問題児たちが異世界から来るそうですよ? 出来損ないの陰陽師の異世界録   作:カオス隊員

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第十三章

 

「レティシアさん!?龍騎さん!?」

 

 

褐色の光を全身に受けた龍騎とレティシアは瞬く間に石像となって横たわり、黒ウサギが悲鳴を上げる。すると、光が差し込んだ方角から、翼の生えた靴を装着した騎士風の男達が押し寄せてきた。

 

 

「いたぞ!吸血鬼は石化させた!すぐに捕獲しろ!」

 

 

「例の“ノーネーム”も石化したようだがどうする!?」

 

 

「商品を傷つけては価値が下がる。面倒だが一緒に回収するぞ」

 

 

「他の連中はどうする!?」

 

 

「邪魔するようなら構わん、斬り捨てろ!」

 

 

空を駆ける騎士達の会話を聞いた十六夜は不機嫌そうに、尚且つ獰猛に笑って呟く。

 

 

「まいったな、生まれて初めておまけに扱われたぜ。手を叩いて喜べばいいのか、怒りに任せて叩き潰せばいいのか、黒ウサギはどっちだと思う?」

 

 

「と、とりあえず本拠に逃げてください!」

 

 

石になった龍騎とレティシアの事は気にかかるが、今はそれどころではないのだ。レティシア自身は“ペルセウス”の所有物なのだ。それなのに主の命もなく出歩いたのなら庇う余地が無い。

しかも“ペルセウス”は“サウザンドアイズ”の幹部を務めているコミュニティ。万が一、揉め事を起こしてはただでは済まない上に白夜叉に迷惑がかかるかもしれないのだ。黒ウサギは自分の無力さに唇を噛み締めながらも慌てて十六夜を本拠に引っ張り込むと、騎士達の中から三人が降り立ち、石像と化した龍騎とレティシアを取り囲み安堵したように縄をかけ始める。

 

 

「これでよし………危うく取り逃がすところだったな」

 

 

「ギフトゲームを中止してまで用意した大口の取引だ。台無しになれば“サウザンドアイズ”に我ら“ペルセウス”の居場所は無くなっていたぞ」

 

 

「それだけじゃない。箱庭の外とはいえ、交渉相手は一国規模のコミュニティだ。もしも奪われでもしたら―――」

 

 

「箱庭の外ですって!?」

 

 

黒ウサギの叫びに、龍騎とレティシアを運び出そうとしていた騎士達の手が止まる。邪魔者と認識していた“ノーネーム”の叫びに、敵意を込めて黒ウサギを見つめる。だが、黒ウサギは騎士達の視線など気にも留めず、走り寄って抗議の声を上げた。

 

 

「一体どういうことです!彼らヴァンパイアは―――“箱庭の騎士”は箱庭の中でしか太陽の光を受けられないのですよ!?そのヴァンパイアを箱庭の外に連れ出すなんて………!」

 

 

「我らの首領が取り決めた交渉。部外者は黙っていろ」

 

 

騎士は振り返り、突き放すように語る。本来ならば本拠への不当な侵入はコミュニティへの侮辱行為であり、世間体的にもよろしくない。信頼が命の商業コミュニティである“サウザンドアイズ”ならばこのような暴挙をする事は無いだろう。それなのにこうも黒ウサギ達を侮辱する事は明らかに“ノーネーム”を見下した上での行為だ。

 

 

「こ、この………!これだけ無遠慮に無礼を働いておきながら、非礼を詫びる一言もないのですか!?それでよく双女神の旗を掲げていられるものですね、貴方達は!!」

 

 

激昂する黒ウサギだが“ペルセウス”の騎士達は鼻で笑った。

 

 

「ふん。こんな下層に本拠を構えるコミュニティに礼を尽くしては、それこそ我らの旗に傷が付くわ。身の程を知れ“名無し”が」

 

 

「なっ………なんですって………!!」

 

 

黒ウサギから堪忍袋が爆発した音がした。レティシアの扱いやコミュニティを侮辱する行動と発言の数々に、黒ウサギの沸点は一気に振りきれたのだ。怒りに震える黒ウサギを見下す騎士達はその姿に再度鼻で笑う。

