問題児たちが異世界から来るそうですよ? 出来損ないの陰陽師の異世界録   作:カオス隊員

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長らくお待たせいたしました。

投稿が遅れてしまい本当にすみません………。
言い訳をさせてもらえるならば一つ………仕事って忙しいよね~。

ということで投稿は続けていこうと決めていますが、かなり遅れる可能性があります。
自分も気を付けて三日ペースでやっていこうと努力をしますが何卒宜しくお願いします。

では、今回は少し多めですが第十六章をどうぞ!



第十六章

 

 

「これで最後だったみたいだな」

 

 

「おつかれ、龍騎」

 

 

十六夜達と別行動を取った後、すぐに敵の団体がこちらにやってきたので耀が前衛、俺が隠れながら援護することで死体の山を築き上げたのであった。………殺してはいないけどね?流石に耀の前でそれをやる訳にはいかないし。

 

 

「それにしてもあれだけ敵が来たのに不可視の兜はたった一つだけしか手に入れなかったな。やっぱり、安易に奪われないようにするための処置か?」

 

 

まあ、当然ちゃ当然だけどな。レプリカとはいえ今回のギフトゲームでは絶大な効果を発揮する物を俺達のように奪われては自分の首を締める行為に繋がる。それも知らずにレプリカを量産してゲームを開始するというそんな馬鹿なことを名前負けだとはいえするはずがないだろう。思考に耽けながら兜を器用に回して思ったことを口にすると何故か耀がクスッと笑った。

 

 

「それ十六夜も言っていた。龍騎と十六夜って意外と似たもの同士かも」

 

 

「えっ?それマジで言ってる?」

 

 

「………そんな露骨に嫌そうな顔をしなくても」

 

 

確かに自分の顔が酷く歪んでいる事は自覚している。いや、だってね?あれほどの問題児と同じ扱いされたら誰でも嫌そうな顔一つぐらい浮かべてもおかしくないと思うけど?俺としてはその事実を認めたくないので耀に俺と十六夜の何処が似ているかを聞き出すことにした。

 

 

「じゃあさ、耀は俺と十六夜の共通点は何だと思っているんだ?もし、違ったら速攻で拒否らせてもらうからな」

 

 

「頭がキレるところ、面白い事には目にないところ………他にも強引ところや私達の知らないところで勝手に解決したりとか」

 

 

「………………」

 

 

あまりにも即答で多く共通点らしきものを言われた俺は思わず口が引き攣る。ひ、否定出来るところがない……だと……っ!た、確かに思い返せば十六夜と似ているところがあるような気が………いや、きっと気のせいだ。あいつと同じ扱いなんか認めたくねえし、少なくとも俺はコミュニティを第一に考えて行動してきたんだ。………ちょっと面白そうとかルイオスの悔し顔を見たかったとかそんな疚しいことなんて考えてないよ?

 

 

「無言は肯定と同じ」

 

 

「グッ………!?」

 

 

何時ぞやにジンに言った事を今度は耀に言われ俺は押し黙ってしまう。その様子を見た耀が勝ち誇った表情を浮かべ、少しイラっとしたので何とか反論しようと考えるが―――また背筋が凍る感覚に襲われる。しかも先程とは比べにもならない程の悪寒であり、俺はその感覚を信じてすぐさま庇う様に耀を抱き寄せる。だがこれだけでは耀を救うことが出来ないと思い、急なことに驚いて呆然とする耀が目の前にいるのにも関わらず俺は隠していた力の一部(・・)を使用することにした。

 

力を放出した瞬間、見覚えのある褐色の光が俺の視界を遮り、俺と耀は光に包まれていく。暫くすると次第に光が収まっていき、視界が回復して周囲を見渡し再発がないかを確認してから力の放出を止めて俺の腕の中にいる耀を解放する。安否を確かめるため解放した耀の顔を覗き込んでみると、トマトのように真っ赤になっていた。暫くの間惚けていた耀は我を取り戻したのか慌てて俺から距離を取り、未だに頬を染めて俺を警戒しながら睨みつけてくる。耀の様子を見るからに一言も言わずに抱き寄せたことに憤っているんだろう。その証拠として耀が俺を睨みつけながら低い声音で問いかけてくる。

 

 

「………今の何?答えて」

 

 

「………周りを見てみたら分かるぜ」

 

 

