漢を目指して   作:2Pカラー

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24.昼食

 

 ――女子寮の一室――

 

「どうぞ」

 

 そう一言添えて出されたのはシックな感じのマグカップ。中にはホットコーヒー。なんというか、『長谷川千雨』のイメージ通りと言うか。もうちょっとギャップを狙ってくれてもいいのに。クマちゃん柄のカップにココアとか。

 まぁそれはそれとして俺とフィオはカップを受け取る。ちなみに俺はコーヒー党。紅茶とか匂いだけだろJK。

 

「それで……あー、さっき高畑先生から連絡があったんですけど……あなたたちがここに入ることになったっていう転校生ですか?」

 

「ああ。それと敬語はいらないぜ」

 

 猫を被ってるのかもしれないが、似合わない。眼鏡越しの瞳はどことなく釣りあがってるし、もっと乱暴な物言いの方が似合う気がする。『テメェらがアタイの部屋に入りたいって命知らず共かい?』みたいな? いやないか。

 

「俺はアイカ・スプリングフィールド。アイカでいいぜ、千雨」

 

「ちさっ!? 長谷川です」

 

「私はフィオレンティーナ・フランチェスカ。よろしくね、千雨」

 

「いや、長谷川……外国では初対面の相手もファーストネームで呼ぶのが普通なんですか?」

 

「さあ?」

 

 実際ないだろとは思うけど。ヘルマンの場合は今でもヘルマンだしなぁ。ファーストネームってヴィルなんとかだろ?

 

「さあって。なんでそんないい加減なんですか。……麻帆良に来たのは今日なんですよね?」

 

「ん? そうだな」

 

 そう答えると千雨はブツブツ呟き始めた。「なんでウチのクラスの奴みたいなこと言ってるんだよ」とか「まさか非常識なのは麻帆良の中だけじゃなかったのか」とか。ぶっちゃけ腹減りすぎてそっちまで気にしてはいなかったが。

 というのもこの体は燃費が悪すぎるのだ。元々の体質なのか、膨大な魔力を生成するためにはカロリーが必要なのか、それとも念能力者はたくさん食べないといけないのか。なんとなく最後のが一番有力な気がする。ゴン達もよく食ってたし。グリードアイランドで大食いの懸賞があったのも念の修行の一環だとか。

 そんなわけで腹が鳴る。グーと。仕方ない。学園長室では最中十二個までしか食えなかったし。

 

「ん?」

 

 と顔を上げたのは頭を抱えだしていた千雨。俺は彼女を真正面から見つめながらもういっちょグー。

 

「……あの」

 

 さぁダメ押しだ。ぐぎゅるるるー。

 

「……特に買い置きとかないんですが。外に食べに行って来「よし行こう! 案内してくれ!」……は?」

 

 そう言って立ち上がると千雨とフィオの手を掴んで引っ張り上げる。ちなみに反論は聞きません。だって麻帆良のどこになにがあるのか知らないんだもの。ここに来るまでの間は気絶してたし。

 

 にしても飯かぁ。和食が食いたいなぁ。鮭とか鯖とか鯵とか秋刀魚とか。

 下がったテンションがまたまた上がってきたぜー! ……あれ? なんで俺テンションが下がってたんだっけか?

 

 

 

 ――超包子――

 

「中華て!!」

 

 案内されたテーブルに着くと同時にアイカが頭を抱えてしまった。

 なにかマズイことでもあったのだろうかと千雨は思う。本来ならば中学生がオーナーなどというトンデモ空間には近寄りたくはないのだが、普段からファーストフードや携帯食料ばかりの『腹が満ちれば何でもいい』な千雨にとって、他に案内できる飲食店が思い当たらなかったのだ。

 これからクラスメートに、そしてルームメイトになる相手とはいえ、さすがにまだ『客』という認識は抜けていない。ならばジャンクフードを進めるよりも一応は評判のいい超包子のほうがマシだろうと気を利かせたのだが、裏目に出たのだろうか?

 

「中華は嫌いだったんですか?」

 

「……そういうわけじゃないけどさぁ。和食を楽しみにしてたのに」

 

 なるほど。確かに外国に来たのならばその地の料理が食べたいと思うのも当然か。

 

「米と鮭と納豆とおしんこと海苔と味噌汁が一緒になって四百四十円とかの奴が食べたかった」

 

 ……いや、なんだそのチョイスは。食券タイプの牛丼屋のメニューを何故イギリス人が知ってやがる。

 

(こういう場合はスシとかテンプラとか言われるもんだと思ったんだがな)

 

 と、そこに現れたのは件のオーナー・超鈴音(チャオリンシェン)。普段超包子に立ち寄ることはない千雨にしても、ここで四葉五月や古菲がバイトをしていることは知っていた。ゆえにオーナー自ら注文を取りに来るというのにいささか疑問を持ったが、

 

「やあ長谷川サン。ウチに来てくれるとは珍しいこともあるものだネ。これを機に肉まんの虜になるといいヨ」

 

 などと超はカラカラと笑うのみ。

 

「まぁ考えとくくらいならしておくさ。つかここはオーナーが注文を聞いて回るのか?」

 

「いやいや。そちらは古や茶々丸に任せていつもは厨房に入てるヨ。今日はそちらの二人に興味があたからネ」

 

 その言葉に顔を上げるアイカと、メニューから視線を超に向けるフィオ。千雨は一人納得していた。お祭り騒ぎの好きな2―Aのことだ。どうせ朝倉あたりが騒いで、超も興味をそそられたのだろう。

 

「私は超鈴音ヨ。これからよろしくネ、お二人とも。きっと私たちは仲良くなれるハズだからネ」

 

(仲良くなれるハズ(・・)ねぇ。ま、こいつらも非常識人っぽいし、そうなっちまうのかもな)

 

「ところで注文は決まったかナ。今日のオススメは回鍋肉ヨ」

 

 自分は昼を済ませてはいたが一人だけ何も食べていないというのも気まずいだろう。それに昼を済ませたとはいってもカロリーメイトを胃に放り込んだだけ。空腹感が無いというわけではない。

 

「なら私はそれで」

 

「私もそれでいいわ。他のものもよくわからないしね」

 

 とはフィオの言葉。残るアイカと言えば、じっと超を見つめていたかと思うと、

 

「魚」

 

「は?」

 

「焼き魚定食ぷりーず」

 

 それはねーだろ。そう千雨は心の中でツッコむ。メニューとかガン無視じゃねぇかと。

 対する超は、口元をひくひくと震わせていた。

 

「な、なるほど。話に聞いてた通りの人ネ。ここまでフリーダムだとツッコむ気も失せるヨ。わかたネ。腕によりをかけて作てくるから待てるといいヨ」

 

 そう言って屋台の方へと引っ込んでいった。

 千雨はと言えば、

 

(そんな噂まで流れてんのか。朝倉の情報網はどうなってんだか)

 

 と、これから同居することになるアイカのことを考えないようにしながら視線を虚空にさ迷わせていた。

 




短!? そんな24話 お久しぶりです

ともあれ今回も難しかったです。特に千雨のセリフが
ある程度親しくなるまでは敬語で話すキャラっぽいんですが、クラスメート相手に敬語ってのもなぁ。でも猫被ってたしなぁと悩みまして
一応クラスメートには普通に話させることにします。アイカらはまだ会ったばかりなのであれですが、すぐに打ち解けてくれる・・・ハズ!!

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