問題児たちが異世界から来るそうですよ? 出来損ないの陰陽師の異世界録   作:カオス隊員

8 / 17
第七章

 

―――“ノーネーム”・居住区画、水門前。

 

 

あの後気を落ち着かせてから黒ウサギ達を追いかけ、廃墟を抜けて徐々に外観が整った家が立ち並ぶ場所に出てきた。この先に貯水池があり水樹の苗を設置するらしいので、それを見に行くため俺達はそのまま居住区を素通りする。貯水池に着くとジンとコミュニティの子供達が清掃道具を持って水路を掃除していた。

 

 

「あ、みなさん!水路と貯水池の準備は調ってます!」

 

 

「ご苦労さまですジン坊っちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」

 

 

黒ウサギが子供達に近寄っていくとワイワイと騒ぎ出して黒ウサギの元に群がっていった。

 

 

「黒ウサのねーちゃんお帰り!」

 

 

「眠たいけどお掃除手伝ったよー」

 

 

「ねえねえ、新しい人達って誰!?」

 

 

「強いの!?カッコいい!?」

 

 

「YES!とても強くて可愛い人達ですよ!皆に紹介するから一列に並んでくださいね」

 

 

パチン、と黒ウサギが指を鳴らすと、さっきまで黒ウサギに群がっていた子供達は綺麗に一列で並びだした。人数は二〇人程で、中には猫耳や狐耳の少年少女もいた。

 

 

ふっと逆廻達を見ると、三人は苦笑いで子供達を見ていた。………子供が苦手なのだろうか?まあ、これから衣食住を共にするんだからそれは早く慣れてもらうしかないな。視線を子供達に戻すと既に並び終わっており、黒ウサギがコホン、と仰々しく咳き込んで俺達を紹介しだす。

 

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、神崎龍騎さんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」

 

 

「あら、別にそんなの必要ないわよ?もっとフランクにしてくれても」

 

 

「そうだな。俺もそっちの方が気楽でいいわ」

 

 

「駄目です。それでは組織は成り立ちません」

 

 

飛鳥と俺の申し出を、黒ウサギが今まで一番厳しい声音で却下された。

 

 

「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きていく以上、避ける事が出来ない掟。子供のうちから甘やかせばこの子供達の将来の為になりません」

 

 

「………そう」

 

 

「俺としてはそういう礼儀とか苦手だから子供らしくしてほしいんだけどな」

 

 

「龍騎さん」

 

 

「分かってるって。郷に入れば郷に従え、てな。黒ウサギの言っていることも一理あるし、一応納得しておく」

 

 

これまで三年間黒ウサギ一人でコミュニティを支えていたからこそ知る厳しさなんだろう。まあ、これから俺達が頑張って子供達も黒ウサギも楽になるように一肌脱ぎますか。

 

 

「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言いつける時はこの子達を使ってくださいな。みんなも、それでいいですね?」

 

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

 

二〇人程の子供達が一斉に大声で叫ぶ。

 

 

「ハハ、元気がいいじゃねえか」

 

 

「子供はこうでなくちゃな。よろしくな、お前ら」

 

 

「そ、そうね」

 

 

その大声に俺と逆廻は笑い、飛鳥と耀は複雑そうな表情を浮かべていた。

 

 

「さて、自己紹介も終わりましたし!それでは水樹を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれますか?」

 

 

「あいよ」

 

 

逆廻はポケットからギフトカードを取り出し、水樹の苗を発現した。黒ウサギはその水樹の苗を受け取る。………本当に便利だなあのギフトカード。あれってギフト以外にも収納可能なのだろうか?

 

 

そんなどうでもいいことを考えながら貯水池とその周辺を見回す。水路は長年使われた形跡がないが骨格だけはしっかりと残っていた。所々、罅割れがあったがこれなら水路として活用することができるだろう。近くで耀も石垣に立ちながら物珍しそうに周りを見回す。

 

 

「大きい貯水池だね。ちょっとした湖ぐらいあるよ」

 

 

「ニャニャニャー、ニャアニャッニャアー?」

 

 

耀の三毛猫が鳴き声を上げると、黒ウサギが苗を抱えたまま振り返った。………そういえば黒ウサギも大体の生物の言語が分かるんだったな。傍目から見ると黒ウサギが危ない人に見えるな。………本人と耀がいる前では絶対口に出さないが。

 

 

「はいな、最後に使ったのは三年前ですよ三毛猫さん。元々は龍の瞳を水珠に加工したギフトが貯水池の台座に設置してあったのですが、それも魔王に取り上げられてしまいました」

