漢を目指して   作:2Pカラー

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40.一時間目 ~その4~

 

 ――歓迎会の片隅で――

 

「くっくっく」

 

 ネギの歓迎会が始まってしばらくたってのことだ。一通り美味そうなものを摘まんだ俺は、教室中央で始まったネギへの質問攻勢を横目に見ながら教室の隅まで離れてきた。

 別にネギを避けてとかいう意味じゃない。ただ教室の隅にこういうバカ騒ぎ的なイベントとは無縁そうな人影を見かけたからだ。

 それが先ほどから愉快そうに肩を震わせていたエヴァだった。

 

「や、エヴァ。さっきからなんだか笑ってたみたいだけど、なんかあったん?」

 

「ん? ああ、貴様か。いや、なに」

 

 と、そこでエヴァは言葉を止めるとそこから先は念話に切り替えて続けた。

 

『あったといえばあったな。聞くか?』

 

『そりゃ教えてくれるならな』

 

 俺がそう返すとエヴァはニヤリと目を細めた。まぁわざわざ一般人であるクラスメートには聞こえないよう念話を寄越したことからなんとなく想像はついたが。

 

『貴様の兄だがな、さっそくバレたぞ』

 

『バレたって、アレか? 魔法使いだってことか? 誰に?』

 

『……なんだつまらん。あまり驚かんのだな。来日早々下手をすればオコジョ刑が待っているほどの失態を犯した兄に思うところはないのか? ああ、バレた相手は神楽坂明日菜だ』

 

 失態を犯したって言ってもな。俺なんか自分から千雨にバラしてる位だし。

 

『自らバラした貴様と、ミスでバレてしまったぼうやとでは話が違うさ。もちろん貴様の方がタチが悪いという意味でだがな』

 

『へいへい、反省してまーす。ごめーんね』

 

『ふっ。タチが悪いとは言ったが嫌いではない。そういう傍若無人さはナギを思い出すしな。その調子で精々ジジイ共の胃に穴でもあけてやれ』

 

 うへぇ。あの赤毛に似ているとは。一番心に刺さる言葉だぜ。

 

『でもなんでそのことエヴァが知ってんの? まさかチャチャゼロにネギを監視させてたとか?』

 

『そこまではしていないさ。なに、魔力で編んだ蝙蝠を飛ばして、な』

 

 ふぅん。まぁ登校地獄から解放されてる今のエヴァならその程度のこと軽く出来るんだろうけど。

 でも出来るからってわざわざやるかぁ? なんだかんだでネギに興味津々なのかね? 赤毛だし。

 

『ふん。別に興味というほどのものでもないさ。長谷川千雨の言は至極もっともだったが、一応本質を確認しておこうと思ってな』

 

『おいおい、策士疑惑は消えてなかったんかい』

 

『ナギの息子を常識で判断するわけにはいかんだろう。貴様のような前例もあることだしな』

 

 いや、俺の場合前世や原作知識っていうズル(チート)があるからなぁ。ま、これは誰にも言えんけど。

 

『で? 疑いは晴れたん?』

 

『九分九厘な。ぼうやは私からの監視にも気づいていなかったようだし、あれが擬態という可能性はほぼないだろう。貴様の連れの悪魔にはバレていたようだが』

 

 エヴァが視線を向ける先にはあやかから銅像をプレゼントされてあわあわしているネギの姿。

 っていうかヘルマンが一緒にいたのか。なにやってたんだアイツ?

 

『素材としては面白いものを持っている、が、食指は動かんな。貴様と殺り合う方が幾倍も楽しそうだ』

 

『お? やるか? いいじゃんいいじゃん、今度はタイマンでやろうぜ? そだ、マギアエレベアっての見せてくれよ』

 

 原作のネギは雷とか炎になってたけどエヴァはどうなるんだろうな。やっぱ氷なんかね。雷とかよりは攻撃も効きそうだけど。やっぱ殴っても意味ないのか? ラカンが殴ってたし俺も何とか出来ないかとは思うんだけど、とりあえずは一回挑戦してみたい。

 しかしそんな俺の言葉に、何故かエヴァは目を見開いていた。

 ん? なんか変なこと言ったか?

 

 

 

 

 

 ――喧騒を余所に――

 

 エヴァは目を見開いて隣で首を傾げているアイカを見ていた。

 というのもエヴァにしてみれば予想外の言葉がアイカから出てきたためだ。

 マギアエレベア。闇の魔法(マギア・エレベア)である。かつてエヴァが編み出した、咸卦法に並ぶとされるほどの究極技法。しかしその危険性から禁呪とされ、その名を知る者すら少なくなった魔法である。

 闇の福音(ダークエヴァンジェル)は魔法使いであるならば誰もが知る魔王の名だ。しかし使用者の知名度に反して闇の魔法(マギア・エレベア)を知る者は少ない。それこそ闇の福音(ダークエヴァンジェル)の名を知らない魔法使いの数よりなお少ないだろう。

