問題児たちが異世界から来るそうですよ? 出来損ないの陰陽師の異世界録 作:カオス隊員
―――箱庭二一〇五三八〇外門。ペリベット通り・噴水広場。
“ノーネーム”の屋敷で一日を過ごし、俺達“ノーネーム”は“フォレス・ガロ”のギフトゲームを挑むためにコミュニティの居住区に訪れようとする道中、“六本傷”の旗が掲げられている昨日のカフェテラスで声をかけられた。
「あー!昨日のお客さん!もしや今から決闘ですか!?」
昨日の猫耳店員が近寄ってきて俺達に一礼した。
「ボスからもエールを頼まれました!ウチのコミュニティも連中の悪行にはアッタマきてたところです!この二一〇五三八〇外門の自由区画・居住区画・舞台区画の全てでアイツらやりたい放題でしたもの!二度と不義理な真似が出来ないようにしてやってください!」
ブンブンと両手を振り回しながら応援してくれた。はは、元気だな………これは相当好き勝手にやられたんだろうな。心の中で苦笑しながら俺と飛鳥は強く頷き返す。
「ええ、そのつもりよ」
「当然。敗ける要素がないからな。猫耳店員も朗報を楽しみに待っていてくれ」
「おお!心強い御返事だ!」
俺達の言葉に満面の笑みで返す猫耳店員………が、急に声を潜めて俺達に喋りかけてくる。
「実は皆さんにお話があります。“フォレス・ガロ”の連中、領地の舞台区画ではなく、居住区画でゲームを行うらしいんですよ」
「居住区画で、ですか?」
それに答えたのは黒ウサギだった。その言葉を知らないのか飛鳥は不思議そうに小首を傾げる。
「黒ウサギ。舞台区画とはなにかしら?」
「ギフトゲームを行う為の専用区画でございますよ」
「分かりやすく言うと白夜叉が持っていたも舞台区画だ。まあ、あのような別次元にゲーム盤を用意出来るものは極めて少ないらしい。ちなみに商業や娯楽施設を置くのが自由区画。寝食や菜園・飼育といった場所は居住区画って言うんだ」
黒ウサギが飛鳥の問いに答え、俺が補足を付ける。異世界組は納得したように頷いているが、黒ウサギとジンが驚愕していた。
「な、なんで龍騎さんがその事を!?」
「ちょっと寝付きが悪くてな。地下三階に書庫があったので無断で本を漁らせてもらいました♪」
「あそこは使わない時は鍵を掛けているはずですよ!?一体、どうやって入り込んだんですか!?」
「ふん。あの程度の鍵なんて三秒あれば十分だ!」
「誇らしげに言えることではありませんよ!?」
「本当に色んな本があったな~。ギフトゲームに関する本の他にも歴史に童話に箱庭の生態環境、ペットの正しい飼い方とかまであったぜ?」
「いい加減に反省してく―――ちょっと待ってください。最後の方、何でそんな本が書庫にあるんですか?何か嫌な予感がビンビンするのですけど」
「………そういえばその本があった横には『ウサギの飼い方』に『コスプレ大百科』、『催眠術の全て』の順に並べられていたな」
「何ですかそのラインナップ!?その並べ方は明らかに黒ウサギを狙ったものじゃないですか!?う、嘘ですよね龍騎さん?いつもの冗談ですよね?」
「………………」
「何で黙るんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!?えっ、本当にそんな本があったのですか!?一体、何処にあるんですか!?」
「………それで猫耳店員よ。他に何かおかしなことでもなかったか?」
「露骨に話をそらさないでください!聞いているんですか龍騎さん!?」
必死に俺から本の在り処を聞き出そうとする黒ウサギ。まあ、今の話の流れだと自分の貞操が危なかったと思われてもおかしくないからな。ちなみに確かにその本があるのは事実だ―――ただし、しまっている本棚は別々だけど。わざわざ嘘を付いて黒ウサギを不安がらせるのは黒ウサギの慌てっぷりが面白いから♪
「あはは………。そういえば傘下に置いているコミュニティや同士は殆ど全員ほっぽり出していました」
猫耳店員が思い出したかのように俺達にガルドの謎の行動を教えてくれた。黒ウサギがご乱心しているのに話を続けるとはいい性格しているなこの猫耳店員。………それにしても。
