とある六位の無限重力<ブラックホール>   作:Lark

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謝恩

 

 

 

 日がたつにつれ日差しが段階的に順調に強まる季節。

 椅子に腰を下ろしていたりゆったりと歩行するには心地よく受け入れられるものだが走行の域に入ればうっすらと汗腺が不快な潤いをもたらしてしまう。シャワーを浴びることを最終的な予定に組み込めば思い切りもつくというものだがそれにはまず服装をふさわしく切り替えることが求められるのだが、現在下手に汚したくない制服を着用中である美影は疲労という領域に到達するには程遠い歩行を続行している。

 一人暮らしである彼は身の回りの環境を自己責任で維持しなければならない。そこで人生に欠かせない三大要素、衣食住の中堅を構える食について頭を働かせていた。

 食事込みの賃貸料を請求する部屋を借りていない彼は一日三食中睡眠欲の影響で欠いてしまう一つを除き、学食でまかなう一つをさらに除いた一食、すなわち夕食を自分で用意しなければならない。

 料理は人並みには可能であると自称する彼はやはり材料の調達も日課に入れている。

 そして今、その活動に勤しもうとしているのだが、

 

(…………、)

 

 スーパーに入る前に財布の中を確認してみたところ、現金のみを換算したところぎりぎり四桁に入りそうであるという懐具合は冷える冷蔵庫の中をほかほかにしてくれるとは期待できない。車程度なら楽々購入可能なほどチャージしているカードはあるのだが現金が不足していると何かと不安になってしまう。

 そこでまずは万能で孕んでいる力が一目でわかる偉人を数名引き攣れるために銀行へと方向転換した。

 

 

 ◆

 

 

 ここ最近、銀行にも冷房が効いてきたため自動ドアをくぐった瞬間若干の肌寒さを美影は感じたが、ほんのりとしたものであって、ものの三秒で慣れた。

 運よく客足も少なく列ができていなかったためすぐさま預金カードを挿入でき、学問をすすめてきそうなお方の分身を五体引き出して銀行をあとにしようとする。

 しかし、美影がちょうど自動ドア手前に差し掛かりあと一歩でセンサーが感知し左右に透明な壁がスライドしようとした瞬間、

 

「オイ手前ら大人しくしやがれ!!」

 

 野太い男の大声が耳に入り、その音源を確かめようと美影が振り向くよりも早く女性の小さな悲鳴がかすかに聞こえた。

 180度体を変えたところすぐさま目に入ったのは早くもタンクトップを採用している上腕二頭筋が豊かな男。そして彼が右手に持っているのは紛れもなく黒光りした拳銃である。

 

(銀行強盗か?)

 

 当たり前の予想をした美影は怯えることはない。たとえ銃口を口に挿入されてもそこにため息を吹き込む余裕が彼にはある。

 

「客は黙ってその場に座っていろ!!」

 

 必要以上に声を張り上げる強盗男は銃口を振り回してこの場にいる全員への威嚇と脅迫を試みた。

 客は次々を腰を下ろしていき、順調に進んでいると男は笑みを浮かべ、次は銀行員への命令を告げようと予定するがここで一つの異常事態が発生した。

 

 一人の少年が、出口へと進もうとしているのだ。

 

「オイ、テメエ!!」

 

「あ?」

 

 不機嫌に返事をしたのは他でもない、美影だ。

 この場でも彼はマイペースを貫こうとして、無関係だと主張したげにスーパーへの移動を開始したのだが強盗としてはそうもいかない。

 

「何出ていこうとしてんだよ!?」

 

「いや、いいかなと」

 

 わざとらしく首をかしげたため、強盗の血管が浮き出る。

 

「訳分かんねえこと言ってんじゃねえ! ぶっ殺されてえのか!?」

 

 男は美影の眉間に銃口を突き付ける。

 歯を食いしばって誡めようとするが美影は圧をかけられた眉間に皺を寄せた。

 不愉快だ、という印ではなく銀行強盗として落第点に近いと美影は評価している。

 まず、なぜ覆面等を被って顔を隠さないのか。監視カメラも万全なこの場での犯罪行為をするのに素顔で振る舞うのは自殺行為そのものである。

 第二に―――

 

「テメエはこっちに来やがれ!!」

 

 フライパンを丸められそうな手に腕を掴まれ、銃口は側頭部に突き付けられたまま美影は連行される。

 銀行のカウンターへとたどり着いた男は従業員に命令した。

 

「適当なバッグに5千万ほど詰め込んで差し出せ!!」

 

