チートが過ぎる黒子のバスケ   作:康頼

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宝剣カラドボルグ

 赤司の主将宣言から一時間後、赤司は次なる手を打つために部室で一人、ノートにこれからの予定を書き込んでいた。

 

 「ふむ、とりあえずはこんなところかな」

 

 びっしりと書かれたノートの中を確認し、赤司は満足げにノートを閉じる。

 すると間を計ったようなタイミングで、部室のドアが開いた。

 

 「ここで何をしているのだよ」

 

 眼鏡をかちゃかちゃと上げ下げする緑間の額には、汗が滲んでおり、微かに呼吸も乱れていた。

 額に張り付く髪を自分の鞄から取り出したタオルで拭うと、そのまま上着だけを着替え始めた。

 

 「真太郎、練習はどうしたんだい?」

 

 練習の方を緑間に任せていたため,赤司は部室で計画を立てることができた。

 その監視者がいなくなり、練習は大丈夫なのかという赤司の確認に緑間が問題ないと答える。

 

 「ふん、それならお前の計算通り問題なくやっているのだよ」

 「そうか」

 

 赤司が言った練習。

 それは変則1ON1である。

 ゴールポストを守る紫原から、青峰と黄瀬が一対一で何点取れるかを競うものであり、敗者は紫原にお菓子を贈呈しなければならない恐怖の練習だ。

 ちなみにこのルールでは、キセキ世代エースの青峰より、同世代最強シューターである緑間の方が分がある。

 ある程度は切り込まなければならない青峰より、どの位置からでも高弾道スリーポイントで撃ち抜ける緑間が紫原と相性が良かった。

 ちなみに赤司の予想は、黄瀬の最下位である。

 キセキ世代の天才と言われる黄瀬だが、他の四人と違い、まだ経験値が足りない。

 得意のコピーも青峰の前には無と化すだろう。

 しかし、それが積み重なれば黄瀬は強くなる。

 そして強くなった黄瀬は、間違いなく他の四人のキセキ世代を成長させる起爆剤となるだろうと、赤司は口に出すことなく期待していた。

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる赤司を、いつものことだと切り捨てた緑間は、鞄の中から剣玉を取り出す。

 何故、剣玉? という話だが、今日の『オハスタ』のラッキーアイテムだったらしい。

 慣れない手つきで、しかし中々上手に球を皿に乗せる緑間に、赤司は脇のパイプ椅子の上に置いてあった鞄から携帯を取り出して尋ねる。

 

 「真太郎、さっき体育館に持っていた剣玉はどうした?」

 「黄瀬にせがまれ貸したら、青峰が壊し、紫原が粉々にした」

 

 不機嫌さの増す緑間に、赤司は携帯小説を読みながら、なるほど、と頷いた。

 恐らく、緑間の剣玉を見て、遊びたくなった黄瀬が持ち前の器用さで無駄に上手かったのだろう。

 それを見た青峰が対抗し、そしてがさつに扱ったせいで糸が切れて球が飛び、通りかかった紫原がそれを踏み砕いたとそんなところだろう。

 憐れ緑間、と言いたいところだが、ここは流石と言うべきである。

 ラッキーアイテムの予備を持ち歩くほどの用心深さを兼ね備えているのだから。 

 

 普段通りの三人の様子を聞き、赤司は携帯小説をひたすらに読み続ける。

 そんな彼を見て、緑間が剣玉に飽きたのか鞄に剣玉を入れると、携帯を取り出した。

 どうやらメールを打ってるらしい。 

 

 「しかし、こうもあっさりいくとはな」

 

 緑間の若干感心した様子に、赤司は何でもないように答える。

 

 「力を示しただけさ。 元々、この黒帝バスケ部は二年と三年で四人しかいない弱小部だ。 それに対し僕達五人で多数決ですら勝てる」

 

 他にも言ったことはある。

 曰く、このまま自分達に舵取りを任せれば、あの洛山高校に勝利を導いてやる、だとか、

 曰く、インターハイ三連覇も夢ではない、とか、

 曰く、大学入試の際にインターハイに出ていれば印象が残るぞ、とか、

 こうして二、三年は一時間ほどで赤司の元へ膝を折った。

 ただ計算外だったのが、顧問が妙に物分かりがよかったのが赤司には気になったが、ラッキーだったと深く考えないことにした。

 ちなみに黒帝とは『黒田帝興』高校の略であり、赤司がこの学校を気に入った理由の一つである。

 

 「ふん、まあいいのだよ。 しかし、帝光と違い設備は良いものではないな」

 「それは始めからわかってたことさ。 それにその問題は現在、校長と理事長と相談中、上手くいけばそれなりの設備は得られそうだ」

 

