異界、影に生きる   作:梵唄会

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4話・働く事

□主人公視点

 

 

「影ちゃーん、暇だよ」

 

 例の如く、穀潰し(ミナトさん)が騒ぎ立て、分身の術まで使い私の周りを旋回している。マジこの人何がしたいんだ。取り敢えず影で分身を串刺しにし、黙らすか。

 

「すぷらったっ!」

 

 ぽふんとコミカルな音を立てて消えていく。

 

「ちょっと、なんで実体まで狙うのさ」

 

 仕留め損なったか。私の影の一つが丸太を串刺しにしていた。これは変わり身の術だ。この世界の大いなる謎の一つ、この丸太は何処から来るのだろう。様式美というのは分るんだが。

 

『すみません』

『外しました』

 

 そもそもあの術、どれが本物なのか見分けなど私にはつかないからな。

 

「……外れて良かったよ」

 

『それで何ですか?』

『私は修行で忙しいのですが』

『そんなに暇なら水の国に居る分身の下へ行ったらどうですか?』

『ちょうど仕事で商船の護衛をしているんです』

 

「ソレはまたの機会にするよ。まぁ、暇って言うのは冗談でさ。俺ら働いて無いじゃん?」

 

『一緒にしないで下さい』

『私は日々一生懸命働いていますよ』

『白の為に』

 

「いや、そういうことじゃなくて。木の葉に居る影ちゃんってこと。俺達は木の葉の里に暮らしているわけじゃない?」

 

『外聞的には』

 

「でしょう?それで、お金は何処から来てるの?」

 

『それは私の分身が……』

 

「気がついた? 俺達はここで暮らしているわけだけど、援助も受けていない俺達が働かずに生活しているのは外から見たらおかしいわけ」

 

 盲点だった。時々こういう事を言うから無視できない。もしかしてわざとだろうか。たまに真面目になるミナトさんのギャップかっこいい、みたいな。これでクシナさんが釣れたのかも知れない。イケメン爆ぜろ。

 

「ということで影ちゃんは何か案があるかな?」

 

 コレは既にやりたい事が決まっている顔だ。この流れもすべてミナトさんの計算だろう。きっと心の中で、何処かの新世界の神のようにドヤっているに違いない。非常に遺憾な事だが私の負けだよ。

 

『無い』

 

「そっか! 僕にいい案があるんだ。影ちゃん屋台持ってたよね? ほら、俺って超優秀な忍びじゃん。だから、他の事とかする余裕無かったんだ。実は夢だったんだよね、屋台の店主とか」

 

『そうですか頑張って下さい』

 

「何言ってるの? 影ちゃんも一緒にやるんだよ。ほら、もう配置決めてるんだから!」

 

 そう言ってミナトさんは巻物を広げた。どれどれ。

 

店主・オレ

調理・影ちゃん

材料調達・影ちゃん

会計・影ちゃん

接客・オレと影ちゃん

その他雑用・影ちゃん

 

(……ほう)

 

『ふ・ざ・け・て・る・の・か!』

 

「あう、あう。だって俺、平和のために日々戦いに明け暮れていた戦士だから、そういうのやった事無いんだもん」

 

『だったらコレから覚えればいいでしょう!』

 

 さっきから、あいだあいだに入ってくる自慢が腹立たしい。お前が忍びとして優秀だったのは分かっているんだよ! 無能では火影に成れないはず。成れないよね?

 

「適材適所じゃん。やってくれたら螺旋丸教えてあげるからさ」

 

 !?……。私の中で葛藤が渦巻く。螺旋丸はロマンだ。折角NARUTOの世界に来たのだから是非とも覚えたい。

 個人的に螺旋丸は何度も試そうとしたが、その試みは何れも失敗に終わった。乱回転と言われても、一から十まで操作している私にとって難しいのだ。分身のリンクによる影ネットワークを駆使しても、乱れ複雑にどんどん加速し高速で回転するチャクラの軌道を制御するのは難しい。原作と同じ方法で修行してみたが、計算に不確定要素が加算されてチャクラが霧散してしまうありさまだ。感覚でやってのけてしまう天才達が恨めしい。

 もしかしたら、螺旋丸を開発したミナトさんなら何か有用なアドバイスをくれるかもしれない。しかし、ミナトさんにいいように使われるのは癪だ。

 

「知ってるよ。あの影の回転させてる練習。螺旋丸使いたいんじゃないかな? 俺が教えれば直ぐに習得出来るかもしれないんだけどなぁ」

 

 うぐぐぐぐ。あの憎たらしい笑みを直ぐに捻り潰したい!

