シリアスは第零章の一割未満、
これまでより遥かに(募集した)オリキャラを多用、
にじファン時代に中退したためもはや改訂版とは言い切れない、
誰よりも作者が心配中、
そんな第参章、これにてスタート!
「…………一方通彳
九月一日。
言わずもがな夏休み明けを迎えてしまった一日目。
長点上機学園でも始業式が行われている。
恒例のフロム檀上の一方的な校長先生の話とやらを一字一句聞き逃さない人物など教師を含めてもはたして何パーセントいるだろうか、なんて考える人物も殆どいないに違いない。
高校一年生である御坂美影は一方通行の隣で昨日得た情報を彼に伝えることにした。
「(そういやあの子、思ったより早く退院できるらしいぞ)」
「(へェ、そォかい。そりゃ良かったな)」
他人事のように一方通行は言うが、彼も内心はほっとしているのだ。
命がけで電子顕微鏡クラスの精密さを誇る演算を行って、万が一遣り損じがあれば不服の他ない。
『続いて、生徒会長、
小声で二人はあの少女に関して話し合うが、勿論式は順調に進んでいく。
見渡せば他にも近くの席に座っている学生と軽く談笑している者もいれば、そもそも意識を手放して夢の世界へとダイブしている削板や垣根のような生徒も多い。
かといって、口を出して注目されるのも億劫な教師陣は見て見ぬふりをし続ける。
「(んで、俺学校のあとに病院行くけどお前どうする?)」
「(……あァ、行けたら行くわ)」
そういう人は大抵来ないのは常識であるのだが、
「(そうか)」
予定帳を作ったら空白が殆どで、予定帳の存在すら忘れてしまいそうな一方通行を美影は信頼する。
少々周りが騒がしくなったため、美影は今は式のどの項目に達したのか見渡したところ、本日付で赴任された教師の紹介らしい。
興味のない美影はたった今、あることを思い出したため、一方通行に言う。
「(そういやお前、昨日の夜はどこで過ごしたの? 部屋が滅茶苦茶にされたって聞いたけど)」
「(適当にホテルのスイート借りた)」
と聞いたところで美影はもう一つ重要なことを思い出した。
「(あ、お前に言わないといけないことがあったから、やっぱり何があっても病院に来い)」
「(あン? ここじゃァ言えねェことなのか?)」
「(ああ、ここじゃちょっと言えないこと。てか言っても意味ないこと)」
「(?)」
一方通行が気にかかったところで長い長い始業式は終了を合図を迎えた。
彼等にとって重要なことと言えば、今月中に行われる大覇星祭についての意気込みぐらいであり、他は耳に入ってすぐに逆の耳から抜けていった。
本日、授業というものはなく、午前だけで終わったため、式からさほど時間がたつことない内に二人は帰路についた。
◆
一旦、一方通行と別れ、自宅に戻ってから私服に着替えて美影は打ち止めの最終調整が行われているカエル顔の医者がいる病院に訪れた。
昨日、布束がとある施設で行っていたのはあくまで脳内に異端信号が残っていないかを探し出すものであり、身体的な安否を確認するのはカエル顔の医者のほうが数段も腕が立つ。
病院に入り、廊下を進んでいるとカエル顔の医者の姿があったため、美影は律儀に挨拶をして妹に関して質問をする。
「あの子、どうですか?」
「うん、今日中に退院できるほど良くなったようだねえ? 今後も検査は定期的に行うことを勧めるけど、当分は問題なく普通に生活できると思んじゃないかな?」
「そうですか」
「あ、そうそう。ついさっき一方通行が来たから、多分あの子の病室にいると思うよ?」
「あ、もう来ていたんですか」
病院に直接来たのか、自分より早くお見舞いにきていたことに美影は微笑む。
何だかんだ言って、やはり彼も心配だったのだ。
そして美影はカエル顔の医者に軽く一礼して病室に向かう。
エレベーター等を利用して移動を完了させ、病室の前に立ち止まった。敢えて礼儀正しくノックして入出するのも少し荒唐な話だと思った美影は、
「入るぞー」
気軽に声をかけながら遠慮なくドアを横にスライドする。
部屋にいたのは打ち止めと一方通行の二人だけ。これだけ聞けば、取り立てて気に止めることなどない。つい先ほどカエル顔の医者の言葉とかみ合わないことなどないのだから。
しかし、美影の前方にある光景を誤ることなく解説するとしたら、こうなる。
――――――一方通行が、打ち止めの両肩を掴んでベッドに押し倒している。
