とある六位の無限重力<ブラックホール>   作:Lark

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「ま、俺の負けですね

 

 

 

 

――――――140 mitutes――――――

 

 

 

 

「……、来ないねぇ」

 

 美影に独り言をする癖などないはずなのだが、閑古鳥に鳴かれるぐらいなら代わりに鳴いてやるといった自暴自棄が芽生えてしまったのかもしれない。

 訓練終了まであと一時間。このまま誰も彼の頭の上にある青帽子を奪いに来ないのなら彼は存分に森林浴を堪能し続けるつもりなのだが、美影に一つなんでも命令できる権利はとても魅力的なモノであるため必ず誰かが何時かは来るだろう。

 

(……、黄色の帽子も四つ、か)

 

 彼が今最も手に入れたいゲームの攻略アイテムのことを考え出した。

 たった四つ、半端な能力者には任せられるわけもなく、被っている人物は長点上機学園内で美影たち超能力者を除いた場合においてトップクラスに厄介な学生だろう、ということは美影も思考が至る。

 

(……まあ、)

 

 美影は欠伸を噛み殺して立ちあがった。

 枝に座っていたため尻に汚れがついたため、それを手で払い取る。腰に手を当てて大きく反る様に伸びをすると腰からポキポキと小気味良い音が数回鳴った。

 

 

(――――――あの生徒会長(・・・・・・)が考えることなんて、そう単純じゃあないよなぁ……)

 

 

 普通に考えると(・・・・・・・)、帽子は生徒会の四人に持たせるであろう。

 そう改めた美影は行動を開始した。

 

 

「……、()いっか(・・・)どうでも(・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ 

 

 

 

 

 

――――――145 minutes――――――

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」

 

 二人の漢が膝に手をついて荒い呼吸をし続ける。

 周囲の樹木は豪快に千切れ、岩石は砕かれ、壌土は抉られている。二人の拳は何十もの衝突を繰り返し、その都度積み重ねられる余波は一度の天災をも上回っているだろう。

 それでも、漢達に休憩などという甘っちょろい時間は秒針の一周分すら在り得ない。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

――――――150 minutes――――――

 

 

 

 

「キモイキモイキモイキモイキモイ!!」

 

 垣根は二対の翼を羽ばたかせて生徒会書記の香月が生み出した植物の魔の花弁(・・)から逃げ続ける。

 その植物は真緑の蔓から一対の同色の葉を生やしており、天辺には赤をベースに白い斑点を散らばせたシャチの口元のような形状をした花弁がついている。

 

「これぜってー其処ら中にいる赤帽子の奴らに似合うモンだろ!?」

 

 垣根の講義を耳に入れた香月は首を傾げる。

 

「お前は一体何を言っているのかな? まさか二十代後半で一人称は僕で身長155センチメートルで好物はスパゲッティで嫌いなものは毒キノコで赤帽子オーバーオールひげがトレードマークで初登場はゴリラのわき役だった配管工のことじゃあないだろうな?」

 

「確信犯じゃねえか!? てか知らねえ設定があったぞ!?」

 

 文句を言いながら垣根は、香月の遺伝子配合によって生み出されたこの世には存在しないはずの植物をこの世には存在しない物質で引き裂く。

 するとその植物は瞬時に老化したかのように枯れきってしまった。それは垣根の仕業ではなくて香月の魂胆。肥料にして次なる植物の栄養素のするつもりなのだ。

 

(……、さてお次は)

 

 香月は演算式を組み換え、それに同期して周囲の大木が一か所に収縮していった。ゴムのような弾力を宿してDNAのように螺旋状にまとまったその大樹の先端は五本に分岐しており、形状を整えた結果それは人間の手のように仕上がった。

 

(更に、っと)

 

 そしてその樹木の手の平に位置する面に、薔薇の茎のような棘が無数に生えてきた。ただし棘は数十センチほどの長さがあり、植物の中でも最上級の強度を誇るリグナムバイタに匹敵し、また先端には穴が開けられてそこからトリカブトに含まれる成分アルカロイドが液状に噴出されている。

 

「お? ちょっとマシな植物(モン)が生えてきたな」

 

 翼で進行方向に空気を叩くことで急停止した垣根はビルほどの全長がある『手』を見る。掴まれれば全身がハチの巣になり同時に猛毒が注ぎ込まれるのだが、

 

 

「――――――さて、そろそろ終わらせるか(・・・・・・・・・・)

 

 

 森羅万象を見下すように軽く宣言した垣根はその樹木の手中に躊躇なく飛び込んだ。

 煎餅を砕くような音を連射しながら腕の静脈に沿うように進み、含有された木々を鉈による薪割りのように断割していく。体表には死を呼び寄せる毒素を完全に断絶する物質で覆うことでミクロな破壊も起こさせない。

