チートが過ぎる黒子のバスケ   作:康頼

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最終回 そして俺達の旅は始まったばかりだ。

 インターハイを終え、京都に戻ってきた赤司達を待っていたのは校長達の暑い声援だった。

 すぐさま、赤司は校長に例のビデオテープを手渡すと、青峰達が待つ体育館へと向かった。

 

 「遅ぇぞ、赤司」

 「黄瀬がうっとおしいからどうにかするのだよ」

 

 体育館につくなり赤司が、青峰に呼ばれて視線を向けると、そこには肩を落として落ち込むイケメンモデルの姿があった。

 

 「だって緑間っち、俺達黒子っちに振られたんスよ」

 「その振られたって言う表現はやめるのだよ」

 

 黄瀬の落ち込む姿に緑間は苛立ったように声をかける。

 そんな黄瀬に、青峰が呆れたように声をかける。

 

 「テツにもテツの道がある。 そういうことだろ」

 「そんなこと言って、青峰っちも本当はさみしいんじゃないっスか? 相棒を取られて」

 「そんなわけねぇだろが、この馬鹿が」

 

 黄瀬に何でもないように返した青峰だが、普段以上に覇気はなかった。

 青峰ももう一度黒子のパスを受けたかったのだろう。

 

 「はっはっはっ、幼馴染に続いて、相棒まで寝取られたんだ。 皆、青峰には優しくしてあげよう」

 「峰ちん、お菓子食べる?」

 「眼鏡をかけてみるか?」

 「ごめんっす、青峰っち。 モデルの女の子を紹介するのは勘弁してほしいっす」

 「てめぇらマジでぶっ飛ばすぞっ!!!」

 

 他の四人―――落ち込んでいた黄瀬にすら、からかってくる青峰は怒鳴り声をあげる。

 普段の青峰の調子を取り戻したところで、緑間が本題に入るように話を戻した。

 

 「さて、冗談はこれくらいにして、首尾の方は?」

 「問題ない。 明日からは僕が監督代行を務めることになる。 来年度にちゃんとした監督を呼ぶことになった」

 

 顧問山田五郎は、明日から陸上部の副顧問に就任した。

 来年度に新しい人材を加える間、赤司が全権利を得ることになった。

 監督の話で思い出したのか、黄瀬はもう一つの話を切り出す。

 

 「ところで洛山の人間を呼ぶ必要ってあるんスか?」

 「彼らにはまだまだ伸び代がある。 黒帝での練習で徹底的に鍛え上げようと思ってね」

 「そういえば、『鉄心』には断られたようだな」

 

 洛山の三人は、黒帝に来ることを了承した。

 ウィンターカップには規約上、出ることはできないが、来年のインターハイでは控えに置いておくことができる。

 だからこそ、『鉄心』木吉鉄平も勧誘を行ってみたのだが、

 

 「ああ、残念だけどね」

 

 断られることとなった。

 しかし、木吉は誠凛の選手である。

 そう考えると、断られて正解だったかもしれないと赤司は思っていた。

 となれば、残りは一人である。

 

 「なら『悪童』は如何するんっスか?」

 「ふむ、インターハイ帰りに立ち寄った際の練習試合で、どう転んだからわからなくなったな」

 

 あまり必要性のない人間でもあるが、やはり人材コレクター赤司として揃えておきたいところだった。

 京都に帰るまでにまだ一日ほど時間があったので、悪童・花宮真がいる霧碕第一高校に乗り込んだ赤司達は、勧誘ついでに練習試合も行ってきた。

 スコアは294対0と圧勝したのだが、当の花宮が紫原のダンクに巻き込まれ負傷した。

 それゆえに、すぐに病院に運ばれたために花宮が黒田帝興高校に来るかどうかの返事が聞けなかったのである。

 五将を揃えられなかったことを残念に思っていた赤司に、青峰が何か思い出したかのように口を開く。

 

 「灰崎の奴はどうすんだ?」

 「ああ、ヤツは入られても困る。 それにもう既に用はない」

 「そうだねー、黄瀬ちんがいればいらないしねー」

 

 五将以上であり、キセキ世代に匹敵する灰崎だが、すでに黄瀬が全てを模倣しているため、赤司には必要性が感じなかった。

 実際、灰崎に問題を起こされた際、もみ消すのが面倒であった。

 赤司の返事に、紫原を始めとした残るメンバーも同意する。

 

 灰崎の話は終わると、黄瀬は再びため息をつき始めた。

 

 「けど、黒子っち大丈夫かな?」

 「ああ? 何がだ?」

 「いや、あそこまで悲惨だとバスケ嫌いになったりするんじゃないかなって」

 

 それを行った人間の一人が心配するのはおかしな話だが、試合結果だけを見れば、そう考えてもおかしくない。

 しかし、そんな黄瀬の心配を、赤司は鼻で笑った。

 

