異界、影に生きる   作:梵唄会

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15話・木の葉崩しと

□主人公視点

 

 中忍試験本戦当日。一回戦目は原作と違い、最初からシカマルくんとテマリちゃんだった。テマリちゃんは私をチラッと見て、その瞳に悲哀の感情を映すが、直ぐに試験に意識を戻した。

 結果は同じようにシカマルくんがテマリちゃんを捕えるがチャクラの限界かリタイアをし、テマリちゃんの勝利で終わった。

 

 ナルト少年とネジ君の戦いは、九尾のチャクラを纏ったナルト少年が試合を押し戻し、最後はナルト少年の十八番、影分身を駆使して勝利をおさめた。

 影分身を多用し、その無尽蔵なチャクラと瞬間的な閃きは目を見張るものがある。

 

「あ、師匠、来てたんだ。へへっ、見てた俺の勇姿」

 

『おめでとうございます』

『恰好よかったですよ』

 

「そうかな? 俺ってば、かなりイケてる感じ?」

 

『はい』

『イケイケだと思います』

『相手の子は凄い子だったのですよね?』

 

「まーね。でも、今回は俺の方が強っ、イテッ! 何すんのサクラちゃん」

 

「ナルト! あまり調子に乗るな。それで、この綺麗な人誰? あんたの知り合い?」

 

「あ、サクラちゃんは知らねーのか? 里で屋台やってるねーちゃん。俺のエロ忍術の師匠だってばよ」

 

『ちょ』

『何でバラしちゃうんですか!』

 

「アレ? 言っちゃ駄目だったっけ?」

 

 いきなりナルト少年が私との関係を曝露する。どう考えても、初対面人の紹介にエロ忍術の師匠は駄目だろう。

 普通の人間なら百パーセント悪意のある発言だが、ナルト少年だからそんなものは無いだろう。

 

 今まで遠慮する様に私を覗いていたサクラちゃんの目が百八十度変わり、ナルト少年と同じ者を見るような目に変わった。

 

「へー。アンタがナルトにあんな術を教えた変態……」

 

『誤解です!』

『私はナルトくんのお色気の術がお粗末だったので少しアドバイスしただけです』

『決して私が教えたわけじゃ』

 

「……へぇ」

 

 何故だろう。納得して貰えるどころか、弁解をする事に、サクラちゃんの私を見る目がキツく成る。今ならナルト少年の気持ちが分かるよ。

 コレは辛いね。

 

「エロ忍術の師匠ね。コレは言えないわな」

 

 ウオオオオオオアアアアアアアアアアアアアーーーーーッッッッ!

 連鎖的にカカシさんにまでバレてしまった。というか、何故カカシさんがここにいるのだ。

 ……そうか! サスケくんへの呪印を防いだから、チャクラコントールが乱されずに原作より早く修行が終わってしまったのか。

 之ぞ正に因果応報というものなのか。

 コレなら正体がバレた方が良かった。私の知的な謎の美少女のイメージがガタ崩れである。

 

「コレ貸すよ。良かったら後で感想聞かせて」

 

「それってば、カカシ先生のエロ本じゃん!」

 

「きも」

 

「……」

 

 私はカカシさんから無言でイチャイチャパラダイスを受け取る。一度の過ちで、ここまで貶められるのは間違っていると思う。

 というかエロ本の貸し借りは男子同士でやって欲しい。決してその輪の中に女の子を入れるのは違うと思う。

 その同士を見るような目は止めろ。

 

「先生、サスケ君は?」

 

「ん? 今頃控え室に居るんじゃない?」

 

 話題はサスケくんの話に変わる。コレはサクラちゃんの慈悲だろうか。

 控え室に居るということは、ちゃんと階段を使って入るのだろう。観客席から飛び出るのは、普通じゃないしね。

 

 予定通りなら、そろそろ木の葉崩しが始まるはずだ。サスケくんの試合が始まる前に仕事に戻るか。

 今の私は売り子スタイル。クーラーボックスを首から下げて春巻きのように巻いたクレープと飲み物を売り歩く。

 

『では、そろそろ仕事に戻りますね』

 

「そういえばあんた、クーラーボックス担いでいるわね。何売ってるの?」

 

 仮にも歳上なのに、あんたって。私如き、あんたで十分か。何せサクラちゃんにとってはただの変態女だし。フフッ。

 

『クレープですよ』

『甘くて美味しいです』

『サクラちゃんも、お一つ如何ですか?』

 

「クレープ? あぁ、いのが何か話してたけどコレが」

 

『今回は売り歩きように改良しました』

 

「へぇ。一つ貰おうかしら」

 

『まいどー』

 

 お金を受け取りクレープを一つ渡すと、サクラちゃんは早速口に入れた。  クレープを食べたサクラちゃんは「変態でもこんなに美味しいものが作れるのね」と呟いていたが……。うん、悪意は無いよね。ごめんよ、変態で。ううぅ……。

 

