問題児たちが異世界から来るそうですよ? 出来損ないの陰陽師の異世界録   作:カオス隊員

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第二章

 

 

―――箱庭二一〇五三八〇外門。ペリべッド通り・噴水広場前。

 

 

 

 

 

「ジン坊っちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」

 

 

あれから黒ウサギのコミュニティまで案内することになり、黒ウサギが先導して俺達は巨大な天幕に覆われた未知の都市に向かった。しばらく歩き続けると都市の入口に着き、その入口の前では、小さな体躯に似合わないダボダボなローブを着た幼い少年が待ち構えていた。

 

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの三人が?」

 

 

「はいな、こちらの御四人様が―――」

 

 

こちらに振り返る黒ウサギだが、ある事実に気が付くと固まりだした。そう、少年が言った通り、黒ウサギに付いてきているのは三人(・・)しかいないのだ。

 

 

「………え、あれ?もう一人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が」

 

 

本人がいないからって酷い言いようだな黒ウサギよ。逆廻に知られたらまた苛められるぞ?

 

 

「ああ、十六夜君のこと?彼なら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」

 

 

久遠さんが黒ウサギの疑問に応えながら、上空4000mから見えた断崖絶壁のある方角を指した。街道の真ん中で呆然となっている黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて俺達に問いだしてきた。

 

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

 

 

「“止めてくれるなよ”と言われたもの」

 

 

「せ、せめて説得ぐらいしてくれてもいいじゃないですか!」

 

 

「説得する前に駆け出していったから無理だった」

 

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

 

「“黒ウサギには言うなよ”と言われたから」

 

 

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御三人さん!」

 

 

「「うん」」

「当然だ」

 

 

それを聞いた黒ウサギは前のめりに倒れた。おそらく、新たな仲間ができることに胸を踊らせていた自分に自己嫌悪でもしているだろうな。まぁ、慰める気は一片たりともないがな。いや、だって邂逅した直前にあんなことが起きたんだから俺達が問題児なのは分かり切ったことだろに、監視を疎かにこいつが悪いんだし。

 

 

そんな黒ウサギとは対照的に、目の前の少年は顔色を蒼白になっていき慌て出す。

 

 

「た、大変です!“世界の果て”にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」

 

 

「幻獣?ユニコーンとかガーゴイルみたいなやつか?」

 

 

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に“世界の果て”付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間で太刀打ち出来ません!」

 

 

「うわっ、マジで?俺も逆廻の後を追いかければよかったぜ………」

 

 

「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」

 

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?………斬新?」

 

 

「冗談を言っている場合じゃありません!」

 

 

茶化す俺達に少年は必死に事の重大さを訴えるが、正直どうでもいいので聞き流すことにした。

 

 

すると、さっきまで落ち込んでいた黒ウサギが溜息を吐きつつも立ち上がった。

 

 

「はぁ………ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

 

「わかった。黒ウサギはどうする?」

 

 

「問題児を捕まえに参ります。事のついでに―――“箱庭の貴族”と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

 

 

悲しみから立ち上がった黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、艶のある黒髪が淡い緋色に染まっていく。外門めがけて空中高く跳び上がり、外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、外門の柱に水平に張り付き、

 

 

「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」

 

 

そう言って黒ウサギは、淡い緋色の髪を戦慄かせ踏みしめた門柱に亀裂が入り、そのまま弾丸のような跳躍した黒ウサギはあっという間に俺達の視界から消え去っていった。

 

 

跳躍により巻き上がった風から髪の毛を庇う様に押さえている久遠さんが呟いた。

 

 

「………。箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」

 

 

「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが………」

 

 

「なら、大丈夫だろ。あっちの方角に特別に強い力も感じないし(・・・・・)………」

 

 

それに多分、逆廻はかなりの実力者だろうから何か起こっても問題はないだろ。

 

 

「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」

 

 

「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。三人の名前は?」

 

 

「久遠飛鳥よ。後、ペンダントをしている男性とそこで猫を抱えているのが」

 

 

「春日部耀」

 

 

「俺は神崎龍騎。まぁ、よろしくな」

 

 

少年ことジンが礼儀正しく自己紹介をし、久遠さんと春日部さんもそれに倣って一礼する。俺はそういうのは性に合わないので片手を上げる程度で済ましている。

 

 

………それにしても、この子がリーダーか。となると、俺の予想が正しければ黒ウサギが意図的に俺達に隠していたことって、もしかすると―――。

 

 

「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 

 

おっと、久遠さんとジンが先に箱庭の外門の方に向かっていったな。この疑問はジンに聞けば分かることだし、俺も二人の後についていきますか。

 

 

「じゃあ、行きますか。春日部さん」

 

 

「………うん」

 

 

俺と同じく置いてかれた春日部さんと共に久遠さん達の後を追いかけるように箱庭の外門をくぐるのだった。

 

 

                   ☆

 

 

―――箱庭二一〇五三八〇外門・内壁。

 

 

俺、久遠さん、春日部さん、ジン、三毛猫の四人と一匹は石造りの通路を通り、箱庭の幕下を出ると頭上から眩しい光が降り注いできた。………どういうことだ?確か俺たちは外から天幕に覆われていた街に入っていたはずなのに何故太陽が見えるんだ?

