問題児たちが異世界から来るそうですよ? 出来損ないの陰陽師の異世界録   作:カオス隊員

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この作品は処女作です。
駄文、誤字、脱字など含まれるかもしれないですがよろしくお願いします。


~YES!ウサギが呼びました!~
プロローグ


―――2XXX年、某都市の夜の都会。

初冬の候、だんだんと寒さが身にしみる季節になりつつあるものの多くの人が賑わい、暗闇の夜を照らしていた。

 

 

「今日は一段と賑やかだな、この街は」

 

 

都会に立ち並ぶビルの中でも高い分類に入るビルの屋上から街の様子を見下ろしている人影。

紺色のブレザーに灰色のズボン、首には紅のペンダントをぶら下げている。

服装から推測すると、この人物は男性であり学生である。整った容姿に風になびかせる黒髪、澄んだ蒼い瞳。

 

 

少年、『神崎龍騎(かんざきりゅうき)』は、人で混雑している景色を上空に視界を移した。

 

 

「そういえば、後もう少し時が経ったらクリスマスだったけ?まぁ、独り身の俺には関係ない行事だけどな」

 

 

誰かと会話しているかのように呟く。しかし、龍騎以外にこの屋上には誰もいない。

それでも龍騎は口を開け、更に呟きだす。そこに何かがいるかのように(・・・・・・・・・・・・・)………。

 

 

「そういえば元々クリスマスはキリストの降誕を祝う祭りだったけ?まあ、今の現代ではそんなこと意識している人なんて宗教者ぐらいしかいないだろうけどな」

 

 

そこで会話を一時止め、後方に振り返る。すると、そこには先ほどは龍騎しかいなかった屋上に大きな一つの影が増えていた。三mはある巨体にゴリラを彷彿させる剛腕。その影はどう見ても人間の形をしていなく獣に近い形をしており、影の周りには黒い負の瘴気が漂っていた。普通はその姿に恐怖、もしくは動揺の一つでもするものだが龍騎は臆せず会話を続ける。

 

 

「………で、お前はクリスマスに関連がある生物なのか?どう見てもそんな立派な存在には見えないけどな」

 

 

カラカラと笑う龍騎。影は龍騎の問いを聞いていないのか、返答もせずに無言で左腕をゆっくりと上げていく。剛腕に瘴気が集まり姿を変えていく。その剛腕は熊に似た形になり、鋭い爪が怪しく輝く。その行為は龍騎の生命を刈り取ると思われる行動だ。勿論、そのまま勢いよく振り落とされると普通の人間には一溜まりもないだろう。しかし、龍騎は焦り・恐怖といった表情はなく、それどころか挑発しているかのように目の前の影に軽薄な笑顔を浮かべる。

 

 

「もしくは―――怨念で実体化して、暴れるしか能がない堕ちた怨霊か?」

 

 

「GEEEEEEEEEYAAAAAAAaaaaaa!!」

 

 

影は怒り狂うように雄叫びを上げ、龍騎に剛腕を振り落とした。その一撃は屋上のタイルに大きな罅が出来、ビルを揺るがす程の威力であった。砂埃が上がり、影の視界を遮るが左腕から地面のような硬い感触を感じると龍騎を潰したと確信し、狂ったかのように影は笑い出す。

 

 

「………おいおい、何勝ち誇った顔をしているんだ?ろくに確認もせずに勝利を確信することは死亡フラグだぜ?」

 

 

だが、振り落とした腕から龍騎の声が響き渡る。砂埃が止むと、目の前には龍騎が片手で五芒星の魔法陣を展開させており、それが影の一撃を止めていた。まさか止められると思っていなかった影は己の一撃を止めた人間に戸惑いの表情で見つめる。それを見た龍騎は少し面白そうに軽薄な笑みを浮かべる。

 

 

「へぇ………、お前そんな感情があったのか。普通の怨霊は怒りが大半を占めているんだけどな。………まあ、それはどうでもいいとして、まさかこの程度(・・・・)の威力で(仮)にも陰陽師である俺を倒せると思っているのか?そうだとしたら、そこそこ強いと思っていたんだが期待はずれだったな」

 

 

先程まで軽薄な笑顔を浮かべていた表情が消え、露骨に落胆したといった溜息をこぼす。その態度に不快と感じた影は左腕に更に力を入れて龍騎を魔法陣ごと押し潰そうとする。その力はタイルの罅がさらに広がり、影の足元は陥没していくほどであった―――が、龍騎は苦悶の満ちた顔をしておらず、むしろ余裕の表情で影を見つめていた。影は怯えもしない目の前の人間に殺気を込めた視線で睨みつける。

 

 

「GRRRRRRRRrrrrrrrr………!」

 

 

「………面倒になってきた。さっさと終わらせて報酬貰いに行きますか」

 

 