 「それはありえないよ」

 「だな」

 「ああ」

 「そうだねー」

 

 そう赤司にはわかっていた。

 最強系を好む人間がドSとするならば―――と。

 

 「テツヤの心配より自分達の心配だ。 これからは忙しくなるよ」

 

 ―――テツヤ、世界の頂点(たかみ)で待っているよ。

 赤司達、黒田帝興高校の進撃はまだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 誠凛高校では、熱気に包まれた祝福が待っていた。

 創部二年で、インターハイ準優勝。

 出来すぎとも言える偉大な功績を出した誠凛バスケ部だが、彼らの表情は重く悲痛な表情を浮かべていた。

 

 『準優勝、おめでとう』

 

 その言葉が、日向達を苦しめた。

 

 「準優勝か、これは喜んでいいのかね」

 

 「わかってるだよ。 俺達は全国出場を目指してたし、結果として全国出場を果たし、インターハイで準優勝は出来すぎだ」

 

 ―――けど、敗北感しか残ってねぇよ。

 

 そう漏らした日向の言葉に誰も返すことができなかった。

 誰もが理解しているのだろう。

 準優勝という功績が、決勝の敗北で全て無に化していることを。

 

 体育館を去っていく日向達の後ろ姿を、黒子と桃井が眺めていた。

 

 「やっぱり、無理なのかな?」

 

 ぽつりと桃井はそう漏らした。

 キセキの世代は絶対的な存在であった。

 桃井は敵にして初めて彼らの脅威を知った。

 しかし、それは黒子も同じだろう。

 だが、黒子の眼は輝きを失っていなかった。

 

 「青峰君が昔言っていました。 『諦めなければ必ずできるとは言わねぇ。けど諦めたら何にも残んねぇ』と。 だから勝てないかもしれないけど、ここで諦めたら二度と彼らに勝てないと思います」

 

 黒子は約束した。

 火神に、キセキの世代をいっしょに倒そう、と。

 赤司に、自分の理想で奇跡を倒すと、と。

 青峰との大切な約束を秘めて。

 

 黒子達が話していると、突然、体育館の扉が開かれる。

 

 「おー、誰も体育館にいないんだけど」

 「? 貴方は?」

 

 体育館を見渡す男に黒子が話しかけると、男は黒子達の方に向かって歩き出す。

 

 「俺? 俺は木吉鉄平。 誠凛バスケ部の部員だよ」

 「木吉……まさか『鉄心』ですか?」

 

 木吉鉄平。

 その名を桃井は知っていた。

 赤司達キセキの世代に隠れてしまったが、絶対的な才能を持つ五人の将。

 『鉄心』それが木吉鉄平の渾名であった。

 

 「うん、そう言われてた時もあるよ」

 「そうですか……相田監督から怪我をして入院していると聞いていたので」

 

 桃井は誠凛に木吉がいると知っており、リコから怪我で入院のためにインターハイに出場できないと聞かされていた。

 

 「去年、無理しちまってな。 まあ今日から復帰なんだけど、リコとか日向は?」

 「それがインターハイの件で、少し思うことが」

 

 黒子が濁すように答えると、木吉も悟ったのか頷き返した。

 

 「あー決勝でキセキの世代と当たったんだっけ、とすると君が黒子君?」

 「はい」

 「とすると君がコンビを組んでる火神君か」

 「ちょ!! 違いますよっ!! どう見ても私は男じゃないですよね!!?」

 

 火神に、男に間違われた桃井は、慌てて木吉に詰め寄っていく。

 リコと違い胸がある桃井を男と見間違えるはずがないのだが、木吉の頭の中では何か違ったらしい。

 間違えたことに気付いた木吉は、慌てて桃井に頭を下げる。

 

 「ごめん、何かおかしいなと思ってたんだ、髪の色も違うし」

 「まずは性別からですよね?! 私、スカート穿いてますよね?!」

 

 珍しく必死な桃井を尻目に、黒子はとりあえず火神のことを伝えた。

 

 「火神君は、インターハイ後、アメリカに修行しに行きました」

 「そうなんだ。 リコや日向が絶賛するエースを見ておきたかったんだけどな」

 「え、ちょ?! 私の話聞いてますか?! テツ君、私男じゃないよ?! ちゃんと女の子だからね!!!」

 

 必死になって暴れる桃井を、黒子は抑えること三分。

 ようやく落ち着きを取り戻し顔を赤めた桃井を見て、木吉は中断された話を続けた。

 

 「話は聞いているよ。 キセキの世代、彼らは飛躍的な進化を遂げたみたいだな」

 「話……誰からですか?」

 「本人達からだよ。 一昨日、彼らが病室に見舞いに来てね。 その時、勧誘といっしょに話を聞いたよ」

 「勧誘……ですか」

 

 木吉の言葉に黒子は思わず顔を顰めてしまう。

 だが、洛山にいた五将を誘っていたのだから、木吉に声をかけてもおかしくなかった。

 

