俺とアストルフォの第四次聖杯戦争   作:裸エプロン閣下

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まずは謝罪から。
・二月以内とは言いましたがギリギリになりました。
・今回戦闘シーンがかなりくどいです。
・本編がちょっと短いです。ていか番外のほうがちょっと長いです
ごめんなさい。



めちゃめちゃ痛ぇだろ? 生きてるって実感してるか? byランサー +番外編

 衛宮切嗣は、己が拠点に使っている安ホテルの一室で煙草を吸いながらいかに動くか考える。

 少なくとも拠点の爆破はもう使えない。さすがにこれ以上は教会が介入してくるだろう。科学技術を用いたもので神秘の流出が無いとはいえ、第二次のようにルール無用の殺し合いと化することは誰も望まない。それにもし何らかの手段で切嗣――アインツベルンの仕業だとばれてしまえば全マスターを敵に回してしまう。切嗣としては乱戦状態にして人質なりなんなりでマスターを始末することが狙いであり、そのために穴熊を決め込むケイネス及び遠坂を爆破したわけだ。間桐は疑いを向けるために避け、そして予想した通り潔白を示すために間桐雁夜は拠点から出てきた。

 適度に挑発し理性を失わせた後に奇襲、と言うのが切嗣の考える作戦である。しかし遠坂はあくまで拠点に固執するらしく、協会から手配されたらしい空家へ向かったがアサシンと交戦、数十分で廃墟と化し、再び新たな拠点を探しに行ったとのこと。一方ケイネスは同じく時計塔講師のシンヴェルと同盟を組もうとしているらしい。彼の強化にケイネスの魔術師としての腕前が加わった工房となると一筋縄ではいかない。そういう時はやはり周囲丸ごと爆破してしまうのが一番楽だが前述したとおり、その作戦はもう使えない。

 しかし他に手段がないわけでもない。例えば――大型トラックを全速力で突っ込ませる、など。衛宮切嗣にとって戦の美学――騎士道などなど糞の役にも立たない。勝てる手段があるならばいかなる手段でも実行する。それが全人類の救済に繋がるのならば、妻の犠牲すら厭わない。

 

 

 ※※※

 

 

 衛宮切嗣が思案する最中、遠坂時臣は森の中を歩いていた。

 今から数時間前、時臣は教会から手配された空家に到着、体を休めようと中へ入ると居間に居座る雁夜がおり、そこで口論の末戦闘に入った。戦闘自体は所詮落伍者の雁夜に、強いと言ってもアサシンのサーヴァント。難なく蹴散らすことには成功したがせっかくの家も戦闘(というより、セイバーの所為)で半壊。壁は壊れ、床は吹き飛び家具は粉々。屋根も六割以上吹き飛び、雨風すら防げない廃墟と化した。

 

 それに対して涙を流しつつも新たな拠点を探そうと時臣が向かった先は、アインツベルンである。ここ冬木で拠点が知れているのは遠坂邸(故)と間桐邸、そしてアインツベルンの城で三つ。距離からすれば間桐の方が断然近いのだが、間桐の邸宅は『優雅』というものを感じさせず、なにより桜がいるため却下した。

 

 それから車で小一時間ほどでアインツベルンの森へ到着、現在攻略中でもはや星も出ている状態だ。万全な状態で挑む時臣が[対魔力]Aのセイバーがいるとは言え、真夜中に碌な礼装も宝石もない状態でアインツベルンへ向かうなど平素の状態ならば絶対に犯さない愚だが、立て続けに起こる不測の事態で少々参っていたのだろう。幸いなことに攻略は順調であった。

 

「なあ、城ってまだかよ?」

 

 少し前に立つセイバーが乱暴に剣を振りながら五度目となるセリフを告げる。時臣はまだだ、と告げてあとは一切無視する。長い時を掛けて丹念に張られた強固な結界も、全てを切り裂くデュランダルの前には紙切れ同然。当初その光景には実行させる時臣も思うことがあったが、今ではそのような気持ちはない。

その原因は時臣が手に持っている物で、長方形で下部に地面に突き刺すように二本の棒が点いていた。俗にいう『クレイモア』である。

 

「まさかアインツベルンが、こんな物に頼るとはな……」

 

 苦々しい顔でクレイモアを見つめる。巧妙に隠されたクレイモアを見つけた時、冬木ハイアット・ホテルと遠坂の歴史が詰まった邸宅を破壊したのがアインツベルンだと時臣は確信した。