 

「ッ!!」

 

 仕上げに根元を切り裂かれ、台風が直撃したように枝が舞って空間を埋め尽くされたことで視界が制限された香月は取り乱した。

 次なる植物を生み出そうとしたが、香月の肩に後ろから手が置かれた。

 

「中々面白かったぜ? この遊び(・・・・)

 

 それは他でもない垣根の手であり、肩から離れたその手は香月の頭部へと向かう。

 しかし、敗北を目の当たりにしても香月の顔には笑みが浮かんでいた。

 

 

「!?」

 

 手が帽子に届く半瞬前、垣根はとあることに驚愕した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

――――――155 minutes――――――

 

 

「チッ」

 

 またしても進藤が空間移動されたことで一方通行の手が空振りした。

 見渡せばとある少年の傍に立っていた。彼も空間移動(アポート)が能力なのだろう、と一方通行は記憶した。

 

「あと45分。ふむ。そろそろか」

 

 無色の感情しか窺えない進藤は訓練の残り時間を確認した。

 そして次の作戦を伝達し始める。

 

「αβε班ED」

 

 空中で竜巻のような翼を背から噴き出している一方通行を、数十人の能力者が全方位から狙う。

 一方通行は竜巻を発生させて地面の土砂を巻き起こしてここら一帯にいる生徒の視界を奪う。しかし進藤には全員の位置が完全には把握できており、それを無線機で伝えることで赤鬼は一方通行の襲撃にブレーキをかけない。

 

「さてと、」

 

 一方通行は巻き起こした風のベクトルを読み取ることで視覚を使わずに敵の全ての座標を把握した。そして急加速してターゲットの元へと一直線に向かった。

 しかしその先にいるのは黄色の帽子をかぶった進藤ではなく、赤鬼の一人。

 

「! βδ4」

 

 初めて一瞬だが取り乱した進藤は指示を出した。狙われた人物を念動能力者が一方通行から遠ざける。

 一方通行が狙ったのは、空間能力者の一人。つまり、将を射んとする者はまず馬を射よ、という具合に進藤の帽子の脱却は一時保留したのだ。

 そして一方通行は地を蹴って他の空間能力者を狙う。

 今までの戦闘により、空間能力者の顔は覚えた。おそらく全員を特定した一方通行は迷うことなく狙いを定める。

 

「αδ3 γδ5」

 

 進藤の指示に従って空間能力者を他の生徒が動かすが、一方通行の速度の方が何枚も上手だったらしく、空間能力者の二人の赤帽子を引きはがすことに成功した。

 

 

アポート(・・・・)ばっか集めっからこォなるンだよ」

 

 空間移動能力者は、他の空間移動能力者による干渉を受けない。

 手元に物体を引きつけるアポートの能力者が自分を他の座標に飛ばすことなどできるはずもなく、また他のアポートの能力者が呼び寄せることもできない。テレポーターなら進藤の移動と自身の回避が可能であるが、そのためには一度進藤の元へと移動するというプロセスが欠かせず余分に時間がかかるからこそ、進藤はアポートを利用したのだが裏目に出てしまった。 

 

「お次は、」

 

 一方通行は残りの空間能力者の帽子も奪うため、跳ぶ。

 今度は飛行ではなく、跳躍。風のベクトル操作よりもそこらじゅうに聳え立つ木々を何度も蹴ることで鋭利な方向転換を行った方がよりも迅速に動ける。足の裏にかかるベクトルを掌握した一方通行はピンボールのように森の中を駆け巡り、そのスピードは進藤の感知と伝達が間に合わない。

 一方通行の観察によると、空間能力者は全部で五人。それら全ての鬼としての権限を剥奪した一方通行は枝の上に立ち、進藤を見下した。

 

「終わりだ」

 

 直接的な攻撃力、そして機動力がない進藤は一方通行に対して抵抗する術はない。

 しかし感情の表現が乏しい進藤が、初めて口の端を吊り上げて含み笑いをした。

 

「あァ!?」

 

 進藤を視界に留めていた一方通行は、とあることに驚嘆した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

――――――160 mitutes――――――

 

 

「どういうことなの……?」

 

 蒼石はモニターを見て解せない光景に思わず目を疑った。

 香月、そして進藤が学園都市のトップツーにチェックメイトされ、青鬼の半分の勝利が確定されたはずだったのだが青鬼の二人は帽子を手に取らない。

 否、取っても意味がない(・・・・・・・・・)

