問題児たちが異世界から来るそうですよ? 出来損ないの陰陽師の異世界録   作:カオス隊員

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第十四章

 

 

「凄いのです!あの“ペルセウス”のリーダーに一泡吹かせるだけではなく、レティシア様を取り返して頂くなんて………!本当に、本当にありがとうございます!」

 

 

「わ、分かった!嬉しいのは分かったからその手を離してくれ!さっきから後ろから冷たい視線を向けられてるんだから!?」

 

 

あの後、“サウザンドアイズ”二一〇五三八〇外門支店から退出していき俺達の本拠の談話室まで戻ると、帰り道は始終無言だった黒ウサギがダムが決壊したかのように歓喜し俺に抱きついてきたのだ。最初は俺も抱きつかれた時に感じた柔らかな感触に役得だと思っていたのだが後ろから飛鳥とレティシアが冷たい視線を俺に向けられている事に気付き、離れるよう黒ウサギを説得しているんだがその視線に気付かない程喜んでいるのか俺の声が全く届いていなく更に強く抱きついてきたのだ。

 

 

そして、更に寒さが増す二人の視線。………天国と地獄とはこのことなのか。そんなくだらないことを考え現実逃避を試みるが事態が変わる様子もない。このままだとまた不名誉な称号を付けられる恐れがあるため俺はこの状況を変える為、はしゃいでいる黒ウサギが冷静になるように口を開く。

 

 

「く、黒ウサギ、喜ぶのは早いって!まだ全部終わったわけじゃないんだからさ!」

 

 

「………えっ?それはどういうことですか?」

 

 

黒ウサギが俺の言葉に少し驚いた顔で俺を見つめてくる。当然、抱きつかれたままで見つめられると上目遣いになる訳で………かなりグッとくるものがある。抱きつきたい衝動に駆られるが、俺は離れるよう黒ウサギを促す。俺に促されて落ち着いた黒ウサギは今の自分の体勢に気付いたのか頬とウサ耳を真っ赤に染めながら慌てて俺から離れていった。その様子を見て少し勿体無いことをしたと残念に思いながらも話を続けることにした。

 

 

「確かにあの名前負けからレティシアを奪回することに成功したが、プライドを粉々にされたあいつがおとなしく黙っていると思うか?」

 

 

その言葉に皆がハッと気付いたのか思案顔になり重苦しい雰囲気が漂わせる。

 

 

「………高い確率で報復しにまた本拠を侵入してくるだろう。私を取り返すためにな」

 

 

「いくら契約書を書かせたからといっても、あの人柄を見ると“ノーネーム”だからだと契約を無視するのは目に見えているわ」

 

 

「もし成功すれば、報復だけではなく商談も成立する上に“サウザンドアイズ”と外部に失態を漏れる恐れがなくなる………一石二鳥ならぬ一石三鳥ですね」

 

 

三人は“ペルセウス”がやりかねない行動を口にしていく。最悪の展開を避けた“ペルセウス”だが、それでも大打撃を受けることには変わりようはないのだ。多額の金額を見逃すどころか失う上に信頼まで失う………それは商業コミュニティとして絶対してはいけない禁忌なのだ。

それをあのリーダーがそう簡単に反省して受け入れるはずがない。必ず妨害や奪回による侵入、最悪は子供達を誘拐する可能性もある。あの交渉で見極めた結果、あいつは己の私腹を肥やすなら平気で行うことだろう。

 

 

「そういうこった。既に十六夜が行動しているがまだ安心していい段階ではない。俺達は十六夜の準備が完了するまで自分達が出来る範囲で“ペルセウス”の妨害を耐えなければならないんだ」

 

 

「………そういえばいつの間にか十六夜君がいないわね。また面白い事を企んでいるのかしら?」

 

 

黒ウサギとレティシアも今気付いたのか周囲を見回す。飛鳥の言う通り、この場には十六夜はいない。この事態を事前に察知していた俺と十六夜は支店から出て行った時にアイコンタクトで役割を分担したのだ。アイコンタクトの結果、俺はコミュニティの護衛、十六夜はこの事態を打破する方法を探るという事に決定したのだ。

 

 

「面白いかどうかは分からんが十六夜は守るより攻める方が得意そうだしな。その方が効率が良いと思ったんだ」

 

 

「なるほどね。大体理解したわ………だけどねぇ龍騎君」

 

 

少し拗ねたような表情を浮かべ、俺の耳を引っ張る。飛鳥が不機嫌そうな声音で呟いた。

 

 

「こういう面白い事を企むなら………次からは一声かける事。私達は仲間で………そ、その友達なんだから」

 

 