 

『わかりました』

『手伝います』

 

「えぇ? 字が小さくて見えないよ」

 

(見えてるくせに!)

 

『わかりました!』

『手伝わせて下さい』

 

「そんなに頼むなら仕方ないな。一緒に頑張ろうね影ちゃん」

 

 ……。この恨みはらさでおくべきか。いや、人を呪わば穴二つ。おおらかな心で許してやろう。私は大人、私は大人、私は大人。

 

『それで、何がやりたいか決まっているんですか?』

 

「だから、屋台だよ?」

 

「……」

 

『屋台と言っても色々あるじゃないですか』

『おでんとか焼き鳥とかラーメンとか』

 

「全部やろうよ」

 

「……」

 

 やばい。この人、自分がやりたい筈なのに過程に至っては完全に他人事だ。ミナトさんの意見を全部取り入れて行けば、たちまち過酷な労働環境に見舞われるだろう。代替案を提出し私が先導しなくては。

 

『では比較的食材の入手と調理法が単純なおでんをやりましょう』

『そろそろ寒くなって来ましたのでちょうど良いかと』

『夏になったら焼き鳥に変更し冷えた麦酒を提供しましょう』

 

「いいね! なんかテンション上がって来たよ」

 

 本来私もこういうのは好きだ。ただ、ミナトさんに使われるのが嫌なだけで。嫌いだったら手間暇かけて屋台を作ろうなんて思わないだろう。

 

『私も少し楽しくなってきました』

『世界各国から究極の食材を集めてきます』

『多少のストックは有りますが』

 

「おお!」

 

『屋台ではお酒も重要です』

『以前の仕事で雪の国の杜氏をしている人と仲良くなりました』

『名酒らしいので幾つか分けてもらいましょう』

 

「さっすが! 影ちゃんにまかせれば万事解決だね!」

 

 当たり前だ。巷で噂の“幻の何でも屋”とは私の事だ。影のように現れ依頼を解決し影のように消えていく私、恰好いい。

 まぁ事の真相はなんてこともない。この世界は腕さえ有れば仕事に事欠かない。荷物を運ぶのには用心棒は必須だし人の困り事は金になる。世が荒れてる今は困り事など山のようにある。だから忍びなんて組織があそこまで巨大化したのだろう。

 細々と金を稼ぎながら暁に嗅ぎつけられないうちに消える。それを繰り返していたらいつの間にかに噂に成ってしまっただけなのだ。

 とはいえ、やるからには完璧を求める。例えミナトさんの手伝いとしても手を抜くつもりは無い。某魔砲少女のように全力全開。オーバーキルもいとわない。

 

『任せて下さい』

『料理も私の分身(スキル)を駆使してすぐにマスターして見せます』

『大船に乗ったつもりでいてください』

 

 先ずは、屋台の改造から。……この際一から作ってしまうか。

 

 

 

 記念すべき私たちの屋台開店初日。私はお色気の術色気なしバージョンで開店の準備をしていた。此処に分身を置くことを決めてから外に出る時はこの姿だ。本当に便利だ。各国で依頼をこなす時も違和感無く受けこなせる。

 

「あ、師匠! それに兄ちゃん。何やってるんだってばよ」

 

「……」

 

「あぁ、ナルト。こんにちは。今日から屋台をやる事にしたんだ。良かったら食べていくかい? 特別に今日だけタダにしてあげる」

 

「マジで!? 兄ちゃんってば太っ腹! あ、でもまた師匠に怒られるんじゃ。……ってそういえば師匠なんでお色気の術つかってんだ?」

 

「大丈夫だよ。あと、姉さんは客寄せだよ」

 

「そっかぁ! 大人ってば単純だからな。師匠の綺麗だから騙されてバンバンお客も来るってばよ!」

 

「……」

 

「だから、ナルトも秘密だよ。あ、じゃあ今日のは口止め料ってことで」

 

「いしし。兄ちゃんも悪だな」

 

「……」

 

