異界、影に生きる   作:梵唄会

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2話・帰還

□主人公視点

 

 

「そうだ。木の葉に行こう」

 

 何言っちゃってるんだ、このお兄さんは。逝っちゃってるからって、なんでも無責任に発言して良い訳じゃないんだぞ。まあいい。どうせ本か何かの影響でも受けた何時もの戯れ言だろ。

 

「お茶のおかわりは要りますか? 影姉さん」

 

『ありがとう、白』

 

 やっぱりいい子だな、白は。荒んだ心がどんどん癒されてく。もう、再不斬さんなんかにくれてやるものか。ずっと私のものだ。

 

「ちょっと、無視しないでよ」

 

 私達がミナトさんを意図的にスルーしていると、騒ぎ出す。あんたは、子どもか。

 

『なんですか?』

『今忙しいんです』

『お饅頭あげるので後にして下さい』

 

「いや、和んでるだけじゃん。話だけでも聞いてよ」

 

 お饅頭は貰うんだ……。

 

『仕方ありませんね』

『今度はどんな戯れ言ですか?』

 

「ありがとう。影ちゃんの優しさに涙が出るよ。それで、本題だけど木の葉の里に行かない?」

 

『行きません』

『一人で行ったらどうですか?』

 

「そんな、つれないこと言わないでよ。そもそも、僕が君から離れられない事知っているクセに」

 

 そう。この影の能力での使役には制限があったのだ。私の使役する影となった死体(私はファントムと命名した)の可動範囲は武器や分身の生成範囲と同じ距離までだ。

 つまり、私や私の分身からは離れられないのだ。四六時中、付き纏われるなんて悪夢すぎる。

 

『……』

『以前は余計な混乱は避けたいと言っていた』

『いきなり行きたいなんて、どういう心変わり?』

 

「いやぁ。やっぱり、一目でいいからナルトに合いたくなってね。大丈夫だよ。ほら、変化していればバレないって」

 

『そういう心の弛みがいつの時代も悲劇を生むんですよ?』

 

「お願い! 父親としては、息子の成長を見たいんだ。見るだけだから、頼むよ」

 

 彼女にセッ〇スをせがむ男みたいだな。そうやってクシナさんに迫ったのだのうか? ……生々しい想像はやめよう。

 まぁ、私としてもいくら不本意とはいえ、勝手に生き返らせてしまった負い目がある。

 

『仕方ありませんね』

『見るだけですよ』

 

「ほんとに?」

 

『はい』

『分身を木の葉の里に向かわせたので、そちらに行ってください』

 

「ありがとう! 影ちゃん、行ってくるね」

 

 そう言うとミナトさんは影の中に沈んで行った。騒がしい人間が消え、一気に静かになる。

 

「行っちゃいましたね」

 

『ごめんね白』

『今回もお留守番』

 

「いえ、僕は影姉さんの側に居る事が一番幸せですから」

 

 ニッコリと微笑む白。嬉しい。素直に嬉しいんだが、内から湧き出る罪悪感が! 原作での再不斬さんと白の関係を知っているだけに、いたたまれない。すまん、再不斬さん。白は幸せにすると約束するよ。

 

『今度、2人で旅行に行こっか?』

 

「ほんとですか?わー、嬉しいな。影姉さんと旅行なんて初めてですね」

 

 

 

 十年ぶりの木の葉の里。最後に見たのは九尾が暴れた後だが、随分と復興が進んだな。

 周囲の気配を探り、人目がない事を確認し合図をする。あらかじめ、ミナトさんと決めていたものだ。変化したまま入里すればバレるだろうから、私の影の中に入っていてもらったのだ。

 合図を受けたミナトさんは私の影の中から出てくる。その姿は変化しており、私の外見と同年代くらいの黒髪の少年だ。私と兄弟といってもまずバレないだろう。写輪眼には気を付けなければならないが、この里の写輪眼の持ち主は三人。片方は額当てで隠し、もう片方は開眼すらしていない。ダンゾウさんは侮れないが、そもそも引き篭もりだから合うことはないだろう。

 

「懐かしいなぁ」

 

『感慨に浸るのは後です』

『先ずは宿を取りましょう』

 

「手厳しいね」

 

『歳上ですから』

 

