とある六位の無限重力<ブラックホール>   作:Lark

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ちょっと急いで書いたので誤字が心配です。


信頼

 

 

 

 

 

 

 御坂美影は白井に伝えられた集合場所であり、調査場所であるファミレス、『Bennys』に到着した。接客してきたウェイトレスには待ち合わせをしていると告げながら店内を見渡し、一人テーブル席に着いている白井、そしてその近くで高校生ぐらいの不良と思われる輩数名に交渉している美琴を発見した。

 適当に飲料を注文して、迷わず美琴と不良たちに気づかれない程度に軽くアイコンタクトをしながら白井のいる席へと向かう。

 メロンソーダをテーブルに置いている白井から、現状の説明が来た。

 

「見ての通り、お姉様があの方々から幻想御手を分けてもらえるよう交渉してますの」

 

 美影以外の誰にも聞き取れない程度の声量で簡潔に伝える。

 それを聞き、何故白井がその役を買わないと詰問したくなったが、電話と同じ言葉が返ってきそうであると判断し、他の言葉を選ぶ。

 

「上手くいくのか?」

 

「お姉様のことですから万が一の際の自己防衛は確実に行えますが、……やはり過剰な行動が無いとは言い切れませんの」

 

 その点は同感である美影は、そのケースの対策を今のうちに練っておく。

 最悪の場合、不良たちを美琴から守らねばならないと顔を軽く引きつらせるが何より穏便に済ませることを願うのであった。

 二人は不自然ではない程度に警戒心を持ちながら、美琴の交渉を傾聴する。

 すると、

 

 

 

「えぇ~? 私ぃ、そんなに子供じゃないよぉ♡」

 

 

 

「ブゥゥッ!!」

 

「イッ!? きたなッ!」

 

 耳と目を塩でもみ洗いたくなるほど錯覚と信じたい、常盤台のエースの光景に白井は思わずジュースを吹きだす。

 不幸なことにそれは正面にいる美影にスプレーのごとく降りかかり、咄嗟に手で防いだため彼の右手は緑色でベタベタである。

 おしぼりでふき取りつつ文句の一つでも送ってやろうと視線を前に向けたところ、そこにいたのは現実逃避に精を出してテーブルに一定の振動数で頭突きを繰り返す白井であったため、瞬間、文字通り言葉を失ってしまった。

 

「し、白井さーん?」

 

「…… ()…… ()…… ()……」

 

 辛うじて耳に届く呻きといやでも伝わる頭突きの鈍音が共鳴することで一種の恐怖が植えつけられそうである。

 美影は何とかして物理的自虐行為を停止させたいがふと予期せぬ登場人物の声が聞こえた。

 

 

 

「あなた方、女子中学生にたかっていて恥ずかしくないんですか?」

 

 

 

 その声の主を脳内データベースから導き出したのと視線をその人物に向け終えたのは同時であり、想定外なほど煩雑な予感がしたのはその直後であった。

 美琴の背後から現れたのはツンツン頭の上条当麻であり、彼の正義感が助長し、事態は急展開を迎えた。

 

「おい、白井! 何だかかなり面倒なことに……」

 

 そして視線を戻したところ、白井は上条の登場に気づいていないらしく、おそらく先ほどの美琴の爆弾発言が脳内でエンドレスリピートされているらしく、美影の経験則にはこの場合の対処法が記されていない。

 珍しく美影が戸惑っている内に、不良たちとのいざこざが展開されたようで既に上条、美琴、そして不良達はファミレスから退場していた。

 

「あー、もう!」

 

 無責任だが会計は白井に任せるとして美影はとにかく後を追う。

 ファミレスの入り口をくぐったのと同時に能力を発動し、周囲300メートルほどに働いている重力を一気に感知する。

 緊張感漂う戦闘の最中ではこのような重力の感知は数十メートルしかできないのだが、今のような捜索のように美影自身の行動が比較的単純であれば話は別。

 そして都合のいいことに今回の対象の一人は幻想殺しを持つ上条当麻。

 彼の右手は美影は感知できない。取りも直さず、感知できない座標が美影の目的地点なのだ。

 空気ですら視えるため、上条の手はホワイトボードに一点だけ描かれた黒インクのように明瞭であり、全体像が広大でも見失うことはない。

 自分の体重を軽量化して速度を上げ、迷わず走り続けると途中に男たちが転がっていた。

 

