とある六位の無限重力<ブラックホール>   作:Lark

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凄い間が空いて申し訳ありません。


誤差

 

 

 

 

 

 長点上機学園に入学した超能力者(レベル5)は常に周囲からの注目の的となっていた。

 学園都市トップに君臨する学園の生徒であるためか、順位には酷しいらしく、執着心も人一倍強い学生が多い。

 それにより行われるのが超能力者(レベル5)への挑戦。

 昼休みなり放課後なりと二,三年生が四人へと遠慮なく対戦を申し込んでいるという始末だ。

 一方通行、垣根、削板の三人は比較的快く受け入れ、心地よく返り討ちにしている。

 

 しかし彼らに対して第六位こと御坂美影は現在まで一切の挑戦に応えていない。

 力はあるが振るわない。

 不意に先輩方から襲撃を受けることもあったが、防ぐだけで反撃すらしない。

 美影について詳しい生徒は一方通行だけであるため、その行動に対する評価、評判は種々ある。

 

 一つには、彼は紳士的で無駄な争いを好まない。

 

 一つには、彼の能力は戦闘向きではなく、挑戦は畑違いである。

 

 一つには、彼は気が小さく力があっても揮えない。

 

 男子生徒の中では三つ目の噂が広がり、女子生徒の中では一つ目の噂が広がっている。

 真相を求めたクラスメイトないし他の三人の超能力者(レベル5)が本人に尋ねた結果はいつも同じで、

 

 

「面倒くさい」

 

 

 の一点張りである。

 それが本音であり、他意は微塵にもない。

 超能力者(レベル5)である彼は、入学直後に行われた身体検査(システムスキャン)は校外で行ったため、彼の能力を間近で見た者は実際殆どいない。

 

 そのような感じで一ヶ月が過ぎた。

 五月。

 暖かく過ごしやすく気持ちのよい日差しを浴びながら美影は五月晴れの下、街中を歩いていた。

 今は放課後のため、帰宅途中である。

 寄り道せずに部屋に行くのも実直としていて悪くないかもしれないが彼は街中をふらふらとあても無く歩くことを比較好んでいる。

 決まった趣味を持たない彼は通ったことのない道で新しいものを発見することに小さい楽しみを感じたりもする。

 故意に部屋と逆方向に進んだりするほどの放浪癖は無いのだが。

 

(…………)

 

 寒さも薄れたせいか、喉の渇きがあらわれやすくなったらしく、飲み物を求めた美影は最寄の自動販売機もしくはコンビニを求めて方向を変えた。見渡すだけではどちらも発見できなかったため、能力で視渡す。何某かに注意力を振り分けずに能力を発動させる際は自分を中心とした半径500メートル以内の重力を感知できる。

 最寄りの給水所は10時の方向200メートルの自動販売機だと判断した。

 

 

 ◆

 

 

 自販機まであと50メートル。ダッシュで6,7秒の距離までたどり着いたところで美影は足を止めた。

 先客が視認出来たからだ。

 これだけ聞けば瑣末なことではあるが視線の先の人物が問題である。

 茶髪の中学生少女一人。

 これだけでは大した特徴ではない。

 彼女が身に纏う制服は、長点上機学園と同じく学園都市五本指のひとつ、常盤台中学のものである。

 しかし、美影にとって重大な点はそのようなことではない。

 とりあえず彼は傍観者となるのであった。

 

 

 

「―――さーて、」

 

 少女は他では見られないほど意欲満々としていた。

 決して動かぬ自販機を逃がさないかのように見つめる。その眼差しは不思議と真剣そのものだ。

 他にも違和感はあり、少女は自販機を前にしているのにも関わらず、財布ないし小銭を手にしていない。

 その手は力を程よくこめて拳を作っている。

 

 そして、

 

 トントン、と小刻みに跳びだした。

 準備運動ともとれるその行動は見るからに場違いである。

 美影は直立不動を続行させて疑問符を浮かべながら唖然半分で少女を見続ける。

 

 少女は己と相談し、ベストなタイミングを見計らう。

 直後、左足を軸に体を回転させ、遠心力と脚力を糧に渾身の旋風脚を目の前の機械箱に斜め45度に叩き込む。

 鈍音を響かせながら振動するその箱は、それに見合う音を下半身から缶ジュースとともに吐き出した。

 

「……ふぅ」

 