 

「まあ、これで第一段階ですね」

 

 彼女の横で生徒会長の光原はちょっとやり遂げたような言葉を発した。

 モニターに映っている、生徒会の二人が被っている帽子は黄色を発していない(・・・・・・・・)。二人が引き連れた選りすぐりの能力者と同じ、赤色(・・)だ。

 

 光原虹音の能力は、『分光能力(プリズムアート)』。

 

 光を分散させたり、反対に収束させることが出来る。それを利用して幻想的な虹を生み出すことも可能だが、今回、生徒会役員の帽子の色を黄色に見せるよう細工しておいたのだ。

 

「ちょっと疲れましたが、何とか計画通りできましたよ」

 

 監視カメラで常に生徒会の三人の位置を確認しながら能力を発動し続けるのは正直達成できる保証はなかったが、何とか完遂できたことに光原は小さく息を吐く。

 そもそも、青鬼のターゲットである黄鬼を彼等のテリトリーに踏み込ませる必要などないのだ。光原のように青鬼が踏み込めない山岳地帯の外にいれば、超能力者の四人は200分の逃亡でしか訓練において勝利を掴めない。事実、光原のように戦力になりえない能力者三人に黄色の帽子をかぶせ、山岳地帯の外のどこかで適当に休ませている。

 

「朱鳥君には引き続き削板君の相手をさせておきますが、進藤君と香月君には御坂君を狙わせます」

 

「どうして最初から狙わせなかったのかしら?」

 

 蒼石の言う通り、元々黄色の帽子は彼らの手が届かない場所にあり続けるのだから、わざわざ光原の能力まで巻き込んで超能力者と相対させる必要はないはずだ。 

 

「このまま見ていれば分かりますよ」

 

 そうとしか答えられなかったため、蒼石はモニターに注意を戻した。

 

 

 ◆

 

 

 

――――――161 mitutes――――――

 

 

「悪いね優等生」

 

 赤い帽子の位置を整えながら香月は垣根に意地悪な笑みを向けた。

 

「ま、赤い帽子でも欲しいならあげなくもないが」

 

「要らねえよ、そんなモン」

 

 垣根はまんまと騙されたのにも関わらず、恨むことなく同じような笑みを浮かべる。

 

「俺が欲しいのは、テメエの帽子なんかじゃあねぇ」

 

 垣根は三対の真っ白な翼を展開させる。

 そして香月を背にしてふわりと浮きあがった。

 

「これから欲しい帽子(・・・・・)を分捕りに行く」

 

 直後、今までとは比べ物にならない初速度で飛び立ち、余波として突風を巻き起こされた香月は吹き飛ばされないよう草木を操って体を固定した。

 そして香月は自分との勝負なんて所詮準備運動でしかなく、戦闘よりも娯楽に近いものでしかないことを見せつけられた。

 

(ふー、光原の言う通りになったな……)

 

 安堵の息を心中で吐いた香月は、垣根に無価値であると認定された帽子をまた整えて、ポケットの中から携帯電話を取り出してとある人物に連絡をとろうとする。

 

 

(ま、向こうも終わってんだろ)

 

 

 

 ◆

 

 

 

――――――162 minutes――――――

 

 

「……、光学操作か?」

 

「まあ。そういうことだ。残念だったね学園都市最強」

 

 赤色に変色した進藤の帽子から考察した一方通行は木から飛び降りて地面に着地した。進藤は機械にも似た血が通っていないかのような口調で尋ねる。

 

「これを奪うか?」

 

「要らねェ」

 

 赤帽子なんて奪っても一方通行にとっては雑魚が一匹減るだけであり、この先邪魔をされない限り意識を向ける価値すらないのだ。

 

「つゥか、テメエが黄色の帽子被っていても奪う気なンざねェよ」

 

 青鬼の立場としては有るまじき発言を一方通行は平然と言った。

 

(……、会長の言葉どおりだな)

 

 そして一方通行は三日月のように口を横に吊り上げて心中を述べる。

 

「俺が欲しいのは、」

 

 直後、一方通行の背後からとある人物がミサイルのように直線的に飛行してきた。そしてその速度に伴う以上の破壊力抜群の拳を一方通行に叩き込む。

 轟音を響かせ、大地を震わせながら一方通行はその不意打ちのダメージを殺す。

 そして一方通行は狂喜に満ちた悪魔的な笑顔をその人物に向けて言う。

 

 

待ってたぞ(・・・・・)クソメルヘン(・・・・・・)

 

 

 垣根は拳を受けとめられたのち、上に飛翔して一方通行を見下ろす。

 

 