 鞄ぐらい用意しろよ、とは流石の美影も言えなかった。

 

 

 ◆

 

 

「第七学区、セブンスミスト付近の銀行で強盗事件発生です!」

 

 第七学区のとあるビルの一角にかまえる風紀委員(ジャッジメント)第177支部でお花畑のような髪飾りをした少女、初春が緊急事態を報告した。

 PCに向かい合っている彼女は目にもとまらぬ速さでブラインドタッチなるタイピングをし、画面に現場の監視カメラの映像を映し出した。

 

「犯人は一人。黒いタンクトップを着用で右手に拳銃。客は10名ほどいますがその内一人が犯人に銃を突き付けられています!」

 

 なるべく早口かつ聞き取りやすく。

 傍らで早急に現場へ向かう準備をしている同僚の白井に状況を伝えた。

 

「分かりましたの。初春はここで待機を。わたくし一人で充分ですので」

 

「気を付けてね」

 

 安全を求めたのは初春ではなく先輩風紀委員である固法だ。

 半年前とは打って変わり、白井の力を認めているからこそ落ち着いた声色で告げられた。

 

「はいですの」

 

 短く返事をした白井は支部から姿を消した。

 空間移動(テレポート)大能力者(レベル4)にまで能力を成長させた彼女は二次元の地面を移動手段にせず、障害物のない空を使う。

 極端に間隔を広げたコマ取りの映画のように姿を見せては消え、最短距離で現場へと突き進んだ。

 

 重度に心配することなく白井を見送ったが、

 

(…………あれ、この人……?)

 

 支部で画面に向かい続ける初春は首をかしげて脳裏にぼんやりと浮かんだ記憶に引きつけられていた。

 なぜなら―――

 

 

 

 ◆

 

 

(う、わ~~……)

 

 人質の役に大抜擢されてしまった美影はぐうの音も出すことなく立ち尽くしていた。

 

(コイツ汗臭っ)

 

 僅かでも冷房の効いた銀行内でなおかつタンクトップ一枚というずば抜けて薄着な強盗男は美影には不快なほど汗を浮かべていた。

 銀行強盗に慣れる、などというのは有るまじき経験則だがそれに当たり前だが当てはまらないらしいこの男は緊張でもしているのだろうか、などと考えている恐怖心から程遠い美影はこの場を片づけてくれる救世主の登場を今か今かと待ち望んでいた。

 その気になれば拳銃ごときを武器にする喧嘩慣れしていそうな不良の討伐など造作でもない美影だが下手に目立つのは彼にとって厳禁である。既に銀行内では2番目に注目の的となっているのだが。

 一秒でも早くとんずらしたい銀行強盗が人質に自分と同じくらいの身長を持つ男子高校生を採用したことを後悔しているとき、一人の少女がどこからか現れた。

 

「風紀委員ですの! 大人しく―――」

 

 右腕に装着させた腕章を左手で引き、プリントされた盾をモチーフにした証を見せつけたとき、白井は言葉を言い切ることが出来なかった。

 

(…………うそん)

 

 その中断と同じ理由で美影は唖然としていた。

 なぜなら、

 

「あ、あなたはあの時の……!!」

 

 以前、郵便局強盗で出会った二人であるからだ。しかも銀行強盗という類似した事件での予期せぬ再開であるためより一層言葉を詰まらせている。

 

「ああ!? テメエ何言ってんだ!?」

 

 役割を果たす前に私用に飛び込んだ風紀委員の登場に男はイラついた。

 ソウダソウダー、という顔を背けた美影の真っ直ぐな棒読みが白井にも届く。

 

「くっ、まさかこのようなことになるとは……!」

 

 言いたいこと、聞きたいことで脳内があふれかえっているが今は風紀委員の一員としての活動がメインである。

 気を取り直し、気持ちを元に戻す。

 

「大人しく投降してください。そうすればまだ罪が軽くなる可能性があるますの」

 

「へっ、いい気になりやがって。こっちには人質がいるっつーの!」

 

 優越感に浸った男は美影に銃を力強く突きつける。

 美影は怯えるのではなく純粋に突き付けられる側頭部の痛みで目を細めた。

 しかし次の瞬間、白井は太ももに装着したホルダーに仕込んだ金属矢に手で触れ、能力を作動させた。

 十一次元の演算に巻き込まれた矢は空間を跨ぎ、男の右手にある拳銃の腹に現れる。送信された地点物体がある場合、物体を押しのけて移動するため矢は拳銃を貫いた形として役割を果たした。