 

 

「龍の瞳?何それカッコいい超欲しい。何処に行けば手に入る?」

 

 

「さて、何処でしょう。知っていても十六夜さんには教えません」

 

 

逆廻が瞳を輝かせ、黒ウサギに問いかけるが黒ウサギは適当にはぐらかす。それは妥当な判断だろう。逆廻がそんな面白いことを教えた瞬間、絶対龍がいる場所に向かうからな。これ以上この話題が不味いと思ったのか話を戻すためジンが貯水池の詳細を説明する。

 

 

「水路も時々は整備していたのですけど、あくまで最低限です。それにこの水樹じゃまだこの貯水池と水路を全て埋めるのは不可能でしょう。ですから居住区の水路は遮断して本拠の屋敷と別館に直通している水路だけを開けます。此方は皆で川の水を汲んできたきたときに時々使っていたので問題ありません」

 

 

「あら、数kmも向こうの川から水を運ぶ方法があるの?」

 

 

飛鳥がふっと思った疑問を忙しい黒ウサギに代わってジンと子供達が答えた。

 

 

「はい。みんなと一緒にバケツを両手に持って運びました」

 

 

「半分くらいはコケて無くなっちゃうんだけどねー」

 

 

「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外で水を汲んでいいなら、貯水池をいっぱいにしてくれるのになあ」

 

 

「………そう。大変なのね」

 

 

………まあ、そうじゃなければ黒ウサギが水樹の苗だけであんなに大喜びすることはないだろう。

 

 

俺達が話している間、黒ウサギは着々と準備を進めており既に貯水池の中心にある柱の台座の場所にいた。

 

 

「それでは苗の紐を解いて根を張ります!十六夜さんは屋敷への水門を開けてください!」

 

 

「あいよ」

 

 

黒ウサギに頼まれた逆廻は貯水池に下りて水門を開け、黒ウサギは苗の紐を解く。すると、根を包んでいた布から大量の水が溢れ返り、その勢いで貯水池を埋めていく。………あれ?その貯水池の門を開けるために下りた逆廻をどうするつもりだ?そんなことに疑問に思っていると下から逆廻の慌てた叫び声が聞こえてきた。

 

 

「ちょ、少しはマテやゴラァ!!流石に今日はこれ以上濡れたくねえぞオイ!」

 

 

逆廻が激流から逃げるため石垣まで跳躍した。………やはり、逆廻のことは考えられていなかったのか。………無事だし別にいいけど。

 

 

紐を解かれた水樹は台座の柱を瞬く間に根を絡め、水の勢いを増していく。

 

 

「うわぉ!この子は想像以上に元気です♪」

 

 

「確かに………これは凄いな」

 

 

水樹は水の放出が衰えることはなく、そのまま一直線に屋敷への水路を通って満たしていく。その光景は溢れ出た水と月明かりで眩い輝き放つ水樹の青葉と合わさりとても幻想的であった。

 

 

「………コレを見れただけでも箱庭に来て良かったと思えるな」

 

 

「そうね。でも、箱庭には素敵なところがまだまだ沢山あるみたいよ?」

 

 

俺が小声で感想をこぼすとそれが聞こえたのか飛鳥と耀が近寄ってきた。

 

 

「十六夜が世界の果てで見た“トリトニスの大滝”は絶景だったって言ってた」

 

 

「へえ………。それは一度見てみたいものだ」

 

 

「………だけどその前に」

 

 

「明日、あの外道がいる“フォレス・ガロ”を倒さなくてはいけないわね」

 

 

「ああ、そういうことだ。二人共、力を貸してくれるか?」

 

 

「ええ。必ず勝ちましょう」

 

 

「………うん。絶対負けない」

 

 

俺達は未だ勢いが衰えない水樹と水が溜まっていく貯水池を見下ろしながら明日のギフトゲームに勝つと決意を固めたのであった。

 

 

 

 

その後黒ウサギ達に屋敷まで案内され、着いた頃には既に夜中になっていた。屋敷はとても大きく流石は元最大手のコミュニティと言ったところだろう………皮肉と受けいられそうなので黒ウサギ達には言わないが。耀もこれから俺達の本拠となる屋敷を見上げながら感嘆したように呟く。

 

 

「遠目から見てもかなり大きいけど………近づくと一層大きいね。何処に泊まればいい?」

 

 

「コミュニティの伝統では、ギフトゲームに参加できる者には序列を与え、上位から最上階に住む事になっております………けど、今は好きなところを使っていただいて結構でございますよ。移動も不便でしょうし」

 

