孤高の王と巫女への讃歌   作:grotaka

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さあ、まずは序章です。尚、原作知識については説明を省いてる所があるので、質問あればぜひ



序章

 紅の色彩が、(そら)に舞った。

 

 携えた剣から鈍い感触が伝わり、続いて足下で、どす、という音が響く。

 

 どこまでも黒い曇天の下、“彼”は紅色の海に立ち尽くしていた。ひたすらに広がる、血潮の海に。

 

 天の黒と地の紅。それら二色のみが支配する世界で、“彼”のみは黄金であった。右手に輝く黄金の長剣、背中から伸びる金焔の翼。この世ならざる黄金の光は、しかし闇を照らす事なく、逆にその昏さを際立たせるのみ。

 

 どれだけの間、そこに立ち尽くしていただろうか。虚ろな瞳で宙を見つめていた“彼”の両眼が、ある一点に焦点を結んだ。

 

 それは、少女であった。血濡れた衣装を纏った、黒い少女。

 

 “彼”の全身が強張った。

 

 それは、“彼”にとっての喜び。“彼”にとっての夢。“彼”にとっての――最愛。“彼”にとって全てであった少女、◯◯の、物言わぬ亡骸であった。

 

「………ぁ………あ」

 

 不気味な沈黙に沈んでいたセカイに、苦悶の音色が木霊する。

 

 自分は一体何なのだ?神殺しを為して“王”となり、数多の敵に勝利して、それで何を成し遂げたというのか?結局、力のままに暴虐の限りを尽くし……そして、全てを喪った。

 

「あ、あ………ああ、ああ"あ"あ"あアぁぁァァ"ァァぁ"ァ………‼」

 

 心の中の悪魔が嗤う。そう、貴様こそ悪魔の王。望んだ全てを滅びに導く、死の伝道者だと。

 

 “彼”の全てがドス黒い紅に染まり、輝かしい栄光の輝きは、苦悩と憎悪で消え失せた。瞳が、精神(こころ)が、紅く変色する。

 

「―――あああ"あ"あ"あああ"あアア"あアア"あああああア"ア"ア"アあああああ"あアあアア"アアあああアア"ああ"アア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!」

 

 血と絶望の洗礼を受け、今、"万勝の王"は闇に堕ちた。

 

 

 

 ◯ ◯ ◯ ◯

 

 

 

{賢人議会議員、エリック・フローレンスのレポート "万勝の王"軍谷伊織の項より抜粋}

 

 

 ――軍谷伊織。我らが賢人議会の皆様方ならば、この名を良く覚えていらっしゃる事だろう。

 

 さて、軍谷伊織について記すに当たり、彼と私の関係性について説明しておきたい。あれは四年前の冬……

 

 〈中略〉

 

 軍谷伊織は、七人目に誕生したカンピオーネである。齢は17歳、国籍は日本。ごく有り触れた低級魔術師の一族の出身と言われている。

 

 彼は11歳の冬、スウェーデンにおいて北欧の豊穣神フレイを弑逆し、神殺しの魔王カンピオーネとなった。その後、まつろわぬマッハ顕現事件まで、何と一年以上もその名を秘匿し続けてきた。カンピオーネとして名を轟かせたのは四年前、"剣の王"サルバトーレ・ドニ卿の「即位」が報じられた直後である。しばしば資料で、軍谷伊織とサルバトーレ・ドニ卿の「即位順」が入れ替わっているのはそのためなのだ。

 

 彼は、主立った拠点を持たず、気の赴くままに流浪を続ける“王”である。ある時はイギリスへ。ある時は海を越えて北アフリカへ。またある時はトルコ経由でアルメニアへ。そして、行く先々でまつろわぬ神と遭遇しては交戦し、その全てにおいて勝利を掴んでいる。

 

 軍谷伊織の戦闘スタイルは、決して例のないものでは無い。サルバトーレ・ドニ卿に拮抗し得る戦闘力、最高レベルの魔術、強力無比な権能。ロシアの"北の女帝"リーリス・ボレツカヤと近いタイプだ。

 

 だが、彼は黒王子(ブラックプリンス)アレク同様に、「異端」なのだ。明らかに他のカンピオーネとは一線を画している。その最大の点は、驚異的な智慧を有する事である。

 

 この情報を知る者は少ない。彼が人前でその智力を発揮するのは極めて稀であり、そのごく少ない機会というのが、軍谷伊織が戦っている時あるいは何らかの研究に没頭している時のみだからである(我々賢人議会がその情報を得られた理由は、かの王に縁深かった我が姉◯◯・フローレンスの綿密な調査と、二年前の忌まわしき災厄故である)。

 

 ともあれ、軍谷伊織が超弩級の魔術を容易く行使するのも、神々に対し優位に立つことが出来るのも、全て智慧の恩恵である。カンピオーネ共通の凄まじい第六感も有している分、彼と従来の神殺しを同一と考えるのは適当ではない。

 

 

 世に名を轟かせて後、軍谷伊織は大々的に活動を始めた。スペインに狂乱と混沌を齎したまつろわぬキュベレ撃退を皮切りに、我々が認知している中でも11柱の神と戦い、撃退あるいは討滅している。彼の戦いぶりを目の当たりにした魔術師達は、敬意と畏怖を込めて"万勝の王"と呼んだ。

 

 だが、軍谷伊織を知る者として、これだけは主張しておきたい。彼は"万勝の王"であるが、"無敗の王"ではないのだと。

 

 二年前の『災厄』。環境を変えるほどの凄まじい争い。その実態を知らない者は、あの凄惨なる戦場を軍谷伊織の偉業として語るだろう。そして、かの暴君ヴォバン侯爵にも劣らぬ大魔王と畏れるだろう。だがそれは間違いだ。あれは決して勝利ではなかった。彼は“負けた”のだ。

 

 この言葉をどう受け取るかは、読者諸君の自由だ。だが、これだけは言おう、彼の為に。初めての敗北を知ったその日から、彼は"万勝の王"ではなくなった。今の彼は、全てを喪い、全てから己を切り離した……"孤高の王"である。

 

 

 




という訳で、序章でした。謎っぽくしたけど薄いなーこれ……。そしてダッシュと濁点が打てないこのスマホファック。

さて次の第一話ですが、時期的には原作開始時点より一ヶ月程前(護堂vsサルバトーレ戦辺りかな?)になります。しかもオリ展開。原作準拠になるのは二巻からです、ごめんなさいm(_ _)m

では、この未熟な作者glotakaと完璧魔王 軍谷伊織のコンビを、どうかよろしくお願いします!!

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