「それはおかしい………。傘下しているコミュニティは別として何故同士まで?そんなことしたって自分が不利になるだけだぞ?」
何を企んでいるんだガルドの奴………。自分の首を締める行為だぞ?仮にも“フォレス・ガロ”を率いるリーダーがそんなことをするわけない。………可能性としては、罠かそれともコミュニティ内で何か問題でも起きたの二択だな。
「でしょでしょ!?何のゲームかは知りませんが、とにかく気を付けてくださいね!」
猫耳店員の応援を受けながら、俺達は“フォレス・ガロ”の居住区画を目指していった。
☆
「あ、皆さん!見えてきました………けど、」
黒ウサギが疑うように目の前の光景を見つめる。その気持ちは良く分かる。俺達は“フォレス・ガロ”の居住区画に来たはずなんだが………何だこりゃ?立派な門はツタが絡まっており、森のように生い茂る木々が俺達を出迎えた。その光景を見上げながら耀は呟く。
「………。ジャングル?」
「虎の住むコミュニティだしな。おかしくはないだろ」
「いや、これはおかしい。この門はツタが絡む程古びていないし、これだと自分の屋敷を入るのは一苦労するぜ?それにこの木々は
俺は近くにある木に触れながらジンに問う。ジンも俺が触れている木を手を伸ばし、観察していく。俺達が触れている木はまるで生き物のように脈を打ち、肌から通して胎動のようなものを感じ取った。
「やっぱり―――“
「“鬼化”だと………?そうだとするとこのギフトゲームは」
「龍騎君、ジン君。ここに“契約書類”が貼ってあるわよ」
ジンが“鬼化”という単語を呟く声が聞こえると俺はある可能性に気付き、口に出そうとするが門柱の近くにいた飛鳥により言い出すことが出来なかった。………まあいいか。とりあえず先に“契約書類”を見てから判断しても遅くはないし、ギフトゲームの内容の方が最優先事項だ。俺も飛鳥の近くまで歩み寄り、門柱に貼られた羊皮紙に書かれた今回のゲームの内容を読み出す。
『ギフトゲーム名“ハンティング”
・プレイヤー一覧 神崎 龍騎
久遠 飛鳥
春日部 耀
ジン=ラッセル
・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐。
・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は“
・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
・指定武具 ゲームテリトリーにて配置。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。
“フォレス・ガロ”印』
「ガルドの身をクリア条件に………指定武具で打倒!?」
「こ、これはまずいです!」
ジンと黒ウサギから悲鳴のような声が聞こえてくる。………確かにこれは少し面倒くさいことになったな。
「このゲームはそんなに危険なの?」
黒ウサギとジンの驚きように飛鳥が心配そうに問いかける。その問いをまだ驚愕が抜けていないジンと黒ウサギの代わりに俺が答えることにした。
「いや、ゲーム自体は単純なんだが………ルールが少し面倒なんだ。このルールだと俺の物理攻撃、飛鳥のギフトで操る事、耀のギフトで傷つける事も不可能になるんだ」
俺の説明に飛鳥は険しい表情で再度問いかけてくる。
「………どういうこと?」
「つまり、俺達の力を克服するため自分の命を対価に奴はルールに守られている状態にしたんだよ。これだと神格を持っていようが関係ない。早く指定武具を探し出さないと俺達は仲良くあの世行きになるぜ?」
「すいません、僕の落ち度でした。初めに“契約書類”を作った時にルールもその場で決めておけばよかったのに………」
意識を取り戻したジンは自分の落ち度を謝罪する―――が、これはジンだけの責任じゃない。一番責任があるのはギフトゲームを提案した俺と飛鳥だ。ルールを決めるのが“主催者”である以上、白紙でゲームを承諾するのは自殺行為だ。例えるなら、説明もろくに受けていないのに契約書にサインしているのと同じだ。ああ、チクショー!何て初歩的なミスしてんだ俺!