少し恥ずかしそうに頬を赤く染めながら俯く飛鳥。………そういえばこういうトラブル事には俺と十六夜だけで解決していて飛鳥と耀には直接関わっていなかったな。いくら二人が日常では経験しない事に慣れていないからって、相談も無しはやり過ぎだったな。仲間に頼らないで一人で解決するということは後でどうしようにもならない事を引き起こすとこの身で経験して分かっていたはずなんだが………俺もまだまだ甘いってことか。内心、苦笑しながら俺は俯いている飛鳥の肩に手を乗せ謝罪する。

 

 

「悪い飛鳥。俺の勝手な行動で不機嫌にさせて………今度からは一声かけるようにするよ」

 

 

「わ、分かればいいのよ………」

 

 

更に顔を赤く染めて俯く飛鳥。おそらくこういうことに慣れていなくて恥ずかしいんだろう。そう解釈するとレティシアがわざとらしく咳き込み、それを聞いた飛鳥は素早く後ろへと下がった。

 

 

「それで十六夜が何をする気なんだ?まさか“ペルセウス”の殴り込みか?」

 

 

今の一連を何もなかったようにレティシアが十六夜の企みは何かと問いだしてきた。流石にここで誤魔化しても意味がないし、たった今相談するって決めたばかりなので俺は応えることにした。

 

 

「まあ、当たらかず遠からずってことかな?俺と十六夜が考えた作戦は―――」

 

 

俺は対策の詳細を説明していく。最初は三人共、驚愕していたが話を続けていくうちに得心がいったのか喜々とした表情を浮かべる。

 

 

「………なるほど。確かにそれは良い手だ」

 

 

「それが成功することが出来たなら今後“ペルセウス”の妨害に恐る必要がないですね!」

 

 

「だとしたら私達がする事は」

 

 

「ああ。十六夜が帰ってくると思われる期間は五日間。その間は俺、耀が周囲の警戒。黒ウサギと飛鳥は子供達の護衛。レティシアは悪いが俺か黒ウサギの傍にいてくれ」

 

 

俺の指示に三人は頷く。まだ飛鳥と黒ウサギは二日間、レティシアなんて先程会ったばかりの俺を信用してくれることに嬉しく思う。心の中に込み上げるものを抑えながら俺は皆を扇動する。

 

 

「非常時は俺か黒ウサギが駆けつける!この程度で躓いていたら“打倒魔王”など不可能だ!コミュニティ復興の為にも絶対成功させるぞ!!」

 

 

「了解した」

「はい!」

「ええ!」

 

 

三人の返事に俺は強く頷き、俺と部屋が用意されていないレティシアは見張りに他の二人は睡眠を取るため各自に自分の部屋に戻っていた。

 

 

 

 

夜が明け、ジンや耀、子供達が起床していく時間からしばし過ぎた時間になると俺とレティシアは談話室に戻ることにした。レティシアは扉の前に残し、俺だけ談話室に入ると既に十六夜を除く“ノーネーム”に所属する全員が集まっていたのだ。………うん、改めて見ると圧巻するほどの人数だよな。ちなみに何故此処に皆が集まっているかというと飛鳥と黒ウサギと別れる前にサプライズを仕掛けたいと考え頼んでいたことで、その時の二人もノリノリだったのでちゃんとこなしてくれたみたいだ。部屋に入った時、子供達の元気の良い挨拶が談話室に響き渡り、少し頬を緩めながら挨拶を返す。その時に三つほどの冷たい視線を感じたが気のせいだよな、うん。

 

 

それより俺は何も知らない皆がこちらに集中してる間にレティシアに入ってくるように促すことにした。レティシアが入ってきて皆がその姿を見た時、昨日のメンバーと耀以外の全員は一瞬驚愕した表情を浮かべ、瞬間歓声を上げてレティシアに群がっていった。俺はその波に巻き込まれないように飛鳥と黒ウサギの下に向かうとしようとするがその前にジンと耀に止められてしまった。ジンは興奮したように耀は何故か冷たい視線と共に―――って、耀!お前まだ俺をロリコンと思っているだろう!?だからあれは誤解だって何回言ったら分かるんだよ!………ごほん。と、ともかく二人には昨日の出来事を説明するとジンは唖然として固まりだし、耀が不機嫌そうな表情で俺を睨みつけてきた。

 

 

どうやら昨日の飛鳥と一緒で耀も仲間外れにされたことに不満を感じているらしい。とりあえず耀に謝罪し、昨日のギフトゲームの件をこれで帳消しにすると言ったら何故か思いっきり弁慶の泣き所を蹴られた。………俺が何をしたというんだ!?激痛に耐えながら耀が更に不機嫌になった理由を飛鳥と黒ウサギに聞いてみると呆れたように溜息を吐かれただけで自分で考えるべきと言われて教えてくれなかった。………一応、俺はレティシアを取り返してあげたんだよ?なのにこの扱いは酷くねえ?