 

「(間桐にアインツベルン……、かつて共に根源を目指したものがそろって魔術の道から失墜するとはな……」

 

 思わず瞳を閉じて天を仰ぐ。

 時臣も両家に対しては一魔術師として敬意を払っていた。だからこそアインツベルンに魔術師殺しがいると知ってもまだ見ぬ外来のマスターで、アインツベルンの仕業とは思わなかった。だがもはや疑う余地はない。仕掛けてきたのはアインツベルンだと確信した。魔術師の家を焼き払うなど、その一族が積み重ねてきた歴史を無に帰す行い。しかもそれを行ったのは魔術ではなく科学の兵器。

 常に『余裕』と『優雅』を心掛ける時臣も、これには冷静ではいられなかった。

 

「この代価、高くつくぞアインツベルン!」

 

 開眼した時、時臣の目に宿っていたのは普段纏う『余裕』『優雅』といったものではなく『憤怒』――一切の飾りを捨て去り戦場に臨む姿があった。

 

 

 

 

「おっと待ちな。こっから先は通行止めだ」

 

 

 

 

 ――ただし、それもランサーが現れるまで、だ。

 突如として現れたランサーが傍のセイバーに向けてその双剣を振るい、セイバーはそれを受け止める。剣劇の音が森に響き渡りようやく時臣は我に返りランサーから大きく距離を取る。 そして知らず止めていた呼吸を整える。

 

「客人は一人じゃあないんで荒してもらっちゃ困るんだよ。しかしアポもなしに来るなんて、なっちゃいねえな」

「アポだ? 戦では宣戦布告がそれだろ」

 

 飄々とした態度で軽口を投げるランサーに、セイバーも同様、微笑を浮かべ軽口を返し、膂力頼みの振りでランサーをわずかに浮かせ吹き飛ばす。三メートルほどの距離が出来、ランサーが着地すると同時にすかさず自身の獲物に最適な間合いを確保する。

 ――ランサーの双剣は小回りが利いて手数が多いが間合いは狭く、一撃の威力はさほど高くない。

 ――対してセイバーの大剣は一撃の威力も高く間合いも広い。小回りは利きずらく手数も多くはないががセイバーの技量も宝具も、そんなものものともしない。

 

 同じ剣でありながら真逆の性質の剣を持つ二人が向かい合う。僅かな停滞に一陣の風が吹き抜け、二人を囲う木々がまるで観客の様にざわめく。

 

「行くぜ」

「こいよ」

 

 木々のざわめきが収まると同時に簡潔な言葉を交わし疾走する。

 先手を取ったのはセイバー。何時振り上げたのかも分からぬ速さで踏込み、大剣を振り下ろす。頭の先からつま先まで一刀両断しようとする刀身が消えるほどの速さの斬撃がランサーに迫る。これが並みの英雄ならばこの一撃で終わっていただろう。しかし相対するものは『この世で最も優れた騎士』だ。双剣を交差させて豪剣を恐れることなく、真っ向から堂々と受け止める。すべてを切り裂くデュランダルも同じ神秘を宿すものには通じない。ランサーは多少、足が地面に埋まったがそれだけ、無傷である。セイバーが眉を顰め、ランサーが笑みを浮かべる。

 

「今度は――こっちからだ!」

 

 そう言うとランサーはセイバーの懐に入り、体を左に大きく傾け、右手の剣を指揮者を思わせるほどに綺麗に流れ、首を切り落とそうとする。

 傍から見ていた時臣にはランサーの動きは瞬間移動に見えたであろう。何しろセイバーも、止められた剣も、先ほどの体勢のままで足元の落葉も微塵も揺らがなかったのだから。

 

 ――呆気なかったな、とランサーが心の中で呟く。その瞬間殺気を、それも首にピンポイントに感じて即座に身を退く。その刹那の間に逆袈裟切りの様に振り上げられたセイバーの大剣がランサーの頬を切り裂いていく。数瞬まで(・・・・)ランサーの背後(・・・・・・・)の中空にあった剣(・・・・・・・・)がだ。

 あまりにも可笑しなセイバーの動きにはさすがのランサーも驚愕を表したがすぐにその顔は歓喜の物へと変化した。

 

「――感動だぜ。俺と同等以上の騎士なんていくら聖杯戦争でも早々巡り合う事なんてないと思っていたが――」

「なんだ、随分と小さな望みだなオイ。早速叶ってよかったなこの野郎」

 

