とある六位の無限重力<ブラックホール>   作:Lark

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 遅くなった第3話です。


入学

 

 

 

 

 

  四月。

 年度の変わり目でもあり、季節の変わり目でもあるこの時、学生たちは胸躍る心持で新たな場へと立ちいる。

 慌ただしくも淡い期待を抱き、ユニフォームを変える学生。

 その内の二人、学園都市の頂点に君臨する二人、御坂美影と一方通行ですら先はほとんど見えていない。なぜならこれから踏み入る世界が今までと常識が根本的に異なるから。

 

 それでも彼等は、悦楽に浸っているのかもしれない。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「おーい、一方通行ーー」

 

 学生の朝は早く、御坂美影も今年度から寝坊はできない。

 入学初日から遅刻するわけにもいかず、遅刻させるわけにもいかず、一方通行の自宅へとわざわざ出向いている。

 

「―――あァ、」

 

 のろのろと目を細くして出てきた一方通行は明らかに不機嫌だ。声も曇天のように鬱々としている。

 美影は静かに微笑む。

 目の前にいるのがいつもの一方通行なのだから。

 ここで出てきたのが爽やかスマイルで生き生きとした返事をする王子様風銀髪青少年だったら、顔を引き攣らせながら一瞬で臨戦態勢になり真意を問うだろう。

 

「んじゃ、行くか」

 

「……あァ」

 

 長点上機学園の制服で身を包んだ一方通行を面白おかしく思いながら、桜の花びらが舞い散る卯月の街路へと歩き出す。

 

 郵便局強盗を難なく撃沈させてから他の郵便局へと移り、そこで強盗の噂を耳にして苦笑しつつも一方通行の入学申込書の郵送を完了させた翌日、二人には受験関係の書類の代わりに合格通知が届いて唖然としたのを二人は明確に記憶している。

 おそらく、超能力者(レベル5)であるだけで入学させるに値するという点や、『裏』で処理されたという点が考えられるが、探るのも無意味で無益であると判断した二人は暇を続行していた。

 

 長点上機学園は第一八学区にある。

 しかし二人は第七学区から学生寮に引っ越してはいない。美影については理由も多々あるのだが一方通行に関しては面倒であることと学生寮を毛嫌いしているという理由での不動である。

 その為、登校時間は他の生徒よりも若干早いかもしれない。

 

「テメエのワームホール使えば一瞬で行けるじゃねェかよ」

 

「んなもんに頼っていると本気でダメ人間まっしぐらだぞ」

 

「ケンカ売ってンのか?」

 

「ならお前が怒る前に俺だけワームホールで行くしかないな」

 

 など与太話で桜の足元にも及ばない花を咲かせて交通機関を活用すること十数分。第7学区と第18学区は隣接している為、通学に苦労するわけでもないらしい。

 本当に能力を乱用されることは無くなるだろうと美影は少し安心した。

 そして二人は学園都市最高峰の学園である長点上機学園へとたどり着く。

 

 入学式。

 美影は中学で体験した行事だが、幼少のころから特別扱いされていた一方通行は違う。どういったものかは常識的に熟知しているが未体験だ。

 しかしそれで緊張する一方通行でもなく、むしろ面倒臭く眠そうだ。

 

 入学生は自由席らしく、差出る気も更々ない二人は最後尾に腰を下ろして待つこと数分、入学式が始まった。

 

「(アイツなんか―――)」「(髪、白!)」「(そういえば噂で―――)」

 

 小声で一方通行を見定める他の入学生が少なくない頻度で振り向いてくる。

 一方通行を端に座らせたため、隣は美影しかいないせいか彼にも勘繰る視線が向けられる。

 それを心地悪く思いながら、一方通行はあることを思い出した。

 

「そういや第二位と第七位もいるらしいが、……どいつだ?」

 

「ああ、それね」

 

 ざっと見渡した美影は後ろ姿だけでも二人を見つけることが出来た。あらかじめ二人の資料は集められるだけ集め、目を通しておいたのだ。

 

「前から三列目の右から七人目」

 

 美影は手を動かさず顔を向けて一方通行に知らせる。

 

「あいつが第七位」

 