 

「男子と女子が同じ屋根の下で過ごすのはどうかと思うんだが………。あっちの屋敷は使ってはいけないのか?」

 

 

そう言いながら俺は屋敷の脇に建つ別館らしきものを指さす。

 

 

「ああ、あれは子供達の館ですよ。本来は別の用途があるのですが、警備上の問題でみんな此処に住んでます。龍騎さんが良ければ一二〇人の子供達と一緒に」

 

 

「そうだな。一度だけあっちに一泊するか」

 

 

「まあ、普通は嫌―――え゜っ!?」

 

 

俺は驚愕し過ぎて目が点になっている黒ウサギを無視し、別館に歩み寄る。だが、意識を取り戻した黒ウサギに回り込まれた。

 

 

「い、行かせません!龍騎さんだけは絶対あの館には泊ませられません!」

 

 

「おい。さっきと言っていることが矛盾しているぞ」

 

 

勧めたのは黒ウサギの方からなのに何故止められなきゃいけないんだ?俺が何かおかしなことでも言ったか?

 

 

「何だよ。俺が行ったら不味いことでもあんのか?」

 

 

「不味いも何も今の会話で龍騎さんだけは絶対に子供達の館は行かせないと決めました!!」

 

 

………?本当に黒ウサギは何がしたいんだ?今の黒ウサギは何かを守ろうとしているように見えるんだが………。ふむ………黒ウサギが必死になってまで守ろうとしているものか………。面白そうだし黒ウサギを振り切ってでもあの館に行ってやるか!絶対面白そうなものがあるはず―――。

 

 

「行かせませんよ………子供達の貞操のためにも!!」

 

 

「ちょっと待て!今、聞き捨てならないことが聞こえてきたぞ!?」

 

 

何で俺が子供達の館を一泊するだけでそんな結論に至るんだあの馬鹿ウサギ!?ああ、飛鳥と耀の視線が冷たくなってきた!くそっ………何とかして弁明をしなくては。

 

 

「どんな思考回路をしたらそうなるんだ!?お前の頭のネジでも外れているのか!?」

 

 

「慌てるということは本気で………!?龍騎さん!貴方様はある意味この中で一番の問題児ではありましたが僅かでありますが常識だけはあると思っていましたのに………失望しました!!」

 

 

「喧嘩売ってんだよな?お前絶対俺に喧嘩売っているよな!?」

 

 

何で俺が罵倒されなくちゃいけないんだ!?飛鳥と耀の視線が絶対零度まで下がっているし、距離も遠ざかっている気がする………!くっ………!誰でもいい!この状況をどうにかしてくれ!!

 

 

「おいおい。ちょっと待てって。焦りすぎだ黒ウサギ」

 

 

予想外にもこの空間を制したのは逆廻だった。あいつの性格上、傍観すると思っていたんだが………いや、この際誰でもいい!頼む逆廻!お前だけが頼りなんだ………!この空気を………誤解を解いてくれ!

 

 

「さっき聞いたんだがな。コイツはな………自分の性癖を治すためにあの館に行くんだ」

 

 

………はっ?えっ、俺そんなこと言った覚えどころか逆廻と話したことなんて殆どなかったんだけど?

 

 

「人の性癖なんてそう簡単に治せるものじゃないんだ………。助けてやりたいがコレはあいつの問題なんだ。俺達が入り込む余地はないんだよ………。精々、俺達が出来るのは暖かく見守ることだけだ」

 

 

「逆廻。さっきの廃墟に行くぞ。あそこでなら誰にも迷惑掛けずに存分に暴れられるからなっ………!」

 

 

こいつ、火に油を注ぐどころかガソリンをぶっかけやがった!あのニヤついた顔を原型が無くなるまで殴りつけたいっ………!しかも今の言葉で黒ウサギは落ち着き、二人からの軽蔑した視線は無くなったが三人から生暖かい視線で俺を見つめてくる………。

 

 

「………すみません龍騎さん。何も知らずに失礼なことを………」

 

 

「………ええと、私どうやって励ませば」

 

 

「………私達に出来る事があったら何でも言って。その………友達だから」

 

 

「ご、誤解だ!俺にそんな性癖は」

 

 

「さっさと屋敷の中に入ろうぜ。じゃないと、コイツの決意が揺らいでしまう………」

 

 

「あっ、行かないでくれ!弁明を………弁明の余地を!」

 

 

逆廻の後押しにより三人は申し訳なさそうに俺を数秒だけ見つめて先に館に入ってしまった。それを見送ることしか出来なかった俺は膝から崩れ去る。最悪だ………。一番解きたかった誤解が解けなかったっ………!これで俺はあの三人の心の中でロリコンという不名誉なレッテルを貼られてしまった。どうしてこうなった………!?

