漢を目指して   作:2Pカラー

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42.居残り授業

 ――学園長室――

 

「っつーわけで、さよちゃんの体を用意してるわけ。フィオが言うには来年度が始まるころには調整も終えられるらしいから、そっちでも根回しよろしく」

 

 さよの学籍自体は2-Aにあるらしいが、だからといってそのままさよに登校させるわけにもいかないだろう。一般人的にはこれまでずっと休んでいた(実際には席にはいたんだが)生徒で、関係者的には幽霊になってるはずの生徒だ。そのさよが何食わぬ顔で登校して来たらどうなるか。そうフィオに言われ、放課後学園長室に寄ったんだが。当の学園長はといえば、説明した途端普段はモサッとした眉毛に隠れている目ん玉かっぴらいてフリーズしちまったんだが。

 まぁそのうち再起動するだろうと学園長はほっといて俺は戸棚を物色。学園長室には茶菓子とかもあったりするんだよね。仕事中に摘まんでいるのか、エヴァあたりが碁を打ちに来たりしたときに出してるのか。しずな先生に頼めばお茶と茶菓子をセットで持ってきてくれるだろうに。お、八ッ橋発見。でも焼いてある方かぁ。俺的には生八ッ橋の方が好きなんだけど。

 まぁこれはこれでと勝手に八ッ橋をバリバリ食ってると、ようやくフリーズから立ち直ったのか、

 

「え、マジで? ってそれ、わしのオヤツなんじゃが」

 

「マジでマジで。体自体はすでに出来上がってるぜ。これから魔法球内でしか生きられないはずのホムンクルスの体を外でも生きられるように調整すんだって。ってかコレ美味いな」

 

 フィオが言うには本来ホムンクルスはフラスコ(ダイオラマ魔法球)からは出られないらしい。外に出した途端ドロドロに溶けだしてしまうとか。

 それじゃさよちゃんの体を用意する意味ねえじゃん、さよちゃんの望みはクラスメートと友達になることなんだし。そう思ったんだが、そこはさすがのフィオえもん。他の研究を転用することで解決できるらしい。

 

「本来幻想の中でしか生きられないものを現実に持ち出すための魔法、だったかな。昔かなりのめり込んで研究したとか。それのさよちゃんへの適用にひと月くらいかかるんだと」

 

 俺的にはなんのこっちゃという感じなんだが。

 

「……フランチェスカ君はそこまで出来るのか。以前エヴァの家を囲った結界のことといい、とんでもない子じゃな」

 

 と、学園長は理解してる様子。

 

「そしてその薫陶を受ける長谷川君か。うーむ」

 

 一応千雨のことも学園長には話している。千雨自身は一般人だと思われたままの方がいいとか言ってたけど、魔法関係に巻き込まれた際に一般人だと思われていると記憶が消されるとかありえそうだし。

 ってか、

 

「先に言っとくけど、やらねぇからな」

 

 ぜってーなにか企んでるよ、このぬらりひょん。

 

「ホッホッ、別にフランチェスカ君や長谷川君をアイカ君から引き離そうなどと「いや、そうじゃなくて」」

 

「俺が言ったのは、ネギにもやらねえからって意味だから」

 

 なんかそのうちネギに関わらせて来そうな気がする。原作を知ってるから特に。

 そういやフィオも言ってたっけ。2-Aにはあからさまにネギの従者候補らしき人間が含まれてるとかなんとか。たしかにネギと同室になった明日菜や木乃香なんかはポテンシャル的に一流だし、ネギと彼女たちが仮契約することをジジイが望んでいるっぽいとは思う。なんだかんだでネギは英雄候補最右翼だしな。

 もしかしたら今ジジイの中では千雨もネギの従者候補に名を連ねたのかもしれない。

 だが、

 

「千雨自身が望むんならともかく、なしくずしで仮契約とかさせんなよ。仮契約せざるを得ない状況に追い込むとかもナシだから」

 

 そして、

 