 「勿論、断ったよ。 日向達との約束があるし、俺自身、彼らには借りがあるからな」

 「―――ムッ君ですね」

 「ああ、で、折角来てくれたんだから、一勝負してね」

 「勝負っ!?」

 

 病み上がりでキセキの世代と勝負するのは、はっきり言って危険であった。

 思わず声をあげてしまう桃井に、木吉は自信満々で頷いた。

 

 「ああ―――花札でなっ!!」

 「……花」

 「札……」

 

 緊張が切れ、桃井と黒子は力が抜けたような声をあげる。

 そんな二人に構うことなく、木吉は病院内で行われた熱い?戦いを語り始めた。

 

 「流石はキセキの世代を率いる男だったよ。 コイコイを覚えたての俺では分が悪かった」

 「しかも、相手ってムッ君じゃないんだ」

 

 何故か赤司と勝負していることに、桃井は思わず口を挟んでしまう。

 花札は三人でやるゲームだから、恐らく木吉と赤司の他に緑間が入れられたのだろう。

 そもそも他の三人が花札をできると、黒子は思わなかった。

 

 「ときどき『僕の眼は未来すら見渡すことができる』とか言ってたから、少し心配になった」

 「凄いまともな対応だー」

 「安定の赤司君ですね」

 

 赤司の対応にここまで冷静に突っ込める人間はそう多くないだろう。

 話半分に聞いていた桃井と違い、赤司の安定具合に黒子は感心していた。

 

 「そして、また花札をする約束をして彼らは去って行ったよ」

 「バスケじゃないんですね……」

 「ということはムッ君達の確執は……」

 

 和やかとも言える邂逅により、確執が無くなったのでは?

 そう思った桃井の考えを木吉が否定した。

 

 「いや、寧ろ強くなったと言っていい」

 「ええ?!」

 「まさか、花札で負けたからですか?!」

 

 もし、そうならばこの人はどれ程大人げないんだ。

 そう思った黒子達の想いは良いように裏切られた。

 

 「そんな小さなことじゃないよ、彼らは……」

 

 眼を細めて鋭い表情を作る木吉の迫力に、黒子達は思わず唾を飲み込んで黙りこむ。

 

 「見舞い品のどら焼きを全部食べていったんだっ!!」

 「へぇー」

 

 脱力した。

 だが、当の本人は許せなかったのだろう。

 真剣な眼差しで詳細を語り出した。

 

 「油断していたよ。 勝負に夢中になり過ぎたせいで、紫原と他の二人の動きを見てなかったんだ」

 

 勝手に見舞い品を喰らう青峰、黄瀬、紫原にはある意味脱帽だが、凄まじいくらいに根を持っている木吉もどうかと黒子達は思った。

 

 「帰りに紫原は食べかけのポテトチップスを置いていったけど、病院じゃ食べれないから、看護婦さんに捨てられてしまったよ」

 「大変でしたねー」

 

 とりあえず、突っ込んでも駄目だ。と気がついた黒子と桃井は、そのまま木吉の話を聞き流していた。

 そしてある程度不満をぶちまけて満足したのか、元ののんびりとしたテンションに戻った木吉が、時計を見て声をあげた。

 

 「おっと、しまった。 話に夢中でリコ達を探すのを忘れてた。 じゃ黒子君に桃井君、また明日」

 「ちょ、私は女の子ですからねっ!!」

 

 マイペースを貫いて退出していく木吉に、桃井は大声で訴えかけた。

 後日、リコVS桃井VS木吉の戦いが行われたのは言うまでもない。

 

 「凄い人でした」

 「……そうだね。 そう言う意味では赤司君達に匹敵すると思うよ」

 

 実際、そう言う意味で五将と呼ばれている気もした。

 だが、同時に何とも言えない頼もしさも感じていた。

 

 「でも、希望が見えてきました」

 「うん、そうだね」

 

 木吉という存在は大きく温かった。

 その後ろ姿はまさしくエース。

 日向達二年生の覇気が戻るのもそう遠くない話であった。

 そして、エースである火神はあの敗北に唯一折れなかった人間である。

 火神はようやくキセキの世代を理解した。

 きっと、そう言うことなのだろう。

 秘策がある、と言ってアメリカに行った火神の後ろ姿は、黒子が信じる光そのものであった。

 

 「はい。 僕達の戦いはまだ始まったばかりですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『チートが過ぎる黒子のバスケ』 完

 

 




急ぎ足完結で申し訳ございません。
誤字脱字、文章等の修正はこれから行っていこうと思います。
ただこうして読んでくださった皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございました。

なお『チートが過ぎる黒子のバスケ』ですが、一応完結となりましたが、残り二つの作品の更新をしつつ、過去編などをかけたらいいなーと思います。

では皆様、また違う作品で会えたらいいですね。


康頼より。


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