漢を目指して   作:2Pカラー

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07.少女修行中

 

 ――トリスタン――

 

 山を越え谷を越え、ようやくたどり着いたトリスタンは、MMやエオスと比べると随分とこじんまりした町だった。

 俺はとりあえずということで年齢詐称薬を飲み、情報収集をすることに。

 俺、つまりは『アイカ・スプリングフィールド』に対する追手はないのか。まぁこんなガキが魔法世界に乗り込んでいるなんてそうそう思いつかないだろうが、それでも不安の種は取り除いておきたいからな。

 そして情報収集の際知ってしまった。

 トリスタンの先、海を越えるほどの長大な橋のことを『グレートブリッジ』と呼ぶらしいことを。

 

 ……『原作』で出てたよな。『グレートブリッジ』。

 先の大戦で連合と帝国が奪いあった拠点。それがグレートブリッジだ。

 そしてその先には『ウェスペルタティア』があるという。

 そういや地図にも書いてあったっけか(未だに覚えていられているというのは高性能な転生ボディーのおかげだろう)。橋を渡った先にあるのは『オスティア』だと。

 

「厄介事の匂いしかしねぇ」

 

 俺はトリスタンから少し戻ったところにある森の中で呟いた。

 この森で寝るようになって早一週間。サバイバル術ばかりが身に着くというものである。

 

 当初はトリスタンで宿を借りるという選択肢もあった。

 一日二日滞在するということなら手持ちの金でもなんとかなるだろう。山で採った高山植物のなかにもオーラの出ているものもあったし、金策だって出来るはずだ。

 だが、街で宿をとるとなれば、当然年齢詐称は必要となる。

 一日二日ではなく、長期滞在するともなれば、詐称薬のストックを減らしたくないという思惑から、宿での生活という甘い誘惑にははっきりNOと言ってやる必要があったのだ。

 

 そう。長期滞在することにしていたのだ。

 その理由は言わずもがな。自身を鍛えるためである。

 MMでは予想外の災難に見舞われることになった。MM同様ウェスペルタティアは原作で出るほどの重要な都市。なにかしらのイベントが発生してもおかしくはない。

 アリアドネーへの足を少し止めることになったとしても、ここでレベルアップしておこうということだ。

 

 まぁぶっちゃけると、『発』を思いついちまったから試したくてしょうがなかったってのが一番強い理由なわけだが。

 

「ふぅ」

 

 休憩は終了だとばかりに跳ね起きる。

 座禅を組み、『練』から『堅』へ。

 

 重要なのはイメージだ。

 キルアはオーラが電気と融合するイメージを持ってしてあの能力を手に入れた。

 クラピカは四六時中鎖で遊ぶことで具現化能力を得るに至った。

 ならば俺もイメージしよう。

 

「強く、強化されたあの姿を」

 

 イメージに関してはそれほど難しくはなかった。というのも俺の『発』には参考となるものがあったから。

 それは『前世』に存在したあるゲーム。

 俺はそのゲームに登場するとある『妹』の得意とする技を再現しようとしていた。

 

「何を強化するべきか? そう考えたとき閃いたんだ。ならば俺に合った能力のはず。出来ないはずがない」

 

 呟くことで自身に言い聞かせる。俺はカストロとは違い、自分の系統にあったものを作ろうとしているのだと。インスピレーションに従ったのだから、俺の本質にあったものであるはずだ、と。

 能力を決定してから一週間もたつ。キルアがあっさりとオーラを電気に変化させたことを考えれば、そろそろ俺も手ごたえを感じていいころだ。

 魔法の勉強にも時間を割いているとはいえ、俺には『纏』と『練』を繰り返した歳月があるのだから。

 

「発動。『神のご加護がありますように(■■■■)』」

 

 イメージしていた防の切り札の発動を感じたとき、俺は小さくガッツポーズをしていた。

 

 

 

 

 ――トリスタン南西部 フィオジカの森――

 