 

 

「フン。戦うというのか?」

 

 

「愚かな。自軍の旗も守れなかった“名無し”など我らの敵ではないぞ」

 

 

「恥知らず共め。我らが御旗の下に成敗してやるわ!」

 

 

口々に罵り猛る騎士達はゴーゴンの旗印を大きく掲げながら戦闘体勢に入る。一触即発の雰囲気の中、疑問の声が上がる。

 

 

「吸血鬼と一緒に石化させたもう一人の男はどうするつもりなんだ?」

 

 

「そんなもの箱庭の外でも捨ててしまうまでよ!」

 

 

「それはそれは外道なことで。そんなことすれば“ペルセウス”の存続問題になりかねないか?」

 

 

「フン。口止めすれば早い話だ。“名無し”相手になら簡単に―――」

 

 

と、ここでこの場にいる全員が疑問符を浮かべる。声音は明らかに男のもので女性である黒ウサギではない。なら、先程いた十六夜が声の主なのかと考えるが十六夜は未だに本拠の中にいるのだ。しかもその声は騎士達の背後(・・)から聞こえてきたのだ。騎士達はすぐさまに後ろを振り返るが、

 

 

「『刺し貫け、石柱!』」

 

 

言葉が放たれる。すると、騎士達の肩、足、腕などに鋭利な石柱が何本も刺し貫かれていた。それに気付いた騎士達は激痛に襲われ悲鳴を上げながら地面へと倒れこむ。唖然とする黒ウサギだが、深夜の闇から現れる人物達を視界に入れると一転驚愕したように表情が変わった。それはそうだろう。

何せその人物とは………。

 

 

「なあ、レティシア。こいつら本当に商業コミュニティなのか?色々と酷すぎるんだが」

 

 

「………一応、そうなのだが先程のやり取りを見るとそう思ってもおかしくはないか」

 

 

未だに石像となっているはずの龍騎とレティシアが何もなかったかのようにそこに立っていたからのだった。

 

 

 

 

「レティシア様!?龍騎さん!?何故貴女達がそこに!?」

 

 

「おいおい黒ウサギ。まさか俺達のことが分からないのか?だからお前は“箱庭の貴族(笑)”って言われるんだよ」

 

 

突然の俺達の登場に動揺を隠しきれない黒ウサギに対して俺は肩を竦めながら毒を吐く。だが、未だに現状を処理しきれない黒ウサギには耳に届かなかったのか俺とレティシアの姿をした石像を指差しながら問いかけてくる。

 

 

「し、しかし!今もそこに龍騎さんとレティシア様の石像がっ………!」

 

 

「ああ、それは俺が作ったダミー。こいつらを欺くため、光に包まれる前に作ってその間に飛んでいた連中を片付けていたんだ………不可視のギフトを使ったのか既に退却していないがな」

 

 

そう言いながら、俺は裏拳で俺とレティシアの石像を砕く。真実を聞いた黒ウサギは呆気にとられて呆然とする。すると、本拠の中にいた十六夜が軽薄な笑みを浮かべながらこちらにやってきた。

 

 

「種明かしを済んだところで悪いが、これからどうするんだ?今の一件は絶対“ペルセウス”のリーダーに報告され、報復しにやってくるぞ?」

 

 

「私を助けてくれた事には感謝するが、ここまでやってしまったら私を差し出す程度では奴らの怒りは収まらんぞ」

 

 

十六夜は俺を試すような物言いで、レティシアは心配そうにしながらもこれからの対処方法を問いだしてくる。今の事態を理解したのか黒ウサギは不安そうに俺を見つめてくる。不安そうな表情をする黒ウサギを安心させるため不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「そんなの百も承知だ。俺がそのことを考えていないと思ったか?」

 

 

「いや、お前ならそれぐらい考えつくだろうし、ただの確認だ。期待しているぜ?」

 

 

「ハッ!俺の作戦に度肝を抜くなよ?」

 

 

俺と十六夜のいつもの会話に黒ウサギは安心したように胸をなでおろす。そして、俺に話しかけるために声を掛けようとするが、俺の左手を見て不思議そうに問いかけてくる。

 

 

