問題児たちが異世界から来るそうですよ? 出来損ないの陰陽師の異世界録   作:カオス隊員

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第五章

 

俺達は“サウザンドアイズ”の店の暖簾をくぐると、店の外観からは考えられない、不自然な広さの中庭に出た。正面玄関を見ると、ショーウィンドに展示された様々な珍品っぽいものが並んでいた。

 

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

 

俺達は和風の中庭を進み、縁側で足を止めた。障子を開けて招かれた場所は香の様な物が焚かれており、個室というにはやや広い和室の上座に腰を下ろした白夜叉は大きく背伸びをしてから俺達に向き直る。その時には既に濡れていた着物が乾ききっていた。

 

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている“サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

 

自称美少女の白夜叉の自己紹介に投げやりな言葉で受け流す黒ウサギ。その隣で耀が小首を傾げながら問う。

 

 

「その外門。って何?」

 

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達がすんでいるのです」

 

 

どうやら此処、箱庭の都市は上層から下層まで七つの支配層に別れられており、それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられていて、外壁から数えて七桁の外門、六桁の外門、と内側に行くほど数字は若くなり、同時に強大な力を持つらしい。箱庭で四桁の外門ともなれば、名のある修羅神仏が割拠する人外魔境だ。黒ウサギが描く上空から見た箱庭の図は、外門によって幾重もの階層に分かれていて、その図を見た俺達異世界組は口を揃えて、

 

 

「………超巨大タマネギ?」

 

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

 

「他にもトイレットペーパーとかセロハンテープなどにも見えるよな」

 

 

頷き合う四人に俺達の感想に肩を落とす黒ウサギ。対照的に、白夜叉は呵々と哄笑を上げて二度三度と頷いていた。

 

 

「ふふ、うまいこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持ったもの達が棲んでおるぞ―――その水樹の持ち主などな」

 

 

白夜叉は薄く笑いながら黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向けた。そういえば、あの水樹の苗はギフトゲームに勝った戦利品なのは分かるが相手は誰なんだ?話を聞く限り、かなりの実力を持つ幻獣なのは分かるんだけどな………。

 

 

「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」

 

 

「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」

 

 

………へぇ?逆廻は強いとは思っていたが蛇神を倒せるほど、しかも無傷で勝利するとは俺の予想以上だな。

 

 

「なんと!?クリアではなく直接的に倒したとはな!?ではその童は神格持ちの神童か?」

 

 

「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格なら一目見れば分かるはずですし」

 

 

「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがある時だけのはず。種族の力でいうなら蛇と人ではドングリの背比べだぞ」

 

 

「………なんか話を聞く限り、その神格ってのは生来の神様そのものではないみたいだが?」

 

 

少し神格について疑問に思った俺は白夜叉に聞きだすことにした。白夜叉は「ほう………?」っと興味深そうに視線を黒ウサギから俺に移した。

 

 

「おんしは神について多少の知識があるみたいだな。確かにおんしの推察通り、神格とは生来の神様そのものではなく、種の最高のランクに体を変幻させるギフトを指すのだ。蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。人に神格を与えれば現人神や神童に。鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。更に神格を持つことで他のギフトも強化されることから、箱庭にあるコミュニティの多くは各々の目的のため神格を手に入れることを第一目標とし、上層を目指して力を付けていくのだ」

 

 

「なるほど………」

 

 

どうやら俺が思っているよりも箱庭にとってギフトはかなり重要であるみたいだ。それなら余計にギフトゲームに敗けるわけにはいかなくなってきた。俺の(ギフト)は危険過ぎだから渡すわけにはいかないしな………。俺は自分の力について考えていると黒ウサギが何か疑問に思ったのか白夜叉に聞き出した。

 

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

 

「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

 

小さな胸を張り、豪快に笑う白夜叉。だがそれを聞いた逆廻が瞳を光らせて白夜叉に問いただした。

 

 

「へえ?じゃあオマエはあのヘビより強いのか?」

 

 

「ふふん、当然だ。私は東側の“階層支配者”だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者なのだからの」

 

 