 何事も無かったかのようにかがんで缶を取り出し、見る。

 『きなこ練乳』と書かれた缶を見て少女は小さく舌打ちをした。望みの飲料ではなかったらしい。

 と思いつつも出てきてしまったものは仕方なく、プルタブを開けて口元で傾ける。

 顎を少しあげたせいか、体の左右の視野が広がり、今まで捉えていなかった少年の姿が視界の端に入った。

 直後、飲みきっていない口内の液体を盛大に噴出してしまいながらも先ほどの一連の違法的行為の目撃者であろう少年の全体像を捕らえようとする。

 

「けほっ、けほっ、……あ、アンタ今――」

 

 咳き込むのを何とか押さえつつも問いただそうとすると、少年の顔を見た瞬間態度を改める。

 

「―――なんだ、美影じゃないの」

 

「……なんだ、じゃないだろ美琴」

 

 美影の目の前にいる現行犯は、正真正銘美影の妹であった。名は御坂美琴。美影と同じく超能力者(レベル5)の一人で序列は第三位。

 兄として見逃せない行為に及んだ妹を、8割ほど呆れながら問いただしてみる。

 

「何やってんだよお前は」

 

「見ての通り、ジュース飲んでんのよ」

 

「その前の行動だっつーの」

 

「常盤台中学内伝、おばーちゃん式ナナメ四五度からの打撃による故障機械再生法よ!」

 

「…………」

 

 何言ってんだコイツ、とは口にしなかった。

 十全に唖然呆然とした美影を前にした美琴は反省の色を見せることなく言い訳をすることにした。

 

「ちょうど一年前にこの自販機に一万円札を飲まれたのよ!」

 

「自販機は大抵一万円札使用不可だろ」

 

「だったら普通吐くでしょ!? 出てこなかったからこうしてタダでジュース飲んでいるのよ」

 

「……あーそうですか」

 

 躾を放棄した兄は自販機に近づき財布を取り出す。

 手ごろな小銭が入っていなかったせいか、千円札を取り出し、自販機に挿入してみる。

 しかしピクリとも反応しない機械箱を見て声を漏らす。

 

「……あらら」

 

「ほらそうでしょ?」

 

 何故か自慢げに言い張る美琴に若干イラッとしながら美影は自販機に手を当てる。

 自販機内に働く重力を感知し、内部構造を分析して一つの缶にかかる重力を操作し、手前に引き出して落下させる。ワイヤレスでも対象に能力を発動させられるが触れたほうが楽なのだ。

 取り出した缶を見ると、『ヤシの実サイダー』と書かれていた。

 炭酸系ではある一つの飲料が飲むことが出来ない美影はそのハズレを引かなかったことに安堵しながら開けて飲み始める。

 

「そういえば、」思い出したように美琴は話題を取り出し「アンタ学校ではどうなのよ?」

 

 美影が中学生活を途中から辞めたことを知っている彼女は妹なりに心配していたのだろう。

 口を缶から離して少し考えて返答する。

 

「んー…、まだ一ヶ月だからどういえばいいかわかんないけど、まあまあいい感じじゃないの?」

 

「なんで疑問系なのよ」

 

 自分が普通じゃないことを理解している美影は充実した高校生活がいまいちピンとこない。毎日慌しく周りに絡まれていることは明確だが敢えてそれは報告しないことにした。

 

「んで、そっちはどうなの? 中2になって後輩ができて」

 

「……特に変わらないって思っていたんだけど」急に声色が低くなってしまったことを自覚しつつ、「変に馴れ馴れしい後輩が一人……」

 

「へえ、面白そうじゃん」

 

 美影は顔に出さないが驚いた。

 7人しかいない超能力者(レベル5)は例外なく他者から距離を置かれるもので、他三人と同じ教室にいる美影も例外ではない。

 『馴れ馴れしい』という言葉を選択した場合聞き覚えが悪いところもあるが、言い換えれば親しみを持って接してくれているということである。

 常盤台中学はお嬢様学校であるためそのような上下関係を無駄に意識する生徒がいそうではあるのだが、仲の良い者が年下であってもいるというのは兄として喜ばしいものである。

 

「他人事みたいに言わないでよ」

 

「他人事だからな」

 

 皮肉のように言った後、ジュースを飲み干した美影は立ち去ろうとし、

 

「んじゃまた」

 

「あ、ちょっと!」

 

「ん?」

 

 声量が大きかったことに気にかけ耳を傾ける。

 

