問題児たちが異世界から来るそうですよ? 出来損ないの陰陽師の異世界録   作:カオス隊員

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第一章

 

 

「………転移場所が上空とはまた派手にやってくれるな。下が湖じゃなかったら死ぬところだったぞ」

 

 

そう言いながら、俺こと神崎龍騎は陸地に上がりながら濡れた服を乾かそうとポケットから札を取り出す。勿論、札には加護を付与させているから濡れることはない。札に霊力を加え術式を発動させると、俺の周りから温かい風が吹いた。

 

 

その風が俺の服を乾かしていき、乾き終わった頃には役目が終えた札はそのまま発火して燃え尽きてしまった。

 

 

さてと………、どうやらここに呼び出されたのは俺だけではないようだな。視線の先には俺と同い年ぐらいの二人の金髪の少年と黒髪の少女が罵詈雑言を吐き捨てて、まだ湖の中にいる茶髪の少女が一人と三毛猫が一匹が陸地を目指し泳いでいた。三人とも見た目は一般人だが、かなりの力を保有しているようだ。特にヘッドホンを付けた金髪の少年はずば抜けている。とりあえず情報を得るためにもあの二人に話しかけるとするか。

 

 

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺り込んだ挙句、空に放り出すなんて!」

 

 

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 

 

「いや、石の中に呼び出されたら身動き出来ないだろう………」

 

 

「俺は問題ない」

 

 

「そう。身勝手ね」

 

 

二人は互いに鼻を鳴らして服の端を絞り出す。後ろを振り返ってみると先ほどの茶髪の少女と三毛猫が岸に上がっていた。三毛猫は全身を震わせて水をはじき、少女も同じように服を絞りながら、

 

 

「此処………、どこだろう?」

 

 

「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねぇか?」

 

 

「確実に此処は異世界だろうし、その可能性は否定はできないな」

 

 

茶髪の少女の呟きに金髪の少年が応え、俺がさらにそれを応える。まあ、流石に大亀の背中はないだろうけどな。そんな気配もないし。

 

 

適当に服を絞り終えた金髪の少年は軽く曲がったくせっぱねの髪の毛を掻きあげながら俺達に質疑を問いかけてきた。

 

 

「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

 

 

「そうだけど、まずは“オマエ”って呼び方を訂正して。―――私は久遠飛鳥よ。以後は気を付けて。それで何故か既に服が乾いている貴方とそこの猫を抱きかかえている貴女は?」

 

 

「………春日部耀。以下同文」

 

 

「俺は神崎龍騎だ。服が乾いているのは企業秘密ということで」

 

 

「そう。よろしく春日部さん、神崎君。最後に、野蛮で凶暴そうなそこの貴女は?」

 

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

 

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

 

心からケラケラと笑っている逆廻に傲慢そうに顔を背ける久遠さんに我関せずと無関心を装う春日部さん。

 

 

俺はそんな三人を見ながら頭の中で手に入った情報で今の状況を整理していた。どうやら俺を呼び出した理由は暗殺とかの類ではないようだな。まず、暗殺するにしては罠や上空からの転落死というのがお粗末すぎるし、他の三人を呼び出す動機がない。そうなると俺は三人と同じ理由でここまで転移させたのだろう。これは勘だが、おそらく俺や三人が保有している力を借りたくて異世界から呼び出してきたとしたら辻褄が合う。まあ、現段階では大体こんな感じだろう。後は呼び出してきた召喚者にでも話を聞けばいいしな。

 

 

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

 

 

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

 

 

「………。この状況に対して落ち着きすぎているのもどうかと思うけど」

 

 

「いや、それは春日部さんにも言えることだけどな?」

 

 

てか、本当に落ち着きすぎなんですけどこの三人。普通、こういう時ってパニックになったりとかするもんじゃないのか?それとも俺がおかしいのか?いや、パニックになりすぎて暴れられたり単独行動をしでかす奴らよりかはいいけどさ。

 

 

そんなことを考えていると、ふと逆廻が溜息交じりに呟いた。

 

 

「―――仕方ねえな。こうなったら、そこに隠れている奴にでも(・・・・・・・・・・・・)話を聞くか?」

 

 

逆廻の呟きに反応して草むらの物陰からガサっと物音が聞こえてきた。おいおい………、言い当てられたからって気を乱して物音なんて起こしたら隠れている意味ないだろうに………。まあ、全員気付いていたみたいだろうし最初から意味なんてなかったんだろうがな。