そう言った龍騎は、展開していた魔法陣で影の剛腕を受け流すようにずらし、影の体勢を崩させる。影は急に受け流されたことで重心を取ることが出来ずに、何とかしようと踏ん張るが対処することも出来ず、龍騎の狙い通りに体勢を大きく崩れて隙だらけになった。

 

 

その隙を龍騎は見逃さず、魔法陣を破棄して影の懐まで一瞬で接近し、右腕に眩い紅蓮色の霊力を纏わせて影の腹部を殴りつける。影は体勢を崩した状態での一撃を耐えられるはずもなく、そのまま貯水タンクまで吹き飛んでいった。龍騎が強打した一撃は強い衝撃を受けた貯水タンクが大きく凹み、影の腹部に抉られたかのような酷い火傷を負わせていた。その傷を見るからに今の一撃は凄まじい威力を物語っていた。

 

 

その一撃を受けて瀕死寸前になった影だが唸り声を上げながら龍騎を睨みつけ、身体を動かそうとする。しかし、重傷を負っている影はもう動けるほどの力は残っていないのか睨みつけることしか出来なかった。だが、影の目はまだ死んでいなかった。

 

 

「ほう………、実力の差を見せつけたのに、まだ俺を倒そうとしているのか」

 

 

龍騎はそんな影の目を見て感心する。重傷であるのに関わらず、実力が格段に上である自分にまだ戦おうとしているのだ。本来、この手の怨霊は獣に近い生存本能を起こし即座に逃走を謀ろうとするものなのだが、この怨霊は醜い逃走もせず今にも攻撃をしてきそうな迫力があったのだ。

 

 

「その気迫は認めるが、こっちも仕事なんでね。恨みたければ存分に恨んでくれ」

 

 

そう言いながら未だに眩い紅蓮色の光を放つ右腕が更に強く輝きだし、龍騎はゆっくりと歩きながら影に近づいていく。影は本能的にあの光は己を消滅させるほどの威力がある危険なものと感じ取っていた。近づいてくる人間から距離を取らなければならないと身体を動かそうとするがその前に龍騎が影の目の前まで接近していた。

 

 

「久しぶりに面白いものが見れたよ。来世ではいい人生を送れることを祈るぜ」

 

 

そう言いながら右腕で影の顔面を掴み取る。すると、炎が影を包み込み抵抗もできずにこの世から消え去っていった。龍騎はそれを見送りながら荒れた屋上に視界をを移し、今回二度目の溜息をこぼす。

 

 

「………はぁ、依頼者のもとに行く前にまずは後片付けだな」

 

 

龍騎はまたズボンのポケットから模様が描かれている御札を取り出し、罅割れた屋上のタイルと大破した貯水タンクに貼り付ける。すると、凄まじい勢いで壊れていた所が修復されていき、修復が終了した時には戦闘が始まる前の状態に戻っていた。役目が終わった御札は発火し、そのまま灰となって消えていった。

 

 

「修復終了っと………。さてと、依頼達成の報告をしに行くか」

 

 

少し面倒くさそうに思いながら、その場から背を向け離れよう歩き出す龍騎。

 

 

「………ん?」

 

 

何か感じ取ったのか龍騎は歩みを止め、上空を見上げる。視界に入ってきたものは一枚の封書であり、不自然な軌道を描きながら龍騎の手元に収まった。封書を確認してみると達筆で『神崎龍騎殿へ』と書かれていた。周囲を見回し、人の気配を探るが誰もいなかったので龍騎は諦め、封書を解析することを専念することにした。

 

 

「この封書に何かしらの力を感じるな………。おそらく転移系統の術式が付与されているんだろう。今この封書を開くと送り主が指定した場所まで飛ばされることは確実。明らかに罠としか思えないな」

 

 

封書から感じる不思議な力を解析し終え、そう結論づけて封書を凝視する。罠と分かった今なら危険なこの封書は捨てるべきだろう。だが、龍騎はむしろ面白いものを見つけたかのように笑みを浮かべ、手紙の封に手を掛ける。

 

 

「ハッ、おもしれえ!どこの誰かは知らないが、この挑戦受けて立ってやる!」

 

 

そのまま手紙の封を切り、中に書かれている文章を読んだ。

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、

 己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

 我らの”箱庭”に来られたし』

 

 

 

                    ☆

 

 

 

「うおっ!?」

 

 

龍騎の視界は間を置かずに開けた。

 

 

龍騎は上空4000mほどの位置で投げ出されていた。しかし、特に慌てることなく周囲を見回すと、眼前には見た事のない風景が広がっていた。視線の先に広がる地平線は、世界の果てを彷彿させる断崖絶壁に眼下に見えるのは巨大な天幕に覆われた未知の都市があった。

 

 

「………まさか異世界に転移されるとは思わなかったな」

 

 

その光景に呆然とした龍騎はまだ上空にいることを忘れ、そのまま湖に大きい水柱を立てるのであった。

 

 

 

 

 

この日、箱庭に『出来損ないの陰陽師』が降り立ったのであった。

 

 

 

 

 


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