 

 

「………本当だ。外から見たときは箱庭の内側なんて見えなかったのに」

 

 

そうなのだ。俺達が召喚された上空から見たときは箱庭の町並みなんて見えなかったのに、都市の天井には太陽の姿が現していた。………なんか特殊な力や物質でも使っているのか?

 

 

「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可能になるんですよ。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族のために設置されていますから」

 

 

うん?ということは吸血鬼みたいな存在でもいるのか?一応、此処は異世界だからいてもおかしくはないけど。

 

 

俺と同じことを考えていたのか、久遠さんが青い空を見上げながら、ピクリと眉を上げ皮肉そうに言う。

 

 

「それはなんとも気になる話ね。この都市には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」

 

 

「え、居ますけど」

 

 

「………。そう」

 

 

ジンの即答になんとも複雑そうな顔をする久遠さん。まぁ、確かに危険そうな種族が同じ街に住むことができるとは思えないよな。

 

 

その隣では、春日部さんが抱えていた三毛猫が春日部さんの腕から下りると、噴水広場を見回している。

 

 

「ニャー」

 

 

「うん。そうだね」

 

 

「あら、何か言った?」

 

 

「………。別に」

 

 

………ん?今、春日部さんが三毛猫と会話したように見えたのだが気のせいか?春日部さんも特に何も言わないし………やっぱり、聞き間違いだったか?

 

 

久遠さんもそれ以上は追求せず、目の前で賑わう噴水広場に目を向ける。俺も噴水広場の周辺を見回すと、白く清潔感の漂う洒落た感じのカフェテラスがいくつもあった。………そういえば飯も食わないでこの世界に来たからお腹が減ってきたな。早く何か腹を満たすものが食いたいな。

 

 

「お勧めの店はあるかしら?」

 

 

「す、すいません。段取りは黒ウサギに任せていたので………よかったらお好きな店を選んでください」

 

 

「おっ!太っ腹じゃねえか。じゃあ、あそこにある店に行こうぜ」

 

 

皆も特に異論がなかったので、俺が適当に決めた“六本傷”の旗を掲げるカフェテラスに四人と一匹が座る。

 

 

すると、注文を取るために店の奥から素早く猫耳の少女が飛び出してきた。

 

 

「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」

 

 

「えーと、紅茶と緑茶を二つずつ。あと軽食にコレとコレと」

 

 

「ニャオニャ」

 

 

「はいはーい。ティーセット四つにネコマンマですね」

 

 

………ん?今、誰がネコマンマを頼んだのだ?久遠さんの注文にはそんなもん入っていなかったし、春日部さんもジン、当然俺も喋っていない。久遠さんもジンも不可解そうに首を傾げるが、それ以上に隣にいる春日部さんが信じられない物を見るような目で驚いていた。

 

 

「三毛猫の言葉、分かるの?」

 

 

「そりゃ分かりますよー私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスもさせてもらいますよー」

 

 

………ということは、ネコマンマを注文したのはこの三毛猫なのか。あの聞き方だと春日部さんは三毛猫と喋れるみたいだ。どうやら春日部さんと三毛猫が会話していたように見えたのは気のせいではなかったんだな。

 

 

「ニャオ二ャ、ニャニャオニャオニャオ」

 

 

「やだもーお客さんったらお上手なんだから♪」

 

 

………会話の内容が気になる。翻訳のギフトが欲しくなってきたな。異世界なんだしこのような言葉が通じない種族がいそうだしな。

 

 

俺の隣にいる春日部さんは店内に戻っていった猫娘の後ろ姿を見送った後、嬉しそうに三毛猫を撫でる。

 

 

「………箱庭ってすごいね、三毛猫。私以外に三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」

 

 

「ニャオー」

 

 

「ちょ、ちょっと待って。貴女もしかして猫と会話ができるの?」

 

 

動揺した声の久遠さんの問いに、春日部さんが頷いて返す。久遠さんの隣にいるジンも興味深そうに質問を続けた。

 

 

「もしかして猫以外にも意思疎通は可能ですか?」

 

 

「うん。生きているなら誰とでも話は出来る」

 

 

「へえ………?じゃあそこら辺にいる鳥とか幻獣とか会話出来るのか?」

 

 

