赤司様全開の話でございます。
『
この眼は天から見下ろす目を意味する。
すなわち、赤司の視野はコート全域に及んでおり、まるで将棋やチェスのようにコート内を眺めることができる。
『
この眼は未来を視る目を意味する。
その上で、相手の視野、表情、から思考を読み取り、完全なる未来を見ることができる能力である。
簡単に言えば、『天帝の眼』の完全強化版と言える。
ただ、視野の広さ、相手の動きの読み取る力、ボールを追う動体視力、それらすべてが異常なまでに高まった赤司の絶対的な力である。
ちなみに設定上、右目が『天空神の眼』であり、カラーコンタクトをつけている左目が『時空神の眼』となっている。
赤司の片目のカラーコンタクトは、この設定のためにつけられたものであるということになるのだ。
「この二つを同時に使うことにより、コート内の全選手の動きと考え、行動を予知できることになる」
名前も設定も中二臭いが、その力は絶対的すぎるものだった。
青峰も、緑間も、黄瀬も、紫原も、全てこの眼からは逃れることができない。
まさにチートが過ぎた赤司の眼であった。
「全ての選手を読み切ることにより、結果として僕は相手のパスを予測し、100%カットすることができ、こちらのパスは全て通すことができる」
『
キセキの世代四人を完全に支配下に置いた1ON1の完全拘束のフォーメーション。
「そして、全選手の視野が見えるということは、僕も―――」
―――テツヤと同様にコートから消えることができる。
「な、に……」
パスができずに動きの止まった伊月から赤司はボールを奪うと、そのままシュートを決める。
『
キセキの世代四人と言う強大な光がコートに存在する事と、赤司のような全てを読み取る眼を持つ事、この二つの条件が合わさってできる技術であり、余程の勘の優れたプレイヤーしか回避できない技であった。
無論、黒子も影の薄さから同じようなことができるが、身体能力、動体視力等が比べ物にならないほど赤司の方が優れているゆえの秘技と言える。
ボールを奪い取った赤司は前線に素早くボールを送ると、受け手の黄瀬が火神をぶち抜いて一瞬のうちにゴールを決めた。
リスタートした誠凛ボールも、赤司の指示で動いていた紫原が容易にカットし、そのままゴールをぶち抜いた。
十秒足らずで4点―――いや、
「くそっ!!」
パスが封じられたことにより、火神は単騎で黒帝ゴールへ向かうが。
「火神君、後ろですっ!!」
「不用意すぎるよ」
赤司の『
詰め寄る小金井と伊月を気にすることなく、赤司はボールをサイドラインで既に準備を整えていた緑間がいた。
『絶対領域射撃』
緑間の絶技が、誠凛ゴールを撃ち抜いた。
「無様すぎるのだよ」
7点である。
スコア 81対44。
絶望的な差が開きつつある中、会場にある変化が訪れた。
歓声が、段々と赤司達黒帝を応援し始めたのだった。
正確には応援ではなく、赤司達が決めるたびに歓声が上がるのである。
「なんで、いきなり歓声が」
「こんなのまるで俺達が」
―――悪役みたいじゃないか。
「テツヤ。 気に入ってくれたかい? この演出を」
「まさか……全てはこの為だったのですか……?」
赤司の笑みを見て、黒子はようやく赤司の意図を掴み取った。
地区予選からのパーフェクトゲームに始まり、決勝での控え選手四人の起用、そして後半からのキセキの世代の全開。
「昔、言っただろう? 全ての人間は心の奥底で最強系を求めていると」
赤司がやってきたことは単純だ。
まずは圧倒的な力を見せることから始める。
すると観客は、その一方的な試合に反感などの感情を覚えるが、それでもその光景を目に焼き付けるのである。
そして一戦一戦重ねることにより、その感覚を慣れさせ、そして赤司達のスーパープレーを見せつけ、歓喜の心を植え付ける。
心理的に人間は、圧倒的なものに挑戦するもの―――つまりこの場では誠凛のようなチームを応援してしまう。
だが、決勝まで来ると赤司達のプレーが見たいと、麻薬的な依存性を求めて訪れる観客やダークヒーロー気質を好む観客が足を運ぶことになる。
「人間とはストレスを抱えるものだ。 ゆえに嗜虐性というものも少なからず全ての人間が覚えている」
そこで赤司達が、哀れな羊たちを慈悲なきまでに潰す。
その光景に観客は歓喜を覚えてしまうのだ。
最初に控え四人を使ったのは、観客に嗜虐性やフラストレーションをため込んでもらうため。
紫原に怪我をした土田を運ばせたのは、周りの観客に紳士性を見せつけるためである。
誠凛も黒帝も応援団はいなかった。