「はッ! 奪いに来たぞ、その青帽子(・・・・・)

 

 垣根が狙っていたのは、そして一方通行が狙っていたのは、赤い帽子でもなければ黄色の帽子でもない。

 青い帽子(・・・・)だ。

 ルールでは、最後にそれを持っている者が命令できるのであって、赤鬼や黄鬼しかできないという縛りは存在しない。つまり、垣根の帽子を一方通行が奪いきれば垣根は一方通行に服従しなければならなく、またその逆も可である。

 

 

(……、逃げるか)

 

 学園都市トップツーの戦争なんておちおち見学できる代物でもなく、下手をしなくても巻き込まれる可能性は大いにあるため進藤は無線機に指令を出す。

 

「ω0」

 

 命令を出して直ぐ、ずっと待機していた空間移動能力者(テレポーター)がやってきて進藤もろとも座標を転移する。

 刹那、進藤がいた場所に生えていた植物全てが一方通行と未元物質によって根こそぎ吹き飛ばされた。

 

 二人の鬼から数百メートル距離をとった進藤はポケットに入っている携帯電話に着信を受けたので取り出して耳に当てる。

 

『そっちは終わったか?』

 

 相手は同じ生徒会の役員である香月だった。

 

「ああ」

 

『ならすぐに御坂美影の捜索を頼む』

 

「了解」

 

 そして進藤は能力の活動範囲を可能な限り引き伸ばし、御坂美影の正確な位置を探し出した。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

――――――165 minutes――――――

 

 

 キャンピングカーに備え付けられたモニターが次々と黒く染まっていく。学園都市の最強とそれに準ずる力を持つ二人のぶつかり合いは天変地異に勝るとも劣らず、監視カメラなんて周囲に漏れ出す僅かな余波のみで木端微塵と化すのは目に見えていた。

 

「これが、作戦?」

 

「ええ。一方通行君と垣根君なら少し考えればお互いの帽子の奪い合いという結論が導き出されますから、一応(・・)関門として取り扱われる黄色の帽子を準備運動にすると思ったんです」

 

「でも赤いものでも帽子を取られる可能性はあったんじゃないの?」

 

「その時はどんな手を使ってでも二人を逃がします。能力者のストックはまだありますから」

 

 蒼石の質問に答えた光原はマイクが備え付けられたイヤホンを片耳に入れた。それは進藤のものとつながっている。

 

「こっちの監視カメラじゃ御坂君を捉えていないけど、そっちはどう?」

 

 数十のモニターを確認した光原は進藤に確認を取る。

 

『今やっている』

 

 進藤の能力は通常の身体機能を使いながらなら数百メートルしか視渡せないが、目を閉じて視覚を塞ぎ、座り込んで足腰の筋肉の活動を停止させて能力のみに集中すればその十倍の範囲まで視ることが可能になるのだ。

 そして山岳地帯のほぼ全域を死角なしに把握した進藤は光原に報告する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………、いない(・・・)

 

「え?」

 

山岳地帯のどこにも(・・・・・・・・・)御坂美影の姿はない(・・・・・・・・・)

 

「はぁ!?」

 

 猫を被って凛とした姿を学校で維持してきた光原の間抜けな驚嘆が響いた。

 青鬼は山岳地帯から出られるわけもないのに青鬼の一人である美影が範囲内に存在しないのはあるはずがない。

 

「そ、空は!? 上空に逃げたとかは!?」

 

『上空一キロまで探したが、いない。それ以上高いとアイツは吹き飛ばされる』

 

 美影の飛行は自身の体重を軽減することで可能になる。つまり暴風に煽られると体の自由は聞かないのだ。遮るものの無い上空では地上よりもはるかに大きな風に満ちているためおそらく遥か上空に身を潜めているという線もない。

 

「……、ど、どういうことなの……?」

 

 光原はモニターを一つ残らず舐めるように凝視していくが、美影の姿の欠片すらどれも含んでいない。

 完全に、『消えた』のだ。

 

 それでも時間は止まるはずもなく、訓練終了は一定の速さで近づいてくる。

 

 

 ◆

 

 

 

――――――200 minutes――――――

 

 

 

「な……なんで……?」

 

 光原は両手をついて絶望する。

 あの後、進藤には山岳地帯の隅々まで探させ、更に待機していた能力者全員を山岳地帯に放ったが美影の影すらつかめなかった。結果、光原の不浄な願い事が叶うことはなかった。

 

「ま、そう簡単にレベル5は捕まらないってことね」

 

