問題児たちが異世界から来るそうですよ? 出来損ないの陰陽師の異世界録   作:カオス隊員

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第十一章

 

 

「龍騎さん!本当に無事なんですか!?後で息絶えるということはないですよね!?」

 

 

「ちょっ!?肩をそんなに揺らさないで!吐くって!吐いてしま………うぷっ」

 

 

ギフトゲーム終了後、飛鳥達と合流することに成功すると、必死な表情の黒ウサギと十六夜が風よりも速くこちらに向かって駆け寄ってきた。労いの言葉でも貰えるのかと思っていたのだが、黒ウサギにいきなり肩を掴まれて未だに揺らされているのだ。俺自身は大丈夫と言っているのだが「その血が滲んだ服装で説得力ありません!」やら「顔色悪いですよ!?本当は無理しているのでは!?」と立派なウサ耳があるのに聞く耳をもたないのだ。てか、顔色が悪いのはお前のせいだっての!そんなやり取りをあれこれ三〇分経過すると、さすがに飽きてきたのか最初は面白そうに見ていた飛鳥が黒ウサギを制する。

 

 

「落ち着きなさい黒ウサギ。あの龍騎君が死ぬ姿なんて想像できる?」

 

 

「………それもそうですね。例え死んだとしてもすぐに蘇りそうですね」

 

 

「納得するの早すぎないか!?お前らは俺のことをどういう存在だと思っているんだよ!」

 

 

「「「「「生粋の幼児性愛者」」」」」

 

 

「まさかの全員一致!?」

 

 

飛鳥のおかげで黒ウサギが落ち着き、手を肩から放してくれたが今度は全員から精神的に追い詰めてきやがった。何この扱い!?そんなに俺のことが嫌いなのかお前ら!?

 

 

「それよりどうして黒ウサギは龍騎が重傷だったことを知ってるの?」

 

 

「おい、耀。それよりって俺はそんなにどうでもいい存在なのか?」

 

 

サラっと毒を吐く耀に問いかけるが無視される。黒ウサギも項垂れる俺を無視しながら耀の問いに答える。………昨日から俺の扱い酷くね?俺、泣いてもいいよ―――。

 

 

「それは黒ウサギの素敵耳のおかげですね。門の前でも大まかな状況が把握出来ますので」

 

 

―――ちょっと待てよ。今、聞き捨てならないことを聞こえてきたんだが?大まかな状況が把握出来るだと?それなら、

 

 

「俺達がギフトゲームを挑む前にガルドの部下が潜んでいることも分かったんじゃ」

 

 

「………あっ!?」

 

 

今更、気付いたように驚愕する黒ウサギ。だとすると、俺は無駄に傷を負ったってことか?飛鳥と耀の顔を見合わせる。そして、お互い頷きながら溜息混じりに一言、

 

 

「「「………貴種のウサギ、本気で使えない」」」

 

 

「十六夜さんと同じことを言わないでください!本気でへこみますから!」

 

 

いや、だってね?今のところ黒ウサギが役に立っているなんて見たことないからさ………妥当な評価だと思うけど?そんな感想を内心に思っていると怒りを表している黒ウサギを十六夜が制し、俺に問いかけてきた。

 

 

「それよりか驚いたぜ龍騎?お前あんな力を隠し持っていたなんてよ」

 

 

「そうですね。館に穴を空ける為に発動した爆発といい、ガルドの部下に発動したと思われるあの爆音、僕達がガルド討伐の最中でも聞こえてきましたよ?なんで僕達にそれを教えてくれなかったのですか?」

 

 

十六夜に続くようにジンも疑問を問いだしてきた。………さて、どうやって誤魔化そうか?あまり俺の力は知られたくないし、だからといって全て嘘を言ったら十六夜あたりに勘付かれそうだしな………。多少、真実を混ぜて誤魔化すしかなさそうだな。

 

 

「俺の力はギフト名で言うと“五行思想”ってのが使えるんだ。“五行思想”って分かるか?」

 

 

「自然界や人間社会の諸現象など森羅万象の生成・変化を、木・火・土・金・水という五つの要素をものの多様性とその変化の順序を統一あるものとして説明する原理………だったか?確か古代中国に端を発する自然哲学の思想と記憶しているが」

 

 

「まあ、そんなもんだ。簡潔に言うと俺は木・火・土・金・水といった要素が自由に使えるんだ。例えるなら水を球体にしたり、先言ったように爆発起こせたりとか」

 

 

「そんなに分かりやすい力を秘密する意味が分からないわ。龍騎君、理由を話してもらおうかしら?」

 

 

ですよねー。まあ、この程度で納得する方がおかしいしな。俺は自分の力について説明を続ける。

 