あっ………。これはちょっと不味いかも。プライドが高そうな三人がそれを聞いてしまったら―――。だが、時既に遅し。“最強の主催者”という言葉に逆廻・飛鳥・耀の三人が一斉に瞳を輝かせていた。

 

 

「そう………ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

 

「無論、そうなるのう」

 

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

 

はあ………、やっぱりこうなったか。てか、本当にこの短時間で大手のコミュニティにギフトゲームに挑むとは思わなかったぞ………。

 

 

三人は剥き出しの闘争心を白夜叉にぶつけるが、当の本人は高らかに笑い声をあげているだけだった。実力と経験からでる余裕ってところかな?

 

 

「抜け目ない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」

 

 

「え?ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている。だが、おんしは私に挑まないのか?」

 

 

そう言いながら不思議そうに俺を指す白夜叉。まあ、別に挑んでもいいんだが………。

 

 

「疲れそう。面倒くさい。以上」

 

 

「ちょ、龍騎さん!?」

 

 

「ほほう………。疲れそうに面倒くさいのう………。まあ、よかろう。では、ギフトゲームを始めるとしよう」

 

 

「ノリがいいわね。そういうの好きよ」

 

 

「ふふ、そうか。―――しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」

 

 

「なんだ?」

 

 

白夜叉が着物の裾から“サウザンドアイズ”の旗印が描かれているカードを取り出し、壮絶な笑みで一言、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おんしらが望むのは“挑戦”か―――もしくは“決闘(・・)”か?」

 

 

 

 

 

白夜叉がそう言った瞬間、俺達の視界が爆発的な変化が起きた。

 

 

さっきまでいたやや広い和室から白い雪原と凍る湖畔―――そして、水平に太陽が廻る世界(・・・・・・・・・・)に変わっていた。

 

 

「………なっ………!?」

 

 

横で逆廻達がこの余りに異常な現象に息を呑んでいるのが分かる。流石にこれは予想外だったのだろう。

 

 

それにしても、一瞬にしてこのような世界を展開できるとなると白夜叉の実力はかなり高いな。………それにこれは召喚とは何か違う気がする。結界や幻術とは違うし………いや、そもそも白夜叉が力を使った形跡がない。白夜叉の様子から見ると引き出しから物を取り出したような………そんな当たり前なことをやってのけたように見える。

 

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は“白き夜の魔王”―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への“挑戦”か?それとも対等な“決闘”か?」

 

 

白夜叉の凄みのある笑みに、再度息を呑む逆廻達。“星霊”か………。聞いたことがないが、おそらく最上位級の精霊。そうなると、白夜叉はギフトを“与える側”の存在であるのだろう。

 

 

「水平に廻る太陽と………そうか、白夜(・・)夜叉(・・)。あの水平に廻る太陽やこの土地は、オマエを表現してるってことか」

 

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私がもつゲーム盤の一つだ」

 

 

白夜叉が両手を広げると、地平線の彼方の雲海が瞬く間に裂け、薄明の太陽が晒される。“白夜”って確か北欧諸国で見られる太陽が沈まない現象だったはず。そして“夜叉”、毘沙門天の配下で、善神と悪鬼の二面性を持つ鬼神であり最大の武神と崇められていた存在だ。その他にも水と大地の守護神であったとも言われている。“星霊”に“神霊”、白夜叉は“魔王”と呼ばれても問題ないほどの強大な存在なのだ。

 

 

「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤………!?」

 

 

「如何にも。して、おんしらの返答は?“挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。―――だがしかし、“決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

 

「………っ」

 

 

………無理だな。今の逆廻らでは逆立ちしたって白夜叉に片手であしらわれるだけだ。そのことは三人も理解しているはずだ。しかし、自分達の売った喧嘩を勝ち目がないという形で取り下げるにはプライドが邪魔するのだろう。さて、どうする御三人?しばしの静寂の後―――諦めたように笑う逆廻が、ゆっくりと挙手し、

 

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

 

 

「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意出来るんだからな。アンタには資格がある。―――いいぜ。今回は黙って試されてやるよ(・・・・・・・)、魔王様」