 

 

「なんだ、貴方も気付いていたの?」

 

 

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?お前らも気付いていたんだろ?」

 

 

「気配がだだ漏れだしな。あんなの気付いてくださいと言っているもんだ」

 

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

 

 

「………へえ?面白いなお前ら」

 

 

そう言って軽薄そうに笑う逆廻だが目は全く笑っていなかった。他の二人も理不尽な招集を受けた腹いせに殺気のこもった冷ややかな視線で物音が聞こえてきた方向に向けていた。当然、俺も上空4000mからのスカイダイビングにはかなりイラついているので草むらごと燃やしてやろうかと思っている。

 

 

しばらくすると、観念したのか草むらから十五、六歳に見えるウサ耳の少女が出て来た。扇情的なミニスカートにガーターベルトを着用しており、明らかにその手の方をウケを狙っているとしか思えない服装をしていた。ウサ耳少女はビクビクと震えながら俺達を説得しようと話しかけてきた。

 

 

「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

 

 

「断る」

「却下」

「お断りします」

「断固拒否する」

 

 

「あっは、取りつくシマもないですね♪」

 

 

俺達の返答に両手を上げ降参のポーズをとるウサ耳少女だが、その眼だけは冷静に俺達を値踏みしているのが分かる。反省の色が全く見えないので少し痛い目を見てもらおうとポケットに入っている札に手を掛けるが、春日部さんが不思議そうにウサ耳少女の隣に立ったのでとりあえずお仕置きは後回しにするとしよう。

 

 

そして、ウサ耳少女の隣に立った春日部さんはそのまま黒いウサ耳を根っこから鷲掴み、

 

 

「えい」

 

 

「フギャ!」

 

 

力いっぱい引っ張ったのであった。それより、ウサ耳少女よ。いくら痛かったからって女性がそんな悲鳴を出すのはどうかと思うんだが?てか、あれ本物だったんだな。

 

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

 

 

「好奇心の為せる業」

 

 

「自由にも程があります!」

 

 

「へえ?このウサ耳って本物なのか?」

 

 

春日部さんの手から離れたのは良かったものの、今度は逆廻が右から掴んで引っ張り、

 

 

「………。じゃあ私も」

 

 

左は久遠さんが掴んで引っ張り出す。

 

 

「:@p;おぃくjyhtgrふぇdwさzdxcfvgbhんjmkっ!?」

 

 

左右に力いっぱい引っ張られたウサ耳少女は、言葉にならない悲鳴を上げる。ウサ耳少女は必死に抗議をするが二人はお構いなしに引っ張り続ける。二人に抗議しても無駄だと理解したウサ耳少女は視線で俺に助けを求めてきた。それに気付いてしまった俺は溜息をつきながら、渋々とウサ耳少女のもとに近づいていく。その行動にウサ耳少女が救世主が降臨したかのような視線で俺を見つめてくる。そして、俺はウサ耳少女の目の前まで接近し、今まで固く閉じていた口をゆっくりと開いた。

 

 

 

「………なぁ、ウサ耳少女よ。やっぱりその服装ってその手の方を狙って着ているのか?」

 

 

「裏切られたああああぁあああぁぁぁぁっ!?」と絶望したような表情を浮かべるウサ耳少女。何を勘違いしてんだろうか?俺が受けた仕打ちに対して謝罪すらしていないのに許すはずがないだろ。情け?なにそれ、おいしいの?

 

 

「な、何ですかその手の方って!それと、私には黒ウサギといったちゃんとした名前が―――」

 

 

「本当に外れないな、コレ」

 

 

「ええ。どうやら本物みたいね」

 

 

再度、ウサ耳少女こと黒ウサギのウサ耳が逆廻と久遠さんによって今度は引きちぎれる勢いで引っ張られ、黒ウサギの絶叫が近隣に木霊したのであった。

 

 

そして、しばらく湖周辺では三人による黒ウサギのウサ耳いじりと一人の言葉責めと黒ウサギの悲鳴と絶叫が続くのであった。

 

 

 

 

「―――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

 

 

「いいからさっさと進めろ」

 

 

結局あの後、そろそろ此処の情報が欲しいのと流石に小一時間も経つと言葉責めも飽きてしまったので、三人を説得をして話を聞いてもらえる状況を作ることに成功したのであった。俺や他の三人は黒ウサギの前の岸部に座り込み、彼女の話を聞くために耳を傾ける。