 

「なッ……!!」

 

 まさかの事態に男の顔色が焦りに染まった。

 銃弾の通過地点に障害物があっては暴発を恐れて迂闊に指を引くこともできない。

 鉄塊と化した唯一の武器を失った男は迷いを生じながらも拳銃を投げ捨て、美影を押しのけ、白井へと襲い掛かる。細身の彼女に肉弾戦で敗退するとは微塵にも思えず、彼女を撃退した後はすぐさま逃げ去ろうという応急措置へと切り替えたのだが、

 

「甘いですの」

 

 落ち着いた声を残して男の視界から白井は消える。

 現れたのは男の頭上。

 男が気づく前に白井は後頭部へと全体重を乗せたドロップキックを撃ち込んだ。

 

「がッ!!」

 

 小柄といえどその全身から繰り出される力が一点へと集中すれば威力は甚大であり、衝撃により男の意識はシャットアウトし、床へ体を預ける結果となった。

 

「ふぅ、」

 

 一段落、といった一息を漏らしたのは美影であり、倒れこんだ強盗へと無意識に近づいていた。

 白井は任務を遂行しようと手錠を取り出す。

 強盗男の手か足にでも付けようとするのかと思った美影だがその予想は奇しくも正面から綺麗に打ち砕かれた。

 

「え?」

 

 ガシャン、と金属がぶつかる音を鳴らして行動を制限されたのは美影の左手首だった。

 

「え? ……ちょ、何してんの?」

 

 戸惑う美影に向かい合った白井はお嬢様らしい綺麗な笑みを浮かべるが目がちっとも笑っていない。

 悪魔のように冷静に、白井は緩やかに判決を下した。

 

「あなたにはこの後、わたくしが配属されている支部に同行してもらいますの。勿論、逃げ出したりなどしませんわよね?」

 

 勿論、という単語を強調した白井の意識は白目をむいた強盗には避けられていない。

 どうしたものかと美影は考えた。

 手にかけられた手錠はどうにでもなる。しかし、一連の事件は監視カメラにハッキリと保存されているだろう。つまり、顔は割れてしまった。しかも今は長点上機学園の制服姿。手がかりは十二分で逃げ出しても一日かからず足がついてしまう。

 なので、

 

「…………はい」

 

 肯定するほか道はない。

 

 

 ◆

 

 

 流石に手錠はすぐに解除されたのだが、逃がしまいと白井は美影から2メートルと距離を置かず最低視界の端には入れ続けることで精神的なダメージを与え続け、無事に風紀委員第177支部への連行を果たした。

 まさか強盗犯を警護員に引き渡すことなく配属支部で事情徴収するとは思わないが、白井が一人の男子学生を連れてきたとき、初春は目を丸くしていた。しかし、見慣れない少年の顔を見た瞬間、口を半開きにして頭上の髪飾りにも負けない笑顔を無意識につくっていた。

 

(……うわーいい笑顔)

 

 と、直視できないほど眩しくて軽くひるんだ美影は愛想笑いを振る舞うしかなかった。

 座らされて、今日、半年前と二つの強盗事件に関する尋問が行われた。

 

「……、大体の事情は分かりましたの」

 

 用紙にペンを走らせた白井は辻褄のあう質疑応答に文句のつけようは見当たらないことは認める。

 

「ところでもう一度お聞きしますが、」

 

 ただ一点、腑に落ちないひとつの項目が存在していた。それはテーブルに置かれた用紙の上部にある基本的事項。

 

「あなたの()()()を、どうして教えていただけないのでしょうか?」

 

 白井や初春が半年間追い求めていた情報であり、この場においても最初に尋ねた項目であるのだが美影は頑として答えていないのだ。

 

(…………はぁ、)

 

 声に出さずため息をついた美影は、勿論名乗ることなくこの場を立ち去れるとは思っていない。

 しかし、目の前の少女白井黒子を、より正確には彼女が来ている制服を見てしまうと気が進まないのである。

 名門常盤台中学。

 そのエースとして先輩後輩問わずに羨望のまなざしを向けられているのは常盤台の超電磁砲(レールガン)こと御坂美琴、すなわち美影の妹だ。

 御坂の名を発してそこに触れない生徒は常盤台中学にはいないに違いない。

 つまり美影は、ちやほやされたくないのである。

 

 ただでさえ超能力者(レベル5)序列第3位の兄であり、それどころか彼自身も同じ強度(レベル)を持っているのだ。どんな言葉をかけられるのか分かったものではない、と贅沢な鬱気味になる美影は正直後ろから向けられ続けるお花畑少女の視線が物凄く痛い。