怒っているであろう耀に俺は周囲の現状を見るように促す。その言葉に耀は周囲を見渡すと真っ赤になっていた顔がみるみると青ざめていく。神秘が漂う造りをしていた宮殿が灰色一色となり、近くで死体の山となっていた“ペルセウス”の騎士達も石像のようになっていた。この異様な光景に俺は舌打ちを打ちながら今起こっている現状の原因を口にしていく。

 

 

「どうやら隷属した元・魔王………ゴーゴンを呼び出したようだな。さっきから禍々しい気配が宮殿の奥から感じ取るぜ」

 

 

………それにしても仲間ごと石化にするか。おそらくルイオスは自分さえ入れば敗けないと考えてこの惨状を起こしたのであろう。そう考えついた俺は自然と手に力が入る。

 

 

気に食わない………ルイオスがやらかしたこの手段が気に食わないのだ。例えどんな存在だろうと一人では限界がある。それを痛いほど身に染みている俺としては仲間がいるありがたさを知らないルイオスを考えただけでも原型が無くなるまで殴り倒したくなるのだ。………だが、ここで怒りに身を任せても意味がないので俺は頭を冷やして冷静になろうとする。幾分か落ち着いた俺はこの光景に顔を蒼白している耀に話しかける。

 

 

「大丈夫か耀?」

 

 

「………うん、大丈夫。心配かけてゴメン」

 

 

まだ少し顔色が悪いが、さっきよりかは落ち着いたようだ。とりあえずは一安心だな。

 

 

「気にすんな………落ち着いたばっかのところで悪いが飛鳥がいる場所まで行って待機しててくれないか?多分、飛鳥も今の光で石化した可能性が高いからな」

 

 

「………別にいいけど龍騎は?」

 

 

「俺は十六夜達の下に向かう………必要ないと思うけどな」

 

 

『あいつなら俺が辿り着いた時には全て終わらせていそうだしな』と言い、少し苦笑しながら耀を庇う時に邪魔で投げ捨てた兜を拾い上げる。

 

 

「分かった………でも、無茶はしないで」

 

 

「りょ~かい。じゃあ、飛鳥のこと頼むな!」

 

 

兜を被り耀の視界から俺の姿が消え失せる。そして、俺は再度気配頼りに十六夜達の下へと目指すのであった。

 

 

 

 

「………どうやらこの先みたいだな」

 

 

十六夜達の気配を追って真っ直ぐ突き進んで走り続けると、最上階へと続く道を見つけたのだった。移動中、何度も地響きがしていたがおそらく十六夜とゴーゴンとの戦闘で鳴り響いたものだろう。

 

 

俺は急いで最奥へと走り出すと、そこには薄気味悪いが荒れまくった闘技場のような場所に軽薄な笑みを浮かべる十六夜と驚愕し過ぎて唖然としている黒ウサギにジン、そして、戦意が枯れ果てたルイオスが地面に膝をつけて立ち尽くしていた。ルイオスの後ろにいる灰色の翼に体中に拘束具と捕縛用のようなベルトを巻いており、乱れた灰色の髪を逆立たせている怪物は元・魔王のゴーゴンだろう。………どうやら俺の出番はなかったようだな。俺は被っていた兜を脱ぎ、十六夜に話しかけることにした。

 

 

「よう!終わったみたいだな十六夜。少しぐらい俺にも残しといてくれよ」

 

 

「無茶言うなって。俺も拍子抜けで困っていたところなんだ」

 

 

軽口を言い合いながら闘技場を見回す。魔宮とも言える闘技場全体に亀裂が発生しており、瓦礫が周囲に散らばっている。………これは相当派手に暴れたみたいだな。まあ、大半は十六夜が破壊したんだろうし、ゴーゴンの伝説では様々な魔獣を生み出したというのもあった。それならこの薄気味悪い闘技場も十六夜がこんなに荒らしたのも得心がいく。俺はそう推測しゴーゴンに視線を向けると、ゴーゴンの様子がおかしいのに気が付いた。体を痙攣させ、何かを耐えるかのように唸り声を上げる。十六夜も異変に気が付いたのか不敵な笑みを浮かべ、ルイオスに問いかける。

 

 

「へえ………まだやる気なのか?その根性だけは認めてやるぜ?」

 

 

「ち、違う!僕は何もしていない!?」

 

 

問われたルイオスもこの異変には何も手を加えていないようだ。あの必死な形相を見るからに嘘を付いていないようだし、俺はもう一度ゴーゴンに視線を向けると未だに唸り声を上げ、何かから逃げるように暴れ始めだした。その様子に俺は段々と嫌な予感が強まっていく。この感じ何処かで………しかもごく最近に目の当たりにしたはずだ。記憶を辿っているとゴーゴンの体から瘴気が発生するのを視認することが出来た。

