――グレートブリッジ東端――
ふぃー。ようやく渡り終えたよ。グレートブリッジ。
振り返るとどこまでも橋の伸びる景色。感慨も深いというもの。
「にしても。何も起こらなかったな」
色々と懸念してたんだがね。グレートブリッジは大戦時には要塞拠点として連合と帝国が奪い合ったって聞いていたし。
もっとも楽な道のりかと訊かれれば答えはNOだが。
なんといっても長いのだ。この橋は。
全長にして三百キロ超。まったくもって耳を疑う話である。
その上先述したとおり過去に要塞として使われていたという経緯からそこそこの警備が敷かれており。
通行証を持った商人であるならまだしも、俺のような人間には正規に入り込むことは出来なかったわけだ。
そもそもからして三百キロもの距離を徒歩で渡りきろうなんて人間を想定しているわけもなく。
そんなわけで俺は侵入者として潜り込む以外の選択肢などなかったのだ。
「見つからなかったのは『絶』の練度が上がっていたということか? サバイバル生活が早速役に立ったな」
うーんと伸びをする。グレートブリッジを渡りきったということで、ようやくゆっくり眠ることが出来そうだ。
それにしても疲れた。
グレートブリッジも連合の勢力圏。人目につかないよう『絶』は欠かせなかったため、もちろん『流』を用いた高速歩法は使えない。あれは『練』くらいのオーラがあって初めて真価を発揮するのだしね。『練』どころか『纏』ですら怖くて使えなかったよ。
「ま、おかげで身体能力は嫌でも底上げされただろうけど」
鍛えすぎるのもどうかと思うんだがね。成長しきっていない体に無理はさせたくない。
まぁ原作ネギの無茶苦茶な修行を見るに、ネギまワールドじゃ成長阻害なんてものはないのかもしれないが。
まぁいいか。と俺は道を外れる。
街道から外れた場所にある、過去の建造物か何かだろうか横倒しにされた石柱のようなものに腰かけると、バッグをごそごそと。
取り出したるは林檎ちゃん。グレートブリッジの警備兵の詰所で失敬してきたものだ。
いやぁ、グレートブリッジ内で食糧が切れたときはどうしようかと思ったよ。
これまではサバイバル生活が主体だったので失念していたが、グレートブリッジは建造物。当然内部に森林が広がっているなんてファンタジックな様相を呈しているわけもなく。
バッグに詰め込んであったキノコ共はあっというまに底をつき、非常用の干し肉もすぐに食い切ってしまった。
食糧問題に気づいたのがグレートブリッジに入ってすぐだったら引き返すということも考えたんだが、実際気づいたのは手持ちの食糧が底をついてから。橋も残り半分というあたりだったものな。
進むのも戻るのも同じくらいの距離ともなれば、進むほかないだろう。
しかしだからといって空腹に耐えられるわけもなく……。
「ま、勝手にタンスを漁るドラクエの主人公よりは良心的だろう」
トリスタンで購入した大ぶりのナイフで林檎を一刀両断。皮をむくなんて上品なスキルは持ち合わせてはおりません。
しゃくりと噛めば中々にみずみずしく。
「んまい」
いろいろと失敬したが、振り返ってみれば果物類をいただいたのが一番多かったかもしれない。
しばらくはデザート抜きの食生活に甘んじてくれたまえ。名も知らぬ警備兵諸君よ。
さて。一応念のためにここで一晩休もうかね。
目を向ける先にはウェスペルタティアがあるのだろう。今は沈みし過去の浮遊国家オスティアも。
嫌な予感がビンビンくるぜ。まぁグレートブリッジのときのように取り越し苦労で終わってくれればそれが最高なんだが。
「今日は基礎修行も休もう。崩落した都市群。一気に抜けておきたいからな。万全の状態にしておこう」
しゃくり、と残りの林檎をほおばり、俺は少し早いが寝床を探すことにした。
――MM――
メガロメセンブリア元老院議員デズモンド・キャボットは頭を抱えていた。
悩みの種は言わずもがな。旧世界の魔法使いたちを騒がせている騒動。『アイカ・スプリングフィールドの失踪事件』についてである。
といってもデズモンドがアイカ・スプリングフィールドの心配をしているわけではない。むしろ彼はアイカ・スプリングフィールドを邪魔だと考える人間である。
(しかし、我らの計画を狂わせるとは。『千の呪文の男』と『災厄の魔女』の子供。あれらの子だ。イレギュラーを想定しなかったのがそもそもの間違いだったか)
デズモンドには忘れられない過去がある。
彼らの思惑を無視し、過剰な活躍をした『
そして『災厄の魔女』アリカ・アナルキア・エンテオフュシア。『完全なる世界』とつながっていた前ウェスペルタティア国王から王位を簒奪し、戦争を終結に導いた『魔女』。彼女にも煮え湯を飲まされたものだ。
その『魔女』にすべての罪をなすりつけ、ケルベラス渓谷での処刑を執り行おうとしてみれば、再び立ちふさがったのはまたもや『
すべてが狂わされる。それでも我らは彼奴らを押さえつけることには今のところ成功してはいるが、
(『魔女』の娘の存在が明るみになれば全てはアウトだ。それもスプリングフィールドの名を持った『魔女』の娘ともなれば)
デズモンドは執務机の引き出しから葉巻を取り出すと、火をつけて一口吹かす。
そして目を向けるは、すでに無駄なものと化してしまった計画書。
計画書にはこうある。
スプリングフィールドの子らを排除すべし、と
これは元老院の総意に近いものだった。無論、元『
そのために、デズモンドも密かに手をまわしていた。
(くそっ。悪魔どもの召喚も軽々に行えることでは無いというのに)
多数の上級悪魔の召喚。イレギュラーにも対応するため、少なくとも一体以上の、『切り札』となる爵位持ちの召喚。大戦時のような状況ならともかく、平時下でそのようなことを大々的に行うこともできず、ゆえに前々から準備してきた。
だというのに。
(アイカ……スプリングフィールドッッ!)