「……ここで見たこと、誰にも言わないでよね。特に学校とかには」

 

 正当? な理由がありつつも補導ものの行為に罪悪感がほのかにあったらしく少し慎重に話している。

 実際には美影は三分後には綺麗に忘れそうであったのだが仕方なく安心させるつもりで返事をする。

 

「お前も言わなかったらな」

 

 ヤシの実サイダーの空き缶を揺らしながら見せた後、ゴミ箱に放物線を描いて投げ入れる。

 こちらもお金は入れたが能力を使った盗品のようなものだ。

 意識的にか無意識的にか、美影は共犯者になっていたのだ。

 

 立ち去る兄の背を見て、彼女も手に持っていたきなこ練乳の空き缶をゴミ箱にいれる。

 この後、何をしようか。

 夕暮れと呼ぶ時間まではまだあり、寮に帰ってもすることはない。

 適当なコンビニで立ち読みをしようか、ゲーセンで時間を潰すか、と考えている最中、

 

 

 

「お姉えええぇぇぇぇ様ぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」

 

 どこからか分からなかったが耳に痛みが走るほどの大声が飛び込んできた。

 直後、美琴の背後に同じ制服を着用したツインテールの少女が突然(・・)現れ、全力で抱きついてきた。

 

「く、黒子ぉ!? アンタいきなり空間移動(テレポート)してくるんじゃないって何回言ったら分かるのよ!!」

 

 全身をこすりつけるように抱きしめているのは先ほどの話にも出てきた馴れ馴れしい、否、馴れ馴れしすぎる後輩、白井黒子。

 美琴は何とかして彼女の手から抜け出すか追い払うか苦戦するが一向に離れる気配がない。

 

「お姉様がいたらこうするのは当然のこと! ……ところでお姉さまこんなところで何を? ま、まさか!! とこぞの殿方と密会を!? いけませんの! お姉さまにはこのわたくしがあるというも―――」

 

「いい加減に離れろやゴラァ!!」

 

 妄想と暴走で忙しい白井に堪忍袋の尾が千切れたのか、美琴は能力を発動させた。

 電気系の頂点に君臨する能力、超電磁砲(レールガン)をもつ彼女はその気になれば零距離の対象者の撃退は造作もない。

 かといって、全力を出すわけもなく、痺れて筋肉が操作不能になる程度の電力で制裁したまでのこと。

 

「ぅ、ぁ、あぁん♡ 痺れますのお姉様ぁん!!」

 

 なぜか彼女がより興奮してしまうところを見るともう美琴には打つ手がない。

 白井は生粋の変態だと改めて実感した美琴であった。

 

 

 

 ◆

 

 

 しばらくして、痺れが切れて白井が自力で立てるようになった後、白井は改めて尋ねた。

 

「そ、それでお姉さまはこちらで何をしていらっしゃったのですの?」

 

 特に深い意味を抱いた言葉ではないのだが美琴は少々困惑した。

 理由は教えてくれなかったのだが、何故か極力美影の存在は隠すよう彼に言いつけられていたのだ。

 美琴としてもここで「兄といた」なんて白井にとって初で重大な情報を口にすれば状況は焦眉になってしまうに違いない。

 なるべくポーカーフェイスで取るに足らない返事をする。

 

「ジュースを飲んでいただけよ」

 

「へえ、そうですの。そういえばこの後―――」

 

 望みどおり気にすることなく白井は新たな話題へと変換した。

 

 

 

―――彼女は知らない。

 

 ほんの5分。いや1分早くこの場に到着していればここ数ヶ月探し続けていた少年に合えたことを。

 問いただすべきこと、伝えるべきことが山となっている少年が、目の前の少女にとって、自分より遥かに近しい存在であるということを。

 

 

 しかし、

 

 

 いずれ、

 

 

 二人が予期せぬ再開をすることは、今は誰も知らない。

 

 

 

 





来年度からの新生活の準備に振り回されたせいで活動がおろそかになってしまったという言い訳を認めていただけると私はとても嬉しいです。

……しかし大学生活がいかなるものか想像も付かなく、今以上に忙しくなる気がするので次話投稿がいつになるか分からないです。はい。




それは置いといて。

【オリキャラの名前】はまだ募集中ですので宜しくお願いします。
ログインしていない方でも投稿可ですので。
ではまた。


さらに話は変わりますが。
……アニメが楽しみです。はい。


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