「…………」
部屋のドアの手すりに掴まりながら口を半開きにして目の光を抹消した美影の無言。
「…………」
打ち止めの両肩を掴んで美影の声を聴いてそのまま振り向いた一方通行の絶句。
「あ! お兄様助けて助けてー! ってミサカはミサカは大声をあげてみたりー!」
ベッドの上で上半身の自由を奪われた打ち止めは両足をジタバタと動かしている。
直後、バキン、という硬度抜群な物体が折損する音が病室に響いた。
「…………
瞬きを忘れて濁った瞳で犯罪現場を見ている美影の手には、金属製のドアの取っ手が握られている。
その金属棒の両端は波を打つように千切れた跡があり、今美影が握っている部分は次第に指の形に凹んでいく。
「だ、ダレが一方通報だァ!?」
誤解を受けている性犯罪者予備軍はすぐさま幼女から手を離して距離をとった。
「ケッ、テメエもあのニセ海原と同類かよ。ったく、『グループ』には変態しかいねえなオイ」
「美影!? オマエキャラが崩壊してンぞ!? つーかあの変態共と一緒にすンじゃねェ!!」
「ミサカ、一方通行に乱暴されるところだったんだよ! ってミサカはミサカの体を抱きしめて涙目になってみたり……」
「黙れクソガキ! 誰のせいでこうなったと思っていやがる!」
妹の憂愁を聞いて美影はドアの取っ手を離す。その直後、彼の手の平から十センチほど離れた位置に黒々とした球体が発生し、落下するはずの金属棒はそれに吸い込まれていった。
「待ってろぉ妹よ。お兄ちゃんがこのロリコンをこの世から撲滅してやっからなー」
「ま、マジ止めろ美影ェ! ……てか後ろでクスクス笑ってんじゃねェぞクソガキイイイイイ!!」
学園都市最強、一方通行。
彼の力をもってしても、兄妹間のベクトルは操作しえない。
我を失いつつある美影の肩を揺らして冷静な思考を取り戻させるには十数分かかった。
◆
『ヤッホーい! 今日は夜中まで楽しむぜーい!!』
第六学区、とあるカラオケボックス。
垣根帝督はマイク片手に大声で叫んでいるクラスメイトの横に座っていた。
夏休み明け記念に、彼はクラスメイトとここで軽く宴会めいた催しを開いている。
男女の比率はほぼ五分五分で、合コンにも見えるが、女子たちの意識は学園都市に七人しかいない超能力者の一人でホスト風の容姿を持つ垣根に向けられていることが多い。
そして、次の曲のイントロが流れ出した。
「お、これは誰の選曲だ?」
「俺だ俺だ、マイク寄越せ」
立ち上がったのは垣根。
女子たちの歓声に促されて彼のテンションも上がっていく。
「おい垣根、飲みモン注文するけどお前どうする?」
『ん~、適当にコーラ頼むわ』
マイクを受け取った垣根はエコーを連ねて要求する。
そして彼は歌い出す。彼の歌声は一般的な学生よりも遥かに上手く、女子を引きつける色気が含有されており、女子は次第に高揚していく。
サビに入ったところで眼鏡をかけた店員がお盆に乗せた飲み物を運んできた。
「お待たせしましたー。こちら、ウーロン茶とコーラとメロンソーダと―――」
一つ一つ部屋の中央に設置されたテーブルに並べていく。流石にアルコールを含む飲料は注文不可のようで、ソフトドリンクしかない。
そして全て置き終えたところで店員は入り口の前で軽く一礼し、
「失礼しましたー」
眼鏡の位置を指で整えながら一言告げて立ち去った。
見知らぬ店員が部屋に入ってきたことに構わず垣根は終始歌い続けている。
――――――その店員の眼鏡には一般的なモノと異なる部分があった。
眼鏡の関節付近、つるの前方を向く先端部分。
そこには至近距離で目を凝らさないと気づかないほどの細かなレンズが内蔵されていた。
◆
ブラックホールという学園都市でもトップクラスに物騒な武器を消し去って、美影はベッドに腰掛けている。
対面するように一方通行は椅子に腰を下ろしており、打ち止めは美影を背後から抱きしめるように体を預けていた。
暴走寸前の美影を何とか抑え、一方通行が説明したところ、打ち止めは本来一方通行の脳内操作によって彼との半日ほどの記憶も消去されてしまったはずなのに、彼女はそんな素振りも見せなかったためその訳を聞き出そうとしたところ、
「教えないよー、ってミサカはミサカは意地悪してみたり~」
と病室内を逃げ回ってでも黙秘権を乱用したため、一方通行が取り押さえようとしたところ、どういう経緯をたどったかは不明だがあのような結果になってしまったからだという。