 

 

「………っ!?お前ら、ゴーゴンから今すぐに離れろ!!」

 

 

その見覚えがありすぎる瘴気に俺は焦りだし、ルイオスを含めた全員に対して叫喚を上げる。だが、皆が行動を起こす前にゴーゴンから放出された黒い波動によってこの場にいる全員が吹き飛ばされる。俺はすぐさま体勢を戻し、ゴーゴンを取り巻く瘴気を振り払う為行動を起こそうとするがその前にゴーゴンは瘴気に包み込まれてしまった。瘴気に包み込まれたゴーゴンは次第に形を変えていき、違う存在へと成り代わる。その姿に俺は思わず頭を抱え呟いてしまった。

 

 

「何でコレまで箱庭にいるんだよ………」

 

 

それは俺の世界で暴れていた怪物―――通称“影”と呼ばれた存在が俺達の前に立ち塞がったのだった。

 

 

 

 

アルゴールだったもの―――“影”は異様であった。体の全ては闇に染まり、乱れた灰色の髪も下半身も全て蛇へと変わり果てている。しかし異様と感じる要素はその姿ではなく、影がそこにいる(・・・・・・・)だけで此処にいる全員が拒絶反応を起こすという………その存在感だった。“影”によって漂う重苦しい空気に一部を除く全員は恐怖という感情が込み上がり立ち竦んでしまう。だが、十六夜だけは冷や汗を流しながらであるが嬉々とした表情で“影”を睨みつける。

 

 

「いいぜいいぜいいなオイ!面白い展開になってきたぜ!!」

 

 

「待て十六夜!不用意に近づくな!!」

 

 

「RaAAaaa!!」

 

 

龍騎の制止の声は虚しく、十六夜は地面を蹴り上げ影に向かって接近しようとする。だが十六夜の存在を認知した影は怪しく瞳を輝かせ謳うような不協和音を響かせた。すると途端に荒れていた白亜の宮殿の大地が奈落の深さを彷彿させる漆黒の泥へと変わり果てる。突然現れた漆黒の泥に十六夜達は驚愕しながらも泥が及ばない場所へと移動しようとするが凄まじい早さで下半身が飲み込まれていく。泥から脱出しようと藻掻くが底なし沼のようにどんどんと体が沈んでいく。このままでは不味いと思い至った十六夜は泥に向けて拳を振り落とす。しかしその拳は泥の中へと沈み込み、十六夜は更に動けない状態へとなった。

 

 

「なっ………!?」

 

 

絶句の声が聞こえる。十六夜が保有しているギフト“正体不明(コード・アンノウン)”は天地を砕く恩恵と恩恵を砕く力………本来、その二つの恩恵は相反するギフトなのだがそれを両立しているという巫山戯た力なのだ。だというのにこの漆黒の泥は砕けるどころか十六夜の“正体不明”を無効化したのだ。

 

 

その事実に此処にいる殆どが深い絶望に襲われる。それも仕方がないだろう………一番強い十六夜の一撃が簡単に無力化されたという事は影を倒す手段が無くなったと同義なのだ。ジンはそもそも打倒する力がなく、未熟であるルイオスでは制御を失ったゴーゴンを倒せるはずもなく、黒ウサギはギフトゲームが続いている以上、審判として参加することが出来ない。状況は一転として最悪となった。

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 

影が恐怖を植え付けるかのような叫声を上げながら、蛇となった下半身で十六夜を叩きつけるように振り下ろす。手足が封じられた十六夜は躱すどころか防ぐ事も出来ずにその重たい一撃を喰らい、全身が漆黒の泥へと沈み込んでしまった。

 

 

「十六夜さん!?」

 

 

泥に沈んでしまった仲間を目の前で目撃してしまい悲鳴を上げながら仲間の名前を叫ぶジン。黒ウサギも絶対の強さがあった十六夜が敗けた事に動揺を隠せないでいる。だが、影は動揺している黒ウサギを待つはずもなく次の標的………黒ウサギへと視線を向ける。

 

 

「黒ウサギ!?逃げて!!」

 

 

いち早く影の次の標的に気付いたジンは必死な叫び声を上げ、黒ウサギはその声で我を取り戻す。

ゆっくりと接近してくる影に怖気づきながらも泥から抜け出そうと藻掻く。迎撃するという一手もあったのだが今はギフトゲーム中であり、姿が変わったとは言えルイオスのギフトであるゴーゴンに攻撃するということは審判としてあるまじき行動であり“ノーネーム”の反則負けに繋がってしまう。