 

 

 

現実の理不尽さに内心嘆いていると、黒ウサギが子供達を落ち着かせ自分の持ち場に戻るように指示していた。元気良く返事をしてレティシアに手を振りながら談話室から退出していった子供達を見送った俺は気を取り直して耀とジンに作戦内容を伝えることにした。二人は作戦に特に異論はなく了承してくれたので、そのまま取り掛かることにした。基本的には俺、耀、黒ウサギは別々に子供達の傍にいて、飛鳥とジンは黒ウサギと耀のサポートとして周囲を警戒していく。そしてレティシアは経験が豊富な俺か箱庭に詳しい黒ウサギと一緒に行動することになっている………はずなんだったが、何故かレティシアは俺と一緒に行動する事が大半で黒ウサギとは少ししか行動していないのだ。

 

 

俺は黒ウサギと行動した方が気楽でいいんじゃないか?と、聞いたのだがこの中で一番実力が高そうな俺といる方が安全そうだからそうだ。まあ、それはレティシアの判断なのだから別に文句を言う筋合いはないから特に気にしないようにすることにした。それよりか黒ウサギ、飛鳥、耀………俺、そんなに信用できないか?確か別々に別れる手筈のはずだったんだが何故交代で俺の傍にいる?

あれか?まだロリコン容疑が解けていないのか?………俺ってそんなに犯罪臭でもするのかな?ははは………もうどうにでもなれ………。三人の俺に対する評価に肩を落としながら警戒を続けるのであった。

 

 

そんなこんなで護衛から三日経ったある日。十六夜が本拠に帰ってきたのだ。

 

 

「おっ、思ったより早かったな十六夜」

 

 

「まあな。出来るだけ早く終われるように行動したら予定より早めに帰って来れたんだよ」

 

 

主力メンバーが揃った談話室で俺と十六夜は悪戯っぽく笑みを交わしながら十六夜が脇に抱えていた大風呂敷をテーブルに置き、結び目を解き戦利品を見せつけてきた。その戦利品は俺が求めていた物であったので思わずニヤニヤと笑みを浮かべてしまった。これさえあれば“ペルセウス”からの妨害を気にせずに済むことができる。俺は必ず作戦を成功させると改めて決心する。心の中で強くそう思っていると十六夜が何気ない疑問を問いかけきた。

 

 

「それで俺がいない間に受けた“ペルセウス”による妨害の被害はどうなんだ?」

 

 

その疑問に俺達は一斉に十六夜から視線を逸らす。当然、十六夜はその行動に不審に思ったのか眉を顰める。

 

 

「あぁ?どうしたんだお前ら?何で気まずそうに俺から視線を逸らす?」

 

 

「ええと………非常に言いにくい事なんですが」

 

 

黒ウサギがどう説明したらいいのか悩みながら十六夜に報告しようとする。………まあ、仕方ないよな。これは俺も予想外だったしな。

 

 

「何だ?そんなにでっかい被害があったのか?」

 

 

「いえ………その………被害は一切なかったんですよ」

 

 

「つまり、この三日間普通に平和に暮らしていたの私達」

 

 

あっ、十六夜の顔が無表情になった。だが、流石に信じられないのか再度問いかけてきた。

 

 

「………それってマジで言ってんのか?」

 

 

「残念ながら」

 

 

俺がそう応えると十六夜が呆れたように肩を落とす。その気持ち凄く分かる。モチベーションを下がらないように黙っていたんだが、この三日間は刺客らしき人物どころか本拠に侵入した形跡すらないのだ。最初は俺達も屈辱を受けてで怒りに荒れているんじゃないか?と、笑っていたんだが、いくら時間が経っても来る気配がないので最終的なんてわざと警戒を止めて自由行動してたくらいだ。あらゆる侵入方法を考えて警備体制を敷いたのだが結局全て無駄に終わってしまったのだ。

 

 

それを十六夜に説明すると呆れ果てた表情に変わり、俺達同様やる気をゴッソリと削り取られたようだ。肩透かしを喰らい微妙な雰囲気に包まれる。

 

 

「と、とりあえず“ペルセウス”本拠に向かいませんか?」

 

 

ジンの提案に俺達は頷き、“ペルセウス”の本拠に向かうために重い腰を上げるのだった。

 

 

………はあ、やる気がでねえ。

 

 

 

 

―――二六七四五外門・“ペルセウス”本拠。

 

 