 軽やかな跳躍でランサーが再び距離を取る。

 剣を強く握りしめ、武者震いするランサーに大剣を器用にくるくると回すセイバー、どちらも未だに余裕綽々。先の攻防も両者にとっては単なる小手調べでしかないということに気づき、時臣は戦慄する。英霊という存在の凄さを知ってはいたが、所詮は知識だけのものだったのだろう。今繰り広げられる光景には槍も剣も、拳すら碌に振るったことのない時臣にも、否、武道経験がないからこそより凄烈に感じられた。

 

「しかし俺としてはお前みたいないいセンスしてるやつは切りたくないんだがな」

「……いいか? これ」

 

 セイバーのなんてことない呟きに、ランサーは自身の服を掴んで複雑な顔で見る。ランサーは衣服も鎧も髪もすべて全身赤色であり、彼も赤は気に入っているがここまで来ると悪趣味だと思っている。セイバーも基本的に一色だが、赤に比べれば銀色はかなり映える色だ。

 

「そうだ、単色こそ一番だ! アーチャーを見ろ! 銀色の軽装に蒼の外套、そして金髪! 最近の奴らはちゃらちゃらと煌びやかな色の服を着ているがそんな奴はきっと碌な奴じゃねえ! 散々人を振り回しておいて結局どこぞの馬の骨とやり合っちまうような女だぜ! それと緑はくたばれ!」

 

 拳を振るい、やけに力説をするセイバー。その口調はまるで過去を悔やむかのようで、その瞳に僅かにある涙を見つけランサーがなんとなく察する。別に個人の主義主張に口を突っ込むような性格ではないが、八つ当たりは虚しいと言ってやりたくなった。

 

 ――騎士の恋物語は大抵悲恋で終わるが……こいつはよっぽど酷かったらしいな。

 

 少しばかり哀愁を漂わせるセイバーを見てランサーはそう思ったが、

 

「まあ、お前のフラれた話は正直どうでもいいんだよ」

 

 それもつかの間。表情は最初の獰猛な顔に戻る。未だに『ランサー』の獲物である槍を出そうとはしないが彼の気配がより荒々しいものに変わる。

 

「俺が感じていることは、ようやく『本気になれる』という喜びだけだからな」

「……まるで、今までは手を抜いていた、みたいに言うんだな」

 

 これにはさすがのセイバーも苛立ちを表に出し、睨むようにランサーを見る。常人ならばその眼に射抜かれただけでも心臓が止まってもおかしくない視線を、ランサーは飄々としたまま受け止める。

 

「別にお前を舐めていたわけじゃねえよ。ただ、長い間手ぇ抜いてたから感覚取り戻せなかっただけだよ。それに、本気出してないのはお前もだろ」

「……」

 

 あまりにも堂々とした言い方から納得したのか、纏う気配から察したのか、セイバーも全力を出していなかったからか。どこで納得したのかは不明だがセイバーは普段のふざけた表情はなりを潜め、凛としたものに変わる。腰を低く、大剣を正面に構えた姿勢でランサーを見やる。

 

「そうだ、それでいい。全力を出し切って、満足して死ねや」

 

 ランサーが再びセイバーに迫る。腰を低く落とし、頭部と心臓を狙った神速の突き。セイバーは剣先を円状に回して弾き、風切り音を周囲に響かせるほどの速度で薙ぎ払う。

 

「――曲芸師の英霊か? お前?」

「んなもん、居るわきゃねえだろ」

 

 大剣の上に(・・・・・)載った(・・・)ランサーの凶刃がセイバーの右腕と右肩に突き刺さる。

 ランサーはセイバーが薙ぎ払うように大剣を振りきる際、跳躍して見事乗ってみせたのだ。当然ながらこのようなことは英霊という範疇に合っても普通出来るはずが無い。というか、出来たとしてもそんな真似、誰がするだろうか。何しろ高く跳びすぎてはすぐさま狙われるだろうし、足りなければ当然真っ二つ。よしんば防いだとしても踏ん張るもののない空中だ、吹き飛ばされるのが目に見えている。

ランサーのように成功したところで少し不意を突く程度。ハイリスクローリターンな行動だろう。

 セイバーが大剣を回転させようやくランサーが降りる。セイバーの傷はすぐさま時臣に回復されたが、あくまで傷が無くなっただけで痛みは完全に消えていないため、顔を痛みにしかめている。

 

「しかし乗ってみて分かったぜ。その剣――それ自体が魔力路だな」

 

