問題児たちが異世界から来るそうですよ? 出来損ないの陰陽師の異世界録 作:カオス隊員
「お疲れさん。その様子だったら無事みたいだな」
「大丈夫、春日部さん?」
「大丈夫だよ飛鳥。………あ、龍騎。これありがとう」
耀が思い出したように着ていたブレザーを脱ぎ俺に渡してきた。受け取ると手が切れるように冷たくなっており衣類とは思えないほど固くなっていた。
「うわっ。ブレザーがパキパキに凍ってるな………。耀、本当に大丈夫か?」
「うん、平気。………でも、もしこれがなかったら少し危なかったかも」
「そうか?まあ、お役に立てたならそれでいいけど」
耀の様子を見る限り本当に大丈夫そうなのでとりあえず一安心だな。俺は手から淡い紅蓮色の霊力を放出しながら凍ったブレザーを温めていると拍手を送る白夜叉と感嘆の眼差しで耀を見つめるグリフォンがやってきた。
「いやはや大したものだ。このゲームはおんしの勝利だの。………ところで、おんしの持つギフトだが。それは先天性か?」
「違う。父さんに貰った木彫りのおかげで話せるようになった」
「木彫り?」
耀は頷きながら丸い木彫り細工のペンダントを取り出した。白夜叉は渡されたペンダントを受け取り鑑定していると急に顔を顰めた。俺も気になるので白夜叉の隣から覗き込む。………描かれている図はさっぱり分からんがこのペンダントからかなり強い力を感じる。使い方次第では下手したら神級以上になるかもな。これを作った耀の父親は紛れもなく天才だ。
「複雑な模様ね。何か意味があるの?」
「意味はあるけど知らない。昔教えてもらったけど忘れた」
「………これは」
飛鳥、逆廻、黒ウサギも覗き込み鑑定に参加する。飛鳥は耀に問いだし、逆廻と黒ウサギは神妙な表情でペンダントを見つめる。白夜叉、逆廻、黒ウサギは表裏交互に見直し、表面にある幾何学線を指でなぞると黒ウサギが首を傾げながら耀に問う。
「材質は楠の神木………?神格は残ってないようですが………この中心を目指す幾何学線………そして中心に円状の空白………もしかしてお父様の知り合いには生物学者がおられるのでは?」
「うん。私の母さんがそうだった」
「生物学者ってことは、やっぱりこの図形は系統樹を表しているのか白夜叉?」
「おそらくの………ならこの図形はこうで………この円形が収束するのは………いや、これは………これは、凄い!!本当に凄いぞ娘!!本当なに人造ならばおんしの父は神代の大天才だ!まさか人の手で独自の系統樹を完成させ、しかもギフトとして確立させてしまうとは!コレは正真正銘“生命の目録”と称して過言ない名品だ!」
「系統樹って生物の進化やその分かれた道筋を枝分かれした図として示したものだったか?確かあれって樹の形で描かれていたはずだが?」
「私も母さんの作った系統樹の図はそうだったと思うけど」
「うむ、それはおんしの父親が表現したいモノのセンスが成す業よ。この木彫りをわざわざ円形にしたのは生命の流転、輪廻を表現したもの。再生と滅び、輪廻を繰り返す生命の系統が進化を遂げて進む円の中心、即ち世界の中心を目指して進む様を表現している。中心が空白なのは、流転する世界の中心だからか。―――うぬぬ、凄い。凄いぞ。久しく想像力が刺激されとるぞ!実にアーティスティックだ!おんしさえよければ私が買い取りたいぐらいだの!いや、ギフト複数との交換でも」
「いや、駄目だろ。さっさと返せ」
興奮して声を上げながら鑑定する白夜叉から危ない発言が聞こえてきたので、ペンダントを取り上げる。
「―――!?」
直にペンダントとを触れると凄まじい力と嫌な予感を感じ取った。………確か白夜叉は世界の中心を目指して進む様を表現しているって言ったよな?もしかしてコレって―――。
「………?どうしたの?」
「っ!?い、いや何でもない………ほらよ」
見蕩れるように見つめすぎた俺は耀に声をかけられ我を取り戻す。少し動揺しながら俺はペンダントを耀に返す。………もし俺の推測が当たっていたとしたら………いや、確証はないんだし考えるのはやめよう。耀の父親はもしかしたら俺とは違う考えで作ったかもしれないしな。
「で、これはどんな力を持ったギフトなんだ?」
「それは分からん。今分かっとるのは異種族と会話が出来るのと、友になった種から特有のギフトを貰えるということぐらいだ。これ以上詳しく知りたいのなら店の鑑定士に頼むしかない。それも上層に住む者でなければ鑑定は不可能だろう」
「え?白夜叉様でも鑑定出来ないのですか?今日は鑑定をお願いしたかったのですけど」
黒ウサギが不思議そうに言うと、ゲッ、と気まずそうな顔になる白夜叉。
「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの」
………それは“サウザンドアイズ”の支店を任されている店長として問題だと思うんだが。長い付き合いの黒ウサギもそれを知らないのもおかしい気がするが。白夜叉は渋々ながら着物の裾を引きずりながら俺達の顔を両手で包むように見つめる。
「どれどれ………ふむふむ………うむ、四人ともに素質が高いのは分かる。しかしこれではなんとも言えんな。おんしらは自分のギフトの力をどの程度に把握している?」
「企業秘密」
「右に同じ」
「以下同文」
「言う義理無し」
「うおおおおおい!?いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それじゃ話が進まんだろうに」
「寝言は寝てから言え白夜叉」
「さっきからおんし段々と口が悪くなっていないか!?」
「元々、白夜叉がちゃんと鑑定をすることが出来ていたらいい話じゃないのか?」