(あーあ、目的見失っているよ……)

 

 しびれたような痙攣は明らかに美琴の能力の名残であり、おそらくこのさきに立っているのは美琴と上条の二人だけだろう。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「まったく、せっかくあと少しで手に入れられるところだったのに」

 

 ブーたれながら美琴は優雅に上条へと近づき、数十メートルの間隔をあけて立ち止まった。

 

「あ、……あれ? あの方々は……?」

 

「私がやっといた」

 

 全速力で走ったため息が切れながらも恐る恐る尋ねたが、残酷な勢力差を見せつけられてしまった。

 愛想笑いで機嫌を直してもらおうとするが美琴はイライラしたままだ。

 

「それで、どう責任とってもらおうかしら?」

 

「え゛?」

 

 美琴がポケットから取り出したのはゲームセンターには必ずあるメダル一枚であった。

 彼女がそれを手にしたことが何を意味するのかは上条は既に身に染みているため、顔をひきつらせている。

 

「ちょ、ちょっと待った!! それh」

 

「良いから一発喰らいなさい!!」

 

 拒絶の意を示すことすら許されず、美琴は指でコイントスの如く空中にコインを弾く。

 重力に逆らうことなく鉛直投射から鉛直落下へと切り替えられ、彼女の異名である超電磁砲の砲口たる指先にたどり着きそうになる直前、

 

「―――ストップだ、美琴」

 

 彼女の背後から高速で飛来に近い走行をしてきた美影の手にコインが握られ、彼女の必殺技は不発となった。

 

「な、なにすんのよ!!」

 

「なにすんのよじゃねーよ。なに一般人にそんなヤバいモン打ち込もうとしてんだよ」

 

「アンタは知らないかもしれないけどそいつの右腕で――」

 

「上条に能力が通じないってのは知っているけど、だからって下手すりゃ体が吹き飛ぶ攻撃して良い訳ないでしょうが」

 

 正論をぶつけられてぐうの音も出ない美琴。

 美影の背にいる上条には、一つの疑問が生じた。

 

「お、おい御坂。お前、ビリビリの知り合いか?」

 

「ビリビリ?」聞き慣れないフレーズに一瞬思考をするが、「あぁ美琴のことか。お前結構ネーミングセンスあるんだな。コイツは一応俺の妹だ」

 

「ビリビリいうな!」

 

「え? ……あ、そういえばビリビリの苗字も御坂……。そういうことか」

 

「そういうこと。悪いねぇ上条。うちのビリビリの躾が悪くて迷惑かけて」

 

「いや実はこの前ビリビリのビリビリを防いだ時から目をつけられて、以来出会うたびに勝負勝負って追いかけてくるんだよ」

 

「あー……、最近俺にそういう挑戦が無いと思ったらそっちにビリビリきてたか」

 

「え? 前は御坂にビリビリきてたのか?」

 

「うん。自慢じゃないが俺も超能力者(レベル5)だからな。ビリビリが超能力者になる前から大変だったよ」

 

「まじで!? ビリビリの兄も―――」

 

 

「ビリビリビリビリうるさいわよ二人とも!!」

 

 

 いつの間にか蚊帳の外で話題の中心となっていた美琴は、不快なあだ名に堪忍袋の緒が漏電(ショート)し、数億ボルトの雷の矢が投射された。

 

「上条ガード」

 

「え!?」

 

 美影は迷うことなく上条の右腕を掴んでそのまま投げるように雷の矢と衝突させた。

 空気を破裂させたような雷の轟音はガラスが割れるような音と共に消え去ったため、二人は無事であった。

 

「おい御坂! お前何すんだよ!?」

 

「まぁ、いいじゃんいいじゃん。終わりよければ全て良し」

 

「結果論!?」

 

「と、言いたいところだけどまだ終わりじゃあないぞ。多分」

 

「え……?」

 

 意識を電撃姫へと向けなおしてみると、彼女は首を少し下に向けており、表情が伺えない。

 怒っているのか、もしくは防がれて悔しがっているのか。

 

「そうよね……。分かっていたわよ、これくらいじゃアンタ達は何ともないってことぐらい」

 