 

 

苦笑と共に吐き捨てるように物言いをする逆廻。………まあ、逆廻にしては最大限の譲歩なんだろうが、もうちょっと言葉選べよ。白夜叉が腹を抱えて哄笑をあげているのを見ているとそこまで気にしていないみたいだが、もし白夜叉がプライドが高かったら即戦闘ものだぞ。一頻り笑った白夜叉は笑いを噛み殺して他の二人にも問いだしてきた。

 

 

「く、くく………して、他の童達も同じか?」

 

 

「………ええ。私も試されてあげてもいいわ」

 

 

「右に同じ」

 

 

苦虫を噛み潰したような表情で返事をする二人。その二人を見て満足そうに声を上げる白夜叉。一連の流れに肝を冷やしていた黒ウサギが胸をなでおろしている。

 

 

「も、もう!お互いにもう少し相手を選んでください!“階層支配者”に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う“階層支配者”なんて、冗談にしても寒すぎます!それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」

 

 

「何?じゃあ元・魔王様ってことか?」

 

 

「はてさて、どうだったかな?」

 

 

「てか、冷静に考えたら魔王がこんな下層に堂々といること自体おかしいだろう………」

 

 

悪戯っぽく笑う白夜叉にガクリと肩を落とす黒ウサギと逆廻達。それを静観していた俺は呆れるしかなかったのであった。

 

 

その時、彼方にある山脈から強い気配を感じ、その瞬間甲高い叫び声が聞こえてきた。その叫び声に逸早く反応したのは、耀だった。

 

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

 

「ふむ………あやつか。おんしら三人を試すには打って付けかもしれんの」

 

 

白夜叉が湖畔を挟んだ向こう岸にある山脈に手招きをすると体長5mはある巨大な獣が翼を広げながら空を滑空し、俺達の前に現れた。鷲の翼と獅子の下半身を持つ獣、その姿には心当たりは一つしかない。だが、俺がその名を言う前に耀が驚愕と歓喜の籠った声でその名を上げた。

 

 

「グリフォン………嘘、本物!?」

 

 

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。“力”“知恵”“勇気”の全てを備えた、ギフトゲームを代表する獣だ」

 

 

グリフォン。黄金を発見し守るという言い伝えから“知識”を象徴する図像として用いられ、鳥の王・獣の王であることから“王家”の象徴、“七つの大罪”の一つでもある“傲慢”を象徴としてももてはやされたほどの幻獣だ。そんな幻獣までいるとは箱庭って凄いな。

 

 

白夜叉がグリフォンに手招きをすると、白夜叉の元に降り立ち、深く頭を下げて礼を示した。

 

 

「さて、肝心の試練だがの。おんしら三人とこのグリフォンで“力”“知恵”“勇気”の何れかを比べ合い、背に跨って湖畔を舞う事が出来ればクリア、という事にしようか」

 

 

白夜叉が双女神の紋が入ったカードを取り出した。すると、虚空から“主催者権限”にのみ許された輝く羊皮紙が現れた。白夜叉はその羊皮紙に記述しだした。

 

 

『ギフトゲーム名 “鷲獅子の手綱”

 

 

 ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

  久遠 飛鳥

  春日部 耀

 

 

 ・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

 ・クリア方法 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる。

 

 

 ・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

  “サウザンドアイズ”印』

 

 

「私がやる」

 

 

読み終わるや否に即座に挙手したのは耀だった。今の耀の瞳はグリフォンしか向いておらず、羨望の眼差しで見つめている。余程、グリフォンに何かしらの想いがあるんだろう。

 

 

「ニャ、ニャー」

 

 

「大丈夫、問題ない」

 

 

「ふむ。自信があるようだが、コレは結構な難物だぞ?失敗すれば大怪我では済まんが」

 

 

「大丈夫、問題ない」

 

 

「………おーい、耀さーん?」

 

 

「大丈夫、問題ない」

 

 

駄目だこりゃ。耀はもうグリフォン以外、意識を向けていないわ。耀の視線は自分の憧れの存在に会ったかのように輝いている。俺は逆廻と飛鳥同様、呆れたかのように苦笑いを漏らすしかなかった。