「敵は命懸けで五分に持ち込んだってことか。観客にしてみれば面白くていいけどな」
「気軽に言ってくれるわね………条件はかなり厳しいわよ。指定武具が何かも書かれていないし、このまま戦えば厳しいかもしれない」
そう呟きながら飛鳥は厳しい表情で“契約書類”を覗き込む。どうやら飛鳥は自分で挑んだゲームに責任を感じているんだろう。それに気付いたのか黒ウサギと耀は、飛鳥の手をギュっと握り励ましだした。この責任は俺にもあるので黒ウサギ達に続き、飛鳥を励ます。
「だ、大丈夫ですよ!“契約書類”には『指定』武具としっかり書いてあります。つまり最低でも何らかのヒントがなければなりません。もしヒントが提示されなければ、ルール違反で“フォレス・ガロ”の敗北は決定!この黒ウサギがいる限り、販促はさせませんとも!」
「大丈夫。黒ウサギもこう言ってるし、私も頑張る」
「黒ウサギ達もこう言っているしそう責任を感じるなって。もし飛鳥が言い出していなかったら俺が提案していたし、責任あるとしたらあの場にいた全員にあるぜ?」
「………ええ、そうね。むしろあの外道のプライドを粉砕するためには、コレぐらいのハンデは必要かもしれないわ」
俺達の励ましが届いたのか飛鳥はいつも通りの調子に戻った。たとえ不利だとしても勝たなければ俺達の計画は実行できなくなる。そうなるとコミュニティの再建は遠のいてしまう………それだけは避けなければならない。それにこんなとこで躓いては“打倒魔王”なんか夢のまた夢だ。必ず勝つと心の中で決心しながら、俺、飛鳥、耀、ジン―――以上四名で“フォレス・ガロ”に突入するため門を開けるのであった。
☆
門の開閉がゲームの合図なのか、生い茂る森が門を絡めるように退路を断つ。光を遮る程の密度で立ち並ぶ木々、その木々の下から迫り上がる巨大な根によって街路と思われる道は人が通れるような道ではなくなってると人が住んでいた場所とは思えない程であった。まあ、俺と耀がいる限り奇襲に遭う可能性は殆どないだろう。しかし、ジンと飛鳥はいつ奇襲されるかと緊張した面持ちで周囲を警戒していたので心配させないように声を掛け、落ち着かせることにした。
「そう警戒すんなって。周りには誰もいないからさ」
「そうだよ。もし隠れていたら匂いで分かる」
「………そう?春日部さんは犬にもお友達が?」
「うん。二十匹ぐらい」
今朝、耀のギフトは、獣の友達を作れば作る程強くなるらしいと耀自身から聞いていた。おそらく俺達の中で五感は耀が一番優れているだろう。頼もしい限りだ。
「詳しい位置は分かりますか?」
「一定の距離までなら詳しく分かるんだが、その範囲から離れているならおよそまでしか分からん」
「右に同意。でも風下にいるのに匂いがないのだから、何処かの家に潜んでいる可能性は高いと思う」
「ではまず外から探しましょう」
飛鳥の提案に反対する理由がないので俺達は森を散策し始めることにした。………それにしてもこの木々は凄まじいな。散策して見つけた家屋は枝や根によって食い破られ、廃墟化としているのだ。
「彼にしてみれば一世一代の大勝負だもの。温存していた隠し球の一つや二つあってもおかしくないということかしら」
「ええ。彼の戦歴は事実上、不戦敗も同じ。明かさずにいた強力なギフトを持っていても不思議ではありません。耀さんも龍騎さんもガルドを見つけても警戒を怠らないでください」
………飛鳥とジンがああ言ってるが果たしてそうだろうか?俺がもしガルドの立場だった場合、自分が勝てるように飛鳥達にとって厳しい状況を作り出す。俺が思いつく限りだと、ギフトゲームのルールに“恩恵使用禁止”などを付け加えたり、このような自らの力で一晩で森を作り上げることが可能ならばゲーム自体を制限時間付きの“宝探し”を実行した方が勝率は格段に高くなる。なのに、敗ける可能性を残してゲームを開催するなんて不自然過ぎる。それに傘下と仲間を追い出したことも気になる………。そして、一番気がかりなのはこの生き物のような脈を打つ“鬼化”した木々だ。俺が徹夜して学んできたことが正しい知識であるならば“鬼化”は―――。