 

 

結果、黒ウサギは逃げるという選択しかないのだ。しかし、この泥は十六夜でも脱出が出来なかった底なし沼………そう簡単に脱出が出来るはずもなく徐々に体が沈んでいく。下半身が泥に呑まれるが諦めることなく必死に藻掻く黒ウサギに影が差す。黒ウサギは目線を上げると眼前には影が蛇と化した髪が黒ウサギに目掛けて漆黒な高密なエネルギーを無数に収縮させながら立ち尽くしていた。遠くからジンの叫び声が聞こえてくる。だが、身動き出来ない黒ウサギは抗う術もなく諦めたかのように瞳を閉ざす。

 

 

「………すみません、ジン坊っちゃん」

 

 

ジンに向けて謝罪の言葉を呟きながら静かに涙を流す黒ウサギ。コミュニティ再建を共に心したのにこんな形で脱落してしまう無念さ、自分の同士を死に繋がる目に遭わしてしまった後悔、抗うこと出来ず無力感。そんな感情が黒ウサギの心情を駆け巡っていく。涙する黒ウサギを更に追い打ちかけるように影は全ての高密エネルギーを放出させようと黒ウサギを囲むように蛇を移動させようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の仲間を何泣かしてんだよ、蛇女」

 

 

冷徹でそれでいて怒りを含んだ声音が黒ウサギのウサ耳から聞こえてきたと同時に凄まじい衝撃波が黒ウサギの体を襲う。衝撃波に耐えながらも瞳を開けると、目の前にいるのは今にも攻撃してきそうだった影ではなく漆黒の泥に沈むことなく立っている龍騎の後ろ姿だった。

 

 

だが、その後ろ姿は今まで見てきた背中とは大きくかけ離れていた。綺麗とは程遠すぎる霊力で作り出した無骨な黒翼。黒を主軸として赤のラインが龍騎を蝕むように模様された籠手とグリーブ。見たことのないその姿に黒ウサギは呆然と見つめながら龍騎の名を口にする。

 

 

「―――龍騎さん?」

 

 

「悪い、黒ウサギ。封印(・・)を解くのに時間が掛かって遅くなってしまった」

 

 

先程の冷徹な声音とは違い、安心させるかのように優しい声音で黒ウサギに喋りかける龍騎。黒ウサギは普段とは何処か違う龍騎に少し戸惑いながらも恐怖で張り詰めていた表情が安心したような表情に変わっていく。その表情を見た龍騎は一瞬だけ口元を緩め、すぐに影に視線を移す。

 

 

影は壁に張り付いており、衝撃が強すぎたのか大きな亀裂が無数に入っている。黒ウサギが瞳を閉ざしていた間、龍騎は影の眼前まで瞬時に移動し拳を腹に叩き込んでいたのだ。余程の威力だったのか影は激しく痙攣しておりすぐに体を動かす事が出来ないでいる。それを確認した龍騎は再度拳を構える。しかしその拳の先は影ではなく漆黒の泥に狙いを定めていて、龍騎はいつものように腕に霊力を纏わせる。その霊力はこれまで五行を示していた輝きではなくどす黒い―――足元にある漆黒の泥が可愛く見えるほどの濁りきった輝きを発現させていた。そして、龍騎は十六夜が沈んでいった場所を睨みながら霊力を纏った腕を泥に目掛けて振り下ろし十六夜の名を叫ぶ。

 

 

「いい加減寝てないで起きろ!十六夜!!」

 

 

龍騎の腕が泥に触れた瞬間、黒ウサギ達の身動きを封じていた泥が消滅していく(・・・・・・)。それはまるで最初からなかったかのように(・・・・・・・・・・・・・)………その存在を認めないかのように(・・・・・・・・・・・・・・)。泥が消滅すると呑み込まれていた下半身はしっかりと大地を踏み締める事が出来るようになり、黒ウサギは今の現象に唖然として立ち尽くす。龍騎はそんな黒ウサギを視界に移すと、黒ウサギの額に向けてデコピンを放つ。

 

 

「あいたっ!?な、何をするんですか!?」

 

 

「こんなところで突っ立ってるお前が悪い。そんなことしている暇があるんだったらジンの護衛に向かえ」

 

 