 

「………あまり言いたくなかったが、この力って意外と扱いにくいんだ。“五行思想”についてちゃんと理解していなくちゃいけないし、力の使い方を誤ると暴走して周囲が危険なんだ」

 

 

「………要するに龍騎の力は扱いきれていないってこと?」

 

 

「うぐっ!?ま、まあストレートに言ったらそうも言えるかな………?」

 

 

嘘だ。確かに使いにくい力ではあるが自分はちゃんと使いきれているし、応用もしっかり出来る。だが、俺には“五行思想”以上に危険な力がある。それを隠すには自分の力を扱いきれていないと思わせた方が都合がいいのだ。

 

 

「それでだがな………ジン、黒ウサギ。力を完全に扱いきれるように修行が出来る場所を提供してくれたらありがたいんだが」

 

 

これは俺の本心だ。今の俺だとそこら辺の雑魚なら何の問題はないんだが、これから先の修羅神仏相手だと全て力を使ったとしても良くて相討ち。最悪、何も手が出せないまま俺の命や皆の命はこの世から消え去っていくだろう。その為、あの力を物にするために修行場所が必要なのだ。………もうあんな出来事は二度と繰り返したくないからな。

 

 

「は、はい!空き地など沢山ありますから自由な場所を使っていただいて結構です!」

 

 

「そうですね。何もないってことが私達のコミュニティの美点ですから♪」

 

 

あはは、とジンと黒ウサギが笑うが暫くすると暗い雰囲気を纏わせながらガクッと肩を落とす。………そんなに傷つくなら自虐ネタを使わなくてもいいのに。

 

 

「これで俺が力を秘密にしていた説明は終わりだ。それよりか良いのか?そろそろ“フォレス・ガロ”の傘下のコミュニティが来る頃合いだと思うが?」

 

 

「おっと、忘れかけていたぜ。おい、御チビ。作戦の成功の為に奴らの旗印を探しに行くぞ。勿論、龍騎。てめえもな」

 

 

「は、はい!」

 

 

「あいよ。悪いけど、黒ウサギ達は此処に来る連中を門の前辺りに待機させといてくれるか?」

 

 

「それはいいですけど………何をなさるつもりで?」

 

 

黒ウサギが疑問符を浮かべながら俺に問いかけてくる。その後ろにいる飛鳥と耀も俺達が何をやらかすか気になるようだ。

 

 

「それは秘密。すぐに分かることだし、その時までお楽しみってことで」

 

 

そう言って俺は黒ウサギ達の返事を待たずに十六夜とジンの後を追いかけていった。

 

 

 

 

数十分後、俺達は“フォレス・ガロ”の本拠から多くの旗印を発見し、それを門の前まで持ち帰ってみると既に一〇〇〇人は超えているであろう群生が門の前に集まっていた。その数に驚きながらも俺達は壇上に上がり、群生の前に立つ。すると、代表として一人の男性が俺達の目の前にやって来た。

 

 

「………あの。先程“フォレス・ガロ”の解散令が出たのですけど………本当なんですか?」

 

 

代表者が当然の疑問を問いかけてきた。ここで俺が答えても意味がないのでジンが答えさせるように促す。

 

 

「は、はい!“フォレス・ガロ”は現時点で僕達“ノーネーム”とギフトゲームに敗れ、解散しました」

 

 

「そうですか………ガルドは貴方達が」

 

 

「はい。人質の件に関しては“階層支配者”にも連絡してあります。“六百六十六の獣”が沽券を理由に元“フォレス・ガロ”のメンバーを襲う事もないでしょう」

 

 

ジンの発言にざわざわと衆人に声が広がる。だが、歓声のようなものはあまりにも少なかった。それどころか人質が殺されたという事実に泣き崩れている者もいる。………予想通りの反応だな。確かに驚異は消えたが、“フォレス・ガロ”は腐っても近隣で最大手のコミュニティだったからそれが無くなることに不安を感じるのだろう。それに―――。

 

 

「一つ、とても重要な事をお聞きしたい」

 

 

「なんですか?お困りなら多少の相談には」

 

 

「いえ、その………まさか俺達は、貴方達のコミュニティ―――“ノーネーム”の傘下に?」

 

 

………ああ、予想通りの事が起こったな。経済関係が不安定な“ノーネーム”が上に立たれたらそれは不安にもなるよなぁ。視線をジンに移すと表情が強張っていて返答に詰まっているようだ。

………流石にこれは手助けした方が良さそうだな。十六夜とアイコンタクトを取る。お互い頷き合い、十六夜がジンの肩を後ろから抱き寄せ、衆人に対して高らかに宣告する。

 

