チートが過ぎる黒子のバスケ   作:康頼

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青峰無双の回です。


魔槍ガ・ジャルグ

 第一クォーターを終え、ベンチに戻ってきた赤司に、青峰がドリンクを投げ渡す。

 

 「ちっ、赤司。 負けてんじゃねぇか」

 「試合を見ていただろう? いくら僕でも無理さ」

 

 そういう赤司だが、無理というわけではなかっただろう。

 赤司ならば一瞬の隙をつくことも、堂々と抜けることも可能だった。

 が、赤司はその選択をしなかった。

 

 「ち、まだあの『眼』は解放していないんだろう?」

 「あれは流石に消耗が激しいんでね。 後半から使わせてもらうよ」

 

 赤司はタオルで汗を拭きとりながら答える。

 『眼』は消耗が激しい。

 ゆえに赤司は種をばら撒いた後の、後半で使うつもりであった。

 新たな布陣と、とっておきの策略と共に。

 

 青峰と話していると、黄瀬がニヤニヤと笑みを浮かべて口を開く。

 

 「赤司っち、ぼこぼこじゃないっすか?」

 「中々面白かっただろう?」

 

 赤司の言葉に、欠伸を繰り返す紫原がやる気のない声で答える。

 

 「笑えるけどー、控え四人の雑魚具合がムカつく」

 「あと、顧問だな。 あれは五月蠅すぎるのだよ」

 「実際指示とか送らないで、ただ『いけっ!!』とか『そこだっ!!』とかしか言ってなかったっすからね」

 

 紫原の意見に同意するように、緑間と黄瀬も呆れたようにベンチの端で話している顧問と残りの四人の控え達を見ていた。

 頑張れなど、反応を早く、という曖昧なアドバイスしか送らず、戦術対策など全く口にしていなかった。

 だがそれも赤司の予定の一つだった。 

 

 「これで、学校への土産ができたよ。 『インターハイ優勝校にあの顧問は相応しくない』という報告がね」

 「すげーめんどくさかったっスね。 高校のバスケ部に入ってから一番疲れたっスよ」

 

 赤司は、黒田帝興高校に来て、まず一番最初に考えたのは顧問の排除である。

 最初の頃は、何も言わなかったので放置していたが、インターハイを勝つ抜くにつれ、傲慢になりつつある山田顧問は、赤司にとって悪害でしかない。

 来年度から名将と呼ばれる監督を引き込みたいと思っているので、山田顧問にはこの大会でサヨナラをしてもらうつもりだった。

 そのために黄瀬に、試合のビデオを取ってもらうように見せかけて、控えの四人の使え無さと顧問の無能を撮り続けていたのだった。

 

 「まあ、山田先生にも他の四人にもいい思い出話ができてよかったじゃないか。 来年以降からは全て僕に任せてもらうが」

 

 今年一年は―――というより赤司自身それなりの指揮はできるつもりなので、監督自体は不要だった。

 赤司達は特にゲーム運びについて話すこともなく、第二クォーターの時間が迫っていた。

 

 「おっ、第二クォーターが始まりそうっすね」

 「さて、では青峰、予定通り頼むよ」

 

 時計を見ていた黄瀬の隣に座った赤司の代わりに、コートに立つのは青峰である。

 そんな青峰を見て、黒子は一瞬目を見開く。

 

 「っ?! 青峰君……」

 「よう、テツ」

 

 青峰が黒子に何でもないように返事をすると、黒子は黒帝ベンチに視線を向けた。

 

 「赤司君が下がりましたか」

 「ああ、第二クォーターは俺が自由に動かせてもらうぜ」

 

 赤司が出ないことが意外だったのだろう。

 だがすぐに気持ちを切り替えた黒子が、青峰に鋭い視線を向けるとその背後から―――

 

 「よぅ、お前が青峰か」

 「誰だてめぇ?」

 

 火神が現れた。

 元相棒と現相棒の出会いだったが、火神と違い青峰の反応は冷めきっていた。

 

 「キセキの世代で一番強いのがお前なんだろ?」

 「はぁ……なんだこいつ」

 

