異界、影に生きる   作:梵唄会

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10話・成長と変化

□主人公視点

 

 

「おい、糞ガキ。金を寄越せ」

 

 朝から物騒な顔で物騒な事を言い出すこの男、桃地再不斬。つい先日石隠れに仲間入りした新入りだ。

 

『無い袖は触れないという言葉知ってます?』

 

「ああ?」

 

『うちにはお金が無いということです』

 

「てめぇ、騙しやがったな」

 

『騙したとは人聞きが悪いです』

『うちは完全歩合給制になっていますので』

『頑張って一緒に稼いでいきましょうね!』

 

 少女の胸ぐらを掴みながら怒鳴り散らす極悪面の男と、胸ぐらを捕まれぶらぶらと揺れる可憐な少女。どう見ても通報モノだと思う。

 

「糞がっ! 付き合ってられるか」

 

『何処に行くんですか?』

 

「辞めるんだよ」

 

 再不斬さんは私をそのまま放り投げる。美少女が態と受身を取らないで、尻餅をつき保護欲を誘っているのに無視するなんて、再不斬さんには人の心が無いらしい。それともやはりあっちの気が? いや、白が好きならノーマルか。

 

『あーあー、折角再不斬さんの目的の為にうちの里から何人か貸してあげようと思ったのになぁ』

 

「……」

 

 ぴくりと止まる、再不斬さん。流石に今のは聞き逃せなかったのだろう。

 

『まー、いいんです』

『どうせ』

 

 この鬼教官からは逃げられまい。

 

「あれー? 桃地くんドコイクノ?」

 

 私とお揃いの兎のお面をかぶったミナトさんが再不斬さんの肩を叩く。勿論事前に気配を消して。

 

 ミナトさんは石の隠れ里で教官をしているのだが、他にやる事が無いからなのか、かなり熱を入れて仕事をしている。いや、ミナトさんには給料は無いから仕事ではなく趣味みたいなものか。

 以前、少数精鋭と言ったが正しくその通り。波風ミナトの指導のもと総勢23名が日々鍛錬に励んでいる。

 最初の頃は頑張っているな、と思っていたがミナトさんの要求の幅はだんだんと広がり、今では全員で螺旋丸の習得が合格ラインだ。何人かは既に第三ステップまで入っている。

 ミナトさんは、

 

「木の葉の里には個性的な忍びしかいないからね。僕が教えた子たちは最初から忍びの形が決まってしまっていたから。それに対して、石の里の忍びは良い意味で無個性だ。教えるのが楽しくて仕方ないよ」

 

 と、イイ笑顔で言っていた。

 確かにミナトさんの教え子たちは個性的だ。リンさんの事は知らないが、オビトさんにカカシさん。確かに一癖も二癖もある人たちだ。一番、タイプの近かっただろうカカシさんも写輪眼を手にし、今ではコピー忍者はたけカカシだ。

 ミナトさんの様なタイプの忍びは、誰もいない。確かにそれは残念な事だろう。しかし、だからといってやり過ぎだと思う。

 いったい彼らは何処を目指しているのだろうか? 最終的にはミナトさんみたいに、常に瞬間移動で撹乱しながら、変態的な動きで敵に迫り、螺旋丸でトドメを刺すイヤラシイ忍びが量産されると思うと、……笑えない。

 私は心の中で彼らをミナト軍団と呼んでいる。最早、ミナトの里だ。

 先程再不斬さんが私の言葉に反応したのはこの為だ。金で下手な忍びや有象無象を雇うより余程戦力になる。

 初めて再不斬さんが、里に来た時に修行風景を見て、若干引いていたのを覚えている。分かるよ。私もドン引きしているから。

 

「ほら、桃地くんは遅れて入ったんだから、みんなより頑張らなきゃ」

 

「クソッ! てめぇ、この糞ガキ。極悪兎コンビが! 謀ったな!」

 

「ダメだよ。糞ガキじゃなくて、ちゃんと卯月様と呼ばなくちゃ」

 

 ミナトさんに引き摺られながら連れて行かれる再不斬さん。私には彼がこの先どのように成るのか想像もつかない。

 ただ、私が出来ることは彼の無事を祈る事だけ。

 ――どうかご武運を。かくあれかし。

 

 因みに、卯月様というのは里での私のコードネームだ。兎から卯。そしてに瞳の色から月を連想して、合わせて出来たのが卯月。流石ミナトさんだ。良い名前を付けてくれる。

 

 

 

 木の葉の里では最近、ヒルゼンさんに頼まれて、忍びの子どもたちにチャクラ文字教室を開いている。

 とはいえ教えることとは書く時のコツと子どもたちを見ながら駄目なところを指摘するだけだ。昔、書道もやっていたから綺麗な文字の書き方も教えられる。

 大変なのはやはり子どもというだけあって、忍びの卵でもじっさせて同じ事を教えるのは大変だ。むしろ忍びの卵だけあって元気も普通より有り余っている。希望制で希望した人だけ来ているから目立ってやる気のない子はいないのは流石だ。小さいと言って馬鹿には出来ない。

 

「てかさー、字上手く書けても強く成るのか? コレ!」

 

 中には例外もいるが。大方、エビス先生かヒルゼンさんに言われて来ているのだろう。

 

『うーん』

『先生は忍者じゃありませんし、強いわけでは無いのですが』

 

 そう言って、先日貰ったクナイを懐から取り出す。左手で持ち刃を上に向ける。

 

「それがどーしたんだ。上手く投げられても関係無いぞ!」

 

『いえ』

『見ていて下さい』

 

 ――セイッ!