 

「今より“フォレス・ガロ”に奪われた誇りをジン=ラッセルが返還する!代表者は前へ!」

 

 

一斉に衆人の視線の的となる俺達。俺はジンの背中を叩いて前に出させる。衆人は未だ頭がついて行けていないのか呆然とする。そんな衆人に対して十六夜がらしくない尊大な物言いで叫びだす。

 

 

「聞こえなかったのか?お前達が奪われた誇り―――“名”と“旗印”を返還すると言ったのだ!コミュニティの代表者は疾く前へ来い!“フォレス・ガロ”を打倒したジン=ラッセルが、その手でお前達に返還していく!」

 

 

「ま、まさか」

 

 

「俺達の旗印が返ってくるのか………!?」

 

 

衆人は身内同士で顔を見合わせながら、ジンの前に一斉に雪崩れ込む。小さなジンを押しつぶしてしまいそうな人の群れに、俺が一喝と同時に地面を砕く程の足踏みで起こった衝撃波で押し返す。

 

 

「列を作れと言っただろうが!統率を取る気ないなら返還の話を無しにするぞ!それが嫌ならさっさと行動しろ!」

 

 

「は、はひぃ!」

 

 

俺の威圧感に怯えてかすぐさま列を作りだす衆人。列を並び終わるのを確認すると俺と十六夜は語調を戻してジンに耳打ちをする。

 

 

「流れは作った。手渡す時に、しっかり自己主張するんだぜ?」

 

 

「堂々としてろよ?今の連中はお前のことを救世主と見てるだろうしさ。だから、頑張れよ」

 

 

「わ、分かりました」

 

 

そう言い終わると俺達は飛鳥達の元に向かった。衆人の脇で見ていただけの三人だが、飛鳥は俺達の企んでいることを察したのかニヤニヤと笑みを浮かべており、黒ウサギと耀は分からずに不思議そうに首を傾げている。

 

 

「面白いことを考えているようね?」

 

 

「さて、なんの事かなお嬢様。なあ、龍騎」

 

 

「ああ、言っている意味がよく分からんな」

 

 

悪戯が成功したように笑顔を交わす三人。黒ウサギと耀は俺達のやり取りに更に疑問符を浮かべるのみだった。流石に二人だけ蚊帳の外なのは可哀想なのでヒント程度は教えるとしよう。

 

 

「ヒントを言うと、今回のギフトゲームは何の利益もないゲームだったが、俺らはいつか必ず有利になる物を手に入れたってことだ。分かるか?」

 

 

「「………?」」

 

 

どうやら分からないようだ。そんな二人を見て苦笑いを浮かべながらジンや衆人がいる方向に視線を移す。次々と返還されていく旗印。狂喜して踊り回る者、旗を掲げ走り回る者、失った仲間の名前を泣き叫ぶ者までいた。その光景を見て俺はこの世界においてはコミュニティの名と旗印は何物にも変えられない代物だと確信する。最後のコミュニティに旗印を返還し終えたジンに十六夜が立ち寄っていく。十六夜がいれば何とでもなるだろうと考え、此処で待機することにした。

 

 

「龍騎君、少しいいかしら?」

「………龍騎」

 

 

「………ん?何だ二人共?」

 

 

演説する十六夜の姿を傍観していると飛鳥と耀がこちらに寄ってきて話しかけてきた。特に断る理由もないので俺は応じることにした。

 

 

「あら?春日部さんも龍騎君に用があるのかしら?」

 

 

「………うん。もう一度謝っておこうと思って」

 

 

そう言って耀は俺に向かって深く頭を下げだした……って、おい!

 

 

「………ごめん龍騎。私のせいで怪我をさせてしまって………本当にごめんなさい」

 

 

「や、止めろって!こんなの猫にでも引っ掻かれたもんだって」

 

 

「普通、全身切り裂かれた上にガラスの破片が刺さったことのにその例えでは済まないと思うんだけど」

 

 

うぐっ!?た、確かにこれは苦しい誤魔化しだ。しかも、未だ耀は頭を下げたままだし………ああ、もう!俺、こういうの弱いんだって!

 

 

「頭上げろって!俺達は友達だろう?困った時はお互い様だろ!

 

 

「………でも」

 

 

少し不満そうにしながらも頭を上げてくれる耀。なら、次はこの手で!