せめてネギ・スプリングフィールドだけでも。そう唱える元老院議員もいるが。
しかしデズモンドはその声を受け入れるわけにはいかない。
アイカ・スプリングフィールドの消失に伴い、『
そう。旧世界中の魔法使いたちがウェールズの山間の隠れ里に視線を向けているのである。
そんな場所で無理矢理事件を起こせば、かならずや不自然さに気づく者が出る。『大戦時に『
(その上あの若造。クルト・ゲーデルも動いている)
彼の大戦の英雄『ナギ・スプリングフィールド』の子供を失ってはならない。その認識は今や旧世界での共通認識であり、それを利用してクルト・ゲーデルが護衛のために隠れ里周辺に私兵を置くことさえ容認させたのだ。
今スプリングフィールドの息子を殺すために悪魔を差し向けても、目的は達成できない可能性が高い。
いや、それどころかこちらの動き次第では逆にクルトに喉元まで噛み付かれかねないのだ。
(元『
アイカ・スプリングフィールドの失踪という一つのイレギュラーのせいで全てがご破算。これまでの苦労が水の泡である。
せめて魔法世界に来ているらしいアイカ・スプリングフィールドだけでも始末しておきたいとは思うが、未だ手がかりすら入手できていない。
部下を叱責するというのも間違いだろう。あの高畑・T・タカミチですらなんの成果もあげられていないのだ。
(だが、手をこまねいているわけにもいかん。計画にかかった資金を考えれば、元老院は失敗の責任をなすりつける相手を欲するだろう。なんとかせねば私まで切られることに)
それだけは避けなければならない。しかしどうする? デズモンドの自問に対する答えは出ない。
と、その時である。ある声にデズモンドの思考が遮られたのは。
「簡単なことであろう? 私がその娘を探し出せばよいのだ」
「……なぜ貴様がここにいる?」
「おっと失礼。ノックをするのが人間のマナーであったな。いや、なに。いつまで待っても仕事を言い渡される気配がないものだからこちらから出向いたまでのこと」
デズモンドは歯噛みする。召喚されたというのなら大人しく待っていればいいものを。
しかしこいつの言った事が本当に可能であるというならば、
「ん? その表情は追加料金でも取られるかと思っているのかね? ならば安心するといい。君に協力を申し出たのは私の個人的な思惑からであって、なにも新たな報酬が目当てというわけではないのだよ」
「……相手はどこにいるとも知れないのだぞ? 貴様なら見つけ出せるとでも?」
「ああ。容易いことだ。伯爵とは名乗っているが、私は没落貴族でね。人探しのような些末事にも精通しているのだよ。なぁに、私に任せておくといい」
デズモンドに向かいあった男は、ゆっくりと帽子を取ると、実に紳士的な笑顔を見せた。
「このヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵にね」
アイカ逃げてー! 変態紳士に捕まったら脱がされちゃうでー!
そんな第八話 あれ? これ、やばくね?
さて、ネギ村襲撃ですがナシになりました
嗚呼。ここでも原作との差異が
ちなみにアイカもいつの間にか三歳になってたり。(数えで四歳ね)
まぁ二歳が三歳になったからといって変態に勝てるかっていうと・・・
あの変態、結構強いからなぁ
そういえば、村襲撃イベントが無いってことは・・・
・・・ナギの杖は犠牲になったのじゃ
・・・・・・ナギの杖ェ