全ては赤司が観客をそうなるように仕向けたのである。
「つまりは……」
「そうだ。 僕の眼も、この絶対的フォーメーションも、青峰の本気も、黄瀬のスーパープレーも、紫原の人外プレーも、緑間の芸術的なショットも、今まで行ってきた完全試合も、砕いてきた選手の誇りも」
『
全てはこの策への布石だ。
歓声が上がる。
そこからはこれまで以上に一方的に試合は過ぎていった。
観客の声援に、さらにキレが増した青峰達に対し、誠凛は観客の重圧に潰され、イージミスが連発する。
途中、日向が再びコートに戻ったが、シュートを撃つことすらできなかった。
第三クォーター終了の笛が鳴る。
スコア 121対44。
誠凛の敗北が決まった。
・ ・ ・ ・ ・
誠凛ベンチは通夜のような空気を漂わせていた。
土田は負傷、日向はシュートを封じられ、水戸部はフックショットを奪われ、ゲームメイクを行っていた伊月は疲労困憊状態で先程から一言も口を開いていない。
その光景に、リコは声を駆けることができない。
リコ自身、赤司の采配に屈してしまったからだ。
頼みの綱のルーキーコンビの一人で、百戦錬磨の帝光バスケ部だった黒子も、赤司の『
元々、同じコートでプレーしていた赤司達五人には、ミスディレクションの効き目は薄く、天敵である赤司がいる時点で、黒子にはできることはなかった。
圧倒的な敗北を覚えた誠凛ベンチに、一人の来訪者が現れる。
「えっと、なんかお疲れっすね」
さわやかな笑みを浮かべて現れたのは、対戦相手の一人である黄瀬だった。
黄瀬はモデルらしい柔らかい笑みを浮かべたまま、黒子に話しかける。
「やっぱ、駄目っすね。 試合が終わった後にでも聞こうかなと思ってたんスけど、今聞くっすね」
―――皆でもう一度バスケやろうよ。
「なっ!?」
「だって、こんなんじゃ絶対に勿体無いっスよ。 俺、黒子っちのこと、本気で尊敬してるし、信頼してるっす。 今のチームに黒子っちのパスが加われば、鬼に金棒っす」
黄瀬の発言は、誠凛を挑発しているような言葉だった。
あまりの発言に、桃井が慌てて駆け寄ってきた。
「ちょっときーちゃんっ!!」
「ああ、桃井っちもどうっスか? 青峰っちがアホ過ぎて勉強見てもらう人間がいなくて困ってるっす。 それに桃井っちの情報収集能力は、これからの俺達に必要っすから」
無邪気な程に笑みを浮かべる黄瀬にとって、先程の発言は嫌味などではないのだろう。
だが、聞き手側からすれば許容できないものがあった。
「てめっ!! さっきからなにふざけたこといってやがるっ!!」
「え、ええっ!! 俺、何か変なこと言ったっすか?! 黒子っち達に黒帝バスケの楽しさを教えてただけっすよ?!」
胸元をつかんできた火神に、黄瀬は慌てながら訳を説明していると、場を収めることができる人間が現れた。
「涼太、何をしてるんだい?」
「あ、赤司っち。 黒子っち達を仲間に勧誘しているところっす」
赤司が現れたことにより、火神の視線が赤司の方へと向くと、その間に黄瀬は赤司の傍に寄ってきた。
そんな黄瀬に、赤司は呆れたように口を開く。
「ふむ、涼太の空気の読めなささには驚いたが、強ち間違ったことは言っていないな」
「黒子達が必要って、インターハイを簡単に制覇してるじゃん」
赤司の発言に口をはさんだのは、二年で唯一口を開く余裕があった小金井である。
だが余裕が他のものよりあるだけで、その声色は嫉妬などの暗い感情が込められていた。
しかし、赤司にはそのようなことを気にする必要がなかった。
「インターハイか。 それは別に僕達にはどうでもいい話だよ」
「どうでもいいって……」
「アメリカという世界の強豪国と渡り合うには、幾らでも力が必要というわけさ。 実際、控えのメンバーの強化のために洛山の無冠の五将達にも転校を勧めている」
赤司にとって、インターハイは準備期間である。
新たな技術、戦略を確かめる試験会場と言ってよかった。
相手のベンチにいるのはあまり良いことではない。
審判の眼に気がついた赤司は黄瀬を引っ張って黒帝ベンチへ向かう。
「と、長話をするわけにはいかないね。 うちのメンバーが迷惑をかけた」
「じゃあ、黒子っち。 試合終わったら後で話聞くっスね」
こうして赤司達は去って行った。
その後、第四クォーターが始まり、誠凛はハーフラインを一度も超えることなく、赤司達の猛攻に屈した。
最終スコア 201対44。
赤司達は圧倒的な力を見せつけ、インターハイの頂点にたどり着いた。
思いついた赤司様のチート技を詰め込んだ話になりました。
恐らく次回が最終回です。
ぜひ、見ていってください