「うん。きっと出来………る?ちょっと後者は試したことがないから分からないけど………ええと、鳥で話したことがあるのは雀や鷺や不如帰(ほととぎす)ぐらいだけど………ペンギンがいけたからきっとだいじょ」

 

 

「「ペンギン!?」」

 

 

「う、うん。水族館で知り合った。他にもイルカ達とも友達」

 

 

結構便利な能力を持っているだな。だが、果たしてその程度だけの力なのだろうか?まず俺達の力が必要だと前提として、その程度の力だけで召喚されるだろうか?俺ならもっと強い力の持ち主かなにか一つでも群を抜いている人材を呼び出しているだろう。そうなると、春日部さんのあの力は副産物的な力だと考えていた方が良さそうだな。

 

 

「し、しかし全ての種と会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言語の壁というのはとても大きいですから」

 

 

「そうなんだ」

 

 

「はい。一部の猫族やウサギのように神仏の眷属として言語中枢を与えられていれば意思疎通は可能ですけど、幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種か相応のギフトがなければ意思疎通は難しいというのが一般です。箱庭の創始者の眷属に当たる黒ウサギでも、全ての種とコミュニケーションをとることはできないはずですし」

 

 

………本格的に翻訳のギフトが欲しくなってきた。だいぶ前にある存在に交渉を持ち込んだのだが、言葉が通じなくて何故か敵と勘違いされ、そのまま戦闘になってしまったんだよな………。あの時は俺もまだ未熟で大変だったな………。

 

 

「………?どうしたの、神崎君?そんな遠い目して」

 

 

「いや、なんでもない。昔のことを思い出していただけだ」

 

 

「そう?………それにしても春日部さんは素敵な力があるのね。」

 

 

久遠さんが笑いかけると、困ったように頭を掻く春日部さん。だが、対照的に久遠さんは憂鬱そうな声と表情で呟く。久遠さんとは出会って数時間経っただけなのだが、それでも久遠さんの今の表情はらしくないと思った。

 

 

「久遠さんは」

 

 

「飛鳥でいいわ。よろしくね春日部さん」

 

 

「あ、俺も龍騎でいいぜ。その代わりに俺も名前で呼んでもいいか?さん付けするのあんまり慣れていないからさ。久遠さんも俺のことは龍騎って呼んでくれないか?」

 

 

「う、うん。別にいいけど」

 

 

「私も別にかまわないわよ」

 

 

「おっ、サンキュー。じゃあ、よろしくな耀、飛鳥」

 

 

「よろしくね、龍騎君」

 

 

「………よろしく。飛鳥と龍騎はどんな力を持っているの?」

 

 

「私?私の力は………まあ、酷いものよ。だって」

 

 

「おんやぁ?誰かと思えば東区部ぼ最底辺コミュ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないのですか?」

 

 

飛鳥の声を重ねるかのように品のない上品ぶった声がジンを呼んでいる。顔だけ振り返ると、2mを超える巨体に似合っていないピチピチのタキシードを着た男がいた。どうやらジンの知り合いのようだな。

 

 

「僕らのコミュニティは“ノーネーム”です。“フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー」

 

 

「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだ―――そう思わないかい、紳士方にお嬢様方」

 

 

ガルドはそう言いながら、俺たち四人が座るテーブルの空席に勢いよく腰を下ろした。俺や飛鳥と耀に愛想笑いを向けてくるが、不快な態度をしてくる奴に礼儀正しく返す気は俺にはない。飛鳥と耀も同じく冷ややかな態度で返す。

 

 

「失礼ですけど、同席を求めるならばまず氏名を名乗ったのちに一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

 

 

「それと俺たちが喫茶店に入ってから遠くから監視をしてたのも失礼じゃねえか?」

 

 

俺がそう言うと、ここにいる全員が驚いた表情を浮かべ、特にガルドは何故バレた!?と言っているかのような表情になっている。まさかこいつバレていないと思っていたのか?あの程度の監視なんかさっきの黒ウサギ以下だぞ。今回は街中で人が多かったせいなのか飛鳥と耀は全然気付かなかったようだけどな。

 

 

「っ!?それは大変失礼しました。この名無しが連れてきた御方達がどのような人物なのか気になって遠目から伺わせてもらいました。不快と思われていたなら謝罪させてもらいます。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ“六百六十六の獣”の傘下である」

 

 

「烏合の衆の」

 

 

「コミュニティのリーダーをしている、ってマテやゴラァ!!誰が烏合の衆だ小僧オォ!!」

 

 

ジンの横槍をという名の挑発を入れられたガルドは怒鳴り声を上げながら激変していく。口が耳元まで大きく裂け、肉食獣のような牙とギョロリと剥かれた瞳が激しい怒りとともにジンに向けられる。こいつ、人間ではないとは思っていたが獣人だったのか。てか、ガルド沸点低くね?