グッ、とまた気まずそうな表情をして押し黙る白夜叉。それに続くように逆廻が鑑定拒否の理由を言う。
「別に鑑定なんていらねえよ。人の値札貼られるのは趣味じゃない」
キッパリと拒絶する逆廻に同意。飛鳥と耀も同意するように頷いている。断固拒否状態の俺達に困ったように頭を搔く白夜叉だが、突然妙案を思いついたかのようにニヤリと笑った。
「ふむ。何にせよ“主催者”として、星霊の端くれとして、試練をクリアしたおんしらには“恩恵”を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前払いとしては丁度良かろう」
そう言いながら白夜叉は二度柏手を打つ。すると俺達の眼前に光り輝く四枚のカード―――逆廻にはコバルトブルー、飛鳥はワインレッド、耀はパールエメラルド、俺にはミッドナイトブルーのカードが現れた。そのカードを受け取ると自分の名前とギフトが書かれていた。黒ウサギは驚愕・興奮したような表情で俺達のカードを覗き込む。
「ギフトカード!」
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
「記念品?」
「ち、違います!というかなんで皆さんそんなに息が合ってるのです!?このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ!耀さんの“生命の目録”だって収納可能で、それも好きな時に顕現できるのですよ!」
「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」
「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうですよ、超素敵アイテムなんですよ!」
叱ってくる黒ウサギを無視しながら逆廻達は物珍しそうにカードを見つめる。………だが、俺はある疑問を抱いたので白夜叉に問い出す。
「おい、白夜叉。俺はギフトゲームに参加していないぞ?何で俺までコレを?」
「前祝いと言ったはずだが?それにおんしだけ何も無しは可哀想だしのう」
「………まあいいか。貰える物は貰う主義だしな」
俺は白夜叉からカードに視線を落とす。そこには俺が持っている
「我らの双女神の紋のように、本来はコミュニティの名と旗印も記されるのだが、おんしらは“ノーネーム”だからの。少々味気ない絵になっているが、文句は黒ウサギに言ってくれ」
「ふぅん………もしかして水樹って奴も収納できるのか?」
逆廻は何気なく数樹にカードを向けると、水樹は光の粒子となりカードの中に呑み込まれていった。
「おお?これ面白いな。もしかしてこのまま水を出せるのか?」
「出せるとも。試すか?」
「だ、駄目です!水の無駄遣い反対!その水はコミュニティの為に使ってください!」
チッ、とつまらなさそうに舌打ちをする逆廻。安心出来ない表情で逆廻を監視する黒ウサギ。その様子を白夜叉は面白そうに笑いながら見つめる。
「そのギフトカードは、正式名称を“ラプラスの紙片”、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった“恩恵”の名称。鑑定は出来ずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」
「………ギフトの正体が分かる、か」
白夜叉に聞こえない程度の声音で呟きながら手元にあるカードを見つめる。
神崎龍騎・ギフトネーム“五行思想”“■■■■”“■■■■■”“■■■■■”
確かに俺の力の名称は書かれている………のだが、その名称の殆どが漆黒で塗り潰されており読めないのだ。このカード自体のバグなのか
俺は誰にも気付かれないようにズボンの後ろポケットにギフトカードを隠した。
☆
あの後、白夜叉の部屋に戻り俺達は暖簾の下げられた店の前まで移動した。
「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」
「あら、駄目よ春日部さん。次に挑戦するときは対等の条件で挑むものだもの」
「ああ。吐いた唾を飲み込むなんて、格好付かねえからな。次は渾身の大舞台で挑むぜ」
「それにはかなりの時間が掛かりそうだがな。まあ、その時は俺も参加させてもらうぜ」
「ふふ、よかろう。楽しみにしておけ。………ところで」
白夜叉は微笑を浮かべるがスっと真剣な表情で俺達を見てくる。
「今さらだが、一つだけ聞かせてくれ。おんしらは自分達のコミュニティがどういう状況にあるか、よく理解しているか?」
「ああ、名前と旗の話か?それなら聞いたぜ」
「なら、さっき小僧が言った通り“魔王”と戦わねばならんことも?」
「聞いてるわよ」
「小僧はやめろよ。俺の名は龍騎だって言っただろ」
「私から見たらおんしらは小僧小娘同然だ。………では、おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」
横目で黒ウサギがを見てみると黒ウサギの目は俺達から視線をそらしていた。………そんなに心苦しかったのならば嘘なんかつかなければいいのに。
「そうよ。打倒魔王なんてカッコいいじゃない」
「“カッコいい”で済む話ではないのだがの………全く、若さゆえなのか。無謀というか、勇敢というか。まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰ればわかるだろ。それでも魔王と戦う事を望むというなら止めんが………そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」
