みんな無理して明るくしてるって言うんだけどどこか違うっていうか…」

 

一ヶ月。

おそらく俺が最後になのはと顔を合わせた時だ。

思わず苦笑する俺にフェイトは目を細める。

 

「もしかして、コースケがなにかしたの?」

 

「……ま、まあ、一度だけ会った。別れる最後に」

 

頭を掻きつつ小さく頷いた俺にフェイトはため息を吐く。

 

「なのはも言ってくれればいいのに……コースケもコースケだよ。なのはばかり特別扱いして」

 

……そう、かな?

特別扱いなんてしているわけじゃないと自分では思っていたし気にもしていなかったのだが。

 

「ふむ、じゃあフェイトにも特別扱いをしてやればいいのか?」

 

「へ?なっ!?」

 

ぼっ、とフェイトの顔が朱に染まる。

そんなになるような言葉を言ったつもりは無かったが。

 

「よくわからないけど、俺はそれほどなのはを特別扱いしてるつもりはないよ。あいつとは一番近くて、付き合いが長いだけ……思う事はあるけどさ」

 

でも、元々全員一緒だった。

皆が皆、眩しいくらいに強くて、俺には無い何かを持っている。

 

一番最初に惹かれたのがなのはだってだけで、多分そうなんだろう。

 

フェイトに視線を戻すと彼女は優しく微笑む。

 

「コースケって私が思ってたより単純なんだね」

 

「なんだよ、それ?」

 

「そのまんまだよ。例えばコースケはなのはが好き?」

 

「好きだよ」

 

「……即答しちゃうんだ」

 

「やっぱり単純だからかな」なんて微笑むフェイトを見て首をかしげる。

単純単純ってようは何を言いたいのだろうか?

 

「じゃあ、はやては?はやてのことは好き?」

 

「まあ、好きだな」

 

「そっか、ふふ」

 

「何が可笑しいんだよ?」

 

相変わらず口元を緩めるフェイトに対しこちらは何が何だかわからなくて少しむず痒い。

 

「じゃあ、最後。私の事も……好き?」

 

「……勿論、俺はフェイトが好きだよ」

 

「…………」

 

「…………うん?」

 

「あっ、ご、ごめんね。その……予想以上の威力というか、嬉しいんだけど……そう真っ直ぐに言われると、ね」

 

「……? で、それがどうしたんだよ?」

 

「簡単に流すんだなぁ」なんてフェイトが何かぶつくさと呟いているようだがどうやらそれは今の会話とは関係が無いようで、ゆっくりとこちらを見て可笑しそうに笑う。

 

「やっぱりコースケは単純なんだよ」

 

「単純、なのか?」

 

「ふふ、うん。だって、私はそんなに簡単に人の事を好きって言えないもの」

 

「それは、なんで?」

 

 

「【好き】って言葉が特別だから」

 

 

問う俺にフェイトはクスリと笑いゆっくりとそれを口にした。

また、特別か。

 

「好きって言葉の意味は人それぞれで私の言う特別もその一つかもしれない。けどコースケの好きはわかりやすいよ」

 

単純だからね、と言うフェイトに腑に落ちないところがあるものの笑みを絶やすことの無い彼女を見て落ち着きを保つ。

フェイトはフェイトなりの考えを持っているのだろうし俺は俺なりの考えを持っている。

そういうのはなのはの時で学んだ。話さないとわかってもらえないし聞かないとわかれないんだ。

 

「コースケは好きと嫌いが近いんだよ」

 

「近い?」

 

「上手くは言えないけどコースケは嫌いな人でも好きになれる。最初の印象は最悪でも話すと気が合うって時は無かったかな?」

 

「…………ああ」

 

聞かれて思い出したのはあの先生、スカリエッティのことだ。

最初は嫌いだった。俺じゃない俺を見ているようで、気持ち悪くて。

でも今は敵として欲望に忠実で、真っ直ぐなとこをは悪く思っていない。と言うか好ましいとさえ思う。

 

「コースケの好きと嫌いはコインの裏と表みたい。どんな人でも好きになれるしどんな人でも嫌いになれる。単純でとても純粋」

 

それを愛しむように言うフェイト。

それでも俺は納得が出来ない。俺はそんなに純粋な存在じゃない。もっと汚く、小さく、情けない人間だ。

俺はそんな俺が嫌いで、好きになれるなんて思えない。

そんなことを思っているのが表情でばれたのかフェイトがこちらを見た。

 

「もし、コースケにどうしても好きになれない人がいても大丈夫だよ」

 

綺麗、彼女を見て思う。

 

 

「ゆっくり、ゆっくり付き合っていけばいつかは好きになれる。コースケは綺麗だから」

 

 

そう断言したフェイトに俺は矢張りと思うものがあった。

綺麗なのは目の前の彼女だ。フェイトにこそ言うべき言葉だ。

こんな俺のことを信じて疑わない。俺はこの世界で生まれてくるはずじゃなかった俺だ。それをこんなにも信じてくれる。

暖かくて優しい。

 

だからこそ、幸せになるべきなんだ。

 

なのはもそうだ。

 

俺を信じてくれた。

 

だから好きなんだ。

 

俺はこの世界の俺じゃない。

 

近く遠いどこかで生まれ、この場にいるはずの誰かを喰らい、そしてここにいる。

 

そんな俺を信じてくれた。

 

だからこそ俺は彼女達が好きで、幸せにしたいんだ。

 

フェイトと再会してよかった。

 

俺の戦う意味、彼女達の幸せ。

 

俺を信じてくれる分だけ彼女達を幸せにしたい。

 

この先にあるはずの未来で、みんなが笑って終われる未来で。

 

 

 

俺はそんな未来を彼女に捧げたいようだ。

 

 

 


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