 産まれたのは私の方が後だが、ミナトさんの生きていた年数よりは一つ上だ。前世も加えたら、私は四十代後半になる。

 

「そうだった。頼りにしてるよ、お姉ちゃん」

 

『はい、愚弟』

 

「相変わらず辛辣だね」

 

■ミナト視点

 

 

 長い間ずっと眠っていた気がした。深い深い。まるで海の底の様な。そんな場所から強い力に引き上げられ俺はその眠りからおこされた。

 眠りから覚めた俺を待っていたのは、一人の少女と十年後の未来だった。

 少女の話では俺は少女の影となって生き返ったらしい。話を聞いても良くわからない能力だ。忍術とは違う、どこか異質な。深く考えても分からないことだ。大切な事は、彼女の能力により俺が生き返らせられたという事だ。

 俺の魂は陰と陽に別れ、一つは屍鬼封陣で死神の下に。もう一つはナルトの中に九尾と共に封印したハズ。死体から俺を生き返らせたと言うことは、もしかしたら完全に二つに分かれたわけではなく残っていたのか。もしくは死体の情報から新しく生み出されたか。……死神からかすめ取ったのか? ……いや、コレは無いな。

 

 この力でクシナや、大切な人を生き返らせて欲しいという気持ちはある。しかし、執着により死んだ者を生き返らせるコトは良くない事だ。ソレは人の死を軽くしてしまうだろう。俺の勝手で世界の摂理を安易に崩しては成らないだろう。

 俺を生き返らせてしまったのは完全な事故だと少女は言っていた。そうだろう。もし、使うとするのならば、見ず知らずの俺よりも、きっと彼女の両親に使うハズだ。しかし、彼女が能力を使い生き返らせる事はない(※火葬してしまった為です)。

 たぶん、本質的な所で理解しているのだろう。コレは人の有様をねじ曲げる行為だと。その、大きな力を手にすれば俺ですら誘惑に負け使ってしまうかも知れない。それでも使わないのは、たぶん彼女の信念によるものだ(※自分の周りに付き纏われるのが鬱陶しいからです)。彼女が確固たる意思を持って制御するならば、俺が俺のわがままでソレを曲げてしまう事があってはならない。

 

 少女の名は天日影という。能力と同じ名を持つなんて面白い偶然だ。年齢はなんと俺よりも一つ歳上らしい。幻術かと思ったが、成長が止まってしまったようだ。一種の不老だろうか。殆ど不死のようなものだし不老不死と言えなくもない。

 とはいえ、俺の見立てによれば影ちゃんの不死性も完全なものではない。完成度の高い分身のため影ちゃん自身と見分けがつかないが、影ちゃんが怪我をすればちゃんと血も出る。分身と入れ替わってしまえば傷は無かった事になってしまうが、一撃で致命傷を負ってしまえば入れ替る事も出来ないだろう。それに影の性格を考えて、あの娘が大切にしている白という少年が人質に取られて自分だけ逃げるのは考えずらい。

 まぁ、コレは近くに居る俺だから気付けたコトだ。彼女の警戒心は野生の動物並みだから、基本人前で本体でいる事はまず無い。白と俺以外の人間が本体に近寄れば直ぐに入れ替わって本体を逃がす。

 コレも、近くで能力を把握出来る俺だから気付けたコトだが、分身との距離が遠いほど、入れ替るまでの時間がかかるらしい。

 

 影ちゃんの基礎能力は極めて高い。忍者では無いため忍術を全て捨てて鍛えてきたせいだろうか、身体能力は走力に関してはマイト・ガイ並で、チャクラ操作のセンスも悪くない。たぶん、影の操作の感覚と応用出来るのではないだろうか。いつだったか教えて欲しいと言ってきた瞬身の術を数回で会得してしまった。

 と言うか、そこら辺の忍びよりもよっぽど忍びらしい。俺が言うのもおかしな話だけど、忍びが忍ばずガチの能力で戦い合うのってどうなんだろう。自来也さんなんか、個性の塊で忍びらしい忍術を殆ど使わなかったぞ。……やめとこう。そこら辺は突っ込んではいけない領域だ。

 

 そして、影ちゃんの能力を狙ってか、執拗に影ちゃんを追い回す暁という組織。大蛇丸やイタチくんをはじめ、高い実力を持った忍者で構成された犯罪組織。あの、素直でいい子だったイタチくんが。……いや、彼の実力を考えると暗部に抜擢されていてもおかしくはない。大方、ダンゾウさん辺りがスパイとして送り込んだのだろう。