 蒼石はポップコーンのように軽い口調で光原に同情する。自分も彼等四人に関して『使える』データをまだ入手していないのだから、似た者同士の共感のような感触を得た。

 キャンピングカーを出ようと扉を開けて身を潜らせる。それについて行くように光原も鬱になりながら下車した。

 

「?」

 

 開けたドアは東側。今は午後4時ほどであるため日陰側である。車から出て直ぐに踏んだ地面には影ができている。言うまでもなく、それはキャンピングカーの影であり、その端は屋根の形通り一直線上になっているはずなのだが、何故か肢体に沿った曲線が描かれていた。

 

「ふあ~ぁ、」

 

 欠伸がした方向を振り返ったところ、キャンピングカーの上に美影の姿があった。

 眠そうに眼をこする彼は愛用の腕時計の角度を確かめ、蒼石と光原にのんびりとした声で尋ねた。

 

「あ、もう終わりました?」

 

「な、なんで……」

 

 光原は瞠目して美影に指を向けるが、美影は寝ぼけた声で有りのままの説明をする。

 

「昼寝してました。誰も来なかったので」

 

「で、でもここは範囲の……、!!」

 

 ルールを言いかけた途中で光原は気が付いた。

 青鬼は山岳地帯から出た瞬間負けが確定する。しかし、帽子を失うわけではないのだ(・・・・・・・・・・・・・)。忌憚のない話、青鬼の最終目的は黄鬼の帽子を奪うことではなく、青い帽子を奪われないこと(・・・・・・・・・・・・)。そのためなら、例えルール上敗北の印を押されることなど構う価値はない。

 

「ま、俺の負けですね。光原虹音(・・・・)さん」

 

「くっ……、」

 

「?」

 

 嫌味な笑みを美影が浮かべ、口惜しそうに睨む光原。

 その二人を第三者として観察している蒼石はふと疑問に思う。まるでこの二人には元々何かしらの繋がりがあったのではないか、と。

 蒼石の疑念を知る由もない美影は青い帽子を頭から取り外して団扇のようにパタパタと扇ぎながら歩いて行った。

 そろそろ他の三人も戻ってくるだろう、と。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「チッ、」

 

「ったくよォ、折角クソメルヘンに生きているのが嫌になるよォな命令をしてやろうとしたンだが」

 

 結果を言うと、学園都市のトップツーの二人による災害のような戦いは引き分けに終わった。『自然はなるべく大切に』というルールを正面から裏切って環境破壊に勤しむかのように山岳地帯の一部を荒れさせ、おまけに貯水ダムの幾つかを破壊した二人はもはや疑いもなく『鬼』であろう。

 

 

「わはは! やっぱり先輩は根性があるなあ!」

 

「いやいや、削板もなかなかの漢気だったぞ!」

 

 更に削板と朱鳥の暑苦しい漢コンビがやって来た。

 肩を組んで大声で笑う二人の繋がりは血よりも濃い。

 

 

 

 

 

 

――――――これより、長点上機学園による大覇星祭の訓練は終了した。

 

 

 

――――――Game Over――――――

 

 

 最後まで残った鬼の数

 

 

 青 3

 黄 4

 赤 68

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 とある放課後。

 星の入った瞳、背に伸びるほどの長い金髪、長身痩躯、そして女性として豊かな胸を持つ常盤台の制服を着た生徒、食蜂操祈は街を歩いていた。

 

 

「食蜂操祈さん」

 

 

「んー?」

 

 

 不意に背後から名を呼ばれた為、食蜂はふわりと髪を揺らしながら振り向いた。

 そこにいたのは、ミディアムの黒髪、縁なしの眼鏡、食蜂よりも豊かな胸を見せつけるような肌に密着したワイシャツ、短めのスカートといった姿の大人の女性。

 

 

「なんですかぁ?」

 

 初対面の女性に対し、食蜂は首を傾げながら尋ねる。

 蒼石は言う。

 

 

 

「ちょっと、御坂美影くん(・・・・・・)について話があるんだけど」

 

 

「!!」

 

 

 直ぐに食蜂の目つきが変わった。その名を出せば一気に興味を向けられるということは、蒼石の先日の調査で分かったことである。

 前日の訓練でも、やはり他の三人よりも美影に対して蒼石は目を向けるようになった。それだけ彼には何か(・・)があると確信せざるを得なかった。

 

 

(……、ちょーっと危ないこともしないと、ね……)

 

 

 もはや追い込まれつつもある蒼石には、手段を選ぶ道徳心も残されていない。

 

 

 





 第参章終了まであと少し、……ですかね?



 ◆


……まだ大覇星祭のストーリーが固まっていない(泣)


 最初と最後は決まっているのですが……。


 原作完全無視のオリストのつもりですので。


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