 だというのにその名がアイカから出てきた。それはエヴァにしてみれば極めて予想外のことだった。

 

『何故知っている?』

 

 故にエヴァは尋ねるが、尋ねられたアイカは何故そんなことを聞いてくるのか理解が出来ていないようで、

 

『はあ? そりゃそんくらい知ってるっての』

 

 アイカは続ける。言葉とは裏腹にどこか楽しげに。

 

『童姿の闇の魔王、恐怖と悲鳴と断末魔、食らう人形(ヒトガタ)従えて、主人は一人、血を啜る。狂気に染まった哄笑上げて、魔法にその身を喰らわせて、己を凶鬼に成り変える。其は禍音の使徒、悪しき音信(おとずれ)闇の福音(ダークエヴァンジェル)なり、ってな。魔法にその身を喰らわせるってのがマギア・エレベアなんだろ?』

 

 随分と懐かしいものを引っ張り出してきたものだ。そうエヴァは思った。なにせアイカが今言ったのは現在も魔法世界で語られ続けている御伽話の原型、わらべ歌のさらに原点なのだ。口ずさむには未だ洗練されていない、ただ恐怖を伝えるためだけの歌ともいえない詩。

 一体どこでそんなものを聞いたのか。いや、それよりも、

 

『そこまで知っていながら(・・・・)私に喧嘩を売ってきたというのか、貴様は』

 

 そう。そこなのだ。エヴァが問題としていたのは。

 アイカが闇の魔法を知っている可能性に関しては無いわけではなかった。アイカの傍には実力の底がいまだ見えない魔女や、おそらく爵位持ちであろう悪魔がいる。そのことを考えればアイカがエヴァの情報を持っていたとしても不思議ではない。

 しかしそれはないとエヴァは考えていた。当然だろう。あんなカビの生えた詩が出てくるほどにエヴァを知っていながら、それでもなお喧嘩を売ってくるような奴がどこにいるというのか。

 結果エヴァは誤解した。アイカは自分のことを強力な吸血鬼程度にしか理解していないと。精々が御伽話のドラゴンと同程度に見ているのだろうと。ドラゴンはドラゴンでも古龍クラスの最強種なのだとは間違っても分かっていないのだろう、と。

 しかし、

 

『はあ? そこまで知っていたから(・・・・)喧嘩売ったんじゃねえか。知らなきゃただの幼女にしか見えねえぞ、お前』

 

『……縊り殺されたいのか、貴様は』

 

『あぁ? ってか何も知らないくせに喧嘩売ったと思われてた方がショックなんですけど。幼女イジメが趣味みたいに誤解されてた方が傷ついたんですけどー。ってわけで侘び替わりにちょっとぶっ殺させてくれよ』

 

 気づけばガチンと額を突き合わせて睨み合っている二人だった。お互いに米神に青筋を立て、獰猛な笑みを浮かべている。

 視界の端に冷や汗を垂らしている高畑が映ったが、それも無理のないことだろう。なにせエヴァは封印から解放されているためその身から冷気を伴った魔力が溢れているし、アイカはアイカで既にオーラは臨戦態勢だ。唯一の救いは突然教室から出て行った明日菜を追ってネギが出て行っていて、それを気にした大多数のクラスメートも既に教室にはいないということではあるが。

 

『いい度胸だクソガキ。その蒙昧な脳みそでは力の差も理解出来なかったか。それとも氷漬けにされたことがよっぽど恐ろしかったのか? 記憶を封印するほどに? いいだろう。何度でも教育してやる。理解出来るより先に貴様の命が消えてしまわないよう祈っておけ』

 

『なに調子こいてんだロリババア。力の差だぁ? んなもんアッサリ覆してやるよ。ビビッて漏らすんじゃねえぞ。オムツはどっちがいいよ? 老人用か? それとも幼児用のほうが好みか? どっちだろうとお似合いだけどな。俺から茶々丸に頼んでおいてやるよ。お前のご主人様のために買い置きしておいてくれってな』

 

 ビキビキと鳴っているのはどちらの米神か。もういっそここでおっぱじめちまうか。どうせ後始末をするのはジジイだし。そう思ったのはおそらくどちらもだ。

 正しく一触即発。そのことを理解している教室に残っている者たちは思い思いの行動をとり始めていた。高畑は慌てたように携帯を取り出し、刹那は木乃香を避難させるため教室から飛び出ている。龍宮は早々に逃げ出す準備をはじめ、超は胃を押さえて何やらぶつぶつと虚空へ語りかけ出した。千雨とさよは既にフィオの傍(安全圏)に退避済みだ。

 そんな状況だというのに、二人へと声をかける猛者が一人。

 

「喧嘩はだめですよ」

 

「「あ゛ぁ゛!!」」

 

 もはや女子が出していい声ではなかった。ちなみに意訳すれば「なんや邪魔すんのかワレ、こっちゃ三つ巴のバトルロイヤルでもええんやぞ!!」である。なんかもう色々とアレだった。