俺達は“ペルセウス”の本拠に着き、白亜の宮殿の門を叩いた。出迎えたのは下っ端のようでこの前の件でやって来たと言ったら睨まれながらも謁見の間まで案内されたのだった。謁見の間の扉を開けそこで待っていたのは不機嫌を隠そうとしようとしないルイオスと仇を見る瞳………それでいてどこか疲れていそうな表情を浮かべる側近達に出迎えられたのであった。………おそらくルイオスの八つ当たりの対象となったんだろう。まあ、同情する気は一切ないがな。

 

 

「………何の用だい?こちらは“名無し”に構っている暇なんてないんだけど?」

 

 

ルイオスのいきなりの暴言に俺と十六夜、レティシア以外の四人が激昂しそうになるが俺が右手で制すると冷静になったのか落ち着いたようだ。四人が冷静になったのを確認すると俺が代表として口を開く。

 

 

「お前達から要求した金貨が届けられる様子がないからわざわざこちらから取りに来たんだよ」

 

 

「………ふん。あの多額な金額を簡単に用意出来るはずないだろ」

 

 

「それでも詫びの一つでも言いに来るのが筋じゃないのか?えぇ、“ペルセウス”のリーダーさんよ?」

 

 

「貴様っ!こちらが下手に出れば調子に乗りおって!」

 

 

ルイオスの側近の一人が怒号を上げる。だが、ルイオスがそれを制し止めさせる。

 

 

「………あのさ、お前達さぁ?もしかして僕が誰だと分かっていなくてそんな挑発的にとっているのか?僕がその気になればお前ら“名無し”を潰すなんて赤子の手を捻るぐらい簡単なことだけどそれを分かってんの?」

 

 

華美な外套を翻して獰猛な笑みを浮かべるルイオス。どうやら本性をさらけ出したようだな。

まだちゃんと契約を果たす気があるのならば見逃してやろうかと思ったがそれは必要がないようだな。俺は後ろで大風呂敷を持っている黒ウサギを呼びかける。

 

 

「黒ウサギ。例の物を」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

俺の言葉に黒ウサギは手に持っていた大風呂敷をルイオスの眼前に広げる。風呂敷の中には“ゴーゴンの首”の印がある紅と蒼の二つの宝玉が入っていた。傍で控えていた“ペルセウス”の側近達はそれを見て驚愕に満ちた表情で叫び声を上げる。

 

 

「こ、これは!?」

 

 

「“ペルセウス”への挑戦権を示すギフト………!?まさか名無し風情が、海魔(クラーケン)とグライアイを打倒したというのか!?」

 

 

困惑する“ペルセウス”一同。これが俺達“ノーネーム”が考えた作戦―――それはギフトゲームを挑むという事だ。ギフトゲームに勝利し、旗と名を奪えば“ペルセウス”は俺達と同じ“ノーネーム”として活動していくことになる。それを材料として妨害禁止を突きつけたらおとなしく言う事を聞くしかないだろう。例え旗と名を奪わない選択をしても“ノーネーム”に敗北したコミュニティなど“サウザンドアイズ”が見逃すはずがない。必ず傘下から追放され今までのように自由に行動することはできない。それを見越して俺と十六夜は瞬時に考えついたのだ。

 

 

「ああ、あの大タコとババアか。そこそこ面白くはあったけど、あれじゃヘビの方がマシだ」

 

 

そう言って首を竦める十六夜。ちなみにギフトゲームに挑む方法と宝玉を手に入れる方法は十六夜が白夜叉に聞いたのだ。話によるとこの宝玉はペルセウスの伝説に出てくる怪物達をギフトゲームで打倒することにより得られるギフトで、このゲームは力のない最下層のコミュニティにのみ常時開放されている試練で、元々は下層のコミュニティの向上心を育てる為のものらしいのだがルイオスにそんな志などなく廃止しようとしていたらしい。それを行う前にこの事態が起こってしまったことによりルイオスの不快感が絶頂に達したのか憤りだしながら俺達を睨みつけてくる。

 

 

「ハッ………いいさ、相手してやるよ。元々このゲームは思いあがったコミュニティに身の程を知らせてやる為のもの。二度と逆らう気が無くなるぐらい徹底的に………徹底的に潰してやる(・・・・・・・・・)

 

 

だが、黒ウサギはそれを睨み返し宣戦布告する。

 

 

「我々のコミュニティを踏みにじった数々の無礼。最早言葉は不要でしょう。“ノーネーム”と“ペルセウス”。ギフトゲームにて決着をつけさせていただきます」

 

 

このギフトゲーム、仲間の為に必ず勝ってみせる―――例えあの力(・・・)を使うことになったとしても。

 

 

 


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