Fate/kaleid stage   作:にくろん。

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—————バレンタインイベント、いつになく本気でガチャを回す必要がある。
我らが嫁王ブライド、それを手に入れるにはあまりにも高い壁。

しかも彼女はEXTRAバージョンでなく、奏者に出会っていない状態と聞く。

手にするカード(課金)は少ない。
しかし、ここで使わずしていつ使う?


さあ、血で血を洗う抗争(ガチャ)の幕はあける。
問おう。マスターたちよ。
武器の貯蔵(預金残高)は十分か?



…スノボウェア代どうしよう…真剣にやばい…一式新調しないとやばいのに…

今回の話を書いているときに嫁王ブライドのお知らせはずるいと思う。


13話 狂戦士の魂

 

バーサーカーが迫ってくる。

その圧倒的なまでに鍛え上げられた肉体から、強靭な腕がうなりをあげて叩き付けられる。

 

 

砲射(シュート)!!」

 

それを散開し回避する私たちの傍ら、最も近い位置にいた美遊が魔力砲を放ち、その反動で距離を取る。

狂戦士の攻撃は暴風のように荒々しく、大きく地面を陥没させる。

 

「美遊大丈夫!?」

「なんとか!」

『絶対に攻撃に直撃しないで!僕らのAランク物理保護でもあれの前じゃ紙装甲だ!』

 

 

ラルドの悲鳴にも似た絶叫に、背筋に冷たいものが走る。

 

 

Anfang(セット)———!!」

 

凛姉の宝石魔術が炸裂し、その衝撃波が屋上を襲う。

直接魔術が効かないのならば、その衝撃を利用しようとしているみたいだ。

 

 

 

 

だけど、狂戦士は止まらない。

鋼の肉体を盾に、そのまま突進してくる。

そしてその進路上に無造作に短剣が投げ込まれ、

 

 

「————壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 

一瞬ののちに内包している魔力を爆発させる。

 

全員がラルドの一言に危機感を覚え、決して攻撃を食らわないように必死に立ち回る。

カレイドの魔法少女の物理保護を突破する破壊力。

生身で受けるにはあまりにも危険すぎる。

 

 

 

だが。

 

「くそ、今回の鏡面界が狭すぎる…ッ!」

 

そこが問題だった。

ビル一つ分の鏡面界。

内装を含めると広く思うけど、バーサーカーの突進力を思うと屋上は狭すぎる。

相手からすると一息で詰められる距離。

常に危険の伴う立ち回り。

 

それは確実に私たちを消耗させていた。

 

 

放射(シュート)!!」

 

美遊が魔力砲を放つ。

 

しかし、バーサーカーは気にすることなくそのまま突進し、魔力砲は肌に触れると同時に弾かれた。

 

放った魔力砲は大してダメージを与えた様子はない。

むしろ表面でかき消されたような…

 

「対魔力————いえ、あの感触を見るにおそらく宝具の類です!」

 

美遊が叫ぶ。

 

『…間違いないでしょう。推測するに一定ランクに達しないすべての攻撃を無効化する鋼の肉体()…それが敵の宝具です』

「なんだって最後に厄介な…」

 

 

 

「————フッ!!」

 

一息の間に二射、タイミングを外すようにさらにもう一射矢が放たれる。

士郎兄は超人染みた集中力で狂戦士の目を狙い続ける。

少しでも矢に注意を向けないといけないように動き、私たちへの攻撃の邪魔をする。

 

しかしそれは巨人の振るう腕に弾き飛ばされ決定打になりえない。

 

 

「■■■■————!!」

 

狂戦士は吠える。

そしてそのまま強引に、攻撃を続ける士郎兄へと殴りかかる———が、再び現れた二振りの中華剣で受け止め、反動を利用し距離を取る。

 

爆射(バースト)!!」

 

追撃から士郎兄を守るように今の私が使える最も高い攻撃力を持つ爆射を放つ。

それはバーサーカーへと確かに当たり爆発する。

 

でも、その爆発によって舞った粉塵をかき消すように圧倒的なまでの暴力が振るわれる。

 

 

「が、———ぁ」

 

離れた場所で士郎兄が起き上がるのが見える。

ガードしているように見えたけど、あの理不尽なまでの力のカタマリはそれすらも突き抜けてダメージを与えていたみたいだ。

 

叫びたいのを我慢して爆射を続ける。

既にキャスター戦で見せた砲門は展開済み。それでも魔力砲は相手に傷を与えず、せいぜい着弾時の衝撃でけん制できる程度。

 

 

「■■■、■■————!!!」

 

と、その時巨人が跳躍した。

足場は崩れ、ビルの内装が露出する。ただの跳躍でこの破壊力。

 

着地した狂戦士は一歩で加速し————私の目の前にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

音や言葉を置きざりにしてその右腕が迫ってくる。

その一撃は確実に私の命を刈り取ろうとし、

 

 

 

 

 

 

目の前にバーサーカーがやって来た時点で倒し始めていた体の、ほんの数ミリ前を通過した。

 

 

轟ッッッ!!!!