「フィオをネギの師匠にってのもNGな。まぁネギが弟子入り志願してきたところでフィオが了承するとも思えないけど」

 

 バリバリと八ッ橋を噛み砕きながら言う。

 原作のネギはエヴァを師匠にしていた。それ自体は物語の展開的に不自然なところなどなかったし、学園長の企てなどなかったのかもしれない。しかし何か引っかかるところもあるのだ。

 何故原作ではネギの魔法使いとしての修行に関して学園側が口を出してこなかったのか。学園長がネギがエヴァに弟子入りしたことを把握していなかったなどあり得ないだろうに。

 高畑がエヴァの『別荘』で咸卦法の修行をしていたこととはわけが違う。なんせネギはまだ九歳、数えで十歳なのだ。容易く他人に影響を受ける思春期真っ盛り(というか一歩手前?)の年ごろに、自称『悪の魔法使い』に弟子入り。実力はつくかもしれないが、人格への影響とか、ぶっちゃけヤベェだろ。チャチャゼロみたいな性格になってたらどうするつもりだったんだか。

 そんな『ネギのエヴァへの弟子入り』すら容認するジジイだ。なにか企んでそうと思っちまうのは仕方がないだろう。

 しかしジジイ本人は俺の言葉に狼狽する様子など欠片も見せず、

 

「……わしってそんなに怪しいもんかのう? そんなに色々企んでるように見えちゃう? ジジイしょっく~」

 

「うわっ、うざ。ってかキモッ」

 

 これは本当に何も企んでないのか、それとも年の功で誤魔化されているだけか。

 まぁ頭を使うのはフィオの領分だしな。俺にはこれ以上探りを入れることなんか無理か。一応釘を刺したってだけで満足するべきかもな。

 

「まぁそっちはいいや。さよちゃんのこと、よろしく」

 

「うむ。長期の病気療養で登校できなかった、辺りが妥当かの。やれやれ、また仕事が増えるのう。……で、なにしとんの?」

 

 話は終わったと学園長室を出る、……前に再び戸棚をごそごそとやってたら学園長が聞いてきた。そんなもん決まってんじゃん。

 

「いや、八ッ橋結構美味かったからフィオと千雨にも何かお土産で持って帰ってやろうと。お、羊羹発見。どら焼きも。これは……味噌松風? まぁいいや。貰っとけ貰っとけ」

 

「じゃからそれ、わしのオヤツ。しかも楽しみにしてたやつ。……もうホントどうしよこの子。ナギそっくりなんじゃが」

 

 まったく失礼なジジイだ。そういうのはネギに言ってやれよ、喜ぶだろうし。

 

 

 

 

 

 ――2年A組――

 

 2-Aにおいて問題児とは一体どのような生徒を指すか。

 教師・生徒問わず悪戯を仕掛ける春日や鳴滝姉妹は問題児か? 否。麻帆良のおおらかな気質は彼女たちを『元気のいい生徒』で済ませてしまう。

 モデルガンを携帯している龍宮や実は竹刀袋の中身が真剣だったりする刹那はどうか? そもそもそのことを知っている者すら少ないし、知ったとしても『カッコイイ』で済ませてしまいそうだ。

 工学部を爆発させたりロボットを暴走させたりしている超や葉加瀬は? 全く問題視されていないどころか『よく分からんけどスゲー』と一般人たちは目を輝かせるだけ。

 このように大抵のことは笑って済ませてしまう麻帆良である。ならば問題児など居ないのではないかとも思いそうなものではあるが、残念ながらそれは違う。

 何故ならば彼女たちは中学生なのだ。テストの結果に一喜一憂し、通知表を開く瞬間に指先が震えるのは麻帆良であろうと変わらず学生の常である。

 故に2-Aの問題児は誰かと言われれば、まず名前が挙がるのが成績不良な彼女たち、現在ネギによって居残りを命じられたバカレンジャーとなるだろう。

 

(微妙に解せぬ気持ちになるでござるがなぁ)

 