 キセキの世代エースと戦えることに喜びを感じているのか、好戦的な笑みを浮かべる火神に、青峰は呆れたようにため息をついた。

 

 「強い? キセキの世代? その時点でお前に興味はねぇよ」

 

 それだけ言うと青峰は自陣へと入り、黒子達も戻る。

 そして第二クォーターが始まって三十秒。

 青峰にボールが渡り、その前には火神が立ち塞がった。

 

 「ちょうどいい、せっかくだから見てやるよ」

 「っ止めるっ!!」

 

 新旧相棒対決は、あっさりと終わることになる。

 青峰の鋭いドリブルで、火神を置き去りにした。

 

 「はい、よくがんばりましたってか」

 「な」

 「お前、びっくりするほど淡いわ」

 

 火神を抜き去った青峰の進撃は止まらない。

 目の前に立ち塞がった日向と伊月、水戸部を前にしても余裕の笑みを崩さない。

 

 「三人がかり……いや」

 「くっ」

 

 後方からの黒子のスティールをかわし、青峰はゆっくりとボールをつき始める。

 

 「テツ、俺にはきかねぇよ。 それに四人だろうが、俺には無意味だ」

 

 緩和からの急激な速度変化、そしてトリッキーなボール扱いにより、一瞬のうちに黒子達の包囲から抜ける。

 

 「な、なんだアレは!!」

 「四人同時抜きっ!!」

 

 あっさりとゴールを決めた青峰に、観客の歓声が集まる。

 そんな中、黒子は昔以上にキレている青峰に、驚きを隠せなかった。

 

 「『変則ドライブ』ですか」

 「まあ、これは序の口だ」

 

 誠凛ボールとなり、受けとった火神はカウンターを仕掛けるが、その前に一瞬で追いついた青峰が立ち塞がった。

 

 「くそっ!!」

 「お、火神だっけ? どうだ、試してみるか?」

 「ぶち抜いてやるよ!!」

 

 火神は青峰にも劣らない鋭いドリブル突破で切り抜けようとするが、既にボールは宙を舞っていた。

 

 「馬鹿かてめえ、軽い挑発に乗ってどうする?」

 「青峰君っ!!」

 

 火神から奪ったボールをつき、再び誠凛ゴールへ向かう青峰に、黒子が立ち塞がる。

 そんな黒子を見て、青峰は一呼吸、間を置いた。

 

 「テツか、ちょうどいい。 お前に見せたいものがある」

 「え」

 

 その瞬間、青峰は黒子の横を抜け、シュートを放ってゴールネットを揺らした。

 その間、黒子は足を縛られたかのように、その場で立ち尽くしていた。

 

 「何これ……」

 

 そう漏らしたのは誠凛ベンチで試合を見ていたリコである。

 その隣では青峰らしからぬプレーを見た桃井が声を上げることもできず、リングを潜ったボールを見ていた。

 

 「すげぇ何か見惚れちまった」

 「今、二回シュートしなかったか?」

 「馬鹿、今のは二回シュートしたんだよ」

 

 歓声は起きなかった。

 だが、あちらこちらでざわめく声が聞こえ、大半の人間は青峰のプレーに見惚れてしまっていた。

 それは観客だけではなく、誠凛ベンチも同様だった。

 

 「シュートフェイント後にドライブ、そしてシュート」

 「言葉通りなら簡単なプレーよ。 けど、今のはまるで別物よ」

 

 まるで―――舞踊のようだ。

 リコの言葉に、桃井は思わず唾を飲む。

 幼馴染であるゆえに桃井は、青峰のことを理解していた。

 ゆえに彼の進化が末恐ろしく感じた。

 

 突然湧き上がる歓声の中、黒子は眼を見開いて青峰を見る。

 

 「青峰君、それは」

 「あれから少し練習をしてな……」 

 

 青峰が行った練習、それは基礎の練習だった。

 変幻自在の無軌道ドリブルに大きな欠点があるとするならば、それはスタミナ消耗だろう。

 そもそも急停止からの加速や変速の切り替えと体力を消耗するプレーが多く含まれており、言うならば古武術バスケの逆である。

 青峰と言えど、高校一年。 体はまだ完全には出来上がっておらず、無理をすれば壊れてしまう。

 そこで、赤司は考えた。

 青峰のプレースタイルをもう一度見渡すべきだ、と。

 