 

 

その風圧だけで無茶な体勢を取っていた私は完全に体勢を崩し、

 

「————投影完了(トレース・オン)!」

 

続いて飛来した長剣が狂戦士の肩に突き刺さった。

 

 

「ナイスですわミスタ!」

 

 

ルヴィアさんが叫び、

 

Zeichen(サイン)————————」

Anfang(セット)————————」

 

「「獣縛の六枷(グレイプニル)!!!」

 

 

続くように投擲された凛姉とルヴィアさんの宝石が煌き、魔法陣を展開しバーサーカーを拘束する。

布のような拘束具で雁字搦めに押さえつけ、さらにその上から三角錐状の結界が張られ、内部を圧迫し続ける。

 

 

私は、巻き込まれないように無理やり飛翔し距離を取った。

すると、眼下でタイミングを見計らうかのように、美遊さんがサファイアにランサーのクラスカードを限定展開(インクルード)し、待機しているのが見えた。

 

「■■■■————!!!」

「逃、が、す、かああああ!」

 

猶も抵抗し、拘束具を引きちぎり結界から逃れようとするバーサーカーに、凛姉がポケットからさらに宝石を取り出して投擲し、拘束を強化する。

 

 

「■、■■————!!」

 

 

狂戦士は強く足場を踏みつけ、ビルの屋上に穴を空けることで逃れようとする。

 

だが、

 

「甘くってよ!」

 

同じようにルヴィアさんが宝石を使い、屋上の地面を強化し、さらには凛姉と二人で拘束による圧力を分散するように力の流れを誘導し、ビルの倒壊を防ぐ。

 

 

それでも拘束しきれない。

でも得られた数瞬。

 

そこを見逃さず美遊さんは距離を詰め、

 

 

刺し穿つ(ゲイ)——————

 

 

 

 

 

     —————————死棘の槍(ボルグ)!!!」

 

 

必殺の槍が心臓を貫いた。

 

 

 

 

一息つける。

そんな風に若干弛緩した空気は、

 

 

 

 

 

 

「まだだ!こいつの真名はヘラクレス、宝具の能力は蘇生だ!」

 

士郎兄の絶叫が聞こえる。

 

 

 

え————、

 

 

「ごふ———っ」

 

反応を返す前に振るわれた腕に、美遊が弾き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

くそ、最悪の展開だ。

 

バーサーカーと相対した後、忠告が遅れた。

忠告するため距離を取っても、この狭い屋上でバーサーカーを相手にするとほとんど意味がない。

生半可な集中力じゃこちらが死んでしまう。

みんなが狙われないように注意が分散するように攻撃を続け、射で時間を稼ごうにも真正面から打ち破られた。ガードしたとはいえ直撃を食らった俺が、呼吸を整え戦線に介入できたのはゲイボルグを放つ直前。

忠告を放つ前に一瞬気が緩んだ美遊が振り回された腕にひっかけられた。

 

 

「俺が時間を稼ぐ。遠坂達は態勢を立て直してくれ」

 

返事も聞かずに夫婦剣をを投影し、強化する。

傷を与えることが最上だが、今はこいつの攻撃を裁くことに集中する。

 

 

嵐のような連撃を耐える。

拳をいなし、避け、防いだ干将が砕ける。

ノータイムで再び投影するが、今度は莫耶が折れる。

 

最も馴染んでいる夫婦剣の投影だから間に合っているが、この分だとそう遠くないうちに投影が追い付かなくなる。

不死殺しの剣を投影するにも、今の状況でほかの設計図を展開している余裕はない。

 

セイバーと戦った時にも感じた自分の限界を思い知る。

 

 

 

「うお、おおおおお!!」

 

それでも。

負けるわけにはいかない。ここで俺がやられたら終わりだ。

神経を、血管を、筋肉を、魔力回路を限界まで酷使する。

 