 しかし声をかけた彼女、モッシャモッシャとユーカリを食べるコアラのスタンドを背負った四葉五月は全く動じることなく、

 

「喧嘩はだめです」

 

 本来ならば事情も分かっていないものが口出しするなというところだろう。何せエヴァとアイカはこれまで念話で罵り合っていたのだ。一般人の五月にはどういう経緯で二人が睨み合っているかも理解できないはず。

 だというのにエヴァもアイカも五月の言葉を無視できなかった。だからこそ四葉五月というべきか。

 

「ネギ先生の歓迎会なんです。みなさんがネギ先生に楽しく思ってもらうための、そしてみなさんが楽しく過ごすための歓迎会なんです。だから喧嘩はだめです」

 

「だ、だがなぁ五月」

 

「いや、あのね、さっちゃん」

 

「だめです」

 

 尚も何かを言い募ろうとする二人だったが五月にすげなく切って捨てられる。

 しばらく五月からの無言の圧力に居心地を悪くさせていた二人だったが、やがてどちらからともなく向き直り、

 

「ふん。今日の所は私から引いてやる。精々五月に感謝し矮小な存在に生まれてしまった己を嘆いておけ」

 

「はん。引いてやるのはこっちだっての。さっちゃんの靴でも舐めながら礼でも言っとけよ。助けてくれてありがとうごぜえますだってな」

 

 お互い捨て台詞を残しその場を去ろうとするが、

 

「エヴァンジェリンさん、アイカさん」

 

 しかしそうは問屋がおろさない。見れば、五月の背負ったスタンドは目を光らせてモッシャモッシャ、ユーカリを通常の三倍くらいのスピードで食っていた。

 

「ちゃんとお互い謝って、仲直りしてください」

 

 そう言われ呻く二人。どうにも逃げられそうにない。エヴァが茶々丸を探しても、茶々丸も五月には強く出られない様子。アイカはアイカで呆れた目を向けてくるフィオを見てヘコんでいた。

 結局コアラの眼光もとい五月の無言の圧力に屈するように再び二人は向き直り、

 

「ス、スマン」

 

「ゴ、ゴメン」

 

 そう謝罪の言葉を口にした。

 どうにも嫌々という感情が透けて見える謝罪だったが、しかし五月はそれでいいんですと言わんばかりににっこり笑った。

 

「では仲直りも出来たことですし、点心(おかし)でもどうですか? ゴマ団子なんか自信作ですよ?」

 

「む? そうだな、貰おうか」

 

「あ、俺も俺も。ってか貰ってやろう的な上から目線のチンチクリンの分も俺にくれよ」

 

「なっ!? 貴様という奴は、ええいまったく!!」

 

 先ほどの謝罪がなかったかのように再びいがみ合う二人だったが、しかしそこには先ほどのような殺伐さはない。

 それがわかるのだろう。五月もまるで姉妹のじゃれ合いを見るように笑みを浮かべていた。

 それを見ていた者の反応は様々だった。五月の勇姿に感動する者。おそるおそる教室へと戻ってくる者。心底安堵したようにため息をつく者。よくぞ五月をスカウトしたヨと過去の自分を褒める者。感心したように拍手を送る者達。

 しかし反応は様々でも思ったことは同じだろう。すなわち『あの二人が何か仕出かしそうになったらさっちゃんにお願いしよう』、である。

 

 

 

 

 

 

 やがて廊下で大騒ぎしていたネギ一行が教室へと戻り、歓迎会も終わりへと。

 

 長い長い一日目がようやく終わる。ネギの修行がようやく始まる。

 

『魔法先生ネギま!』が、異物を取り込んだ物語が、幕を開けた。

 

 




エヴァ回にするつもりだった第40話。何故か途中からさっちゃん回に。
キャラが勝手に動いてくれたとでも言うんでしょうかね。気が付いたらさっちゃんに全部持っていかせてました。

それと実は私、さっちゃんかなり好きだったりします。ぶっちゃけ明日菜や木乃香よりも
なので活躍の場を与えたいというか、活躍しているSSを読みたいというか、そういう欲求はかなりあるんですが……
でもダメですね。彼女は魔法の世界に巻き込んではいけない人かと。その意識はどうにも変えられません。
多分本作のようなバトルもの(?)でメインを張らせることは無理でしょう。日常メインなものならあるいは。
……TOX2トゥルーED後のルドガーと分史ミラが麻帆良で生まれ変わって、イチャついたり喧嘩したりしながら超包子のバイトとして料理人を目指すRPG(?)。さっちゃん、超、古菲、葉加瀬、茶々丸には好感度ゲージあり。ルドガー、分史ミラはさっちゃんと一緒に料理人を目指すが、なんだかんだで超サイドとして戦う羽目にも。全世界への魔法の強制認識、それもまた今までの世界を壊すことと同じだが……。少女のために、世界を壊す覚悟はあるか? ここまで妄想して力尽きました。後は頼んだ

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