 声にはさほど力がこもっていない。

 上条としてはここで諦めてくれれば何よりなのだが、美影を見てみたところ彼の顔は引き攣っていた。

 

「アンタ達には、……出し惜しみするのは失礼ってものよね」

 

「あはは……、美琴、落ち着け。頼むから」

 

 美影が宥めようと優しく声をかけるが一文字も聞こえていないかのように美琴の頭部からバチバチと電気が漏れだしていた。

 

 

 

「正真正銘、私の本気(・・)を喰らいなさいッッ!!」

 

 

 本日の学園都市の天気は晴れ時々曇り。

 処により、自然界には存在しない規模(レベル)の落雷が発生するでしょう。

 

「上条逃げろ!」

 

「逃げるってどこに!? 相手の攻撃は音速を遥かに超えるぞ!?」

 

「じゃ何とかして自分だけでも守れ!」

 

 考える暇すら命を蝕んでしまうため、精一杯の抵抗に勤しむことを決意した二人に、全身を震わせるほどの轟音と視界を白一色で埋め尽くす光輝を纏った一発の落雷が襲い掛かった。

 それは鉄橋を導線として第七学区へと渡り、広範囲の停電を引き起こした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「で、どうしてくれンだコラ」

 

「悪かったって、弁償すればいいんだろ」

 

 あの時、美影と上条は各々の力で自分の身は守り切ったため何とか凱旋を遂げた。

 しかし二人とも自宅は第7学区であったため、落雷の余波を電化製品達が受けたため、二次災害の如くそれらの故障に対応しなくてはならなくなった。

 被害は一方通行も受けていたため、翌日長点上機学園でその根源の兄である美影に半ば強制的に措置を求めたのであった。

 

「そういや美影、」

 解決したことで一方通行は不意に思い出した。

「幻想御手って知っているか?」

 

「あぁ俺も持っているよ。中々面白い構造(つくり)だった」

 

「……オイ、話が二、三段階飛ばされてねェか?」

 

「二、三個仮説は立てていたがその内の一つが当たってくれたよ」

 

 さらりと風紀委員や警護員の調査を凌駕したことに一方通行は特に驚きを示さない。

 美影の詮索の早さは何度も見せつけられたからだ。

 

「んで、それがどうかしたのか?」

 

 話を戻されたことで一方通行は要件を思い出した。

 

「ソイツを使った奴の何人かが統括理事会の一人を襲撃したらしくてなァ。そのお片付けを『グループ』に任されたンだよ」

 

「! ……へぇ。そうか……」

 

「? どうかしたのか?」

 

 急に思考を始めたような仕草をする美影を不思議に思った一方通行は尋ねた。

 数秒間、黙って何かを描くように綿密に事を組み立てる。

 そして口を開いた。

 

「一方通行、その仕事譲ってくれないか?」

 

「『スペース』にか?」

 

「まぁ、要するに俺にってことになるが」

 

 一方通行が所属する暗部組織『グループ』とは違い、美影が所属する『スペース』は下部組織は数十人といるが構成員と呼べる人物は他にいないため美影の言う通りになる。

 

「オレは仕事が無くなるってだけで構わねェが……、土御門のヤロウに聞いてみねェと分かンねェぞ」

 

「なら今から電話ずる」

 

 美影は制服の胸ポケットから携帯電話を取り出し、アドレス帳から『土御門元春』を選んだ。

 今、おそらく学園都市の大半の学校が昼休みであるため時間的に問題はないと思える。数回のコールを鳴らし、電話がつながった。

 

『どうしたぜよ、カゲやん。電話してくるなんて珍しいにゃー』

 

 この不思議口調で美影を唯一あだ名で呼ぶ人間こそ一方通行と同じく『グループ』に所属する土御門元春。

 学園都市の暗部以外にも危険な組織に加入しているため、人間関係は美影より段違いに広いと言えよう。

 

「一方通行から聞いたんだが、幻想御手の処分を任されたんだって?」

 

『! ……ああ。いつものように統括理事会のバカ共の都合に合わされるみたいだ。まったくふざけた連中だよ』

 

 美影が本題から入ったことで一変し、土御門の声は低くどこかシリアスになっていた。

 そんなことには構わず美影は要求する。

 

「悪いんだけどさぁ、その仕事俺に譲ってくれない?」

 

『ん? 「スペース」にか? 何故だ?』

 