「龍騎さん………左手に巻いてある布はどうしたんですか?」

 

 

そう。黒ウサギが言った通り、俺の左手には黒い布が巻かれているのだ。これには訳があるのだが、此処で言っても面白くない(・・・・・)ので適当に誤魔化すことにした。

 

 

「まあ、布で巻いている訳は後で教えるよ。それよりかジン、飛鳥、耀を呼んできてくれないか?今からこの事情に詳しそうな奴………白夜叉に会いにいくからな。………ああ、それと昼のギフトゲームで疲れているかもしれないから来れる奴だけでいいぜ?」

 

 

「は、はあ………分かりました」

 

 

納得いかない顔をしながらも俺の指示に従って皆を呼びに本拠に入っていった。それと入れ替わるようにレティシアが申し訳なさそうにこちらにやってきた。

 

 

「済まないな龍騎。私が抜け出しさえしなければ」

 

 

「気にすんな。というか俺がレティシアに感謝しなきゃいけないんだ」

 

 

「………それはどういうことだ?」

 

 

首を傾げながら疑問を問いかけてくるレティシアに俺は悪戯っぽく笑う。いや、本当にレティシアにはありがたいことをしてくれた。今回のおかげで“ノーネーム”にとって大きな進歩になるからな。そんなことを内心思いながら黒ウサギが来るまで十六夜とレティシアと雑談しながら待っているのだった。

 

 

 

 

その後、黒ウサギが連れて来たのは飛鳥だけであり、ジンと耀は既に就寝していたらしい。よって、俺、十六夜、黒ウサギ、飛鳥、レティシアというメンバーで“サウザンドアイズ”二一〇五三八〇支店に向かっていったのだった。ちなみに飛鳥とレティシアはお互い自己紹介済みだ。街道ランプが仄かな輝きで照らしている道を歩いている途中、十六夜が早足なまま空を見上げながら呟く。

 

 

「こんなにいい星空なのに、出歩いている奴はほとんどいないな。俺の地元なら金をとれるぜ」

 

 

「十六夜に同意。こんな綺麗な星空を見れるとこなんて田舎ぐらいじゃないか?」

 

 

俺が箱庭の世界に来る前は年中眩い光に包まれる夜の街で生活してきたのだ。俺にとって車が走る騒音も人の歓声と喧騒もない街道を歩くなど久しぶりで新鮮に感じるのだ。この静かな夜の街を満喫しながら歩み続けていると、飛鳥が疑問を口に出した。

 

 

「これだけハッキリ満月が出ているのに、星の光が霞まないなんておかしくないかしら?」

 

 

「箱庭の天幕は星の光を目視しやすいように作られてますから」

 

 

「そうなの?だけどそれ、何か利点があるのかしら?」

 

 

飛鳥の疑問は興味深いことだった。確かに太陽の光から吸血鬼のような種族を守るためなのは分かるが、星の光を際立たせる意味があるのかは分からないのだ。

 

 

「ああ、それはですね」

 

 

黒ウサギは焦るように小走りをしていたが歩幅を緩め、飛鳥の疑問を答えようとするが十六夜が横槍を入れ黒ウサギの言葉を遮る。

 

 

「おいおいお嬢様。その質問は無粋だぜ。“夜に綺麗な星が見れますように”っていう職人の心意気が分からねえのか?」

 

 

「あら、それは素敵な心遣いね。とてもロマンがあるわ」

 

 

「………そ、そうですね」

 

 

そんな会話をしながら歩いていくと“サウザンドアイズ”の門前に着き、俺達を出迎えたのは無愛想な女性店員だった。

 

 

「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです」

 

 

「ルイオス?………ああ、“ペルセウス”のリーダーか。これは丁度いい、呼ぶ手間が省けたな」

 

 

カラカラと笑いながら俺は店内に入っていき、後ろから黒ウサギ達が俺の後に続いてくる。気配を頼りに中庭を抜けて離れの家屋に向かっていく。

 

 

「邪魔すんぞ、白夜叉」

 

 