 正義のヒーローが現れた瞬間の少年に匹敵する彼女の眼差しは後方200メートルからでも寒気が走る威力がある。

 

(……はぁ、)

 

 今度は諦めの意を込めて無音で息を吐く。

 そして、

 

「名前は―――」

 

「黒子ぉーー、ヒマだから遊びに来たわよーー」

 

 甘受したのにも関わらず訪問者である少女の声によって遮られたことに美影はもどかしくは感じなかった。

 それ以上に、監視カメラでタイミングを見計らっていたかのような声の主の登場に頭の中が活動を放棄する。

 

(この声は……)

 

「この声は……!!」

 

 のどの奥で止め切った美影とは裏腹に目の前の白井は体ごと音源へと向けて歓喜の声を漏らした。

 白井は立ち上がり、わざわざ空間移動をして支部の入り口へと身を動かす。

 

「お姉様ぁ~!」

 

(お姉様!?)

 

 まさかの呼称に不意を突かれたように美影の口がわずかに開く。 

 初春と固法は見慣れているため愛想笑いと呆れが混合した心境になり、いつも通りかける言葉がない。

 

「なっ! いきなり空間移動して出てくるんじゃないっていつも言ってんでしょうが!!」

 

 少女の拳から繰り出された衝撃を象徴する凄まじい音と白井の快感を具現化したにやけ顔が美影の横を通り過ぎる。それはまさしく神様の悪戯のように網膜に映り、常盤台のお嬢様も捨てたものじゃないと考えた者は白井と同レベルの性癖の持ち主に違いない。

 美影を一瞥した固法は先輩としてこのやり取りに終止符を打つことにする。

 

「御坂さん、今お客様もいるんだからそういうことは他所でやってね」

 

「え? 嘘っ―――」

 

 人並みに羞恥心があったらしい、格闘家も真っ青な右ストレートをかました張本人、御坂美琴は支部に入りソファに座る人物に視線を向ける。

 顔を赤らめてしまうほどの奇行であったのだがソファで頬杖をついていた少年の顔を見た途端、態度と声色を変えた。

 

「な、何で美影がここにいるのよ!?」

 

「え?」

 

「御坂さん!?」

 

 固法と初春は予想外の言葉を発した美琴に目を見張る。

 

「お姉様!? なぜこの殿方を知っていますの!? ま、まさかまさかこのかたとあ―――」

 

 またしても妄想が爆発し始めた白井を何とか止めようと美琴は真実を発表した。

 

「違うわよ!!」

 

 必要以上の大声による制止は何を意味するのか。

 一泊おき、

 

「こ、コイツは、……私の実の兄なのよ!!」

 

「「「えええぇぇぇぇええエエエ!?」」」

 

 三人の少女が見事に驚嘆をハモらせて支部に響かせる。

 耳が痛むほどの大声に美影は表情を変えることはなかったが、妹の全力発言に眉を寄せる。

 

「御坂さんお兄さんがいたんですか!?」「今までどうして黙っていたの!?」「ま、まさかわたくしを救ってくださった方がお兄様だったとは!!」「え、え、ええ?!」「よく見るとちょっと似ているかも」「これもわたくしとお姉様の運命ぃっ!」「あの時のヒーローがまさかっ!」「御坂さん、ちょっと隣に座ってみて」「お兄様、わたくしはお姉様の露払いをしている白井黒子と申しますの。宜しくお願いいたし――――」

 

 兄妹を種にして咲いた不規則でハチャメチャな雑談は数十分続いたとか続かなかったとか。

 少女たちからあふれ出る興味は底なしで、美影は何かを諦め、美琴は何かを後悔した。

 

 

 ◆

 

 

(……あはは、日が暮れそうだよ)

 

 鈍足の生徒による長距離走のように比喩としてではなく、形として実現しそうな勢いの日の下降を眺める美影は本来の目的であった食糧調達を今更になって思い出していた。

 ようやく落ち着いたらしい三人は並んでソファにつき、対面する二人を改めて見比べた。

 

「やっぱり、どことなく似ているわね」

 

 そう呟いた固法は頷いて納得する。

 隣にいる初春は半年前に助けてもらったヒーローが予期せぬ関係性を持っていたことに対する驚きと喜びが尽きない。

 さらに横の白井は美影を利用した秘密の作戦を練りだし中で内心ニヤケが止まらない。

 

「あーの、」

 

 ついに美影は心中を吐露する。

 