 くそ。突っ込めない。完全に作業をしているのが私だけに成ってしまった。巻物は意外と高いし、影文字に変わるものを早く見つけなくてはならない。

 親子として見れば微笑ましい一幕なんだけど。……そういえば、ナルト少年は知らないけど親子なんだよなぁ。だめだ、真相を考えたらブルーに成ってしまう。

 

「あ、そろそろ第一号が出来そうだね。ナルトなに食べる」

 

「おお! なんか色々あるってばよ。じゃーあ、卵とおでん、コレは欠かせないな。あと、……兄ちゃんそのみどりの何?」

 

「何だろ? 影ちゃんわかる?」

 

 分かるに決まってる。私が作っているんだ。それと波風ミナト。私は料理も会計も雑用も、出来ることはやってやる。だけどな、店主ならメニューくらい把握してくれ。

 私は黙って壁にかかっているメニューの一覧から一つ指差す。

 

「あぼかど? 何それ?」

 

「頼んでみればいいじゃん。姉ちゃん、あぼかど。あ、俺にもね」

 

「……」

 

 キレちゃだめだ、キレちゃだめだ、キレちゃだめだ。こういう時は般若心経だ。色不異空空不異色色即是空空即是色……。私は般若心経を心で唱えながら言われるがままに配膳していく。

 

「うめぇー! 師匠すげぇ美味しい!」

 

 私は美味くない。一部の人にとっては美味しいかも知れないが。

 冗談は置いといて、私が苦労して集めてきた食材たちだ。どれも一級品。食材の味を活かした料理法なのだから美味くて当たり前だ。もし不味いなんて言われた日には私の中の般若が開放される事だろう。

 

「あれ? イルカ先生じゃん。おーい、イルカ先生ぇー!」

 

「ナルト! お前こんなところで。……あ、すみませんコイツが迷惑をかけていませんか?」

 

 大丈夫。ナルト少年はいい子だ。絶賛迷惑中の隣の男を何とかしてくれ。

 

「大丈夫、心配するなって」

 

「そうだってばよ。迷惑とかぜんぜんかけてねーし」

 

 そう言う二人をみたあと、イルカさんは私の方を向くと何かを悟ったのか軽く頭を下げた。お互いの心が通じた瞬間だった。

 私はおでんをいくつか見繕い空席に置く。

 

「あ、私は……」

 

(大丈夫。これは私の気持ちです)

 

 イルカさんの言葉を手で遮り、座るように促した。

 

「すみません。じゃあ、少しご馳走になります」

 

(いえいえ。お互い大変ですね)

 

 一杯目は麦酒が良いだろう。私はジョッキに麦酒を注いだ。

 

「あの二人。……なんで会話になってるんだってばよ」

 

「……さぁ」

 

 五月蝿い。言葉にしなくても伝わることもあるんだ。卵でも喰っていろ。二人の皿に卵を一つずつ乗せる。

 最早どうでも良い事なのだが完全に私の屋台になっているな。

 

「姉ちゃん、俺も麦酒」

 

 いや、ミナトさん。……駄目だから。




~影の能力研究~
◆分身を作る
・影分身とは違い並行して思考する。
・影のある場所なら認識可能範囲内の空間で生成する事が出来る。
・分身と入れ替わる事が可能。
・距離が開くと距離により、その分タイムラグが発生する。
・入れ替わった場合、入れ替わった先の分身のダメージ状態に依存する。
・基礎能力は本体と同じ。
・距離の限界値は現在測定不能。大陸の端から端までは可能だった為。
・思考のリンクを利用し通常より数倍の密度での考察が可能。(命名:影ネットワーク)new
◆影の変形
・武器や盾、文字にまで変形可能。強度は不明。
・影のある場所なら発生させることができる(範囲は分身と同じ)。が、逆を言えば影が無ければ発生させることは出来ないので複数の光源を生成されれば作ることは出来なない。だが、夜とは地球の影という判定なので夜に相対したらほぼ無敵。
◆影ヘの収納
・影の中に物を収納できる。生物は不可。
・本体か分身ならどこでも取り出すことができる。
・状態は収納時と同じ状態になる。
◆死体の使役(命名:ファントム)
・影に死体を喰らわす、正確には死体の影を喰らう事で、死体を影とし、自身の影にする。
・記憶は死亡時の時のもの。
・行動に制限はかけられないが、消滅は使役者に左右される。
・行動範囲は分身と同じ。
◆成長の停止
・影は成長しない。

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