「ねえ、聞いているの龍騎君!」
頭の中で今の状況を整理していると、飛鳥が少し不機嫌そうに俺に声をかけてくる。………あの様子だとどうやら何回も声をかけられたのに俺は気付かなかったみたいだ。
「ああ、すまん飛鳥。ちょっと考え事していて聞いていなかったわ」
素直に飛鳥に謝る。これは普通に俺が悪いしな。さっきのことは後で考えることにしよう。
「もう………しっかりしてよね?龍騎君はこの中でも頭が回るのだからちゃんと話を聞いてくれないと」
「本当にすまん………で、話の内容は?」
「この森の中にヒントらしいヒントも武器らしい武器も見つからないから、もしかしたらガルド自身がその役目を担っている可能性があるという話なんだけどどう思うかしら?」
「合っていると思うぞ?自分が殺される唯一武器があるなら自分で保管しておいた方が一番安全だからな。そうだとしたら早速ガルドを探した方が―――」
「それなら春日部さんが樹の上に登って探してくれているわ」
飛鳥がふっと視線を上に移し、俺も釣られて見上げる。その視線先には耀が周囲にガルドがいないか捜索していた。
「お早い仕事で………それにしても飛鳥。お前大丈夫か?」
「………何の話かしら?」
俺が心配するように声をかけるがしらを切る飛鳥。………まったく強情だな飛鳥。
「誤魔化しても俺には通用しないぞ?大方、自分が提案のせいで不利なギフトゲームに挑むことになったから勝たなくてはならないプレッシャーと責任を感じている、ってところか?」
「………貴方のギフトは超能力関係なのかしら?」
図星だったのか呆れたように溜息する飛鳥。
「残念ながら違うけどな。まあ、飛鳥が分かりやすいだけだよ。お前の性格で考えると、お前だったら俺に確認せず堂々と実行するだろうからな」
「………はあ、そうよ。龍騎君の言う通り、私が提案したから私の手でガルドに引導を渡さなくてはならない………のだけど、“契約書類”のルールによって私のギフトはガルドには効かない。手が無いことはないのだけど、それでも初めてやることだから少し不安なの」
彼女にしては珍しく弱音を吐く。飛鳥は白夜叉のギフトゲームに挑んだがあれは実質、耀がクリアしたものだから飛鳥は今回が初のギフトゲームとなる。しかも自分はギフト頼りなのにそれが効果がないとなるとやっぱり不安なんだろう。それも仕方ないだろう。彼女は強力なギフトを持っているが元は争いには関係ない生活を送っていたのだ。経験もない戦いをすることに不安を感じることは当然だ。
「気にしすぎだって。さっきも言ったけどちゃんと確認しなかった俺達も同罪だ」
「………だけど」
弱気になっている飛鳥を励ますが、まだ気にしているだろう。………ああもう!臭いセリフを言うのは俺の柄じゃないんだが飛鳥が本当に普段通りに戻るため一肌脱ぎますか………。
「なら、飛鳥自身でケリをつけたらいいじゃないか。飛鳥が不安なるのも仕方がないが俺が片付けたらそれはそれで不満だろ?勿論、俺達も協力するし飛鳥達が危険に及ぶなら―――俺が守ってやるよ」
真剣な表情で飛鳥を見つめ、最後に心配掛けないように笑いかける。すると、飛鳥の顔がみるみる赤くなっていき、ぷいっと明後日の方向を向いた。
「………っ!言われなくてもそうするつもりよ!貴方に守ってもらう程、私は弱くないわよ!この件は私が片付けるんだから勝手に手を出さないで!」
何か物凄く怒られたが、いつもの飛鳥に戻ったので良しとしよう。だが、未だに飛鳥の顔の赤みが取れていないのは何でだろう?
「………がとう」
「ん?何か言ったか?」
「別に何でもないわよ!」
またしても怒られた。何故そんなに怒っているのか少し気になったので問いかけようとすると、
「見つけた」
「うおっ!?」
「きゃあっ!?」
樹の上にいた耀が俺と飛鳥の間に割り込むように着地する。突然のことに俺と飛鳥は驚き、お互い後ろに退く。
「お、おう。ありがとな耀。お疲れさん」
「………ふんっ」
お礼を言ったのに耀までそっぽを向かれた。しかも何処か不機嫌そうだ。………俺、何かしたか?