 サクラちゃん達から離れて売り子を続けて直ぐに、サスケくんと我愛羅くんの試合が始まった。

 歓声に沸き上がる会場。まぁ、コレも娯楽の一つと言うことなのかもしれない。

 クレープはもう、売れそうに無いので仕舞う。私も少し見学するかな。

 

 

 

 我愛羅くんの暴走を期に木の葉崩しが始まった。幻術で会場の人間を眠らせて、風影に扮した大蛇丸がヒルゼンさんと一緒に会場から離れていく。

 予定通り屋根の上に飛んで行った。

 私は木の葉崩しが始まったと同時に、あらかじめ屋根の上に固定したマーキングの施してある袋から分身を作る。速やかにその袋を捨てると、瓦に変化して外していた瓦のあった場所に身を隠していた。

 

 影の無い昼間の屋根の上では足でまといにしか成らない。それに、ヒルゼンさんとの二対一だとまた大蛇丸が逃げ出してしまうかもしれない。

 心苦しいが確実性をきすには最後のあの瞬間まで待つしかない。

 

 戦いが始まり先に仕掛けたヒルゼンさんの手裏剣影分身を三つの棺が防いだ。盾に使うなんて罰当たりだと思ってしまうのは私が忍びでは無いからだろうか?

 ヒルゼンさんは三つ目の棺が開くのを阻止するが、一代目と二代目の穢土転生を成功させてしまった。

 これが千手柱間か。こんなに間近で見るのは初めてだが、流石初代忍びの神の威圧感は凄まじい。というか踏まれている。間近過ぎる。手裏剣影分身も当たりそうでヒヤヒヤしたし潜む場所を完全に間違えてしまった。

 

 そういえば、確か柱間さんはマダラさんと同格だった。ヒルゼンさんは確か歴代最強らしいから、全盛期はどれ程凄かったのだろうか。

 老いても尚、四代目が死んだ時に他の忍びを差し置いて再び火影の座に付くくらいなのだから忍びの神の名は伊達ではないのだろう。

 

 大蛇丸が柱間さんと扉間さんの意思を奪うと威圧感が消えた。

 意志一つでここまで変わるものなのか。正直、先程までの怖さは消え去った。

 

 戦闘が始まると土遁、水遁、木遁、口寄せ、影分身。凄まじいスピードでの応戦。戦況は目まぐるしく変わり、追い詰められたヒルゼンさんはついに屍鬼封陣を使ってしまった。屍鬼封陣により、崩れさる一代目と二代目。

 分身体で成功するという事は、影分身は魂も分割しているという事か? そう考えるとナルト少年が気軽にバンバン使っている影分身だが、少し怖い術のように思えてくる。

 

 屍鬼封陣を使い衰弱したヒルゼンさんを見て、チャンスと見たか、大蛇丸は突撃した。しかし、屍鬼封陣の謎の効力により大蛇丸は捕らえられることになる。

 

 あの後ろには死神が居るのだろうか。一度転生している身としては輪廻の輪から外れるのは怖い事だと思う。

 

 大蛇丸は最後の足掻きとして草薙の剣を呼び寄せる。術が使えないからコレは草薙の剣の特性なのだろう。

 私は変化を解くと、ヒルゼンさんに向かい飛んでいく草薙の剣を影の盾で防いだ。

 そして、そのまま私は動けない大蛇丸の胸を影の刃で貫いた。

 

「なん……だと……」

 

『ごめんなさい、大蛇丸さん。個人的な恨みはありませんが私のエゴの為に死んで下さい』

 

「ぐそ……がァ! こん……なところ……で」

 

 最後に息絶えた大蛇丸の首を切り落とした。長い付き合いだったが呆気ない最後だった。

 私は大蛇丸の死を確認し、ヒルゼンさんに向き直る。

 

「お主か」

 

『やはり、分かりますか』

 

 今の私は本来の姿で、しかも何時もの面まで付けている。それでも私が天日影だということは分かるらしい。

 

 きっと最初から怪しいと思いつつもずっと泳がされて居たのだろう。

 何故捕らえようとしなかったのかは分からないが、流石に忍びの神とまで謳わられた歴代最強の火影の目は誤魔化せなかったようだ。

 

「お主の意図は計りか兼ねていたがこれが目的だったか」

 

『はい』

『大蛇丸が木の葉の里を狙っていた事は分かっていたので』

 

 本当はナルト少年を見に来ただけだけど。大蛇丸の事ならば、中忍試験に紛れて来ればいいから。

 

「ワシらに話す事は出来なかったのか?」

 

『話して上手くいったかも知れませんでしたが、火影様はお優しい方なので』

『しかしどちらにせよ、最早過ぎた事です』

 

「……色々言いたいことはあるがの。最後にお主の本当の目的を聞かせて貰えんか? 何、どうせ死にゆく身。話してもお主の計画に支障はあるまい」

 

「……」

 

『やはり屍鬼封陣は失敗しても魂は持っていかれるのですか』

 