 

 

「口慎めや小僧ォ………紳士で通っている俺にも聞き逃せねえ言葉はあるんだぜ………?」

 

 

「森の守護者だったころの貴方なら相応に礼儀で返していたでしょうが、今の貴女はこの二一〇五三八〇外門付近を荒らす獣にしか見えません」

 

 

「ハッ、そういう貴様は過去の栄華に縋る亡霊と変わらんだろうがッ。自分のコミュニティがどういう状況に置かれてんのか理解できてんのかい?」

 

 

「ハイ、ちょっとストップ」

 

 

険悪な二人を遮るように手を上げて仲裁したのは飛鳥だった。

 

 

「事情はよくわからないけど、貴方達二人の仲が悪いことは承知したわ。それを踏まえたうえで質問したいのだけど―――」

 

 

飛鳥が鋭く睨む。だが、睨む相手はガルドではなく、

 

 

「ねえ、ジン君。ガルドさんが指摘している、私達のコミュニティが置かれている状況………というものを説明していただける?」

 

 

「そ、それは」

 

 

飛鳥の問いにジンが明らかに動揺しているのが分かる。その動揺を逃さず飛鳥は一気に畳み掛ける。

 

 

「貴方は自分のことをコミュニティのリーダーと名乗ったわ。なら黒ウサギと同様に、新たな同士として呼びだした私達にコミュニティとはどういうものなのかを説明する義務があるはずよ。違うかしら?」

 

 

追求する声は静かに、されどナイフのような切れ味でジンを責め立てる。それを見ていたガルドは獣の顔から人に戻し、含みのある笑顔と上品ぶった声音で、

 

 

「レディ、貴女の言う通りだ。コミュニティの長として新たな同士に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務。しかし彼をそれをしたがらないでしょう。よろしければ、“フォレス・ガロ”のリーダーである私が、コミュニティの重要性と小僧―――ではなく、ジン=ラッセル率いる“ノーネーム”のコミュニティを客観的に説明させていただきますが」

 

 

………さっきの険悪さを見た後だと客観的に説明できるのか疑問だが、ジンと黒ウサギがそのことを隠していたこともそうだが俺達はまだ箱庭についてのことを詳しく知らないのも事実。ここは素直に話を聞いておいた方がよさそうだな。

 

 

「………そうね。お願いするわ」

 

 

「承りました。まず、コミュニティとは読んで字のごとく複数名で作られる組織の総称です。受け取り方は種によって違うでしょう。人間はその大小で家族とも組織とも国ともコミュニティを言い換えますし、幻獣は“群れ”とも言い換えられる」

 

 

「それぐらいわかるわ」

 

 

「はい、確認までに。そしてコミュニティは活動する上で箱庭に“名”と“旗印”を申告しなければなりません。特に旗印はコミュニティの縄張りを主張する大事な物。この店にも大きな旗印が掲げられているでしょう?あれがそうです」

 

 

ガルドはそう言いながら、カフェテラスの店頭に掲げられている“六本傷”が描かれた旗を指さす。

 

 

「六本の傷が入ったあの旗印は、この店を経営するコミュニティの縄張りであることを示しています。もし自分のコミュニティを大きくしたいと望むのであれば、あの旗印のコミュニティに両者合意で『ギフトゲーム』を仕掛ければいいのです。私のコミュニティは実際にそうやって大きくしましたから」

 

 

自慢げに語るガルドは胸に刻まれた虎の紋様をモチーフにした刺繍を指さす。確かそのマークはここいら周辺の商店や建造物に飾られていたな。

 

 

「その紋様が縄張りを示すというのなら………この近辺はほぼ貴方達のコミュニティが支配していると考えていいかしら?」

 

 

「ええ。残念なことにこの店のコミュニティは南区画に本拠があるため手出しできませんが。この二一〇五三八〇外門付近で活動可能な中流コミュニティは全て私の支配下です。残すは本拠が他区か上層にあるコミュニティと―――奪うに値しない名も無きコミュニティぐらいです」

 

 

嫌味を込めた笑いを浮かべるガルド。ジンは顔を背けたままだが悔しそうにしているのが見てても分かるぐらいの雰囲気が伝わってくる。………これは決定的だな。どうやら俺の推測通りみたいだな。

 

 

そうなると、ジンのコミュニティに侵されている状況は―――。

 

 

「さて、ここからがレディ達のコミュニティの問題。実は貴女達の所属するコミュニティは」

 

 

「弱小のチームか何かしらの理由で衰退したチーム………違うか?」

 

 

疑念が確信に変わり、俺は自分の推測が当たっているか確かめるため口を挟むのであった。

 

 

 

 

 


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