「そろそろ帰ってもいいか? 白井に捕まる前はスーパーに買出しに行くつもりだったからさ」

 

「あ、そうでしたの。申し訳ありませんでしたお兄様」

 

 あからさまに改善された白井の態度にはあえて突っ込まない。

 

「御坂さん」

 

「「ん?」」

 

 初春の声に当然のように兄妹そろって反応を示す。

 二方向からの返事に戸惑いつつも、

 

「あ、あのお兄さんのほうで……」

 

「初春、苗字で呼ぶからこういうことになりますの。やはりここは『お兄様』と」

 

「いやそれはやめてくれ白井も」

 

 手を前に出してでも遮りたいほどそう呼ばれることはむず痒いらしい。

 しかし白井は改めないだろうという美影の予想は外れることはない。

 初春は数秒思考し、なるべく自然な呼び方を模索し、

 

「で、では美影さん」

 

「ん、何?」

 

 申し分なかったらしく美影は会話を躓かせない。

 

「半年前のことですが、本当にありがとうございました。美影さんのおかげで今の私や白井さんがいるといってもいいくらいです」

 

「…………、」

 

 思いの外真剣な感謝の言葉に戸惑いを覚えた美影は正直真正面から来られることは苦手である。

 大して真剣に人と向かい合うことがない彼は、ハハ、と小さく微笑んだ。

 

「そういってくれるのは嬉しいけど、そんなに大層なことをした覚えはないよ。どう考えて自分自身を変えるかは自分にしか出来ないんだから」

 

「私からもお礼を言っておくわ、御坂君」

 

 固法も先輩として諭しきれなかったことを悔いて、代わりに後輩二人を救ってくれた無関係のはずだった一般人に頭を下げる。

 美影としては取るに足りないことに近かったため、ここまでされると恥ずかしくなってしまい、この場からより立ち去りたくなってしまった。

 小さく息を吐き、立ち上がった美影は隣に座っていた妹の頭に手を置いた。

 

「代わりにと言ったら何だけど、これからも妹のこと、宜しくお願いするよ。コイツ、結構寂しがりやだからさ、結構放っておけなくて」

 

「なっ、美影!」

 

 話題を変え、立ち去る兄に美琴は頬を染めながら声を上げる。

 出口へと向かいながら手を振る彼の顔には、誰も見えなかったが笑みハッキリと浮かんでいた。

 ドアが閉じる音を確かめ、深い息を吐いた美琴は不機嫌になりつつある。

 

「そういえば御坂さん、」

 

 思い出したかのように初春は疑問を投げかける。

 

 

 

「どうして美影さんのことを、名前で呼ぶのですか?」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 ビルから出て街路に立つ美影は外から支部の窓を見る。

 またしてもハッキリと笑みを浮かべる彼は、先ほどまでのやり取りを頭の中で反芻していた。

 

(……白井、黒子か…………)

 

 騒がしくオーバーでありつつも妹を大切に思ってくれていることは明らかな彼女の後輩のことを思い出していた。

 超能力者(レベル5)というのは周りから距離を置かれがちであるということは美影が身をもって体験している。そのため深く付き合える人間関係は築きにくいのだ。美琴も表面上厄介者扱いのようにしていても内心では心地よく感じているように兄は見えていた。

 兄として心配することは数あるがここまで安心を得られたことはそうそうない。

 

 

 

(―――ずーっと大切にしろよ、美琴)

 

 

 誰かに食べさせるわけでもないが、ほんの少し、夕食に手間をかけようと思いながら本来の目的場所へと歩く。

 

 

 

 




 大学生活がどういうものなのか、わかってきつつあるLarkです。
 しかしまだどのサークルに入ろうか未定なためまだまだ新生活の安定からは程遠いですね。バイトもしたいですし。
 他の大学に行った元クラスメイト達は何しているのかなぁ、とヒマな時に考えつつもそう聞かれたときに使える返答が正直見当たらないですね。
 二次小説書いてるよ、なんて正直言えませんし。はい。

 ◆

 次回から原作に入れそうです。
 それはつまり、他の二次作品にもあるストーリーでいかにオリジナル感を出せるか……!
 改訂版で悩むことは他にもありますけどね。


 ◆

 オリキャラの名前は募集中のままです。
 能力まで考えていただくととても嬉しい気持ちでいっぱいですが、勿論好きな名前だけを投稿していただけてもとてもとてもうれしいです。

 好きな人の名前でもいいですよ。(マズイですけど)

 これからもよろしくお願いします!!

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