 トリスタンにて子供たちに魔法を教えている教師、ドナート・ボニンセーニャはその日、初めて本物の才能というものに出会った。

 トリスタンから一時間ほど歩いたところに広がるフィオジカの森は、魔獣をはじめとする危険な動物が生息していないことから、トリスタンの子供たちにとっては格好の遊び場となっている。

 魔法世界に生まれた子供たちは、ごく一部の例外でもない限り魔法に触れて育つ。学んだからには魔法を使ってみたい。そんな思いが子供たちに街から離れたこの森まで足を運ばせるのだ。魔法が『火よ灯れ』や『武装解除』といった無害のものばかりではない以上、もっと言うなら『魔法の射手』をはじめとする他者を傷つけることが出来るものが多い以上、家や街の公園などで魔法を練習するというわけにもいかないため、当然のことなのかもしれないが。

 ドナートも幼少期はこの森で魔法の練習に励んだり、木の実を採って遊んだり、友人たちと秘密基地を作ったりしたものだ。

 もっともいくら獣の生息していない場所だとはいえ、子供を放任しておくには森というのは危険なものだ。トリスタンに住む大人たちは、持ち回りでフィオジカの森を見て回るようにしていた。(とはいえドナートでさえ見回りを任されるようになるまで、大人たちが陰ながら見守っていてくれたなどとは気付かなかったわけだが)

 そして今日、たまたまドナートは見つけたのである。本物の『英雄の才能』というものを。

 

 遠見の魔法で見つけたのは、ローブ姿の小さな子供だった。

 ドナートがトリスタン魔法学校で教えている子供たちよりもなお幼いだろう。彼の今年の担当が数えで七歳、満六歳の子供たちであることから、たまたま見つけたその子の年齢は推して知るべしである。

 距離がありすぎて何を言っているのかまでは分からないが、かろうじて風に乗って伝わってくる声から察するに、おそらくは女の子。お人形遊びでもするのがお似合いだろう少女が森の中で一人座り込んでいるというのは『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』を目指している者として放置できるものではなく、迷子か何かかと思い声をかけようとしたときのことである。

 

「――――ッッ!?」

 

 思わず身構えてしまった。それほどの圧迫感。まるで歴戦の魔法使いを前にしたかのような迫力だった。

 ドナートは冷や汗が頬を伝うのを感じる。少女と呼ぶのも早いような幼子に危険を感じているのだろうかと自問する。

 自分と少女の距離はかなり離れたもの。森で遊ぶ子供たちに気づかれないよう、そして遠く離れた場所にいる子供をも視界に収められるよう、常に遠見の魔法を展開しているのだから当然のことである。少女に自分が気づかれているはずもないとは思うが。

 どうするべきかドナートが逡巡していると、フッと威圧感が消えた。何かの気のせいだったのではないかと、そんな思いさえ浮かんでくる。

 と、少女はごそごそと肩掛け鞄を漁ると、中から一冊の本を取り出した。

 魔法学校の教師であるドナートには見慣れた一冊。二年前にアリアドネーから発行されたばかりの初心者向け魔導書だった。

 

(あの子は……いったい…………?)

 

 先ほどの迫力といい、ドナートの意識は少女へと集中しだしていた。

 そんなドナートの疑問をよそに、少女は杖をふるう。月をかたどったシンボルを頂点に乗せた子供向けの杖を。

 しかし魔法が行使されることはなかった。

 少女は落ち込むように少し肩を落とす。おそらく『火よ灯れ』あたりの初級魔法を試したのだろう。それが失敗するということは魔法の才に乏しいということだろうか?

 

(いや……それは、無い)

 

 ドナートは目を疑った。

 少女の内包する魔力量は、途方もないものだった。

 

(なんだ? あれは?)