 大剣の間合いの外から自身に満ち溢れた顔で黄金の柄を示す。そして間を開けることなく口を開いていく。

 

「聖剣の類だな、それは。しかもかなり上位だ。そんなものを持つ英霊ならある程度絞り込めるな」

 

温存しておくどころか真名まで看破されそうな現状に遠くから戦闘を見守る時臣は思わず歯噛みし、セイバーも腹立たしげに舌打ちをする。

 

「図星か。ならばあとでじっくりと探るとしよう」

「その前に、ぶち殺すまでだ!」

 

 セイバーが切りかかり、再び剣劇の音が森に響き渡る。

 

 

 ※※※

 

 

「ま、こんなもんか」

 

 陰鬱な雰囲気の用水路の中、手に着いた血や埃を払い落す。周囲には俺たちを出迎える様に襲い掛かってきた大人たちが地に伏している。聖杯戦争とは関係のない一般人だが洗脳されているらしい。

 

「たかが一般人、礼装を使うまでもなかったな」

 

 すぐ隣のケイネスの周囲にも俺と同じように幾人もの大人が倒れていた。違う点は俺が相手にした方は出血しておらず意識を飛ばして活動を停止させたのに対し、ケイネスが相手にした方は腱やら足やらが切れていて物理的に停止させられている。

 

「それでキャスター、逆探知は出来たか?」

「……ダメです。魔力の波長が乱れすぎて判別できそうにありませんし、催眠では無い者も混じっていました」

 

 キャスターに訪ねてみると少々の間を空けて、やんわりと否定された。

 殺そうと思えば殺せる彼らを生かしておいたのはこれ以上世間に分かる形で可笑しな問題を起こさない、ということもあるが主要目的は術者の探知である。

 これが礼装や結界ならばパスを辿っていけば分かるのだが催眠となると対象の頭の中に魔力が渦巻いている状態で、術者を特定するのが魔力の波長と一致する波長を持つ者を探す、という難しい方法になる。これは俺やウェイバーでは無理だし、ケイネスでも難しい高等技術になる。キャスターならば、と思ったが魔力の波長が滅茶苦茶では期待できない。

 混じっていた、という点が気になったがそういう複雑な点は聖堂教会に任せよう。

 

「行動を先読みされていたってこと?」

「恐らくそうだろう。私たちの侵入に合わせて迎撃が来たのだから」

「結界らしきものは張っていなかったし、キャスターが気付かないはずが無い」

「となると……誰かが僕たちの会話を盗み聞きしていたのかもしれない」

 

 ソラウ、ケイネス、ウェイバーと、四人で頭をひねって考える。

 ウェイバーの言うとおり、盗み聞きしていたやつがいたとしても殺人鬼を逃すメリットがない。それにサーヴァントが三人もいたのに一人も気づかないというのもおかしい。同じサーヴァントにしても現状は御三家に俺、ケイネス、ウェイバー、言峰で七名全員そろっている以上殺人鬼がマスターということはありえないし、聖杯戦争中に世間を騒がせるような一般人を生かしておく理由などどの陣営にも全くない。

 

「――いや、一人だけ、」

「え? 何か知ってるんですか」

 

 意識せずにこぼしていた一言。ウェイバーが反応する。

 

「一人だけ、行動が全く読めそうにない奴がいる」

 

 全員に響くような声で告げる。

 

「――言峰綺礼だ」

 

 

※※※  ※これ以降番外編(主人公はシンヴェル・キャラはZero+α)

 

 

 学生ならば必ず聞いたことがあるだろう、時を告げるチャイムの音。何時如何なる時でも同じ音だが、受け取る側からすれば時間によって大きく変わる。授業の終了や昼の休み、様々あるが一番好かれる時間はやはり一日の授業の終わり時だろう。特に期末テストなどの時は苦痛からの解放、一段と嬉しい。

 

「きれーつ、れー」

 

 ガタガタと椅子が動き生徒が立ち上がる。だらけきった言葉に批判を唱える者はいない。皆今日のテストで疲れ切っているし、むしろさっさと終わらせてほしい、という者の方が多いだろう。

 

「寄り道すんなよー」

 

 教師である衛宮切嗣の言葉にも大半の生徒が生返事を返して全員が先ほどとは打って変わりはきはきと動き出す。当然、俺もだ。

 

「今日のテストどうだったよ」

 

 鞄を背負って後ろを振り向く。

 

「愚問だな。全部九十オーバーは確実だよ」

 