拳に合わせ夫婦剣を振るい、衝撃を逃がす。

続く蹴りは倒れ込むように回避し、莫耶を叩き付け無理やり体勢を整える。

僅かな隙は、その眼孔を突くように夫婦剣を振るう。

 

 

そうして作り上げたわずかな猶予は、

 

「準備オッケーよ!衛宮くん!撤退するわ!」

 

遠坂の声を耳へと届けた。

 

 

 

 

 

—————すごい。

 

純粋にそう思った。

あの狂戦士、士郎兄曰くヘラクレスという大英雄相手に一歩も引かずに打ち合う士郎兄。

 

 

凛姉の声に反応し、両手の双剣を投擲する———と同時に爆発させる。

 

その爆風をも使い、こちらに駆けてくる士郎兄。援護するように私は魔力砲を放つ。

美遊は離界(ジャンプ)用の魔法陣を維持している。

 

 

離界(ジャンプ)完了まで5、4、3—————』

 

サファイアのカウントダウンが始まる。

それは士郎兄がぎりぎり間に合うラインで———

 

 

『2————』

 

嫌な予感がした私はいつでも動き出せるように身構える。

士郎兄が魔法陣へと足を踏み入れた。

そして、

 

 

『1———離界(ジャンプ)——美遊様!?』

 

魔法陣から美遊が踏み出すのを見て思わず私も外に出る。

 

 

 

「ちょ-——」「貴女た———」

 

 

 

そしてそのまま凛姉たちが離界(ジャンプ)した。

 

 

 

 

 

 

「白野まで残らなくてよかったのに」

 

ビルの内部に潜り込み、一息ついたところで美遊が話しかけてくる。

 

「友達を一人こんなところに残せないよ」

『何を…二人とも撤退してください!』

『そうだよ!いくら何でも無謀すぎる!』

「そういうわけにもいかないよ」

 

ラルドとサファイア、二人のカレイドステッキが諫める中私は答える。

 

「だって…ここで撤退したらイリヤが呼ばれる。戦いを嫌がっているイリヤが」

「白野も…うん。そうだね。…イリヤは私を初めて友達って言ってくれた人。イリヤを守るために———」

「私たちが今日、ここで全部終わらせる!!!」

 

 

『…とはいっても勝算はあるの?』

『エメラルド…!?』

『仕方ないでしょ?無謀な特攻ならここで絶対に止める。逆に勝算があるなら全力でバックアップするのが僕たちカレイドステッキの役目なんだから』

「…ここからのことは、秘密ね。絶対に」

「———美遊にもあったんだ、秘策」

 

 

狂戦士が徐々に迫ってきているのがわかる。

そんな中、最終確認をする。

 

「ラルド、貴方は並行世界に接続できるのよね?」

『限定的にだけどね』

「その並行世界って選べるの?」

『目印がないとさすがに…だから宝石翁とかの魔法使いの力が必要なんだよ』

「それが聞ければ充分。私に全部賭けてくれる自信はある?」

『———なるほど、そういうことか。オッケー、全力を尽くすよ』

 

 

 

 

 

 

『カード…?』

 

美遊がクラスカードを取り出すと、サファイアが不思議そうな声を出した。

 

 

 

「——————どうしてできたのかはわからないけど、以前イリヤがやって見せた」

 

 

美遊はそのままセイバーのクラスカードに魔力を通し、地面に叩き付ける。

すると、そこから巨大な魔法陣が展開された。

 

 

「これが、カードの本当の使い方」

 

 

展開された魔法陣に魔力が循環する。

 

 

 

 

 

 

 

「—————告げる!

 

汝の身は我に!汝の剣は我が手に!

 

聖杯のよるべに従い、この意この理に従うのならば応えよ!」

 

 

 

 

通路の先の天井が崩落し、狂戦士が降り立つ。

 

 

 

 

「誓いを此処に!

 

我は常世総ての善と成る者!

 

我は常世総ての悪を敷く者————!!!」

 

 

 

 

魔力が渦となり、美遊を包んでいく。

 

『美遊様!』

 

 

狂戦士に脅威を覚えたサファイアが忠告するが、美遊の詠唱は止まらない。

 

 

 

 

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天!!!