離れの家屋に何かしらの細工が施していることに気付き、ノックと挨拶しながら扉を蹴りで壊しながら中に入っていく。皿の破片らしきものが部屋を散らかし、そこには白夜叉とルイオスと思われる亜麻色の髪に蛇皮の上着を着た男がいた。ルイオスは俺の態度が気に食わなかったのかイラついたように口を開いた。

 

 

「おい、礼儀がなっていないな“名無し”………俺が誰か分かってんのか?」

 

 

「知らんし、知る気もない。御山の大将には興味がないんでね」

 

 

「………どうやら礼儀を教えてやる必要がありそうだな」

 

 

俺の挑発に怒りで体を震わせながらギフトカードを取り出し、鎌を発現した。一触即発の空気の中、白夜叉の怒号が家屋に響き渡る。

 

 

「静まれ馬鹿者共!話し合いが出来ぬなら門前に放り出すぞ!」

 

 

「………チッ。白夜叉に救われたな“名無し”」

 

 

「お前らも入ってこいよ。話が出来ないじゃないか」

 

 

ルイオスの言葉を無視し、皆を中に入るように呼びかける。その行動に更にイラついたのか顔を歪ませていた。………この程度の挑発も流せないとはこいつも高が知れているな。そんなことを思いながらも皆は次々と家屋の中に入っていく。レティシアが家屋に入ってくると、ルイオスが先程まで怒りで歪ませていた顔がにこやかな笑みへと変わっていった。

 

 

「なんだ、お前らはウチの商品を返しに来てくれたのか?」

 

 

「なわけないだろう。俺達が来たのは別件だ」

 

 

そう言いながら俺は破片がない場所に座り込む。ルイオスが睨んでくるが無視無視。

 

 

「今回、此処に来たのは“ペルセウス”が俺達に対して無礼を振るったので謝罪でも貰おうかなと」

 

 

「………詳細を話せ小僧」

 

 

白夜叉から発言の許可をもらったので俺は今までの経緯を語りだした。不法侵入、数々の暴挙と暴言、そして浅さかな捕獲方法で自分が危なかったことを全て話した。その間、ルイオスは余裕そうに笑みを浮かべるだけだった。

 

 

「―――まあ、こんなことがあったから“ペルセウス”のリーダーとして責任は果たしてもらうかと居場所を知っていそうな白夜叉に会いに此処まで来たってことだ。何故か(・・・)此処にそのリーダーさんがいたから手間は省けたけどな」

 

 

何故かというところをわざと強調する。だが、ルイオスは動じなく静観するのみ。余裕でいられるのも今のうちだから特に注意する気がないがな。

 

 

「う、うむ。“ペルセウス”の不法侵入に所有物であるヴァンパイアを捕獲する際における数々の暴挙と暴言。そして、無関係な人間ごと捕獲するという浅さかさ。確かに受け取った」

 

 

「それでこれが本題なんだがこちらの要求はレティシアの身柄を俺達の所有物に。後は………金貨50枚ぐらい貰おうかな?」

 

 

俺の要求にここにいる全員が驚愕の表情を浮かべる。まあ、それはそうだろうな。金貨50枚なんて大金の上に既に買取り先が決まっているレティシアを渡せって言っているんだからな。そんなことをすれば“ペルセウス”の信頼は急激に下がるし、金欠状態になるのだからだ。先程まで余裕そうに詳細を聞いていたルイオスが慌てて異議を唱える。

 

 

「ふ、ふざけんな!そんな要求、通すはずがないだろ!」

 

 

「そ、そうじゃぞおんし!流石に欲深すぎるぞ!?」

 

 

「白夜叉は黙ってくれ。これは俺達“ノーネーム”と“ペルセウス”の問題だ。“サウザンドアイズ”には立会人として見届けてくれないか?」

 

 

白夜叉は俺の言葉に一瞬、考察している素振りを見せると俺の狙いを察したのか面白そうに笑みを浮かべる。俺はそれを確認してから更に話し続ける。

 

 

「まあ、金貨は後日に払ってもらうとしてレティシアはこの場で貰うから」

 

 

「しょ、証拠は!?ウチのコミュニティがそれをやったという証拠を出せ!そもそも、あの吸血鬼が逃げ出した原因はお前達だろ!実は盗んだんじゃないのか!?」

 

 