 ウニのように逆立つ黒髪、後ろからでも暑苦しく感じるこの(ヲトコ)こそ超能力者(レベル5)序列第七位、、削板軍覇。

 こちらには一方通行は興味を余り示さない。

 

「んで、最前列の左から四番目」

 

 同じように美影は示し、

 

「あいつが第二位」

 

 肩に届くほどの茶髪。座っていても伺える高身長。二人からは見えないが整った顔立ちの少年。

 超能力者(レベル5)序列第二位、垣根帝督。

 

「へェ、……アイツがねェ……」

 

(……おーおー嬉しそうに)

 

 口を横に大きく裂けた一方通行は美影も滅多にお目にかかれない。

 その表情をうっかり見てしまった他の入学生は怯えて姿勢を慌てて直そうとするほどの迫力だ。

 入学して、入学させて正解であったという所感を美影は得た。

 

 

 ◆

 

 

 入学式は無事に終わり、入学生はクラス分けの内容が貼られた生徒用玄関へと足を運ぶ。

 美影と一方通行はそこで驚くべき事実を目にした。

 

「……レベル5全員が同じクラスだな」

 

「ンなモン仕組まれたに決まってンだろォが」

 

「まとめた方が扱いやすいとでも考えているのか?」

 

「まァ、上層部はレベル5の殆どが人格破綻者だと考えているらしいからな。あちこちで暴れられると困るンだろォよ」

 

「……暴れるなよ?」

 

「保障できねェなァ」

 

 入学早々物騒すぎる言葉に美影は頭痛がしそうになる。

 一方通行一人でも押さえるのは骨が折れる(二つの意味で)のにそこに第二位、第七位まで加わると骨では済まない。学園に超能力者(レベル5)を押さえる手段があるとは思えないため、美影が少しでも常識人でいるしかないのだ。

 

 

 ◆

  

 

 教室でも何故か自由席になったため、美影と一方通行は同じ様に最後尾に隣同士で座ることにした。

 やはり一方通行に視線が集まる。

 

(…………、)

 

 その中には垣根帝督のモノも入っていた。

 一方通行を見るなり笑みを漏らす。それを見た女子の一人が頬を赤らめる。

 第三者として美影がそのストーリーを眺めて小さくため息を漏らす。

 

(……やっぱり知っていたか)

 

 垣根の方でも一方通行の情報は集められるだけ集めたのだろう。

 彼の頭の中ではナニが練られているのか。

 第二位の裏での行動を表でも行われたとしたら厄介なことこの上ない。

 

 

「オイお前らどこでもいいから席につけーー!」

 

 所々で騒がしい中、一人の男教師が教室に入って来た。

 スーツの前のボタンを開け、ネクタイを緩めた服装。髪は黒でお世辞にも整っているとは言えない。細い目を持ち、体は全体的に細いが貧弱という印象は微塵にもない。

 手にはノートサイズのタブレット端末を持ち、教卓の前に立つなりそれを置いた。

 

「あー今日から一年間、お前らの担任を務めることになった有澤(ありさわ)宗佑(そうすけ)だ。よろしくぅ!」

 

 張り切った声で自己紹介を始めた。

 担当している能力の系統、部活。年齢や未婚か既婚かは述べなかったが追々知られることであろう。

 生徒に質問タイムは与えられることなく話を続ける。

 

「ここでお前らにいわねえといけねえことがある」

 

 声色は変わることはない。

 口はよく動くが顔の上半分はピクリとも動かない。

 

「このクラスには、あのレベル5が四人もいる!」

 

 一瞬の静寂。

 皆が頭の中で今の言葉を何度も再生し、意味を考える。頭の中で再生される今の台詞は一向に変わらない。

 そして叫ぶ者が現れた。

 

「はあ!?」「レベル5が!?」「しかも4人も!!」

「まじで?」「嘘だろ!!」

 

(…………おいおい)

 

 新入生特有の緊張も一気に吹っ飛ぶほどの爆弾発言のおかげで教室内は騒がしくなった。

 防音壁のおかげで他クラスには悟られていないだろうが美影には関係無い。

 

 とにかく、この状況は彼にとって好ましくない。

 