 十点満点の小テストで六点以上とれるまでは帰さないとは言われたものの、やる気を出すだけで点が取れるようなものでもない。そんな例外は、元々の頭はいいのにやる気が皆無なせいでバカレンジャーに名を連ねている綾瀬夕映(バカリーダー)くらいなものだろう。事実夕映はさっさと課題をクリアして帰ってしまっている。

 そして夕映と違い小テストで三点しか取れなかった楓は、古菲やまき絵、明日菜とともに熱心なネギのポイント講義を受けているわけではあるが、

 

「残念でござったなぁ。英語の居残りだと長官は免除されるでござるし」

 

「アイヤー。たしかにそうアル。長官も付き合うべきアルヨ」

 

 楓の独り言に反応したのは隣にいた古菲。せっせとノートをとっていた手を止めて、不満顔でうんうん頷いている。

 

「しかしそれは無理な話でござるよ。長官が自主的に居残り授業に参加するとか。全く想像出来ないでござる」

 

「そうアルな~。自主的どころか強制されてもブッチしそうな気がプンプンするアル」

 

「にんにん。それに古の場合は一緒に居残りしたいというより、その後に勝負でも申し込みたいという感じでござろう?」

 

「それもあるヨ。長官が強いのは分かっているアル。なのにワタシとの手合せはちっとも受けてくれないアルヨ」

 

(フム。まぁ長官の気持ちも分かるでござるが)

 

 楓はちらりと隣を見やった。内心を表情に見せることはなく。

 隣で肩を落としている古菲は、一般人としては間違いなく最強の部類に入るだろう。武道四天王と戦えば楓や龍宮、刹那には未だ届かないが、しかしそれは『気』を知らないが故だ。

 では『気』を扱う鍛錬を積んだ楓や刹那、『裏』の仕事にも関わってきただろう龍宮らと比べて古菲が劣っているかと言えばそうではない。

 そう。決して古菲が劣っているわけではないのだ。『気』を知らないというのに、磨き上げた武のみで『裏』の強者とも伍して戦える、それほどの実力者。それは楓達のような武人の目にとって、どれほど眩く映るものなのか。

 武を重んじる者ほど古菲の強さは貴く見えるはず。触れがたく思えてくるほどに。

 

(『気』で上積みした力で勝ったとしても自慢にはならぬ気もするし、一方で『気』を如何に扱えるかも己の鍛錬の結晶だという自負もあるのでござる。本気の古の相手をするには『気』込みの『本気』を出さねば失礼な気もするんでござるが、しかし『気』を知らぬ相手に『本気』というのも……。これがジレンマというやつでござるか)

 

 おそらく長官も似たような気持ちなんでござろう。そう楓は結論付けた。古菲の思いを考えればいささか可哀そうかもしれないが。

 

 ふと視線を感じた。視線の主は黒板にテストの要点をまとめていたネギ。居残り授業だというのに集中していなかったことを注意されるかとも思ったが、しかしネギの表情は咎めるようなものではなくむしろ不思議そうな顔。

 はて、と楓は首を傾げたが、しかしネギの言葉でネギが何に対して疑問を持っていたのかを理解した。

 

「えっと、長官って誰のことなんでしょうか?」

 

「ああ、なるほど。ネギ坊主は知らないでござるか」

 

「アイヤー。なら説明するしかないアルな」

 

 悪ノリする古菲(バカイエロー)とともに(バカブルー)は説明を始める。

 

 我らこそ麻帆良の正義を守るバカ五人衆(レンジャー)。リーダーである夕映(バカブラック)を筆頭に、集結した戦士たち。

 勇気の明日菜(レッド)、知恵の夕映(ブラック)、技の(ブルー)、力の古菲(イエロー)、元気なまき絵(ピンク)。五人揃って麻帆良戦隊バカレンジャー。

 しかし彼女たちにはもう一人、頼れる仲間がいるのだ。

 仲間のピンチの颯爽とあらわれ、黄金の精神を胸に抱き敵を打ち倒すその姿。誰が呼んだかバカゴールド。

 しかしバカレンジャーはあえて彼女をバカゴールドとは呼ばず、敬意をもってこう呼ぶのだ。バカ長官(チーフ)、と。

 