 

 

黒ウサギは気を取り直して咳払いをし、両手を広げて、

 

 

「それではいいですか、御四人様。定例文で言いますよ?言いますよ?さあ、言います!ようこそ、“箱庭の世界”へ!我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただこうかと召喚いたしました!」

 

 

「ギフトゲーム?」

 

 

「そうです!既に気付いていらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその“恩恵”を用いて競い合うためのゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

 

 

両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギ。すると、久遠さんが質問するために挙手をした。

 

 

「まず初歩的な質問からしていい?貴女の言う“我々”とは貴女を含めた誰かなの?」

 

 

「YES!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある“コミュニティ”に必ず属していただきます♪」

 

 

「嫌だね」

「面倒だな」

 

 

「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの“主催者(ホスト)”が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

 

 

「………“主催者”って誰?」

 

 

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として、前者は自由参加が多いですが“主催者”が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。“主催者”次第ですが、新たな“恩恵(ギフト)”を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらはすべて“主催者”のコミュニティに寄贈されるシステムです」

 

 

「その“主催者”って誰にもなれるのか?」

 

 

「賞品さえ用意がすることさえできれば誰でもなれます。修羅神仏や“コミュニティ”は勿論のこと、商店街のご主人様でも“主催者”になることが出来ます」

 

 

「なるほどな………、じゃあチップは何を使うんだ?」

 

 

「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間………そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑むことも可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然―――ご自身の才能も失われるのであしからず」

 

 

黒ウサギは愛嬌たっぷりの笑顔に黒い影を見せる。………まぁ、さっきの苛めを受けてからの挑発をしてくる度胸は認めるけど、それが俺達の癪に障ってまた同じ事の繰り返しになることは考えていないのか?そんなどうでもいいことが脳裏をよぎると、今度は久遠さんが挑発的な声音で問いかける。

 

 

「そう。なら最後にもう一つだけ質問させてもらっていいかしら?」

 

 

「どうぞどうぞ♪」

 

 

「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」

 

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK!商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」

 

 

久遠さんは黒ウサギの発言に片眉をピクリとあげる。

 

 

「………つまり『ギフトゲーム』とはこの世界の法そのもの、と考えてもいいかしら?」

 

 

久遠さんの問いに「お?」と驚く黒ウサギ。

 

 

「ふふん?中々鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在しています。ギフトを用いた犯罪などもってのほか!そんな不逞な輩は悉く処罰します―――が、しかし!『ギフトゲーム』の本質は全く逆!一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能だということですね」

 

 

「そう。中々野蛮ね」

 

 

「ごもっとも。しかし“主催者”は全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」

 

 

黒ウサギは一通りの説明を終えたのか、一枚の封書を取り出した。

 

 

「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが………よろしいです?」

 

 

ふむ………、最低限知りたい情報は知ることはできたが、まだ明かされていない重要な部分が何点かあるな。多分、聞かれると不味いものなのではぐらかしているんだろうが………別に今聞かなくてもいいことだし後にすることにしよう。

 

 

「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」

 

 

今まで静聴していた逆廻が威圧的な声を上げて立ち上がる。顔を見ると、ずっと刻まれていた軽薄な笑顔が無くなっていた。それに気付いた黒ウサギは、構えるように聞き返した。

 

 

「………どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」

 

 

「そんなのはどうでもいい(・・・・・・)。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

 

 

逆廻は視線を黒ウサギから外し、俺達三人を見回し、次に巨大な天幕によって覆われた都市に向ける。

 

 

逆廻は何もかも見下すような視線で一言、

 

 

「この世界は………面白いか(・・・・)?」

 

 

『―――』

 

 

………俺としたことが一番聞いておかなきゃいけないことを忘れていたな。他の二人も無言で黒ウサギの返事を待つ。俺達を呼んだ手紙にはこう書かれていた。

 

 

『家族を、友人を、財産を世界の全てを捨てて箱庭に来い』と。

 

 

俺達は本当に全て捨ててこの箱庭に来たのだ。それに見合うだけの催し物があるのかどうかこそ、俺達にとって一番重要なことだった。

 

 

黒ウサギは一瞬、虚を突かれて呆然とするが、その表情はすぐに笑顔に変わっていき、

 

 

「―――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 

 

 


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