 

 

「じゃあ、俺も行くわ。お前もそっちの連中(・・・・・・)と話でもしにいったらどうだ?」

 

 

………何だよ。逆廻も気付いていたのか。俺は膝に付いた砂埃を叩き落としながら立ち上がり、逆廻と視線を合わせる。

 

 

「気付いていたなら言えよ逆廻。てか、お前のせいで俺が変態だと思われたじゃねえか」

 

 

「心配掛けねえようにはぐらかしていたお前に合わせただけだ。文句言われる筋合いはないぜ?」

 

 

「ったく、後で誤解を解いてくれよ?あのままだと俺このコミュニティでやっていける自信なんてないぞ」

 

 

「考えておくぜ。………さてと、俺もあっちの奴ら(・・・・・・)と話をつけておくか。………一応聞いておくがお前も俺と同じ考え(・・・・)だろ?」

 

 

「多分な。じゃあ俺はそろそろ行くから逆廻も上手くやれよ?」

 

 

「ああ。後、俺の名は十六夜様だ。そっちもしくじるんじゃねえぞ龍騎(・・)

 

 

「………それはこっちのセリフだ十六夜(・・・)

 

 

そう言葉を交わし、俺達は互いに別の方向へと歩いていった。

 

 

 

 

十六夜の月。雲で少し隠れているがその光は子供達が眠る別館を照らし、夜の独特の雰囲気が漂っている。その空間に龍騎は何かを待っているかのように堂々と別館の裏で立ち尽くしている。

 

 

「………はあ。ガルドも狡い奴だな。ギフトゲームに参加できない子供達を狙うとは」

 

 

龍騎は呆れたように溜息をこぼし、肩をすくめる。だが、その目は言葉とは逆にナイフのように鋭く周囲の木々を睨みつける。

 

 

「しかも、こんなに多勢で来ちゃって………おたくら隠れる気あるの?さっきからこの周辺にいるのは分かってんだ。さっさと出て来い」

 

 

誰かに話しかけるように周囲の木々に言葉を放つ。風が木々を揺らし、別館は静寂に包まれる―――が、風が吹いていないのにも関わらずガサッと周囲の木々から揺らす音が響いた。音が大きくなるにつれ、木々から人影が龍騎の前に現れ出す。だが、人影は一つだけではなく次第に増えてき………最終的には三〇前後の人影が別館の裏に現れだした。

 

 

「………いつから気付いていた小僧ォ」

 

 

月を隠す雲が吹き払われる。月明かりが人影を照らし、その姿かたちが明らかになる。ある者は犬や猫の耳、ある者は長い体毛に鋭い爪、ある者は爬虫類のような瞳に鱗と人とは一部かけ離れていた。ここにいる全員が人をベースとして“獣”のギフトを持っている者達………しかし、ギフトの格が低いために中途半端にしか変幻しか出来ないのだ。

 

 

代表格らしき人物が龍騎に話しかける。龍騎は面倒くさそうに頭を掻きながら適当にその問いを答える。

 

 

「最初から………って言っても分からんか。俺達が館に着いた時からだ。まあ、俺以外にももう一人気付いていたみたいだがな」

 

 

「ほう………それなりには出来るようだな?だが、貴様は此処にいてもいいのか?」

 

 

「それって水樹の方か?あっちならさっき言ったもう一人が守っているぜ」

 

 

そのもう一人は十六夜である。十六夜も龍騎と同じタイミングにこの“ノーネーム”の居住区画に何者かが侵入しているのに気付いたのだ。だが、侵入者は二組に分かれており、目的対象は二つあると推測することが出来る。しかし、龍騎達は瞬時にガルドが狙うものの特定はついていたのだ。

その一つは水樹がある貯水池。今、“ノーネーム”の命綱は水樹であるため、もし盗まれでもしたら大打撃を受けるだろう。もう一組は此処、別館である。ガルドの手口は既に知っている龍騎達は必ず子供達を誘拐しに現れると断定したのだ。よって先程の会話により十六夜が水樹、龍騎は子供達が眠っている別館を護衛すると決まったのである。

 

 

「………くっくっく。なら、そいつが来る前にさっさと片付けなくてはな」

 

 

代表格が下品な笑みを浮かべ、周囲の獣人達が戦闘態勢に入る。だが、龍騎は慌てた様子もなく、自然体で獣人達を睨みつけるままである。

 