「まぁ、やるのはおれじゃあないんだけどね」

 

『じゃあ誰だ?』

 

 その質問に、美影は一瞬自分の計画を見直すが、取り止めるつもりは毛頭なかった。

 

「御坂美琴」

 

 その言葉に、横で聞いていた一方通行も表情を変えた。

 

『なっ、超電磁砲に任せる気か!? 彼女は俺らと違って「裏」の事情なんざ毛ほども知らないだろ!?』

 

「まあ、いいじゃんそんなこと。何にせよアイツ、ちょっとこの事件に首つっこんじゃっているんだよね」

 

 昨日のことを思い出しながら美影は説明する。直接聞いてはいないが風紀委員や警護員の到達度(・・・)はとある情報網で入手しているため、彼女たちの解決までの目途は大まかだが立っているのだ。

 大して土御門は美影の考えなどこの会話からだけではまったく見えないため、今言いたいことはただ一つ。

 

『……大丈夫なのか?』

 

 何も迷うことなく、驕ることなく、誤ることもなく美影は云う。

 

 

「アイツは、俺の妹だぜ?」

 

 

『……分かった、上への連絡は俺がしておく』

 

 美影の言葉は彼の意思を伝えるには十分すぎたようだ。

 土御門に反論する余地はなかった。

 

『それはそうとカゲやん』

 

 話題は変わり、それに釣られて土御門の声色も飄々としたものへと戻っていた。

 

『俺んちの電化製品が一式うんともすんともいわなくなっちまったんだが、何か知らないかにゃー?』

 

「……」

 

 あ、そういえばこいつも第7学区の住人だ、と呑気に思い出しながら美影は心の中で白旗を揚げる準備を開始した。

 

『カゲやん? カーゲーやーん?』

 

「俺の妹がやりました」

 

『うにゃーー!! どうしてくれるんだぜい!? おかげで今朝は舞夏の手作りの朝食ナシなんだにゃー!!』

 

 朝飯ぐらい自分で何とかしろよ、と朝はギリギリまで眠る派の美影は思ったが、仕事を諦めてくれた分、下手(したて)に出ることにした。

 

「あー……、悪かったよ。一方通行と同じ電化製品(ヤツ)を放課後に買って送ってやるから我慢してくれ」

 

『お? おおぅ、悪いにゃーカゲやん。流石超能力者は俺っちとは財布の太り具合がちがうぜよ~』

 

 まさか負担してくれるとは思っていなかったのか急に大人しくなり、無駄な出費だと確信した美影は通話を切った。

 

「……と、いうわけだ」

 

「あァ、そォ」

 

 興味が失せたのか眠いのかわからない声で一方通行は返事をした。

 

 

 ◆

 

 

 放課後、美影と一方通行の二人は予定通り第7学区にある大型家電量販店に足を運んでいた。

 一方通行はおろか、土御門の分まで購入しなくてはならないところまで追い込まれてしまったため、美影には元気という原動力は存在せず、鬱気味であった。

 

「んで、何が欲しいんだ?」

 

「まァ、そォだな。手始めに冷蔵庫とレンジと―――」

 

 と、店内を見回しながら一方通行は、

 

「洗濯機乾燥機掃除機アイロンポットテレビオーディオ機器ミシンドライヤーパソコンプリンターミキサー炊飯器エアコンカメラ食洗器照明器具ルンバ―――」

 

「目についたものを口にするな」

 

 呪文のように手当たり次第言っていくが、すべて購入しても一方通行が使うとは考えられない製品も多く、というかたとえば一方通行がミシンを使っていたらシュールすぎると親友である美影は心の中でちょっと笑う。

 面白半分に見慣れない電化製品を使用してみたいという欲求は美影も分からなくもないが、やはり日常で必要としないものは場所をとるだけの粗大ごみ以上の何物でもない。

 まして、家事を並以上こなすようには見えない一方通行には、普段最低限だが料理をする美影や、そこらへんの料理店に匹敵する料理をする土御門舞夏程の家電製品は必要ないに決まっている。

 と考えていても面倒だと考えた美影は適当に店内の製品を漁っていくのであった。

 レジにて7桁に到達した金額を現金で支払うわけもなく、黒光りしたカードで済ませたとき店員に驚かれたのは別の話。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 後日、美影は一方通行の部屋で、購入した製品の整理をしていた。

