異界、影に生きる   作:梵唄会

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16話・その後

□主人公視点

 

 

 里に残った私は、ヒルゼンさんの葬儀に顔を出す。魂はここに無く、葬儀などなんの意味も無いが、様式美というものだ。

 お多くの人々が悼み、その死を悲しみ涙する。それだけでもヒルゼンさんの一生が見える気がする。

 私が死んだ時はどれだけの人が悲しんだろうか。昔も、人付き合いの良くなかった私だ。片手で数える程居ればいいほうかも知れない。そう考えると、ヒルゼンさんが少し羨ましくなるが、私は私だと思い直す。

 

 葬儀が終わり、気丈にヒルゼンさんの死を受け止める木ノ葉丸君のもとに行く。

 

「影先生」

 

 肩を叩くと、何時もより元気無く私の名を読んだ。

 

『木ノ葉丸君は強いですね』

 

「……なにが強いんだ、コレ」

 

『大切な人の死を受け止めても自分で居られるのは強いと思います』

 

 私は受け止めきれなかったからな。大切な人が亡くなって変わらずに居られるの人は多くない。

 

「オレはジーちゃんのあとを継ぐんだからな。こんなところで弱音なんてはいてられねーんだ、コレ」

 

 唇を噛み締めながら気丈に私を見上げる、木ノ葉丸君に私は一つの巻物を渡した。

 

「なんだこれ?」

 

『私の開発した忍術を纏めた巻物です』

 

「え?」

 

『どうか、三代目様のような立派な火影になって下さい』

 

「あ、当たり前だ。先生、急に何言ってんだ?」

 

『理由は言えませんが、もうすぐ里をでます』

 

「なんで!」

 

『ごめんね』

『けど、木ノ葉丸たちと過ごした日々は楽しかったよ』

 

 巻物を渡したのは、最後まで面倒を見る事が出来ない事への罪滅ぼしもある。どうか、変わらずに真っ直ぐに力を使える人間になって欲しい。

 私は木ノ葉丸君の頭を一撫でして、その身を翻す。

 背後で私の名を呼ぶが、決して振り返らず。私が死ななければまた会うこともあるだろう。それまでのお別れだ。

 

 木ノ葉丸と別れてから、私は家のあった場所に戻る。そこには瓦礫があるだけで私の家は無い。

 家が崩れ落ちるような戦闘があったかなと考えたが、やったのは大方自来也さんだろう。

 口寄せとかいう質量兵器で、破壊の限りを尽くしたのだ。

 

 なんだかんだ言ってもやはり此処は私の家だった。過ごした思い出がある。ここを捨てるとはいえ、壊れた姿を見るのは悲しい。

 売ると決めたゲームのデータを消す時の悲しみを数倍にした感じと言えは分かるだろうか。

 

 でも、壊れてしまったのは悲しいが、最後に過去と決別するいい機会なのかも知れない。崩れた瓦礫の中から一枚の写真を拾う。家族で撮った、小さな頃の私の写真だ。

 写真を懐に入れ、私は瓦礫の中に火を付ける。ゆらゆらと揺れながら高く登る炎はまるで鎮魂火のようだ。

 

「天日影だな?」

 

「……」

 

 しばらく無心で、絶えず形を変えて燃え上がる炎を見つめていると、パチパチと跳ねる音に紛れて狐の面をした人間が三人私の元にやって来た。

 暗部の人間か。

 

「ダンゾウ様がお呼びだ」

 

 早速やって来たところをみると、ヒルゼンさんがずっと抑えていてくれたのだろう。何から何まで本当に頭が上がらないな。

 

 私は炎から目を離し、振り返る。黙っていた私が急に動くと暗部の人達は身構える。

 

「動くな! 抵抗すれば強制的に連れていく」

 

 とって食いはしないのに。

 その過剰な反応に笑みがこぼれる。

 

 色々あったけど楽しかったな。うん、楽しいと思えていた。

 だけど、第二の故郷とも言える木の葉ともお別れだ。二度も決別できる機会を貰えたのはある意味幸運だったかも知れない。もう一度、自分と向き合う事が出来た。

 

 さて、そろそろ暗部の方々も痺れを切らしてしまうな。感傷に浸るのは終わりだ気持ちを切り替えろ。

 演出は大切だ。観客は少ないが、最後くらい私らしく消えようではないか。

 どうせこの姿に成るのは、もう暫くないだろう。せいぜい、私の幻影を追いかけてもらおう。

 私は静かに笑いかけ、後ろに大きく飛ぶ。

 

「なっ!」

 

 空中で影化すると、ゆらゆらと揺れる炎の強い光にかき消されるように私の身体は消えていく。まるで炎に呑み込まれている様だろう。そして、最後に残るのは炎だけだ。

 