「まったく、そうならそうと言ってくれよ」
「テメエが勘違いしたンだろォが。俺のせいにすンじゃねェ」
「怖いよ怖いよーってミサカはミサカはお兄様を抱きしめてみたりー」
一方通行の冤罪証言にハマったらしい打ち止めは今だ被害者の演技を続行する。
そんな妹のアホ毛を崩さないよう美影は腕を回して優しく頭を撫でた。
「あ、そうそう、お前に言っておかないといけないことがあったっけ」
美影が午前中の始業式での続きを思い出したのと同時に、病室のドアが開けられた。
「あ、丁度いいタイミング」
美影に釣られて打ち止めと一方通行も入り口に視線を向けたところ、入ってきたのは二人の女性。
「こんにちはじゃんよー」
「あら、二人とも来ていたの」
先陣を切ったのは、抜群のスタイルの上に緑色のジャージを着用し、髪を後ろで纏めている黄泉川愛穂。彼女の後ろからついてきたのはつい昨日に一方通行も会った、芳川桔梗。
二人の姿を見て、一方通行は首を傾げた。
「あ? 芳川が来ンのは分かるが、何で黄泉川のヤロウが来てンだ?」
打ち止め関係で芳川がやってくるのは何も疑問を持たないが、警備員であるだけの一般教師の黄泉川がいるのは場違いだと彼は判断する。過去、一方通行は黄泉川に補導されることが多々あったため、彼女の姿を見るだけで気分を害してしまうだけかもしれないが。
「あら、まだ聞いていなかったの? あなたはこれから、愛穂の部屋で私たちと暮らすからよ」
「はァ!? なァに頭ン中沸いてンだよテメエ」
芳川の発言に度肝抜かれた一方通行は軽く取り乱した。
今度は美影から説明する。
「お前家ん中滅茶苦茶にされたって言ったじゃん? それにこの子ももうすぐ退院するから、一緒に暮らせるとこ探していたらこうなった」
「オイ、何で俺とそのクソガキが共同生活送ンねェといけねェ?」
「ボディガードに決まってんだろ。この子一人操られたら俺の妹全員がヤバいことになるんだから」
「えぇ~、ミサカはお兄様と一緒が良い~ってミサカはミサカはお兄様の首元に顔をうずめてみたり~」
妹の特権を最大限に生かした駄々っ子攻撃に勤しむ彼女の頭を美影はまた撫でる。
「そう言うなって。偶には遊びに行くし、代わりに一方通行を自由に使っていいから」
「フザケンな、俺はこれから部屋ァ探すに決まってンだろ」
打ち止めに振り回される生活なんて真っ平御免だと言いたげな一方通行は強情なまでに拒絶し続ける。
しかし、
「……なら、」
美影は携帯電話を取り出し、一方通行にとある画像を送信した。
それは他でもなく、彼の弱みが凝縮された脅しの材料であり、その画像と共に『バラすぞ』という短いメッセージが添えられている。
「…………、」
表情で悟られると厄介なことになる、と一方通行はポーカーフェイスを保つ。
そしてこれが打ち止めや黄泉川、芳川に渡った時には社会的に生命を途絶えてしまうため、
「…………チッ、」
内心溺れるほど汗を流しつつも、この要求をのまない手は彼には残されていなかった。
◆
「すごいパーンチ!」
とある路地裏で詳細不明な衝撃波が放たれた。
原石でも最大級の逸材であり、史上最大のダイヤモンド原石『カナリン』を連想させうる少年、削板軍覇は拳を前方に突き出していた拳を戻す。
「まったく、お前ら根性が足りねえな!」
至る所で不良たちが意識を失っている。
彼は不良に絡まれていた女子学生を助けようとしたのだが、いつの間にかその女子はこの場から退却してしまっており、しかも削板はその行動原理すらも忘却を終えており、
「だからお前らも根性を持てば―――」
辛うじて気絶を免れたが体の全身が均一に痛んでいる不良たちに
「?」
その途中、彼の野生の勘が働いたのか、何者かの気配を感じ取った削板は後方を振り返った。
そこには人間の姿はなく、カラスが不法投棄されたゴミを漁っている様子しか生物の活動が見当たらなかった。
――――――建物の陰には一人の男性がいた。
冷や汗をかいているその人物の手には、小型で、しかもシャッター音が鳴らないよう改造されたカメラが握られていた。
◆
「……ナンだこれは……!?」
学園都市の裏に叩き込まれ、数々の地獄を目の当たりにした一方通行は、現在の彼でも初見である珍な光景を目の当たりに目を見開いている。
彼の前には、見た目小学生で、ピンクの髪が特徴的な学園都市の七不思議がいる。