 

「………どうやらお前達はガルドに脅されているというわけではなさそうだな」

 

 

「ハッ!あんな弱者共と一緒にしてもらっては困る。我らはガルド様の直属の部下。ガルド様の命によりガキ共を貰いに来たのだ。命が惜しければそこを退くのだな」

 

 

「俺ごと殺す気満々なくせによく言うぜ。それに同じコミュニティの仲間達の危機を黙って見てろと?」

 

 

「フンッ………所詮名無しだな。実力・戦力の差を分からないとはな。ガルド様も何故このような連中を警戒するのか理解に苦しむ」

 

 

代表格は侮蔑したような態度で龍騎を見下す。龍騎はその戯言を聞いたかのように呆れて再度溜息をこぼす。その態度に代表格は忌々しく龍騎を睨みつけ怒りをぶつけるように次の言葉を放つ。

 

 

「―――さて、我らも腹が空いてきたのでな。貴様もあのガキ共と一緒に喰らってやる。光栄に思うんだな!」

 

 

その言葉と共に周囲にいる獣人達が龍騎に一斉に襲いかかる。それでも戦闘態勢も入らない龍騎を見て代表格は怖気づいて動けないと思い違いをする。そう思った瞬間、代表格の右腕の感覚が全て消え去った。不思議に思った代表格はその原因の右腕に視線を移すと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

右肩から綺麗に切られた刀痕があり、そこには既に右腕は存在していなかった。

 

 

「グ、グギャァァァァァァアアアアッ!?右腕がァァァァァアアアアアアッ!?」

 

 

後になってから激痛が代表格を襲う。血が溢れ出し、必死に止めようと左腕で刀痕を塞ごうとするがその程度では血の勢いは衰えなかった。血が地面に滴り落ちながらも自分に傷を負わせたであろう張本人を睨みつけようとする―――が、視線の先には残酷極まりない光景が広がっており、代表格の顔の血の気が引いていく。龍騎の周囲には水で出来たテニスボールぐらいの玉が十五前後浮遊している。だが、それよりも目を引くのは龍騎の足場には血の海が広がっており、それを作り出した原因は無残に殺され死体となった獣人達だった。自分と同じく腕や脚が無くなっているもの、酷いものだと体中が穴だらけになっているのがいた。たった一瞬の出来事で自分達の部隊が全滅したのである。

それをやった張本人である龍騎は顔色一つ変えず、侮蔑の視線で代表格を見下す。その冷酷さが代表格に恐怖を駆り立てる。

 

 

「―――誰が誰を喰らうって?ちゃんと実力の差を理解してから言うんだな」

 

 

無表情で下ろしている手を代表格に向かって伸ばす。その行動は自分を殺す予備動作だと思った代表格は命乞いをしだす。

 

 

「ま、待ってくれ!俺が悪かった!命だけ許してくれ!?」

 

 

「何を言ってんだ?仕掛けてきたのはお前らだろ。俺達を殺しに来たのならば当然お前らも殺される覚悟はあるはずだろ?」

 

 

必死に命乞いをする代表格だが、龍騎は気にもせずに水玉を操っていく。水玉は月明かりで怪しく輝きながら代表格の周囲まで移動する。それは死刑宣告と同義だった。

 

 

「ついでに教えておくと俺はコミュニティの中では一番甘くないから。仲間達が命の危機にでくわしたのなら俺は元凶を排除するまでだ」

 

 

「や、止めてく」

 

 

「却下。ガルドもそっちに行かせるからさっさと地獄に堕ちてろ」

 

 

そう言いながら腕を振り落とす。それが合図となって一斉に水玉が圧縮されていき、一部、凄い勢いで噴出―――レーザーとなって代表格を襲う。まともに喰らった代表格は肉体を貫通し、体中が穴だらけとなり血の海を作りながら糸が切れたように大地に倒れこむ。それを確認した龍騎は次に炎を発現させ、死体を燃やしていく。別館裏に死体が燃やすことで発生した腐臭が漂う中、今度は龍騎は地面に手を付ける。すると、土が盛り上がり炭となった死体と血を埋めていく。その少しした動作だけで別館裏は何もなかったかのように全て元通りとなっていた。

 

 

ザッ、と風が吹き木々を揺らし、龍騎は頭を掻きながら三度目の溜息をこぼす。

 

 

「………そろそろあっちも終わったか?此処にいつまでもいるのは胸糞悪いし、本館に行くか」

 

 

龍騎は別館裏から背を向け、十六夜達がいるであろう本館に足を進めていくのであった。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。