 

 ドナート・ボニンセーニャは今年で二十三になる魔法使いである。

 大戦末期に生を受けた彼は、連合の掲げる『英雄』という概念に強く魅せられた世代でもある。

 子供のころから周囲のだれもが『紅き翼(アラルブラ)』のような英雄を目指し、当然ドナート自身もいつかは『偉大な魔法使い(マギステル・マギ)』にと努力をした。

 才能はあった方だと思う。十四で無詠唱の魔法の射手(サギタ・マギカ)を習得し、十六になるころには紅き焔(フラグランティア・ルビカンス)を使えるようになった。

 突出した才能というわけではないが、それでも誰かに劣等感を抱くような人間ではなかった。

 それこそ、俺も十年早く生まれていれば英雄に、なんてことを考えたこともある。

 しかし。しかしだ。

 今ドナートが目の当たりにしているのは、そんな自信を砕いて踏みにじるほどの圧倒的な才能。生まれ持ったものとしか言いようのない天賦の才。驚異的な魔力量だった。

 

 ドナートは知らずのうちに杖を握りしめ、そして気づいた。

 

(俺が……嫉妬している? あんな子供に?)

 

 バカバカしい。いや、あの少女の才能は本物だろう。嫉妬していることも真実だろう。

 しかし自分は今、いったい何を考えた?

 

(これじゃ『偉大な魔法使い』なんて夢のまた夢じゃないか)

 

 ドナートは杖を懐にしまうと木の陰から姿を現した。

 そのまま今も『火よ灯れ』に四苦八苦している少女に向けて歩き出す。

 

 ドナート・ボニンセーニャ。彼は英雄たる活躍をしてこそ『偉大な魔法使い(マギステル・マギ)』であり『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』であると考える人間だった。

 しかしそれでも、と彼は思う。英雄足りうる才能が無かったからといって。活躍の場が無かったからといって、幼い才能に嫉妬することが『正義』なはずがない、と。

『英雄』とは連合が作った幻想だとドナートは知らない。連合が自分たちに都合のいい存在を『英雄』に仕立て上げていたという世界の裏を知らない。彼の理想とする『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』がどこか歪なものだとは知らない。

 しかしドナートは間違わない。彼の『正義』は歪かもしれないが、それでも白く美しいことに変わりはないのだから。

 

「魔法を使うときはね、もっと自分を信じることだ。出来るはずだと。自分なら魔法が使えるって。そして世界に満ちるマナを受け入れようとするんだよ」

 

 ドナートの声に振り返った少女に笑いかける。

 ローブのフードで眼こそ見えないが、それでも安心させようと優しく語りかける。

 

「いいかい? ゆっくりでいいんだ。失敗したとしてもそれは恥ずかしいことじゃない。がっかりせずに頑張ってみよう? さぁ、プラクテ・ビギナル・火よ灯れ(アールデスカット)

 

 少女は数秒の間、いぶかしげにドナートを見上げていたが、やがてコクリと頷くと、言われたとおりに呪文を唱えて杖を振った。

 杖の先に小さな火が灯ったことで少女の上げた笑い声は年相応のもので、それを見たドナートは、少女の呑み込みの早さに嫉妬するよりも、自分が目の前の類稀な才能の開花に一役買って出られたことに、ただただ喜びを感じていた。

 

 

 その後、ドナートは少女にいくつかの初歩の魔法の手ほどきをして別れることになる。

 のちにドナートはこう語る。

 あれほどの才能があって初めて英雄になれるのだろう。

 自分がそうでないことに悔しさは感じるが、それでも俺は満足している。

 俺はあの子に魔法を教えることが出来た。教師になったことで得られた嬉しさはいくつもあるが、あの子の力になれたこともその一つだよ、と。

 

「一つ心残りなのはあの子がトリスタンの学校に来なかったことかな。そうと知っていれば、もっといろいろな話をしたんだろうけど」

 




普通に教員Aで良かった気が Part.2
誰やねんドナートて

さて、『発』を作っちまったわけですが
ルビに関してはまだ秘密ということで
ヒントは強化・防御の切り札・妹キャラの技 といったところでしょうか
見事的中させたあなたには、本作のヒロイン決定権を・・・あげますん!!

にしてもアイカ以外のキャラが男ばっかりというのは
男キャラの方が書きやすいというのはあるんですが・・・むーん
次回も多分オッサンですw

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