 

 

 時は変わり、次郎坊、鬼童丸、左近、多由也。音の四人衆を捕獲した私は、取り敢えず石の里に連れて来るために戻っていた。

 大蛇丸の首は、暁に持っていくため分身をつくり直接アジトに向かわせた。

 

「死ね、糞ガキ」

 

 里に戻ると早速再不斬さんが襲ってくる。飛雷神の術を使い同時に首斬り包丁で斬りかかってきた。私は動揺しつつもそれを表に出さず影化(カゲカ)の術でそれをかわす。

 影化の術は分身体のみの技で、文字通りその身を影にし、物理攻撃を無効にする技だ。強い光のある場所で使うと消えてしまううえに、物理攻撃しか無効に出来ないので余り使い勝手の良い技とはいえない。

 この技の特性だけみると、私はまるでRPGに出てくるようなゴーストみたいだな。

 

 それよりも、再不斬さんが飛雷神の術を使ってきた事に驚きを隠せない。単純に言えば、飛雷神の術はマーキングの施した場所に時空間忍術で瞬時に移動する、まぁ口寄せみたいなものだ。

 だが口寄せと違い、スキを無くすために色々な過程を省いているため、術の難易度が殆ど術者に依存する。ミナトさんがぽんぽん使っているから簡単そうに見えるが、極めて複雑なチャクラ操作と知識を必要とするのだ。

 再不斬さんはチャクラコントロールとか知識とかそういうのは苦手なイメージがあったが勝手な思い込みだったようだ。人を顔で判断してはいけないという良い教訓だ。

 よくよく思い返してみれば、強い人って美形かキワモノのどちらかなんだよなぁ。

 

「チッ。相変わらず亡霊みてぇな野郎だ。さっさと成仏しとけ」

 

『野郎ではありません』

『一応女です』

 

 サイレントキルに磨きをかけた再不斬さんが物騒な事を言う。一応真実にカスっているところが恐ろしい。

 しかし、最早生き汚いのは私の専売特許である。私以上に生き汚い人は大蛇丸かうちはマダラくらいだと思う。

 

『それよりも、喜んで下さい』

『今日は再不斬さんのお仲間を連れてきました』

 

 私がそう言うと、再不斬さんは私の後ろにある黒い球体から顔を五つ出した影ダルマに視線を移し、憐憫の表情を浮かべた。

 

「……哀れだな」

 

「……」

 

 客観的に見たら哀れに見えるかも知れないが、真実が見た目と反するのはよくある事だ。この子達にとってこれは幸せなことなのだ。と、思いたい。

 

『では里長から直々の命令です』

『子ども好きなミナトさん補佐官の再不斬さんは、ミナトさんと一緒にこの子達の面倒を見てください』

 

「よろしくね」

 

「……おい。俺はいつからコイツの補佐官になったんだ。それと、てめぇはいつからソコに居た。最後に俺はガキが大ッ嫌いだ。特にてめぇみたいなガキはよぉ!」

 

 額の血管が浮き出て今にもはち切れそうだけど大丈夫だ。これは何時もの再不斬さんのツンデレだから問題ない。

 私はその言葉を了承と受け取った。

 言葉ではああ言っているがちゃんと最後まで面倒を見てくれるだろう。

 

『やる気満々ですね』

『よろしく頼みました』

 

「おい、聞け糞ガキ」

 

「だから糞ガキじゃなくて、里長か卯月様って呼ばなくちゃ。ほら行こうか」

 

「やめろ! まだ、話は終わってねぇ。おい、離せ!」

 

 里の運営に関しては頭の八割りを麻痺させているから、彼らが何をやっているか私は良く理解出来ないが、彼等なら何も心配はいらない。私が出来ることは、仕事を持ってくることと、里を維持する為に細かいアレコレをするだけ。

 なるほど。コレが手を離れたナルト少年の成長を見たイルカさんの気持ちか。確かに胃がキュッとなるね。

 

 

 

 同日、分身で別れた私は大蛇丸の首を持って、暁のアジトにやって来た。

 

『裏切り者の首』

『私が入る前のだけどね』

 

「ッ! 大蛇丸を殺ったのか。……ご苦労」

 

 暁のアジトにいた小南さんに、大蛇丸の首を見せる。

 人の生首を、しかも大蛇丸の首を持ちながら移動するというのは、なかなかSAN値のすり減る行為だった。まだ私は正気だろうか?