「わ、私はこう見えても先生なのですよー!」
弁明を望む幼女先生、月詠小萌は声をあげるがそれも小学生の仕草と同等としか見えない。
「チッ、細胞の老化現象を抑える実験は、もう完成してたってワケか」
「きっとこの先も実験ばかりなんだろうなってミサカはミサカは目頭を押さえてみたり」
過去に僅かにかかわった実験の詳細を思い出す一方通行、幼女先生と友達と言っても差支えない容姿の打ち止めの二人にどう対処していいのかわからない彼女はあたふたし続ける。
「あはは、掴みは完璧じゃんっ!」
「そ、そんなことで呼ばないでください!」
彼女をこの場に呼んだ張本人である黄泉川は腰に手を当て豪快に笑った。
一方通行の後ろで小萌先生の神秘的な身体的特徴に興味を持ち、研究者魂に火がついて少々危ない笑顔を浮かべている芳川の横で、美影は噂には聞いていた不老不死の完成型の容疑がある小萌先生に絶句している。
「あ! アナタが御坂ちゃんですね」
「え、なんで俺を?」
これほど他者に違和感を感じさせる教師なんて忘れるはずもなく、初対面であるほかないのだが、自己紹介抜きで名を呼ばれたことに美影は疑義を抱く。
「上条ちゃんから聞きました! 上条ちゃんに似合わず夏休みの宿題を完璧にこなしたことを問い詰めたら御坂ちゃんのことを白状してくれたのですっ!」
「あー……、なるほど、それはご迷惑をおかけしました」
所々を上条の解答の傾向に寄せてわざと誤答を記入するといった手の込みようを施したのだが、そもそも提出を完了させたことから目を煌めかせるのでは美影の助力は助長にしかなりえない。
見た目幼女に敬語を採用するのは奇怪な気がするが、立場を一応弁える志は彼に秘められている。
「特に桃太郎を題材にした読書感想文なんて上条ちゃんには到底書けない出来で―――」
「それは忘れてください、子供先生」
少々遊び心を働かせて多々自身の語彙力を駆使した原稿用紙数枚はどうやら小萌先生には好評だったようだが、褒められても羞恥心しか沸きえない。
「先生の名前はコドモではなくて、コモエなのですよーっ!」
◆
(…………チッ、美影の野郎)
黄泉川の部屋に私物を運び終えた一方通行は一人街を歩いていた。
彼の用意周到さには反抗できる手段を持ち合わせていない彼は忌々しく思うことしかできない。
とにかく、あのまま部屋に留まっていたら打ち止めに思う存分振り回されることは目に見えていたため、脱走序でに生活に要する私物の補給に来ているというわけだ。
今、彼は愛用しているアパレルショップに来ている。
彼の衣服に関する趣味は、美影とは相容れない要素があるため、美影がこの店で何かしらを購入した歴史はない。
適当に店内を一通り眺めていると、彼の視点が止まった。
(…………、)
一方通行は今まで、黒地に白い牙のような模様を描かれたTシャツを着用していたのだが、今彼が手に取ったのは白地に黒模様といった真逆のカラーデザイン。
(……ほォ、)
生活環境も一変し始めた本日から、見た目も変化させるのも悪くはない。
そう変心した一方通行はそれを筆頭に、次々と目についた私服を迷わずレジに通した。量が量なので、黄泉川の部屋に送るよう店側に注文した一方通行は手ぶらで店を後にした。
◆
続いてやって来たのはどこにでもあるコンビニ。
生活に足りないものを連想させていく中、最終的には彼が愛してやまない缶コーヒーにたどり着いた。
ガンガンと音を鳴らせて籠に缶を入れていく一方通行。
月も変わって新学期になり、新商品が幾つかあったため、それら全種を購入するつもりらしい。黄泉川の部屋にあった冷蔵庫は夏休みの初めに美影に買わせた一品よりも大容量であったため問題はない、と今度は荷物を抱えてコンビニを後にした。
――――――彼の行動を、アパレルショップから見張っていた人物がいた。
その者の手には高性能のカメラが握られていた。
先ほどから何度も使用されたそのメモリには一方通行の姿が収まったデータがいくつも保存されている。
一方通行は、それに気づくことなく新しい帰路につき始めた。
大覇星祭までのオリストメインの章です。
オリキャラも出ますが読んでて苦労しないように書くことを心がけます。
っていうかこの章にしか出ないキャラが殆どで…………
◆
今回使わせていただいた名前。
ライトニングボルトさん、ありがとうございます!