 影ちゃんを襲ったメンバーは、俺が知っている限り、角都・大蛇丸・鬼鮫・サソリ・飛段の六人だ。彼らの口振りから見て他にもメンバーがいると見て間違いない。そんな彼らの目的が何かは分からないが、もし暁が木の葉と敵対してしまった時には無事では済まないだろう。

 しかし、何故か影ちゃんは木の葉の里にだけは分身を置いていない。確かに、俺は既に退場した身であるが、元火影として、一人の父親として、里の危険をどうしても見過ごす事は出来なかった。だから本当は、俺自身影ちゃんから離れる事が出来る事を教えなかった。影ちゃんを利用する事になってしまうが、一つだけでも木の葉の里に影ちゃんの分身を置いておきたかったのだ。

 

 

 

 十年ぶりの木の葉の里には随分様変わりしてしまった。それでも、そこに生きる人の活気は俺が知っているままだった。

 クシナの墓におとずれる。この時影ちゃんから、死体が無くては生き返らせ無いという事を聞き、残念に思った自分に苦笑した。どんなに我慢していようが心の合いたかったのだ。それと同時に吹っ切れた。出来ないものは仕方が無い。クシナの分まで沢山見て、後で殴られよう。そして、話すんだ。

 ナルトを探すと直ぐに見つかった。里の子供たちをが仲良く遊ぶ姿。ナルトはそれを遠く見ながら独りで居た。

 俺は直ぐに理解した。里を破壊し沢山の死を招いた九尾。それを身に宿すナルト。災厄の悲しみは怨みへと変わりナルトに向かうのは必然だったろう。

 

『いいのですか?』

 

「ん? 何がだい?」

 

 影ちゃんが、地面に文字を書く。俺は知らばっくれるが、影ちゃんが何を言いたいのか大体理解できた。素っ気ないように見えてこの子は本当に優しい子だ。人の痛みを知っている。

 

『ナルトさんの元に行かなくていいのですか?』

『今の姿では父親だとはわからないでしょう』

『元々己に枷をかけているのは貴方自身』

『貴方の心のままに』

 

 そう。ナルトに会わないのは俺自身の弱さもある。ナルトに一人に全てを背負わせてしまった罪悪感。いい歳して本当に不甲斐ない。本当に駄目な父親だ。影ちゃんに気まで使わせてしまって。ここで引くくらいならいっそう死んでいたままの方がマシだろう。

 

「うん。ありがとう影ちゃん。行ってくるよ」

 

『後で十倍にして感謝の気持ちを形にしてください』

 

 影ちゃんの照れ隠しに苦笑する。本当に素直じゃない。感謝を形にしてしまったらきっと俺は借金地獄だ。一生返し切れないな。取り敢えずナルトと一緒に一楽のラーメンでも食べに行こうか。




~影の能力研究~
◆分身を作る
・影分身とは違い並行して思考する。
・影のある場所なら認識可能範囲内の空間で生成する事が出来る。
・分身と入れ替わる事が可能。
・距離が開くと距離により、その分タイムラグが発生する。new
・入れ替わった場合、入れ替わった先の分身のダメージ状態に依存する。new
・基礎能力は本体と同じ。
・距離の限界値は現在測定不能。大陸の端から端までは可能だった為。
◆影の変形
・武器や盾、文字にまで変形可能。強度は不明。
・影のある場所なら発生させることができる(範囲は分身と同じ)。が、逆を言えば影が無ければ発生させることは出来ないので複数の光源を生成されれば作ることは出来なない。だが、夜とは地球の影という判定なので夜に相対したらほぼ無敵。
◆影ヘの収納
・影の中に物を収納できる。生物は不可。
・本体か分身ならどこでも取り出すことができる。
・状態は収納時と同じ状態になる。
◆死体の使役(命名:ファントムnew)
・影に死体を喰らわす、正確には死体の影を喰らう事で、死体を影とし、自身の影にする。
・記憶は死亡時の時のもの。
・行動に制限はかけられないが、消滅は使役者に左右される。
・行動範囲は分身と同じ。new
◆成長の停止
・影は成長しない。

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