黒ウサギの抗議を一刀両断する龍騎。キッパリと言われた黒ウサギは狼狽える。龍騎の言っていることは正しい。影に痛手を負わせたからといってまだ戦闘が終わったわけではないので油断してはいけない。だが、黒ウサギはこれ以上仲間を危険な目に遭わせたくはなく必死に反論をしようとする。

 

 

「で、ですが!龍騎さん一人では!!」

 

 

「俺はあんな奴よりも強い………それに俺一人で倒す事を面白く思わない問題児もいるわけだしな」

 

 

そう言って龍騎はある場所に視線を向ける。黒ウサギも釣られて追うように視線を向けるとそこには泥に沈み込んでいた十六夜が尻餅をついたように座り込んでいた。その姿を見た黒ウサギは仲間が無事だった事に胸をなでおろす。

 

 

「い、十六夜さん!?よ、良かった………」

 

 

アレ(・・)の相手は俺と十六夜がやる。黒ウサギは高みの見物でもしていてくれ」

 

 

龍騎は黒ウサギの返答を待つ事なく十六夜の下に駆け寄る。ゆっくりと立ち上がりながらイラついた表情で頭を搔く十六夜に龍騎は嫌味っぽい顔で話しかける。

 

 

「随分とあっさりやられたじゃねえか十六夜君?」

 

 

「うるせえ!………チッ、少し油断しただけだ」

 

 

「あっそう。でも、油断しながら勝てるほど甘くないぜアレは(・・・)

 

 

「………お前アレ(・・)が何なのか知っているのか?」

 

 

「………まあな。だけどそれは後にしてくれ………来るぞ」

 

 

刹那、龍騎と十六夜に向かって無数の漆黒の光線が襲いかかる。龍騎と十六夜は難なくそれを躱し、光線を放った元凶を睨みつける。そこには既に起き上がっているゴーゴンが今まで以上に怪しく瞳を輝かせていた。しかし明らかに凶暴さが増したのにも関わらず龍騎と十六夜は不敵に笑みを浮かべるのだった。

 

 

「………で、どうするんだ?どうやってあいつを倒す?」

 

 

「俺と十六夜で奴が倒れるまで殴るのみ」

 

 

「ハッ!シンプルでいいじゃねえか!!」

 

 

十六夜がそう言葉を放つと同時に龍騎と十六夜は影に向かって地面を蹴り上げる。影も迎え撃とうと再度下半身を使い鞭のように薙ぎ払う。その攻撃に龍騎は十六夜の一歩手前に躍り出り、籠手に少し濁りを含んだ輝きを放つ紅蓮色の霊力を纏わせ反撃する。

 

 

「遅いんだよ、『火焼連滅却(かしょうれんめっきゃく)』!!」

 

 

影の下半身と龍騎の拳が激突する。しかし均衡するのは一瞬だけであり打ち勝ったのは龍騎だった。龍騎の籠手が下半身に触れたと瞬間、強烈な爆発と轟音が影を襲いかかる。だが、龍騎の一撃はこれで終わることはなかった。時間差で二発目、三発目の爆発が影の下半身から発生する。

 

 

火焼連滅却(かしょうれんめっきゃく)』。殴った相手を連続で爆発を喰らわす技の一つ。

今まで龍騎が言葉を放つと言葉次第でそれ相応の威力を発揮していたが、この技はそれらとは異なり威力も段違いに強いのだ。龍騎はそういった技は全て名をつけていることにしているのだ。

 

 

影から苦悶に満ちた叫び声を上がる。龍騎の一撃により隙だらけとなった影に十六夜が更に追撃を行う。

 

 

「喰らえやっ!蛇女!!」

 

 

十六夜の重たい蹴りの一撃を影の脇腹に打ち込み、その威力に押され影は数m程弾け飛ぶ。そして、影が吹き飛んだ方向には既に龍騎が掌を大地につけて待ち構えていた。

 

 

「更におまけだ!『地層砕き』!!」

 

 

濁った輝きを放つ赤銅(しゃくどう)色の霊力を大地に流し込む。すると、影が吹き飛んでいる先にある大地に亀裂が入り大きな穴が出来るように崩壊していき、それによって砕かれた鋭利な岩が影に目掛けて放出される。

 

 

『地層砕き』。これも『火焼連滅却(かしょうれんめっきゃく)』と同じ技の一つ。

相手の周囲にある地面を崩壊させ、体勢を崩させると同時に鋭利な岩が相手に向かって放たれるのだ。

 

 

