チートが過ぎる黒子のバスケ   作:康頼

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名剣フローレンベルク

 準決勝は終わった。

 インターハイの覇者を決める戦いは、黒田帝興高校と誠凛高校となった。

 奇しくも帝光中学にて、共に汗を流した者同士の戦いとなった。

 

 そして今日、その戦いに幕が開ける。

 

 

 「よっしゃっ!! 今日もやるっすよ!!」

 

 試合が待ちきれないのか、控室でスクワットを繰り返す黄瀬に、赤司は携帯を手放して話しかける。

 

 「涼太、随分ご機嫌じゃないか?」

 「そりゃそうっすよ!! 相手は黒子っちっスよ?! 燃えるに決まってるっす」

 

 友である黒子と試合できることが嬉しいのだろう、普段以上に能天気な黄瀬を、青峰は鼻で笑う。

 

 「はっ、ガキかよ」

 

 普段通りのニヒルな笑みを浮かべる青峰だったが、額には大量の汗を滲ませていた。

 既に臨戦態勢な青峰を見て、今度は黄瀬が鼻で笑い返した。

 

 「何言ってるんスか、青峰っちも今日は、既にばっちりアップしてきてるじゃないっすか」

 「ああ?! 俺は、第二クォーターから出るから早めにしてただけだ!!」

 

 黄瀬にからかわれた青峰は大声を挙げて反論する。

 が、そもそも、第二クォーターから出るならば第一クォーター中にアップをしておけばいい話であった。

 つまり、青峰も黄瀬同様に元・相棒との対決を楽しみにしていたのだった。

 

 じゃれ合うように絡み合う二人に、今度は緑間が呆れた視線を向ける。

 

 「ふう、馬鹿が多すぎるのだよ」

 「そういう緑間っちが一番馬鹿っすよっ!!」

 「何デケェもの持ってきてんだ」

 

 緑間だけには言われたくない、と二人は控室の隅に視線を向けてそう言った。

 だが、当の本人の緑間はどこか得意げに眼鏡のつたに指をかけて持ち上げる。

 

 「ふ、今日のオハスタのラッキーアイテムは信楽の狸なのだよ」

 「で、順位は何位だったんだ?」

 「……5位だ」

 

 赤司の突っ込みに、緑間は気まずそうに口を開く。

 そして緑間の危惧したとおりに、二人は動き出す。

 

 「微妙っ!! 何かそれなら最下位とかの方が面白かったっす」

 「だから、眼鏡はつまらねぇっていわれんだよ」

 「占いに面白いもないのだよっ!! あと青峰、お前はいい加減にするのだよ!!」

 

 緑間に口撃を仕掛ける青峰と黄瀬に、緑間も応戦するが戦況に変化が出ることはなかった。 

 

 「けど、この置物三体持ってきて現れた時、色々と心配したっす」

 「ああ、主に頭とかな」

 

 黄瀬と青峰の視線の先には、信楽の狸―――三体が控室の隅で陣取っていた。

 青峰の心配もそうだが、緑間自身、今日の占いを気にしていたことになる。

 だが緑間がそんなことを認めるはずもなく、ベンチに持っていく用の手のひらサイズの信楽の狸を握りしめて口を開く。

 

 「上等なのだよ。 今日の試合が終わったら、いい加減決着をつけてやるのだよ」

 「は、それはこっちの台詞だ。 いい加減その眼鏡をかち割ってやるぜ」

 

 青峰の眼鏡に対する執着は置いておくことにした赤司は携帯で時間を見た。

 

 「時間だ」

 

 騒ぎで五月蠅かった控室が一気に静まり返る。

 赤司が周囲を見渡すと、既に戦闘態勢に入った最強の四人のパートナーがこちらに視線を合わせてきた。

 そんな彼らの頼もしさに赤司は思わず笑みを溢す。

 

 「さて、まずは日本一だ」

 

 赤司の言葉に四人は頷いた。

 彼らの目標の通過点が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 

 アップを終え、センターラインに集まる両校。

 ベストメンバーを揃えてきた誠凛に対し、黒帝は赤司のみがスタメンだった。

 他の四人の控え選手は、インターハイはおろか、地区予選の決勝も出たことはない。

 ゆえに辺りをキョロキョロと見渡したりと、落ち着かない様子だった。

 黒帝ベンチには顧問らしき男が、奇声のような大声を上げていた。

 