予言するように断言された二人は言い返そうとするが言葉が見つからないのか、それとも同じ元魔王の白夜叉の威圧感に黙ってしまう。まあ、当然ちゃ当然だな。二人の力は強力ではあるがそれは人間の範囲の話だ。今後次第では神や魔王でも引けを取らない程の実力者になる可能性があるが今では確実に敗けるだろう。
「魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。小僧らはともかく、おんしら二人の力では魔王のゲームを生き残れん。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬ様は、いつ見ても悲しいものだ」
「………ご忠告ありがと。肝に銘じておくわ。次は貴女の本気のゲームに挑みに行くから、覚悟しておきなさい」
「ふふ、望むところだ。私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い。………ただし、黒ウサギをチップに賭けてもらうがの」
「嫌です!」
「望むところだ!」
「望まないでください!」
黒ウサギが即答で返してくる。白夜叉は拗ねたように唇を尖らせた。
「つれない事を言うなよぅ。私のコミュニティに所属すれば生涯を遊んで暮らせると保証するぞ?三食首輪付きの個室も用意するし」
「三食首輪付きってソレもう明らかにペット扱いですから!って、十六夜さんも龍騎さんも『その手があったか!?』という顔しないでください!?」
怒る黒ウサギに笑う俺、逆廻、白夜叉。そのまま俺達は無愛想な女性店員に見送られながら“サウザンドアイズ”二一〇五三八〇外門支店を後にした。
☆
白夜叉とのゲームを終え、“サウザンドアイズ”の支店から半刻ほど歩いた後、“ノーネーム”の居住区画の門前に着いた。その門を見上げると、コミュニティの旗は掲げられていなかった。
「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口から更に歩かねばならないので御容赦ください。この浜辺はまだ戦いの名残がありますので………」
「戦いの名残?噂の魔王って素敵ネーミングな奴との戦いか?」
「は、はい」
「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」
先程の一件により機嫌が悪い飛鳥。プライドが高い彼女からしてみれば見下された事実に気に食わなかったのだろう。気持ちは分からなくもない………だが、
「………お前ら、ここから先は覚悟しておいた方がいいぞ」
「………?それはどういう」
耀が言い終わる前に躊躇いながら門を開ける黒ウサギ。すると、門の向こうから乾いた風を感じた。砂塵が舞い、俺達の視界を遮る。微かに見える景色は―――廃墟同然の荒れた大地だった。
「っ、これは………!?」
これは………思ったより酷いな。隣で飛鳥と耀が息を呑んでいるが分かる。逆廻はこの光景にスっと目を細めながら木造の廃墟に歩み寄り、囲いの残骸を手に取った。そのまま少し握り込むと残骸は音も立てて崩れていった。
「………おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは――――今から
「僅か三年前でございます」
「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この
………逆廻の言う通り“ノーネーム”の街並みは何百年の時間が経過して滅んだように崩れ去っているのだ。とても三年前まで人が住んでいたとは思えない程の有様だ。俺はこの廃墟の様子を詳しく知るために散策を開始する。飛鳥と耀も遅れて違う方向で散策する。
「………断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」
「此処が全く使われていない離れだと言われた方がまだ納得するな………」
逆廻はそう結論付けるながら冷や汗を流している。俺も石碑のように枯れ果てた街路樹に手をかけながら思ったこと言い、飛鳥と耀も廃屋を見て複雑そうに感想を述べる。
「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」
「………生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」
二人の感想は逆廻よりも重く感じた。黒ウサギは廃屋から目を逸らしながら朽ちた街路を進みだす。
「………魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊ぶ心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ………コミュニティから、箱庭から去って行きました」
黒ウサギは感情を殺した瞳で風化した街を進んでいく。飛鳥や耀も複雑な表情でその後に続いていく。だが、逆廻だけは瞳を輝かせ不敵に笑っていた。
「魔王―――か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか………!」
そう呟きながら逆廻も黒ウサギ達の後について行った。
俺はそれを確認すると枯れた街路樹に拳を叩きつける。街路樹が大きく凹んだがそんなのどうでもいい。俺は遊び心で居場所を、仲間を潰す奴が一番嫌いなんだ。
「………上等だ。ここを潰しに来るのなら魔王だろうが神だろうが―――全て返り討ちにして潰してやるぜ」