第一クォーター三分を終えて、ゲームを優勢に運んでいたのは誠凛だった。
だがスコアは6対12と、完全には流れを奪ってはいなかった。
キセキの世代が投入されていない今で、大差を奪うしか誠凛には勝つ方法はない。
だが、流れが乗れそうなポイントで、赤司が確実にぶった切ってくるのだった。
その様子を見ていたリコが、最初のタイムを取った。
汗を拭き、ドリンクを飲むメンバーに気負いや疲れは感じさせなかった。
「流石はキセキの世代の司令塔ね。 うまく人を使っているわ」
「ああ、確かにな。 他の四人のプレッシャーはまったくねぇ。 実際、あいつらがミスをしていなければ、もっと競ってたはずだ」
スコアも流れも完全に誠凛のはずだった。
だが、赤司の冴え渡るアシストにより黒帝に得点を許していた。
言っては悪いが残り四人の弱小メンバーで、得点を許したのは赤司の存在のせいだろう。
だが、それ以上に問題なことがあった。
先程から黙りこんでいる火神である。
「火神君、赤司君へ領域に入るようなプレーは禁ずるわ」
「けど、あいつを倒さないことないはっ!!」
火神はあえて赤司に挑戦するために抜きにかかった。
だが、二本とも赤司に阻まれ、失点を生む結果となった。
強い奴と戦いたい、エースである火神の想いと誇りがこの場では悪循環となっていた。
「バスケはチームでやるものよ。 個人の勝敗で決まるものではないわ」
「僕も監督さんに賛成です。 赤司君の眼は完璧ですし、彼の領域に入ることは得策ではありません」
リコの判断と指示に、黒子も賛同を示す。
赤司は他の四人に比べて身長や身体能力が低い。
それゆえに守備範囲だけならば、最強の盾である紫原に劣る。
だが、赤司の眼の届く範囲では敵はいなかった。
つまり、赤司を1ON1で抜こうとすること自体が自殺行為である。
「そうね。 単体で戦って初めて彼の真価が理解できたわ。 向こうもあのメンバーで負ける気はさらさらないんでしょうね」
舐められて控え四人を入れていたが、もしかすると赤司本人はそれで抑えるつもりだったのかもしれない。
リコの言葉に皆が頷く中、一人黒帝ベンチを見ている者がいた。
ただ疑惑の眼を向ける―――桃井に黒子は声をかける。
「桃井さん?」
「えっと、少し気になることが……」
「どうした?」
何か気になることがあるのか、珍しく困惑している桃井に日向が尋ねると、桃井は説明を始めた。
「彼のプレーが私の想定通りなんです」
データ取りのスペシャリスト、相手の成長すら読みとる桃井の眼力は、キセキの世代も認めていたほどである。
ゆえに、その事実は別に可笑しいものではなかった。
そのため、小金井が不思議そうに口を開く。
「え、っとそれは桃井のデータ取りが完璧だったってことじゃないの?」
「いえ、他の四人は明らかに私の想定以上のレベルアップをしていました。 それなのに赤司君だけ当てはまることに違和感があります」
「あと、僕も少し気になることがあります」
桃井と同様に黒子も一つ気になったことがある。
「ベンチにいる四人が大人しすぎます」
置物のように静かに試合経過を眺める青峰達。
その姿はまるで―――
「観察?」
「恐らく、赤司君の指示だと思います」
でなければあの四人が大人しくしているはずがなかった。
もしかすると、控え四人が出てきたのには、他にも意味があるかもしれない。
黒子には赤司の深謀を読み切ることはできない。
だが、それでも一つだけ言えることがある。
「彼は何か恐ろしいことを企んでいるかもしれません」
・ ・ ・ ・ ・
タイムを終え、誠凛に動きがあった。
赤司の前に伊月が、後方には黒子がつき、周囲では日向が様子を見ていた。
赤司封じ。
第一クォーターは全て赤司が得点に絡んでいた。
つまり、赤司さえ封じれれば、他の四人は何もできなくなる。
誠凛達の戦術に赤司は笑みを浮かべる。
「なるほど、そう来たか」
「はい、赤司君には仕事はさせません」
視野の広い伊月で、動きを捉え、影である黒子が障害になる。
それだけでは赤司を封じることはできないが、間違いなく抑えられていることに間違いない。
一定の距離を保つ日向が最後の防衛ラインだった。
一人に常に二人から三人がつく大胆な布陣。
リコはこの布陣が嵌まっていることに、思わず頷く。
「あのチームは赤司君がいて成り立っていたもの。 ならばその支柱を引き抜くと、おのずとボロが出るわ」
「赤司君にボールを触れないようにすること、それだけで相手の得点源は奪える」
リコと桃井の思惑通りである。
しかし、そうなると黒帝控え四人を火神と水戸部で相手しなければならないが、そちらに至っては問題はなかった。
「しゃあっ!!」
火神は間違いなく天性の素質を秘めている誠凛のエースである。
万年一回戦敗退の予備メンバーが相手になる相手ではなかった。
「火神くんに任せます」
「並みの選手では彼を止めることはできないようだな」
「なるほど、『
黒子と伊月に囲まれ、赤司は第一クォーター中一度もボールを触れることがなかった。
まるで既にやるべきことを終えたかのように。
その姿は、黒子には不気味に見えた。
時計の針は刻一刻と動き出し、そして第一クォーターを終えた。
スコア 6対32。 誠凛優勢で終えた。
「けど、これは予定通りさ」
ベンチに下がる際に、赤司がそう言ったことに誰も気づかなかった。