 しかし残念なことに、配達の業者の仕事が適当で、製品の設置すら行ってくれなかったため仕事が増えてしまった。

 

「ところでよォ、美影」

 

「ん? 何?」

 

 一人暮らしには必要ないほど巨大な冷蔵庫を美影は能力を利用して片手で運んでいた。

 

「オマエがオマエの妹に任せるってのはまァ納得したとして、オマエの力を貸すよう頼ンでくるっつゥ可能性はねェのか?」

 

「ないよ、絶対に。冷蔵庫ここでいいか?」

 

 一分一理の疑いもない即答だった。

 それを一方通行は不審に思う。

 

「何でだ? もうチョイ左だ」

 

「んー……、簡単にいうとだ、美琴は優しいからお兄ちゃんをそんな危険な目にあわせたくないってことだ」

 

「意味分かンねェ」

 

「そんなに心配なら見てみるか?」

 

「心配なンざしてねェ。って見るってどういうことだ?」

 

「ん」

 

 美影は適当な空間に小さなワームホールを作りだし、そこに手を突っ込んだ。

 その出口は美影の部屋であり、手がワームホールから出てきたときにそこに掴まれていたのは美影のノートパソコンであった。

 wi-fiは既に設置してあったため、一方通行の部屋でもネット環境は万全である。

 ノーパソを起動した美影は目にも留まらず速さでタイピングを開始した。

 それは他でもなくハッキング行為であり、今回のターゲットは宇宙に漂う人工衛星だった。

 一分弱ほど彼の十本の指が休まず動き続けた後、画面に表示されたのはとある映像だった。

 

「ナンだこりゃァ?」

 

 一方通行が除いたところ、そこに映っていたのは半壊した高速道路。

 自分の身を守ることが手一杯な警護員。

 そして画面の中央に映る、白衣を着た女性と常盤台の制服を着た少女。

 衛星のカメラであるため、アングルは真上からただ一つであったが、それだけ把握するのには十分だった。

 

「幻想御手事件の最終決戦」

 

 その中心人物は、御坂美琴、そして先日美影の研究所に訪れた木山春生だ。

 荒れ狂う現場は天変地異の真っ最中のようで、超能力者である美琴でも苦戦しているらしい。

 

「オイオイ、楽しそうなことしてンじゃねェか」

 

 多重能力者(デュアルスキル)に類似した木山の戦闘を見た一方通行の表情には狂喜が垣間見えた。

 

「美琴に任せたんだから手ぇだすなよ。つってもそこ、結構遠いけど」

 

「あァハイそォですか」

 

 一方通行は美影の言うことに従いながら、今度は美影を(・・・)観察した。

 

(手が止まってるぞォ、美影)

 

 彼こそ妹の心配をしているのだからこそこうして映し出しているのであり、作業を進めるよりも画面を見ることに集中しているようであった。

 

―――――美影との付き合いが長い者なら直ぐに解る。

 

 今回、妹にこの事件を任せたのは、一種の通過儀礼のようなものであり、幻想御手事件は学園都市の『裏』の薄味の薄味のようなもので彼女への試練としては十分なものだった。

 だからこそ、少々辛く背きたくなるような現実でも彼は身をもって実感させたのだ。

 

(…………ったく、)

 

 一方通行は吐き捨てるように心の中で呟く。

 

(本当に優しいのは、テメエじゃねェかよ)

 

 遠くない過去を顧みながら一方通行は呆れるように小さくため息を吐いた。

 

「どうした、一方通行?」

 

「……なンでもねェよ」

 

 まだ一方通行の部屋は片付いていない。

 

 画面を見たところ、そこには一本の光線が映し出されている。真っ直ぐに輝くそれは、三角柱の物体を貫き、事件の終止符を打った。

 

 美影は安心を取り戻して、作業を再開した。

 

 

 

 

 





と、いうわけで第一章は終わりです。

早く次が書きたいという気持ちが前に出すぎてにじファン時代の時よりかなり短縮させてしまいました。ごめんなさい。


あ、オリキャラの名前は募集中です。

第二章ではほんの数名をほんの一瞬ずつ使いますので。(にじファン時代に読んでいただいた方々は分かるかな?)



そして次回! レベル5のあの少女が登場か!?



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