 

 

「OK、先手は譲ってやる。失敗するなよ」

 

 

「気を付けてね、春日部さん」

 

 

「うん。頑張る」

 

 

「ちょっと待った、耀」

 

 

頷き、グリフォンに駆け寄ろうとする前に俺が待ったをかける。止められた耀は不機嫌を隠そうとせずに俺を睨んでくるが、俺は気にせずブレザーを脱ぎ、耀の肩にかける。

 

 

「この世界の環境で体感気温はかなり下がるだろうからな。どうやってグリフォンに跨るかは分からんが、その服装だとクリアしても死ぬ可能性の方が高いから気休め程度だがそれでも着てろ」

 

 

「う、うん。ありがとう………」

 

 

「気にすんな。白夜叉、これぐらい別にいいよな?」

 

 

「………まあ、その服からは何も感じないしそれぐらいはよかろう」

 

 

「ん、サンキュー。じゃあ、行ってこい耀」

 

 

「………行ってくる」

 

 

耀は先ほどよりも大きく頷き、再度グリフォンに駆け寄っていった。俺はそれを見送った後、逆廻と飛鳥の傍まで歩いていった。耀、ここからはお前の戦いだ。頑張れよ。

 

 

「え、えーと。初めまして、春日部耀です」

 

 

耀が慎重にグリフォンに話しかけると、グリフォンの肢体が跳ねた。どうやら耀のギフトは幻獣にも有効のようだな。だが、問題はここからだ。言葉を交わせることが出来ることは有利な条件で交渉できるが、どうグリフォンの背に跨るかだ。もし、俺自身がこのギフトゲームに参加していたなら、力で屈服させるぐらいしか思いつかない。さて、どうする耀?

 

 

「私を貴方の背に乗せ………誇りを賭けて勝負をしませんか?」

 

 

耀の提案にグリフォンの瞳に闘志が宿った。まあ、王家の象徴とまで言われているグリフォンに『誇りを賭けろ』なんて、最高の挑発もいいとこだ。

 

 

「貴方が飛んできたあの山脈。あそこを白夜の地平から時計回りに大きく迂回し、この湖畔を終着点と定めます。貴方は強靭な翼と四肢で空を駆け、湖畔までに私を振るい落とせば勝ち。私が背に乗っていられたら私の勝ち。………どうかな?」

 

 

………確かにその条件なら力と勇気の両方を試すことが出来る。耀だからこそ出来る攻略方法だけど、その服装で挑むとか危険過ぎだろう。ったく、ブレザーを着させて正解だよ。

 

 

耀の交渉が終わるとグリフォンは大きく鼻を鳴らし、唸り声を上げる。その唸り声に耀は即答で答えた。

 

 

「命を賭けます」

 

 

あまりに突飛な返答に黒ウサギと飛鳥から驚きの声が上がる。

 

 

「だ、駄目です!」

 

 

「か、春日部さん!?本気なの!?」

 

 

「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。もし転落して生きていても、私は貴方の晩御飯になります。………それじゃ駄目かな?」

 

 

なるほどな………。おそらくグリフォンに誇りの対価を求められたのだろう。それを怖気もなく『命を賭ける』か………。無謀にも思えるが耀の声には相当な覚悟が秘めていた。

 

 

耀の提案にさらに慌てて止めようとする飛鳥と黒ウサギ。それを白夜叉と逆廻、俺が制する。

 

 

「双方、下がらんか。これはあの娘から切り出した試練だぞ」

 

 

「ああ。無粋な事はやめとけ」

 

 

「そんな問題ではございません!!同士にこんな分の悪いゲームをさせるわけには―――」

 

 

「そんなの“打倒魔王”を掲げる俺達にとってこれから当たり前になることだぞ。それが今になっただけだ」

 

 

「し、しかし―――」

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

耀が振り向きながら飛鳥と黒ウサギに頷く。その表情は何の気負いもなく、勝算があると思わせる。グリフォンはしばし考える仕草をした後、頭を下げて背に乗るように促している。耀は頷き、手綱を握りながら背に乗り込んだ。鞍が無い分、不安定そうだが耀は手綱をしっかり握り締めてグリフォンの胴体に跨る。