 

 大蛇丸の死を確認した小南さんは驚きを見せたが、私が殺せるとは思っていなかったのだろうか。

 この任務は実力を測るという側面も含まれていたのかもしれない。私には表立った実績も肩書きも無いしこの外見だ。調べたくなるのも当然だろう。

 

 これで死ぬ様ならその程度の人間は暁に必要無いし、失敗してもターゲットは大蛇丸という大物だ。あわよくば、裏切り者の首が取れれば良かったということだろう。

 

「へぇ、コレが大蛇丸」

 

「……」

 

 大蛇丸が抜けた後に加入したデイダラ君が呟く。興味深げに生首を持ち上げたので、私はその手を影で叩き落とした。

 余り死んだ者を見世物の様に扱うのは好きじゃない。

 

「何すんだよ」

 

『手が滑りました』

 

「ああん? 喧嘩売ってるのか? 滑ったのはてめえの気色わりぃ触手だろうが」

 

『別に』

 

「調子にのってるね。うん」

 

「やめておけ。餓鬼か」

 

「チッ」

 

 サソリさんがたしなめると、舌打ちしながらも素直に引く。

 ここでデイダラ君が暴れればアジトに被害が及ぶ。独人爆撃機(ヒトリバクゲキキ)(私命名)の名は伊達では無い。

 

『イタチさんと鬼鮫さんは?』

 

「九尾の人柱力です」

 

 成程。木の葉の里か。

 今木の葉の里には私の分身が無いからどうなるか、少し不安だ。撤退するのを少し早まったかも知れない。

 

『鬼鮫さんか』

 

「何か問題でも」

 

『あの人は隠密に向いてない』

『完全に人選ミスでは?』

 

「……ふむ」

 

 顔、忍術、性格全てに置いて鬼鮫さんは戦闘特化型だ。

 と言うか、暁で隠密が出来るような人はイタチさんと小南さんと私と、能力的にゼツくらいだ。そう考えると、ここのメンバーはみんな濃すぎるな。

 

「では、念のためお前もフォローに向かってくれ」

 

『はい?』

『人選ミスではありますが、フォローの必要な人達でもないだろう?』

 

「念のためだ」

 

「……」

 

『分かりました』

 

「完全にやぶ蛇だったな。うん」

 

『デイダラ五月蝿い』

 

 なんだかやたら絡んで来るんだよな、デイダラ君。見た目の年下で暁に加入した日も近いから下に見られて居るのだろうか? 大蛇丸を倒したといっても、デイダラ君には大蛇丸の実力は分からないし。

 

 まあ、デイダラ君の言う通りやぶ蛇だったかも知れない。大蛇丸のフォローもしないといけないし暇じゃないんだけどな。

 ストレスで禿げなきゃ良いけど。

 

「そう言えば、ゼツを最近見かけませんが知りませんか?」

 

「……」

 

『さて?』

『分かりかねます』

『あの人がフラフラしているのは何時もの事だ』

 

「……そうですか」

 

 急に聞かれたので心臓が跳ねるが、それを顔に出さないように冷静を保つ。不審なところは無かったよね。私が不審なのは何時もの事だけど。

 

『では、行ってきますね』

 

 

 

 とはいえ、イタチさんたちが任務失敗する事は分かっている。最初からイタチさんに任務遂行する気が無いしな。

 形だけでも向かうのは以外とめんどくさい。それに、せっかくカッコ良く消えたのに、記憶に新しい内から舞い戻って来るなんてカッコ悪い。なんて言うか、締まらないよね。

 私の外聞の為にも絶対にバレる理由には行かない。

 

 取り敢えず、天日影Ver.青年に変化し木の葉の里に侵入し、取り敢えず原作で戦闘があった池の場所に向う。

 戦闘の形跡があったところを見ると、どうやら木の葉の上忍との戦いは終わってしまっていたらしい。

 これで、イタチさんたちが撤退済みだったらただの間抜けだな。何の為に恥ずかしい思いまでして木の葉に戻ってきたのだか。

 

 本当に戦闘が合ったのなら、カカシさんが入院している筈。撤退済みならばサスケ君も入院しているだろう。

 病院に入り、どうか入院していませんようにと願いつつ、私は看護師にサスケ君の病室を聞いた。しかし、私の願いは届かず、既にサスケ君はイタチさんにやられてしまったようだ。

 一応、サスケ君の病室に向かい確かに入院していることを確認した。

 

 いったい何の為に来たのだろうか。

 あ、そう言えば、カカシさんにイチャイチャパラダイスを返すのを忘れていたなと思い、カカシさんの病室に向かう。コレを返しに来たと思えば完全に無駄足じゃなかったな。

 感想などを手紙にしたため、イチャイチャパラダイスに挟みカカシさんの枕元に置いておく。

 

 もう、イタチさんたちも居ないし帰るか。

 ついでに、短冊街に寄っていくかな。大蛇丸が居なくなった影響も少し気になる。


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