 超能力者(レベル5)であることはいずれ知られることは否めない。

 しかし望んでいたのは他愛ない話の中などで知られること。公表といった形は過剰な注目を浴びて当人達にとっては迷惑極まりない。

 次なる作戦を考える中、とある大声がクラスに響いた。

 

「なにい!? 俺以外にもレベル5が三人もいるのか!!」

 

 視線が一か所に集まる。

 そこにいたのは第七位の削板軍覇。彼は無邪気に心情を述べてしまうらしい。

 これで一人が発覚。

 

 騒ぐ中、担任有澤により自己紹介レースが開始された。

 超能力者(レベル5)の存在が発覚した今、レベルに関して自信を持っていた生徒でもそれを誇示する輩はいない。

 例外を除いて。

 

「垣根帝督だ。俺もレベル5の一人だ」

 

 再びでた電撃的カミングアウト。

 隣にいた女子生徒の眼の色が輝き出し、それをみた男子生徒が嫉妬の睨みを向け出した。

 そしてマシンガンのような質問が向けられる。それらを彼は一つ一つ丁寧に答えて高潔な第一印象を得る。

 それらの質問のなかに美影たちも無視できないものがあった。

 

「垣根くんは序列はいくつですか?」

 

 超能力者(レベル5)について少々知っている者であれば気になる情報のひとつであろう。

 垣根は視線を質問をした女子生徒から一方通行へと向けて答える。

 

「俺はそこにいる第一位の次で第二位なんだよ」

 

「テメエ、ナニ勝手にバラしてンだよ」

 

「何だ、自分で自慢するつもりだったのか?」

 

「うるせェ。テメエなンかに言われるのがムカつくだけだ」

 

 緊迫気味の学園都市トップ2の会話に横槍を入れる者など入れず、少々静まり返った教室を美影は面白おかしく感じた。

 兎にも角にも残る隠された超能力者(レベル5)は美影一人のみ。

 ここまで来ると潔く自分に白旗を上げてカミングアウトした方が適切かもしれないと美影は思った。

 

 自己紹介レースが再始動し、ついに一方通行の番となった。

 

「一方通行だ。そこのチンピラが言ったようにレベル5序列第一位」

 

 それだけ述べて、すぐさま着席。

 唖然とする生徒も多い中、一方通行はどこでもマイペースを貫いている。名前に疑問を持つ者もいたようだが答える気は彼にはない。

 そして自己紹介は美影の番になった。

 

「御坂美影です。これから宜しくお願いします」

 

 自己アピールすることなく、最低限のことだけで席に座ろうとしたのだが、

 

 

「御坂クンのレベルはナンですかー?」

 

 的確に残酷な質問が隣から飛んできた。

 投げかけた本人は美影とは正反対の方向を向いて赤に他人のふりをしている。

 

「……一方通行、いやがらせか?」

 

 目を細めて一方通行を見るが目は合わない。

 責めても無駄だと習熟している美影の耳に周りから小声が届いた。

 

「アイツもレベル5?」「そういえば第一位とずっといたな」「けっこうタイプかも」「やっぱりか!」

 

 どうやら目立つ一方通行といるだけで美影も目立っていたらしい。

 どこから後悔したらいいのか見当もつかない美影はとりあえず裏切り者の質問に返答する。

 

「あー……、俺もレベル5です」

 

 垣根のように質問攻めを浴びるのは何としても避けたい美影はそこで強引にでも着席した。

 小声で一方通行に文句を連呼しながら他の自己紹介を聞き流し、ついに最後の超能力者(レベル5)の番となった。

 

「俺の名前は削板軍覇! レベル5の序列七位! これから一年間、根性持ちながら宜しく!!」

 

 暑苦しいほど熱意のこもった声で高らかに発言した彼の背後から何故かカラフルな炎と爆音が舞いあがった。おかげで机は吹っ飛び、隣の生徒は心臓が飛び出るほど驚いている。

 

(…………、)

 

 いかなる研究者でも手を挙げてしまうほど理解不能な能力であることは事前に調べていたが目にするとぐうの音も出ない程摩訶不思議である。

 

(…………、)

 

 美影は改めて、超能力者(レベル5)は一癖も二癖もあると実感したのだった。

 

 

 ◆

 

 

 入学式後のホームルームを終えると、学校側の本日の予定は終了らしい。

 長居するつもりも無い美影と一方通行の二人はすぐに校舎から出た。

 