 

 

「セクハラネタはもういらないと思うわよ?というより、それ二回目だし」

 

 

「うん。しかもあの暗い雰囲気を払拭するために使ってた」

 

 

「ググっ!?き、気付いていたのか………?」

 

 

「当然よ。あの程度の演技で私を黙せると思ったのかしら?多分、ジン君も気付いていると思うわよ?」

 

 

「龍騎、あれを言う前に面白そうに笑ってたし」

 

 

クッ!まさか表情に出ていたとは………!少し悔しいと思いながらもフッと頭によぎった疑問を二人に問いだしてみる。

 

 

「つかぬことを聞くが………もし俺が本気で言っていたらどうしてたんだ?」

 

 

「………指定武具も手に入れたのだから試し斬りは必要よね?」

 

 

「………グリフォンから貰ったギフトってまだ一回も使ってなかった」

 

 

「………………」

 

 

俺の体が凄まじい勢いで震えだしているのが分かる。もし一欠片でもそんな気持ちでもあったらスプラッターになっていたかもしれないと思うと………考えるだけでも背筋が凍る。クッ!ここまで人に恐怖したのは久しぶりだぜ………っ!

 

 

「ま、まあそれは横に置いとくとして」

 

 

「逃げたわね」

 

 

「………逃げた」

 

 

う、うるさい!べ、別にビビってるんじゃないからな!これは戦略的撤退なんだ!

 

 

「話を戻すけど、耀はどうやったら許してもらえると思っているんだ?このままだといたちごっこだぜ?」

 

 

「………一回だけ」

 

 

「ん?何て言った?」

 

 

耀が小声で何か言ったようだが上手く聞き取れなかったので聞き返す。すると、今度ははっきりとした声音で口を開く。

 

 

「一回だけ言うことを聞く………それじゃあ駄目?」

 

 

「………へっ?」

 

 

一瞬、頭の中が真っ白になる。い、今この娘何て言いましたか?言う事を聞く?それって………いやいや、耀はそんなことで言ったわけではない。………だが、男としてその言葉を聞くと少し期待というものが―――。

 

 

「………変なことに使ったら“潰すから”」

 

 

「イ、イエッサー!!」

 

 

耀からの威圧感に思わず敬礼をしてしまった俺。“潰す”って何を?、と思ったが怖すぎて聞く勇気がなかった。

 

 

「私の話は終わり。次は飛鳥の番」

 

 

耀は飛鳥に道を譲るように一歩後ろに下がる。飛鳥は耀に礼を言いながら俺に疑問を問いかけるため口を開く。

 

 

「単刀直入に言うわね?龍騎君は最初からコレを狙ってギフトゲームに挑んだの?」

 

 

そう言いながら衆人の方に指さす。俺は頷きながら肯定する。

 

 

「話を聞いて“ノーネーム”に一番必要なのは知名度だったと思ったからな。丁度、ガルドという悪役がいたから上手く利用させてもらった」

 

 

「そう………ちゃんと考えてギフトゲームに挑んだのね。私と違って目の前だけではなく先を見ているようね」

 

 

露骨に落ち込む飛鳥。コイツもかよ!?俺、カウンセラーじゃないんだぞ!?と、内心愚痴りながらもほっとけない性分なので飛鳥を励ますことにした。

 

 

「俺的には飛鳥の方が凄いと思うぞ?俺なんか打算的にこのギフトゲームに挑んだからな。もし、俺が提案していたら金品・ギフトなど要求していたかもしれん。でも、飛鳥はそんなことをせずに挑んだじゃないか。それは誇れることだぜ?もっとお前らしく堂々してろよ。落ち込んだって飛鳥らしくないしさ」

 

 

「………はぁ。確かに弱音を吐くなんて私らしくないわね。少しスッキリしたわ。ありがとう龍騎君」

 

 

「そうそう、それでこそ飛鳥だ。それに今回が駄目だったとしてもこの経験を次回に活かしたらいいんだ。その為のギフトゲームだったしな」

 

 

「………そこまで考えていたのね。」

 

 

肩をすくめるが先程よりいい顔になった飛鳥を見ていつまでも引っ張る性格でなくて良かったと少し安心した。俺に弱音を吐いてくれるということは多少は信頼してくれたのかな?そんなこと思っていると衆人から歓声が上がる。どうやら俺達の作戦は成功したようだな。話に参加していなかった黒ウサギはいつの間にか壇上の上に上がっており、ジンと十六夜と何かを話し合っていた。俺も会話に参加しようと三人の元に行こうと思ったがあることを思いだしもう一度飛鳥に向き合い、

 

 

「そういえば今まで言い忘れていたけどそのドレス似合っているぜ飛鳥」

 

 

「なっ………!?」

 

 

真っ赤なドレスと同様に顔を紅に染めていく飛鳥。そんな飛鳥に意地悪っぽく笑いかけながら俺は十六夜達の元に駆け寄っていた。衆人の激励と後ろからの叫び声を耳にしながら………。

 

 


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