 そんな黒帝を見て、火神は舌打ちをうつ。

 伊月も日向も内心舐められていることに怒りを感じているだろう。

 だが、黒子はそんなことはどうでもよかった。

 目の前には、約束を交わした赤司がいた。

 

 「テツヤ、こうして君と戦えるとは感慨深いよ」

 「僕もです。 赤司君」

 

 手は交わすことはない。

 赤司と黒子が行うべきことはそんなことではなかった。

 互いの理想をぶつけ、打ち砕くことであった。

 

 ジャンプボールを行われるの、火神と、黒帝控え三年の元キャプテン須藤である。

 絶対的なジャンパーである火神に対し、背だけが高い須藤では勝ち目がなかった。

 

 「おらっ!!」

 「うおっ」

 

 あっさりと火神がボールを叩き落とすと、ボールをキープしたのは誠凛ポイントガードの伊月である。

 伊月の前に立ち塞がったのは、いち早く反応した赤司。

 だが、すでに伊月はバックパスを終えていた。

 

 「いきます」

 

 伊月の後ろから現れた黒子の秘技が炸裂する。

 『加速する(イグナイト)パス』

 キセキ世代しか取れなかった超高速パスである。

 

 「なんだ、あのパスはっ!!」

 「早ぇっ!!」

 

 コートを横断するパスに観客が沸く。

 そんなパスの受け手となったのは火神だった。

 ボールを受けとった火神の前に立ち塞がったのは、黒帝三年、樫咲と漆原である。

 だが、火神は冷静にボールを日向へと回し、フリーとなっていた日向がシュートを放つ。

 

 「おしっ!!」

 

 「先制は誠凛だっ!!」

 

 黒帝の地区予選からの無失点記録はここで途切れた。

 と同時に誠凛は初めて傷をつけたチームとなった。

 

 その事実が黒帝控えメンバー四人を焦らすことになる。

 早々とボールを出した須藤から、漆原へとボールが渡る。

 そんな不用意にプレーに、赤司が声を上げる。

 

 「っ! 後ろだ」

 「え」

 「悪いですが、逃げ切らせてもらいます」

 

 現れたのは黒子であった。

 一瞬のうちに現れた黒子が漆原からボールをスティールすると、そのままボールを大きくバウンドさせた。

 

 「だらっ!!!」

 

 それを空中で受けとった火神は、そのままゴールへとボールを叩きつけた。

 それは一瞬の出来事であった。

 変則アリウープを決めた火神は、火の灯った熱い視線で赤司を睨みつける。

 

 「舐めんじゃねぇぞ、キセキの世代」

 

 宣戦布告、だ。

 そう言うかのように、火神は悠々と自陣へと戻る。

 そのそばには影となる黒子。

 

 「ふ、なるほど。 イグナイトを取れるものがいたとはね」

 

 イグナイトを取れるということは、キセキの世代級なのだろう。

 そう―――所詮はキセキの世代級なのだ。

 

 想定よりは上だが、理想には満たない火神のプレーを読み切った赤司が動く。

 リスタートした漆原からボールを受けとると、赤司は悠々とそして堂々とした動きで、センターラインを横断した。

 

 「が、特に支障はない」

 

 スローペースから一転、ハイスピードへと切り替えた赤司は、油断していた火神をぶち抜くと、そのまま誠凛ゴールへと向かう。

 そんな彼の目の前に現れたのは、日向と伊月である。

 しかし、赤司にはその程度は無意味であった。

 

 「跪け」

 「なっ!」

 「っ!」

 

 『アンクルブレイク』

 日向と伊月の足場を崩した赤司は、悠々とゴール前に斬り込んでいく。

 そして最後の壁となった水戸部の足元を抜くように叩きつけられたボールを受けとった二年、朱鷺堂のレイアップがゴールネットを揺らす。

 

 「一つ、教えておこう。 この状態でも易々と第一クォーターを渡すわけない、と」

 

 華麗なまでのゴール演出を決めた赤司は、不敵な笑みで黒子を見た。

 第一クォーターも試合も始まったばかりである。

 こうしてインターハイ決勝は、始まった。

 


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