岩は次々と影の体に突き刺さり、その度に影は悲鳴を上げていく。その間に龍騎は影の真上に跳躍して渾身の蹴りを放つ。防ぐ事も出来ず、影は大きな穴に向かって吹き飛んでいき、影の巨体と龍騎の一撃の威力によって穴の中に更に小さいクレーターが出来上がった。一撃を加えさせた龍騎はそのまま十六夜の横に着地し警戒しながらクレーターの方へと視線を向ける。

 

 

「す、凄い………!」

 

 

ジンが今の一連の流れに感嘆の声を上げる。さっきまでは苦戦していた相手だったのだが龍騎が参戦しただけで圧倒的に影を追い詰めたのだ。瀕死目前となった影を見てこれで終わりかと思った黒ウサギとジン………だったのだが、影は体をふらつかせながら立ち上がり雄叫びを上げた。

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 

流石は元・魔王である星霊・アルゴール。元々、格が強いおかげか龍騎と十六夜の連続攻撃を耐え抜いたようだ。影は雄叫びを上げながら蛇となった髪を操り高密度のエネルギーを収縮させる。しかし、今までとは違い一点に集中させて大きなエネルギーの集合体を球体状に作り出した。段々と肥大化していく球体に黒ウサギ達はあのエネルギー体は危険だと感じ取る。だが、龍騎と十六夜は余裕そうな笑みを浮かべながら大きくなっていく球体を見つめる。

 

 

「さてと、奴さんが本気になって切り札を切ろうとしてるぜ?」

 

 

「別にそれがどうしたってんだ?俺達が切り札を破った上で奴を倒せばいい話だろう?」

 

 

「ハハッ、違いねえ」

 

 

重々しい雰囲気の中、軽口を言い合う龍騎と十六夜。黒ウサギとジンは隙だらけの影に攻撃しない龍騎と十六夜を心配そうに見つめる。そして、溜め終わったのか影は龍騎達に目掛けて高密度エネルギーを―――全てを拒絶するかのような漆黒の砲撃が空間を歪ませながら放たれる。砲撃が通過しただけで大地が削り取られていく威力―――なのだが、それを目の前にしても龍騎は不敵な笑みを浮かべるだけだった。龍騎は無骨な黒翼を展開させ、砲撃に向かって地面から飛び出す。

 

 

「「龍騎さん!?」」

 

 

明らかに自殺行為であるその行動に黒ウサギとジンは悲鳴に近い声音で叫ぶ。そんな声を無視するかのように龍騎は腕に今までとは比べ物にもならない程の濁りきった輝きを放つ霊力を纏わせ、影が放った砲撃に拳を打ち込んだ。今度は突進の勢いも加えた龍騎の拳と漆黒の砲撃が均衡する―――ことはなかった。

 

 

「こんなのいらないから返す………ぜっ!!」

 

 

そう言って龍騎は更に霊力を纏わせ、影の渾身の一撃である砲撃を難なく跳ね返した。跳ね返された砲撃はそのまま影へと返っていき、自分の放った砲撃を自分自身の体で受けることとなった。

 

 

「■■■■■■■■■■■■!?」

 

 

再度、影の悲鳴が鳴り響く。自身の砲撃により体は大きくよろめき、地面に跪く。流石の影も今の一撃によって力を失いかけているのかアルゴールを包み込む瘴気が一部だけ消えかけていた。だが、影は唸り声を上げながらが体勢を整えようと立ち上がろうとする。だが、それを見過ごす程甘くはなく十六夜が止めの一撃を刺すべく影に向かって跳躍し、己の拳を振り下ろす。

 

 

「これで………終わりだ!!」

 

 

十六夜の拳が影の脳天に突き刺さり、その威力によって壁まで吹き飛んでいった。十六夜の一撃により戦う力を無くしたのか影は次第に消滅していき、最後に残ったのは瀕死となっている元の姿となったアルゴールだけだった。

 

 

「う、嘘だ!?こんなことが………こんな馬鹿なことが!?」

 

 

一部始終を見ていたルイオスが狼狽える。暴走したアルゴールを制御する事が出来なかったがその力は絶大だったので形勢逆転となると思い、今まで静観していたのだが………結果は惨敗。あまりの結果に膝から崩れ去るルイオスに軽薄そうな笑みを浮かべた龍騎が近寄り勝利宣言を口に出す。

 

 

 

 

 

 

「残念だがこのギフトゲーム………俺達“ノーネーム”の勝ちだ」

 

 


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