「そのバカ長官(チーフ)こそ、何を隠そうアイカ殿のことなんでござるよ。にんにん」

 

「ええーーー!! アイカがバカゴールドで長官なんですか!?」

 

「……いや、楓たちが勝手に言ってるだけよ? っていうか私としてはバカレンジャー呼ばわりもイヤなんだけど」

 

「バカレッドは黙っているでござるよ。というより無駄話をしている余裕はないのでは? 最後まで残される本命はレッドでござろうに。対抗はピンクでござるかな? 拙者はさっさとブラックに続かせてもらうつもりでござるし」

 

「うっ。み、見てなさいよ。絶対楓より先にクリアしてやるんだから」

 

「にんにん。楽しみにしているでござるよ」

 

 うがーっと唸り声をあげて机にかじりついた明日菜から、楓は再び視線をネギへ。ネギは混乱したのか、しばらく目を白黒させていたが、

 

「アイカって勉強できなかったんだ。って、アレ? タカミチの『2-A居残りさんリスト』にアイカの名前はなかったけど」

 

「高畑センセはネギ坊主が来る前の英語の担当だったアルからナ。アイカは英語だけは出来るアルヨ。ズルい話ネ。中国語の授業があればワタシだって」

 

「国語の成績もパッとしない身としてはそう単純な話でもないような気もするでござるがなぁ」

 

 そろそろ無駄話は切り上げるでござるか。楓もノートに向き直った。

 とりあえず、今はレッドやピンクよりも先に課題をクリアしようと、それだけを考えて。

 

 




というわけで居残り授業(?)な42話。如何でしたでしょうかね
前半はさよちゃん復学フラグを中心に
まぁ書きたかったのはフィオの『本来幻想の中でしか生きられないものを現実に持ち出すための魔法』ってやつです。ええ、原作で魔法世界のほとんどは『幻想』で地球には来れないとかなんとかの辺りのアレ。アレのアレがアレだとフィオって地球に来れるの?っていう疑問を解消するためのアレです。
その辺の線引きが中々難しいんですよね。MMの人間以外は『幻想』で地球に来れない? じゃあヘルマンみたいな悪魔や京都編で召喚された鬼は『幻想』じゃないの? フェイトは造物主がなんとかしたとしても、魔族的なあの子なんかは……。魔法世界出身っぽい高音はOKでトサカはNG……じゃあ魔法世界人と旧世界人のハーフだったらどうなんの? とまあいろいろ考えだすとアレがアレしてアレになってしまいそうで。
結局再びフィオ頼みになるはめに。アイカのためのお助けキャラのはずが私のご都合主義を助けるキャラになってしまっているような気も
フィオが普通に地球にいる点についてはこんな理由づけしか出来ませんが、どうか寛大な心でご容赦くださいませ
まぁそんなわけで前話でさよの入れ物に人形などではなくホムンクルスを持ってきたのは伏線だったりしました
意外と突っ込まれませんでしたね。『ホムンクルスじゃフラスコから出られないんじゃね?』的な感想もあるかなぁとも思ってたんですが
ホムンクルスはフラスコから出られないものという風に固定されてしまっている私が特殊なんですかね
何故か『からくりサーカス』の銀と金の錬金術修行に出てきたホムンクルスのイメージが私の脳裏に焼き付いていまして
どうせならホムンクルスと聞いて真っ先に思い浮かべるのはアインツベルンの人妻にしてほしいです、私の脳味噌さんマジお願いします

後半はバカレンジャーの居残り授業ですね。残念ながらアイカの出番はありませんでしたが
まぁ布石ですわな。ここまでバカバカ言われるオリ主も珍しいですが、おかげですんなり図書館島イベントには参加できるでしょう
やりたいネタもあったりしますしね

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