 

——抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」

 

 

 

 

 

 

 

もちろん私だって見ているだけじゃなかった。

 

ラルドを介し、意識を集中させる。

手繰り寄せる縁は細く、普段ならば意識することすらできない。

 

 

 

 

 

「————カレイドステッキ、機能開放」

 

 

 

でも、手にしている礼装は超の付く一級品。

黒騎士戦のイリヤを見て気付いたこと。

イリヤの変身。クラスカードの名称。

 

この騒動を聖杯戦争だとするのなら—————

 

ステッキを握る手から緑のラインが伸び、肩まで達する。

 

 

 

 

 

『マスター岸波白野を接続点(ポイント)とし、座標検索開始。

 

 

    —————座標特定、完了』

 

 

ズキン、と頭に鈍い痛みが広がる。

まるでわずかな断片を頼りに、手探りで手繰り寄せるような感覚。

 

目印があるのならば限定的に並行世界の運用という第二魔法を模倣できるカレイドステッキ。

ならば、この礼装を私が使えば—————私自身が目印になる。

 

 

 

 

 

 

 

『疑似回路設定————完了。

 回路(パス)の構築―———完了。

 

 接続固定—————完了!!』

 

 

 

 

並行世界からやって来た私だけが使える反則のような裏技。

でも、私だけの特権。

 

バーサーカーがこちらを睨む。

 

 

 

 

『カレイドエメラルド、全権限解放!

 

   ——————並行世界限定接続(パラレルコネクト)!!!』

 

 

 

 

膨大な魔力がステッキを通して、形成された回路(パス)に流れ込む。

そして、それは急に押し返されるようにして、更なる魔力と情報を持ってステッキへと到達し————

 

 

—————その瞬間、私は限定的に繋がった(・・・・)ことを感じた。

 

 

彼女風に言うならば、”勝者特権”とでも呼ぼうか。

 

 

 

「————月の聖杯ムーンセルに、月の勝者岸波白野が告げる!

 

 我が手に剣を!

我が手に薔薇を!

我が手に喝采を!」

 

 

死にたくない。

ただその一心で契約した前回とは違う。

 

カレイドライナーである時だけの反則染みた契約。

それは私が最も信頼する英霊の内の一人。

 

情報の海から、さらに私を目印にして掬いだす。

 

 

 

「月より来たりて我が身に宿れ、我が相棒(サーヴァント)が一騎!」

 

 

普通に召喚し、維持するには魔力が足りない。

ならば。無限の魔力を持つカレイドライナーのその身に写す。

 

夢のごとく儚い、一時のみの顕現。

 

主体が私である以上、彼女の意識を喚べるかすらわからないが、本来あるはずのなかった幻のような再会。

 

 

 

 

 

 

狂戦士が突進し、圧倒的な暴力を内包する左腕が振るわれる。

そして私たち二人を渦巻く魔力が収束し————

 

 

 

 

「「—————夢幻召喚(インストール)!!!」」

 

 

 

 

魔力の奔流と共に、その拳は黄金の剣に阻まれた。

 

 

彼女はそのまま聖剣を以って拳を押し返し、

 

 

 

「はああああっ!」

 

 

私の振るった赤き大剣が狂戦士へと迫り、それを嫌ったのかさらに距離が開く。

 

 

 

 

魔力の奔流により立ち込めていた煙が収まる。

そこには。

 

 

青い礼装を身に纏い、星の鍛えし最強の聖剣を携えた美遊と。

 

赤き男装を身に纏い、炎を思わせる深紅の大剣を携えた私がいた。

 

 

 

 

 

 

 

意思無き大英雄ヘラクレスよ。

括目するがいい。

ここに並び立つはブリテンの誉れ高き騎士王と、ローマに咲く誇り高き皇帝。

 

 

生前の12の試練に勝るとも劣らない一戦。

 

 

その第二ラウンドの幕が、赤と青の騎士(セイバー)によって切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




無印イチ書きたかったシーンその2、赤と青の共闘。
その3とその4はおそらく次回。ちなみにその1はセイバー戦。

セイバー戦と違い、小分けにすることにしましたバサクレス戦。
士郎はがんばったんだ。一回退場で。

カードを介した夢幻召喚と白野の夢幻召喚は全く原理が違います。
しかし、夢のように儚く、幻のような召喚ということで夢幻召喚と呼称しました。
読みも変えようかと思ったのですが、ムーンセルから汲み出した情報を宿すのでインストールとそのままの読みに。

いろいろ批判はあるとは思いますが、拙作ではこんな感じですのでよろしくお願いします。


いやほんとブライド欲しいんじゃが。
…新品のスノボウェアっていくらじゃろ…

誤字脱字などの指摘、感想、評価などがありましたらよろしくお願いします。

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