 そこで練習をさぼって怠けていたことを含め、基礎を徹底的に磨き上げ、体作りと体力上昇に時間を注いだ。

 シュート、ドライブ、パス、フェイント、バスケの基本を徹底的に、だ。

 その指示に青峰は従順な程に行った。

 黄瀬という存在が、青峰の意識を変えたのだった。

 黙々と基本だけを行う日々。

 そんな日々を繰り返していくうちに、青峰は自分の体の変化に気がついた。

 そしてプレーにも影響が出始めた。

 黄瀬の完全コピーを、完璧に上回ったのだ。

 トップスピードが上がった。 切り返しがよりスムーズになった。 ボールが吸いつくようになった。 前ほど疲れなくなった。

 そして―――バスケの楽しさを思い出した。

 試合に勝つことが嬉しかった。

 だが、それ以上にシュートを撃つことが、パスを出すことが、フェイントができることが、ドリブルができることが、リバウンドができることが―――ボールを触れているだけで楽しかった。

 バスケをしていることが楽しかった。

 

 そして、青峰は黄瀬を抑えて絶対エースとして君臨した。

 元々のプレースタイル変則式フリースタイルの『動のドリブル』と、基本を抑えた正典のような『静のドリブル』を手に入れたのだった。

 

 青峰のプレーに誠凛に動揺が走り、ファンブルしたボールを青峰が奪う。

 

 「青峰君っ!!」

 「で、だ、それを組み合わせると」

 

 その瞬間、青峰の体がブレ―――二人になった。

 ただ茫然と立ち尽くす黒子を抜き去り、青峰は無人のゴールへボールを叩きつけた。

 

 『無限疾走(インフェニティドライブ)

 『動』と『静』を合わせて造られた青峰だけのドライブ。

 『動』のプレーの特性である無軌道さと緩急に、『静』のプレーで培った無駄の削り、滑らかな動き、体力の消耗を抑えた青峰の新技。

 それは何人ともに止められない絶対的ドライブであり、仕掛けられたものには青峰が二人に増えたように錯覚する超高速フェイントと切り返し、ドライブを組み合わせたものであった。

 

 『青峰大輝 神速への道』

 

 これが青峰のゾーンを除く全力プレーだった。

 火神を抜き去り、黒子を振り切り、伊月と日向の間を滑り、水戸部を股を抜く。

 そして戻ってきた火神すら空中でロールしてかわし、ゴールリングにボールを叩きつけた。

 スコア 10対32。

 じりじりと黒帝が追いつき始めた。

 

 青峰の真価は敏捷性である。

 ゆえにディフェンス面でもその効果を発揮する。

 

 「だから、遅ぇって」

 「しまっ」

 

 黒子のパスコースを読み切っていた青峰が、火神から奪うと一瞬のうちに誠凛リングに襲いかかる。

 

 「すげっ!!」

 「青峰一人で、追いついてやがるっ!!」

 

 観客の言う通り、青峰はオフェンスもディフェンスもほぼ一人で行っていた。

 ゆえに失点を許してしまうこともあるが、完全に青峰の得点力と誠凛五人の得点力では、青峰が上回っていた。

 その後も青峰はコート中を縦横無尽に駆け、誠凛ゴールを襲い続けた。

 スコア 39対44。

 第二クォーターを終え、得点差はたったの五点差。

 

 「まあ、とりあえずはこんなもんだろ」

 「そうっすね。 完全に追いついていたらこっちが楽しくないっすもん」

 「まあ、五点差なんぞないに等しいものだよ」

 「あーやっと出番?」

 「さて、いこうか」

 

 後半、ついにキセキの世代のベールが脱がれる。

 




あと誠凛戦が二話と最終回で残り三話でございます。
皆様の感想は読んでいます。
返信はネタバレ等もございますので、完結後に返信しようと思います。
七月完結目指します。

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