 心の中で息を吐き、右手で手刀を振り下ろす。普通なら手の方が切れるだろうが、逆にクナイがキュイィィィンッ! という甲高い音を立てて切断された。

 感覚ではなく、一から十まで操作して螺旋丸を使える様になった私には容易な事だ。

 

「スッゲー!」

 

「「……」」

 

『しっかりとチャクラ操作を覚えれば、私でも簡単にこんな事が出来ます』

『他にも沢山忍術が使える様になったり、術も強力になる利点があるらしいです』

『何事も基礎が重要なのですよ』

 

 興奮する木ノ葉丸くんとは逆に周りは静まり返ってしまった。これでは授業にならないな。

 

『では今日はここまでにします』

『気をつけて帰って下さいね』

 

 教室が終わると子どもたちは静かなまま帰っていった。

 一人を除いて。

 

「さっきのどうやったんだ、コレ!」

 

 難しい事はしていない。少量のチャクラを極小さい面積で高速縦回転させただけだ。

 木ノ葉丸くんは下忍時に影分身、螺旋丸、大玉螺旋丸、手裏剣影分身などの技を短期間で覚える天才だ。とはいえ、扱うにはまだ難しいだろう。

 チャクラの形態変化の基礎から覚えなくてはいけない。

 

 ふと思ったのだが、歴代最強の火影と言われた猿飛ヒルゼン。幼いながらに複数の高難易度忍術を使いこなし、ペインの一人とも渡り合う猿飛木ノ葉丸。

 そして、猿飛アスマ。何も言うまい……ここら辺は木の葉のブラックボックスだ。

 

『そうですね』

『教えてあげるのもいいのですが辛い修行になりますよ?』

『先生も出来るようになるまでに十数年かかりました』

 

「望むところだ。火影に成るのに近道なんて無いんだぞ。コレェ!」

 

『そうですか』

『では、一緒に来てください』

 

 その言葉の裏を知る私は自然と頬が緩んでしまう。私は頑張る全ての子どもの味方だ。優しく、木ノ葉丸くんの頭を撫でてあげる。

 

「アレ? 影先生。今お帰りですか?」

 

『はい』

『イルカ先生も?』

 

「えぇ。あ、もし良かったら、こ、この後お食事でもどうでしょうか?」

 

『申し訳ありません』

『木ノ葉丸くんと用事がありまして』

 

「そうですかぁ……」

 

「残念だったな、イルカ先生。影先生は簡単にゲットなんて出来ないぞ」

 

「な、な、な、何を言ってるんだ木ノ葉丸!」

 

「ヘッ! じゃーな、イルカ先生!」

 

「こら、待ちなさい!」

 

 項垂れていたイルカさんは、木ノ葉丸くんに何かを言われて動揺する。いったい何を言ったのだろうか?

 木ノ葉丸くんは笑いながらイルカさんの言葉を無視して、私の手を引いて走り出した。

 一連の流れを理解出来ないが、取り敢えずイルカさんにお辞儀をして木ノ葉丸くんと一緒にアカデミーを後にした。

 

 

「何だ? コレ!」

 

 木の葉の外れにある林に来ると、私は水風船を膨らませて、木ノ葉丸くんに渡す。形態変化の修行法なんてこれしか知らない。

 そう考えると、習得する過程で段階的に忍びとして成長できる螺旋丸は実に合理的な技だと思う。

 

『見ていて下さい』

 

「ん?」

 

 私は左手で水風船をもちチャクラで回転させる。だんだん平ベッたくなり最後には、パンッ! と音をたてて破れた。

 

「おお!」

 

『アカデミーで習ったかも知れませんが、今のような行為を形態変化というそうです』

『先ほどクナイを切った技を使うには、この形態変化を自在にこなせるように成らなくてはなりません』

『水風船が割れないようでは習得は遠いですよ』

 

「よっしゃー! 速効でわってやるぞ! コレ!」

 

 うおおぉ! と叫びながら、パチャパチャという音をたてて水を回し始める。螺旋丸はナルト少年が教える技だからやめておこう。

 

『回転以外の方法で割っても良いですが目的は割ることでは無いということを覚えていて下さいね』

 

「分かってる! ううぉぉあぁぁいっ!!」

 

 流石猿飛の血をひいているだけあってチャクラの形態変化には見張るものがある。この分だと今日中に割ってしまうかもしれないな。

 もしかしたら中忍試験の時のナルト少年を超えてしまうだろうか? いや、ナルト少年には九尾と、私の中ではこの世界で最高の指導者である自来也さんが付いているのだ。大丈夫だろう。


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