チートが過ぎる黒子のバスケ   作:康頼

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神剣アメノムラクモノツルギ

 予選が始まって数日。

 洛山高校バスケ部は、今日も視聴覚室に集まり、モニターの向こうの映像を眺める。

 黒田帝興学校。

 キセキの世代、五人全員が入学した―――弱小高校であった。

 そう、黒田帝興高校が既に弱小高校ではない。

 京都最強の一角であり、インターハイ覇者洛山高校の地位を脅かす新世代の暴君である。

 

 「ふむ、凄まじい攻撃力だな」

 

 モニターを見てそう呟くのは、洛山高校を何度も表彰台の一番上へと上げてきた名将、白金永治である。

 普段は冷静で揺るがない彼だが、額には冷や汗を滲ませていた。

 それも無理もない話である。

 全員が超エース級で、最強の矛を持っている。

 故にダブルチームなどのエースを防ぐ布陣は意味を為さず、黒田帝興高校――黒帝と対峙した時、1ON1で対処しなければならなくなる。

 だが、それこそ自殺行為になるだろう。

 

 「……全く、ここまで見せつけられると、シューターとして自信を無くすわね」

 

 キャプテン実渕は、最強シューター緑間のプレーに力無く笑みを溢す。

 ハーフライン、エンドラインとコート全域から決めることができるオールレンジショットだけではなく、シュート時の溜めという弱点を無くしたジャンプ後のオールレンジショットという神業も身につけていた。

 

 「それより、この紫原って人間辞めているだろ? 何回ゴールポストを壊してるんだよ」

 

 目の前で紫原が起こした惨事の映像を流され、センターの根武谷は顔を青くさせていた。

 自身より巨大なセンターすら今まで返り討ちにしてきた強固な体を持つ根武谷だが、自身より動きが早く、そしてパワーもあり、身長もある化け物と対峙したことはない。

 ボールを空中で掴む握力も驚きだが、それ以上にゴールポストを二度も破壊する力は既に人間の範疇を超えていた。

 

 「うわっ、俺のドリブル既にコピーされてるし……しかもこの動きって青峰ってやつのじゃん」

 

 強敵と戦うことに喜ぶ葉山ですら、目の前の相手には完全に腰が引けていた。

 葉山の眼に映るのはキセキ世代の天才、黄瀬である。

 葉山の得意のドリブルを完全にコピーし、青峰の変幻自在のプレーに組み込んでいた。

 それだけではなく、緑間のシュートなども既に手に入れた黄瀬は、間違いなく最強のプレイヤーとなっていた。

 

 「三人だけではない。 赤司と青峰もまるで怪物だな。 特に青峰は試合をするたびにキレと速度、正確さが増してきている。 たった一人で相手の五人全員を40分相手にできるほどに、な」

 

 キセキの世代のエース、青峰の力は健在だった。

 確かに黄瀬という新たなエースが生まれたが、その成長にも勝るとも劣らない速度で、青峰も強くなっている。

 コートから遠く離れた場所で撮影した映像ですら、青峰はブレて見えていたので、対峙すれば間違いなく青峰が二人、三人に見えてしまうだろう。

 残る赤司だが、特に見せることもなく淡々とプレーをこなしていた。

 だが、それでも随所でのパスやインターセプなどで、完全に相手の流れを切っていた。

 間違いなくキセキの世代の中心にいるのは赤司という王なのだろう。

 

 この時、洛山高校バスケ部の人間は誰もがこう思っていた。

 

 洛山は黒帝には勝てない、と。

 

 モニターでは三戦目の試合が終わっていた。

 最終スコアは250対0。

 一戦目、二戦目と同様のスコアであった。

 この事実を意味することは、黒帝は完全に試合を掌握しているという事実であった。

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 インターハイ予選、最終戦を迎えた前夜。

 赤司は寮の部屋で一人、パソコンの前に立っていた。

 趣味のネットサーフィンを行っていたわけではない。

 赤司は東京のインターハイ予選の結果を見ていたのである。

 

 誠凛   104対100 桐皇

 泉真館   89対 55 鳴成

 

 誠凛   111対 85 泉真館

 桐皇   121対 74 鳴成

 

 誠凛   131対 75 鳴成

 泉真館   68対 91 桐皇

 

 決勝リーグ結果。

 優勝 誠凛高校。

 

 「やはり、テツヤ。 僕の前に立ちはだかるのは君だったようだね」

 

 キセキ世代幻の六人目にして、赤司とは師弟関係にあり、袂を分れた同士。

 黒子テツヤのことを思い、赤司は声を上げる。

 電気のついていない部屋で一人、赤司はインターハイに照準を合わせていた。

 

 

 赤司が一人高笑いをしている頃。

 残る四人は、黄瀬と青峰と紫原の三部屋でトランプを興じていた。

 

 「くわっ!! やられたっす。 革命っす!!」

 「てめぇ、革命なんて汚ねぇ手を……」

 「馬鹿は貴様らなのだよ。 切り札というものは最後まで取っておくものなのだよ」

 

 悲鳴を上げる青峰と黄瀬に、緑間は頬を釣り上げる。

 脳筋コンビには、頭脳プレーは向かないのだよ、そう高らかに緑間が宣言しようとした瞬間、

 

 「じゃ、革命返し~~」

 

 紫原の手により、地獄へ叩き落とされた。

 いち早く上がった紫原に続き、青峰、黄瀬も一気にあがっていく。

 

 「よっし!! 罰ゲーム回避だっ」

 「俺もっす」

 「ば、馬鹿な……」

 

 一瞬で最下位となった緑間に、青峰と黄瀬がマジックを片手にじりじりと近づいていた。

 

 「黄瀬、肉の字は俺に任せろ」

 「じゃあ、俺は髭と目のクマを書くっす」

 「や、やめるのだよ!! 明日は早いのだよ!!」

 

 あーっ、と悲鳴を上げる緑間の横で、紫原はお菓子を口に運びながら、携帯を眺める。

 

 「あ、黒ちん。 インターハイ予選通ったんだ」

 

 おめでとー、と軽い気分でメールの返信を行った。

 こうして赤司達は、予選決勝の朝を迎えた。


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