「屍鬼封陣も知っておったか。術はまだ失敗してはいない。死して尚大蛇丸の魂を掴み続けている。この術は発動したが最後、術者に逃れる術は無いよ」

 

「…………」

 

『そうですか』

 

 私はヒルゼンさんに目的の全てを話す。

 忍びという生き方に全ての人生をかけ、役目を全うした一人の男へのせめてもの手向けだ。私の目的も一緒に冥土に持って行ってもらおう。

 

「……そうか。修羅の道よの」

 

「……」

 

「勝手な願いかもしれんが、どうか火の意志を絶やさんでくれ」

 

『それは、私如きに消せるものではなく、時が決めること』

『しかし、貴方の意志は私が覚えておきましょう』

 

 火の意志とは即ち愛。人から愛は決して奪う事は出来ない。

 

「……そうか。そうじゃな」

 

『どうか安らかにお逝き下さいますよう』

 

「うむ……。さらば!」

 

 むんっ! という、一声と同時にヒルゼンさんは最後の力を振り絞りその身に封印術を行う。

 その魂は死神の中に縛られ続けるのだろう。この一人の老人の死に様はまさに動乱の時代を生きた忍びの最後といえよう。……これが忍び、いや、火影か。

 

 大蛇丸の部下は結界を解きがコチラに来る。私は最後にヒルゼンさんの瞼を下ろすと大蛇丸の首を取りミナトさん直伝の瞬身の術で離脱をはかる。

 頭だけだから、どうなるか分からないが、影の中に入れると復活する恐れがある。一時とはいえそれは嫌だ。

 

 というか、大蛇丸の部下は何故追いかけて来るのか? 確かに止めを刺したのは私だが復讐する程忠実な部下では無かったハズだ。いまさら、頭だけ取り返したところでどうにも成らないはずだ。

 暗部の方々は逃げた私達を深く追わずに、ヒルゼンさんと里の対応にまわることにしたようだ。

 

『いつまで付いてくるつもりですか?』

 

 里を出て暫く走り続ける。数キロ進んだところで私は立ち止まり振り返った。

 

「うるせぇ! てめぇ大蛇丸様を殺しやがって」

 

『復讐ですか?』

『そこまで大蛇丸に忠誠を誓っているわけでは無いでしょう』

『呪印による束縛もまた、大蛇丸が死んだ今無くなっているハズです』

 

「……」

 

『自由になったのだから好きに生きれば良い』

『死に急ぐ事は無いでしょう』

 

 立ち止まった時に身体にまとわりつかせていた影を硬化させ、同時に喉元に影の刃を突き付ける。

 たとえ、四人だとしても森の中で大蛇丸の部下に遅れをとるつもりは無い。

 

「クッ……」

 

『返事の前に動いたら殺します』

 

「影ちゃんは物騒だな。未来のある子どもたちなんだから、うちの里に来てもらえばいいじゃない」

 

「……」

 

 何時から見ていたのだろうか? いつの間にか自然に隣に立っていたミナトさんが唐突にそんなことを言い出した。大蛇丸の部下も突然現れたミナトさんにビビっている。

 

 ミナトさんの里のようなものだしミナトさんがそうしたいと言うなら好きにしたらいいか。うちの里は、どうなっても私のせいじゃない。成るようになれ。

 それに、この子達の事は、大蛇丸を殺した私の最低限のケジメでもある。

 

『そうですか』

『ミナトさんがそうしたいならそうしてください』

 

「うん」

 

「てめぇら勝手に何言って……うわっ、やめろ!」

 

 私は影で彼等四人をのみ込む。今度は頭を出す事を忘れない。空気が吸えないからね。

 私の影に飲み込まれ、頭だけ出した彼等はまるで黒い雪だるまだ。

 

『折角自由になれたのに』

『ご愁傷様です』

 

「ふざけ……」

 

 私は哀愁を込めて彼らを見る。罪悪感が出てしまうので、彼等が何かを言う前に頚動脈を締めて意識を奪った。

 

『行きましょうか』

 

「……影ちゃんも結構鬼だよね」

 

『? 痛く無いですよ?』

 

 別に酷い事はしていないと思う。寧ろ痛みも後遺症も無いから優しいだろう。

 

 里に戻った後は大蛇丸のアジトに行って実験体を開放するか。そういえば君麻呂くんも残っているんだ。確かあの子は大蛇丸信者だから私が大蛇丸を殺した事を知れば絶対怒るだろうな。

 それに、カブトさんも居るんだ。あの人も大概大蛇丸スキーだから私を狙うんだろうな。

 まるで蛇の呪いだ。死して尚私を苦しめるとはやりおる。

 まあ、なる様に成るし、なる様にしか成らないか。そこら辺はひとつひとつ片付けていこう。

 

 取り敢えずは一段落付いた。そろそろ、今度は私の計画の為に大きく動く時だろう。もう、私は止まらない。この世界にいい様に弄ばれてたまるか。


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