ルイオスの往生際の悪さと暴言に黒ウサギと飛鳥が激昂しそうになるが俺が右手で制し、おとなしくさせた。ルイオス、俺が証拠も無しにそんな要求をするわけないだろ?さあ、絶望しな………“ノーネーム”を見下していた分の利子をたっぷり返してやるよ。

 

 

俺は左手に巻いていた黒布を解く。そして、此処にいる全員が俺の左手を見て絶句する。まあ、予想通りの反応だな。そりゃあ、俺の左手が………石化(・・)なんてしていたら誰でも驚くだろうな。

 

 

「確か………ゴーゴンの威光だっけ?必死に避けたんだが左手は間に合わなくてな………さてと、“ペルセウス”のリーダーさん。反論があれば聞きますが?」

 

 

嫌味っぽく笑みを浮かべる。だが、ルイオスは顔面を蒼白にさせ、俺を気にする余裕はなさそうだ。俺の証拠を認めたくないのかルイオスは声を荒げる。

 

 

「レ、レプリカだ!それがゴーゴンの威光に見せかけるための」

 

 

「じゃあ、中立である白夜叉に鑑定してもらうか?それが嫌なら違うコミュニティに鑑定してもらうという手もあるが………俺はどっちでもいいぜ?」

 

 

ルイオスの異議を一刀両断する。押し黙るルイオスだが必死に反論材料を考える素振りをし、未だ認めようとしない気だ。こいつに時間を掛ける気はないので俺は止めの一撃を放つことにした。

 

 

「なら、“サウザンドアイズ”のリーダーから取り立てに行きますか。傘下である“ペルセウス”が起こした暴挙を貴方が責任取ってくださいって」

 

 

「なっ!?」

 

 

俺の言葉に再度絶句するルイオス。もし、今の俺の姿………ゴーゴンの威光によって石化した左手に血で染まったブレザーで経緯を説明でもすれば当然“ペルセウス”は“サウザンドアイズ”から要求を受けるように命令し、その後は追放されるだろう。そうなれば“ペルセウス”は後ろ盾は消える上に活動が不可能になる可能性が高い。ルイオスの最善の道は俺の要求を受け入れるのが最小限の損害なのだ。

 

 

「悪いけど白夜叉。今から“サウザンドアイズ”のリーダーの下まで案内してくれないか?」

 

 

「………仕方がないのう。夜分だがこの話は今するべきじゃろうし、早速」

 

 

「………わ、分かった!お前達の要求を全て呑む………!」

 

 

悔しそうに俺を睨みつけながら要求を呑むことを認めるルイオス。俺はそんなの気にせずに話を進める。

 

 

「OK。じゃあ、白夜叉。何度も悪いが紙と書く物ないか?こいつに契約書を書かせるからさ」

 

 

「良かろう。口約束では破られる可能性があるかもしれんしのう」

 

 

満面の笑みを浮かべながら了承してくれた白夜叉は柏手を打ち、紙とペンがルイオスの眼前に発現される。ルイオスは屈辱に表情を歪めながらペンを手に持ち、紙に字を書いていく。暫く字を書く音だけが家屋に響き渡る。ルイオスが書き終わったのかペンを置くと、俺はルイオスが書いた契約書を強引に奪い取りどこか細工していないか確認する。

 

 

「………ん、おかしいとこはないしこれで契約成立だな。一応、俺達“ノーネーム”からは“サウザンドアイズ”に報告しないでおこう」

 

 

そう言いながら俺は立ち上がり、この場を後にするためルイオスに背を向ける。俺の交渉という名の脅迫を呆然と見ていた十六夜を除く皆も慌てて立ち上がり、家屋から出て行く。ちなみに十六夜は必死に笑いを耐えるように堪えていました。俺もさっさと家屋から出ようと足に力を入れ歩んでいこうとするが、更に屈辱を与えたいと思いつき、後ろを振り返ることをせずに最後にルイオスに一言。

 

 

Good-bye, inferiority.(じゃあな、名前負け) It was a petty match.(つまんない勝負だったぜ)

 

 

そう言い残し、俺は“サウザンドアイズ”二一〇五三八〇支店から出ていく為に歩きだしたのだった。

 

 

 

 


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