「………本拠の中にいた。影だけしか見えなかったけど、この目で確認した」
そう言いながら耀は俺の手を取り、本拠があるであろう方向に向かっていく。………って、
「ちょ、ちょっと待てって!引っ張るなよ!?てか、痛いって!手を強く握りすぎだ!?せめて、手の力を弱めてくれ!聞いているんですか耀さん!?」
「ま、待ちなさい!私を置いて行かないでくれないかしら!?」
☆
「見て。館まで呑み込まれてるわよ」
耀に力強く引っ張られながら“フォレス・ガロ”の本拠に着いた。虎の紋様を施されていた扉は無残に取り払われ、窓ガラスは砕けており、豪奢な外観はツタに蝕まれて剥ぎ取られていた。
「ガルドは二階に居た。入っても大丈夫」
「確かに気配は二階からあるな………それよりかそろそろ手を離してくれないか?」
「………っ!」
未だに耀に手を握られたままなので放してもらえるように願うと俺の言葉に気付いたのか耀はすぐさま俺の手を離してくれた。ああ、痛かったー。手が折れるかと思ったわ。
「………………」
「あれ、どうしたんだ耀?顔が赤いぞ?」
「………何でもない」
今度は耀の顔が赤く染まっていた。………この森の中は何か良くないものでも運んでいるのか?それならばさっさとこのギフトゲームを終わらせなくちゃな。そう思いながら俺達は“フォレス・ガロ”の屋敷に入っていく。
「それにしても………これはどういうことでしょう?内装も酷いですし、家具も打ち倒されて散財しているのですが………」
屋敷に入ってまず最初にご対面したのは荒れに荒れた内装であった。流石にこの光景に疑問を持ち出したジンが呟いた。
「………分からないわね。この豪奢な本拠だってガルドの野望の象徴とも言えるわ。その本拠をここまで無残な姿する意味がないわ」
「森は虎のテリトリー。有利な舞台を奇襲のため………でもなかった。それが理由なら本拠に隠れる意味がない」
今までとは全く違う緊張感が漂う。………これはちょっと不味いな。変に疑問を持ちながら戦闘に入るのは危険過ぎる。空気を和らげるために話を変えるか。
「疑問を感じるのは分かるがとりあえず武具を探さないか?それがなかったら話にならないからな」
「………それもそうね。じゃあまずは一階から探すことにしましょう」
「そうですね」
「異議なし」
何とか話を変えることに成功し俺達は散策を開始する。瓦礫を掘り返したり、怪しいところを探ったり隅々まで調べるが、ヒントらしい物や武具らしい物も見つからなかった。結局、一階には何もなく残りは二階だけとなった。
「さてっと、ここらには武具はなかったし二階に行きますか。ガルドも二階にいるみたいだしそこに武具ある可能性が高いしな」
「そうね。ジン君、私達は二階に上がるけど貴方は此処で待っていなさい」
「ど、どうしてですか?僕だってギフトを持っています。足手纏いには」
「そうじゃないわ。上で何が起こるか分からないからよ。だから二手に分かれて、私達はゲームクリアのヒントを探してくる。貴方にはこの退路を守って欲しいの」
確かに理は適っている回答だが、ジンは不満そうだ。だが、退路を守らなければならない重要性は分かっているのか渋々と階下で待つ―――が、そこで俺が異議を唱える。
「いや、ジンも連れて行こう。此処にジンを置いていくのは少し不味いし、俺と耀がいる限りガルドを逃がすヘマはしないって」
「………少し不味いってどういうことかしら?」
不思議そうに首を傾げる飛鳥。横にいる耀に視線を移すとこの異議には疑問を感じるのかじっと俺を見つめてくる。そんな中、俺は正直な感想で答えた。
「ぶっちゃけて言ったら、ジンが退路を守っても時間稼ぎにもならないから」
ジンがいる方向からブスリっと刺さる音が聞こえてきたが、気のせいだろう。
「………確かにガルドが此処に逃げられたらジン君はお陀仏になるわね」
「無駄死」
またグサリグサリと刺さる音が聞こえてくるが、俺達は気にせず会話を続ける。すると、今度は何故か苦しそうにしているジンから疑問の声が上がってきた。
「ぼ、僕が何かしまし」
「よし、二階に上がるぞ。気を引き締めな」
「ええ。勝利を掴みましょう」
「絶対勝つ」
「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉおおおおっ!?無視しないでくださいよ!」
俺達は根に阻まれた階段を物音を立てずにゆっくり進んでいく。後ろが何か騒がしいが別にいいだろう。階段を上り、その先にあった大きな扉の両脇に立って機会を窺う。………此処にガルドがいるな。耀に視線を向けると耀も気付いているのか真剣な表情で頷いてきた。二人に危害が及ばないように俺が先頭に立ち、目の前にある扉を勢いよく開け、中に跳び込むと、
「―――………GEEEEEEEYAAAAAaaaaa!!」
昨日とは変わり果てた姿をしたガルドが白銀の十字剣を背に守りながら立ち塞がった。
どうも、作者のカオス隊員です。
今回皆様にお知らせしたいことがあります。
残念ながら今回の話で溜めていたストックは全て使い切ってしまいました。
よって、今まで一日更新ペースであったのを二日~三日ペースの更新にさせて頂きます。
楽しみにしてくださってくれる皆様には大変ご迷惑をかけますが、何卒宜しくお願いします。
では、次回も「問題児『出来損ないの陰陽師の異世界録』」をお楽しみ!