 

 

「………ねえ、龍騎君。春日部さんに勝算あるのかしら?」

 

 

強気な表情をしていた耀だが、それでも心配そうな飛鳥が俺に問いだしてきた。

 

 

「そうだな………。俺達の知る限りのことだけだったら勝率は0.1%もないだろうな。けど、俺の予想が当たっていたとしたら勝率は五分五分ってところだな」

 

 

「まあ、それが妥当だな」

 

 

「………?どういうこと?」

 

 

俺の推測に逆廻が同意し、飛鳥はピンとこないのか不思議そうに首を傾げる。

 

 

「ちゃんとした確信を得ていないから自信持って言えないんだけど………まあ、見てたら分かるだろ。………そろそろ始まりそうだぜ?」

 

 

グリフォンが翼を三度羽ばたかせ、前傾姿勢を取ると大地を踏み抜くように空へと飛び出していった。その速度は山脈に瞬く間に近づいていく。

 

 

「おお、思ったよりも速いんだな。流石はグリフォンってところか」

 

 

「だが、ここからが問題だな。白夜の世界は気温が低い上に、あの速度だと体にかかる衝撃は尋常じゃない。さらに氷点下の風が更に冷たくなって、体感気温はおよそマイナス数十度ってところか?」

 

 

しばしすると耀が乗ったグリフォンは山脈を大きく迂回しこちらに戻ってくる。ここで本気を出したのかグリフォンの速度は倍ぐらいまで加速し、旋回や急降下を使い耀を振り落とそうとする。だが、耀も下半身が空中に投げ出されている状態だが手綱を強く握り締め踏ん張り続けている。

 

 

「後、残り僅かの距離です!」

 

 

「頑張って!春日部さん!」

 

 

残り僅かの距離になるとグリフォンは更に激しく旋回を繰り返す。その上に地平ギリギリまで急降下して大地と水平になるように振り回す。そして、そのままの勢いで湖畔の中心まで疾走しきったグリフォン。耀の勝利が決定した瞬間だったが―――耀が手綱を手放した。

 

 

「春日部さん!?」

 

 

飛鳥の悲鳴にそのまま落ち続ける耀。黒ウサギは助けに行こうとするが黒ウサギの手を逆廻が掴み、救助の邪魔をする。

 

 

「は、離し―――」

 

 

「待て!まだ終わっていない!」

 

 

落下している耀から力を感じた。すると、落下速度が徐々に下がっていき、耀は空中を蹴ってゆっくりとこちらに向かってくる。

 

 

「………なっ」

 

 

その場の全員が絶句した。ふわふわと不安定に泳ぐように飛ぶその飛び方はグリフォンの飛び方とよく似ていた。その様子を俺は呆れたように笑う。

 

 

「やっぱりな。耀のギフトは他の生物の特性を手に入れる類だったんだな」

 

 

「………これが貴方達が予想していたこと?」

 

 

俺に問いだしてくる飛鳥。俺は肩をすくめながらその問いに答える。

 

 

「ただの推測だがな。呼び出されて黒ウサギを見つける時に“風上に立たれたら分かる”って言っていたからな。そんな芸当は人間には出来ないが他の生物だと出来るかもしれない。だとすると、耀のギフトは他の生物とコミュニケーションをとり、何らかの条件でその生物のギフトを手に入れると推察したんだ。まあ、多分まだ他の能力はありそうだけど」

 

 

説明を終え視線を耀に移し替えると耀が既に着地しており、その傍には三毛猫と逆廻がいた。

 

 

「じゃあ、俺達も耀のところに行こうぜ。ブレザーも返してもらわなきゃいけないしな」

 

 

「そうね、行きましょう」

 

 

不安要素や危なっかしいとこもあったが、初のギフトゲームは無事クリアだな。これからもこの調子でいければいいがな………。

 

 

そんなことを思いながら俺は飛鳥と共に耀の傍まで駆け寄っていった。

 

 

 


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