「美影ェ、飯行くぞ」

 

 昼と言うこともあり空腹となった一方通行は都合を尋ねることも無く強引に美影を誘う。

 断る理由も無い美影は彼の言われた通りに動くのだが、

 

「おい、そこの白い奴!!」

 

 背後から大声で呼び止められてしまった。

 振り向くとそこには生徒が十数名。見たところ二年生か三年生。先輩にあたる生徒たちのようだ。

 彼等の視線は一方通行に向けられている。

 

「お前、レベル5の序列一位らしいな」

 

「……だったらナンだってンだ?」

 

 見下すように一方通行は返事をする。その目が気に食わなかったのか、先輩達の表情が険しい。

 

「ならお前を倒せば実質一位になれるって訳だ」

 

「ケッ、井の中の蛙共が。イイぜ、相手してやるよ」

 

 待ち望んでいたように挑戦を受けた一方通行達は全校生徒が見ることが出来るグラウンドへと移動した。

 グラウンドは国立の競技場のように広く、国際大会すら開けそうである。

 そのど真ん中に行っても一方通行の白髪はよく見える。

 

(……おいおい)

 

 取り残された美影は仕方なく野次馬の端っこに佇む。

 目立つ一方通行とは違い、美影が超能力者(レベル5)という事実はまだ知れ渡っていないらしいのが彼にとっての幸いである。

 しかしその幸いの前には、不幸中の、がつく。

 一方通行が負けるとは到底思えない。たとえ相手が二年生、三年生全員であったとしても。

 心配の対象は先輩方である。

 普段から武装無能力集団(スキルアウト)を意識的にも無意識的にも撃退している彼がその気になれば肉塊など造作も無く製造できる。

 万が一、大勢の前でそれを行われては美影もフォローできない。

 大人しく暴れることを願う美影にも声が掛かった。

 

「よう」

 

「ん?」

 

 振り向くと垣根帝督の姿があった。

 彼は気さくに声を話しかける。

 

「お前、御坂(・・)美影だってな」

 

 あからさまに苗字を強調した彼の考えを美影は読みとる。

 

「ん、『常盤台の超電磁砲(レールガン)』は俺の妹だよ」

 

「はぁ~あーー」

 

 事実を聞かされた垣根は両手を腰にあて、大きくため息をした。

 顔を挙げた帝督の左の眉が歪んでいて、唇の左端が若干つり上がっている。

 

「まさか第六位がそんな所にいたとはなぁ」

 

書庫(バンク)で妹の家族関係にはちゃんと兄って書いてあったと思うが」

 

「情報が少ないから学園都市の外にいると思ったんだよ。第六位の噂を聞いて入学したら、……まさかこうなるとはねえ、」

 

 垣根は美影の頭から足まで見渡し、腑に落ちない様に呟く。

 これは美影が予想した結果だ。

 とある理由で学園都市の上層部は第六位に関する情報を限りなく隠し続けてきたため、学園都市の『裏』にも所属する垣根ですら美影の姿を捕えられなかったのは必然なのかもしれない。

 

「おい!」

 

 先程と同じような声が垣根にかかった。

 

「てめえ、第二位だってな」

 

「……ご指名だぞ」

 

「みたいだな」

 

 嬉しそうに垣根も先輩からの洗礼を受けることになった。

 同じくグラウンドにでて、戦闘が開始。いつの間にか第七位の削板も戦闘を開始していた。

 派手に炎だの竜巻だの雷だのが飛び交い荒れ狂う光景は学園都市最高峰の学園を上手く映し出せているのかもしれない。

 先輩方の奮闘記の幕開けに感心しながら美影は思う。

 

 

(…………帰ろうかな)

 

 御坂美影は、無駄な争いを好まない。

 

 

 

 




……早く二次ファン時代の続きが書きたいせいか、省略した個所もあり、何だか地の文も少なくなった気がします。
その割に更新が遅くてすいません。




今回使わせていただいたオリキャラの名前。

有澤 宗佑  (ありさわ そうすけ)

 Beatさん、ありがとうございました。第一号です。

まだオリキャラの名前は募集中です。
活動報告を更新するので是非ご覧ください。

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