 元々、この問題はこの計画を話した時から持ち上がっていたことである。

 その対策を赤司がしていないはずがなかった。

 黒さを感じさせる赤司の笑みに、緑間の額には再び汗が流れ始める。

 

 「……どういう手を使う気だ?」

 「これさ」

 

 赤司の鞄から取り出された一枚の紙を緑間は受け取る。

 

 「コレは……」

 「洛山高校との練習試合の予定表さ。 少し僕はコネがあったからね」

 

 赤司から手渡された紙には、洛山高校との練習試合の日にちと、会場である洛山高校までの地図が書き記されていた。

 その紙の隅には、恐らく洛山の監督のものと思われる携帯番号が一緒に書かれていた。

 そう言えば赤司は洛山からの推薦を受けていたのだな、と疑問を解消した緑間だったが、もう一つの頭に過ぎった疑問を尋ねる。

 

 「いきなり高校最強との練習試合とは」

 「青峰のテンションを上げてもらうためさ。 まあ、先に微かな希望を刈り取るという意味もあるけどね」

 

 希望を刈り取るとは、洛山高校の誇りを打ち砕くことなのか、それとも微かに期待している青峰に現実を教えることなのか……

 恐らく両方なのだろう、と当たりをつけた緑間は他人事のように考えていた。

 そして思い出すのは、青峰を最も心配していた影の存在である。

 

 「……黒子とはどういう話をしたのだよ?」

 「ん? 大したことではないさ」

 

 携帯を閉じて赤司が思い出す。

 かつての戦友だったキセキの世代、幻の六人目と呼ばれた黒子テツヤのことを。

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 時は遡る。

 全中三連覇を終えて、一週間。 

 赤司は黒子を屋上へと呼び出していた。

 

 「テツヤ、待たせたね」

 「赤司君、お久しぶりです」

 

 呼び出した本人が遅れてきたのだが、黒子は特に気にすることなく赤司を迎えた。

 そんな気遣いに赤司が気付かないはずもなく、ポケットからジュースを取り出すと、それを手渡した。

 屋上の柵にもたれるようにしてジュースを口に運ぶ赤司にならい、黒子も少し離れた場所で同様にジュースを飲む。

 

 「こうしてテツヤと話するのはあの日以来かな」

 「はい、全中三連覇を果たした夜に退部届を渡した時ですね」

 

 退部届。

 話している内容は暗かったが、当の本人達は気にした様子もなかった。

 仲も悪くはない関係の為、久しぶりに雑談に興じたいと思っていたが、如何せん時間は少ない。

 名残惜しい。

 ジュースを飲み干した赤司が本題を切り出した。

 

 「君が辞める理由は僕も理解している。 そしてテツヤも僕がこうして呼んだ理由をわかっているんだろう?」

 「……はい」

 

 赤司の言葉に、黒子は表情を暗くさせる。

 その表情を見ただけで黒子の意志は固いということを赤司は独りでに悟った。

 

 「聞かせてくれるかな?」

 「わかりました」

 

 一度、心を落ち着かせるように目を瞑った黒子が、赤司を鋭い目で見据える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「赤司君の趣味(かんがえ)は理解できませんっ!」

 「そうだったね……君は苦難の後、遂にライバルを打ち破る、熱血王道系が好きだったね」

 

 黒子の言葉に、悲しいよと言いながらも『天帝の眼』を発動させる赤司は、好敵手の前に立った。

 

 「そうです。 確かに様々な試練を迎え、傷つき時には折れそうになる主人公を見ると鬱になりそうになることも多々ありますが、その苦難を乗り切り、そして激闘の末ラスボスを倒して、ハッピーエンドを迎える、まさに理想の人生そのもの、人々の叡智です、それに対し最強系は別名最低系、全然楽しくないです」

 「ふ、テツヤ、いいかい。 最強系は最強に始まり、最強に終わる。 逆行系良し、最強の素質良し、最強の組織良し、そしてイケメンに限る、だ。 数多くの最強ファクターがあり、チート設定がある。 そう、人々は心の奥底では最強系を求めているのさ」

 

 黒子の想い、理想を、赤司は鼻で笑って投げ捨てる。

 正しいのは僕だ、と。

 正しいのは最強系だ、と。

 

 キセキの世代の絶対的な王を前にしても影は怯まなかった。

 

 「求めてないです、中ニ病(あかし)くん」

 「求めてるさ、存在感がチートのテツヤ」

 

 噛み合わない理想。

 行き違えた答え。

 

 かつての戦友は争わなければならなかった。

 

 「赤司君っ!!」

 「テツヤっ!!」

 

 うおおおっとはしゃいだ昼休みの屋上。

 その日、赤司と黒子は職員室に呼び出された。

 

 

 




他の二作品の箸休め小説。 けどお気に入り。
ちなみに作者はバスケのことをよく知らない。

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