 自信満々に告げるのは友人にして隣の席のケイネス・アーチボルトだ。正直彼にはうちの制服は似合わない。正直可笑しなコスプレに近いものだ。

 

「歴史は結構できたけど、化学がね……」

「ライダー先生、マジで歴史の問題マケドニアで統一してきたからな」

 

 自信なさ気に答えたのはアストルフォ。ミニスカートが実にエロい。いつも通りだが散々な出来だったらしい。取り敢えず肩を叩いて慰めてやる。

 

「で、ディルムッドは」

「二十点は硬いな(キリッ」

 

 無駄にイケメンスマイルをかましてくるディルムッド。イラついたので俺はストレートを叩き込み、ケイネスは足を全体重を乗せて踏みつける。足を踏んでいたため、溜めがつき、放されると同時に机をなぎ倒しながら端まで飛んでいくディルムッド。ざまぁ。

 

「お前補習決まったな。合宿無理だなこれ」

「いかに高い技術を誇っていようと所詮脳筋か。ハッ」

「ていうか、毎回これでよく留年しないよね」

「いや、合宿や留年よりも、俺の鼻血を心配してくれ……」

 

 抑えた手から鼻血をボタボタと垂らしながら机の山の中から立ち上がるディルムッドに女子生徒がハンカチを持って群がり始めたので無視して教室から去ることにした。

 

「さて、俺たちは美女研行くか」

「……まだあったんだ。てっきり潰れたと思ってたけど」

「当然だ。PTA如きに潰されてたまるか」←美女研部長

「私のソr……我らの崇高な目的を邪魔しようなどと、おこがましい」←初期メンバー

 

 美女研とは美少女研究部の事で主な活動内容は『学校の美少女の魅力を語ろう』というものだ。部員以外にも時々『イリヤちゃんペロペロ同盟』や『ソラウさんに踏まれ隊』などがやって来る。

 

「……まあ、訴えられないようにね」

 

 力なく手を振り遠ざかるアストルフォ。彼女は馬術部に所属している。意外にも思われるが結構馬術がうまいそうだ。

 

「では、行くとするか」

 

 完全にアストルフォが見えなくなり、俺たちも部室へ向かう。

 一階まで降りたあとすぐ隣の用具室に入り、目の前のストーブの手前の床板を一枚引っぺがして梯子を降りると地下というのに明るい大部屋がある。ここが我ら『美少女研究部』部室である。

 

「しかしよくこんな空間見つけたな」

「遊んでたらね」

「どんな遊びだ」

 

 部屋に入ると同時に中にいる皆がこちらに敬礼をする。片手をあげて構わんと告げ、壁際の大きな机に腰を落ち着ける。ふー、と一日の疲れを吐き出す俺を全員が何かを待つように見つめる。思わず小さな笑いをこぼしてしまう。

 

「待たせてしまったし。では――始めようか」

 

 俺の宣言で部屋は一点を除きパッと暗くなり、全員がその一点へ目線を向ける。そこに顔を隠すようにフードをかぶった一人のカメラマンがやってきてこの時のために備え付けられたマイクを手に取る。

 

 

「美少女専門カメラマンとはッ――誰よりもエロスに生き、諸人を見せる姿を撮る言葉!」

 

 

 壇上にまたがったカメラマンが、声高らかに謳い上げる。それに応えて居並ぶ室内の男たちが、一斉に財布の中身を打ち鳴らして歓呼する。

 

 

「すべての男の羨望を束ね、その幻想を具現させる者こそが、美少女専門カメラマン。故に――!」

 

 

 圧倒的な自信と誇りを込めて、カメラマンは部員たちを睥睨する。

 

 

「美少女専門カメラマンは孤高にあらず。その偉志は、すべての男の志の総算足るが故に!」

『然り! 然り! 然り!』

 

 

 男たちの斉唱は地をどよもし、天井の彼方へと突き抜けていく。いかな(警察の)大軍も、(刑務所の)壁も、心を一つにした美少女専門カメラマンの朋友たちの前に敵ではない。昂る彼らの戦意の総和は、法律を穿ち自制心を割る。

 まして、道徳なぞは生返事の口約束にも等しかろう。

 

 

「さて、では始めるか。漢たちよ」

 

 

 開始の宣言を今か今かと待ちわびる部員たちが武者震いで震える。

 

 

「これより――美少女写真オークションを開始する! 野郎ども、財布の貯蔵は十分か!」

「「「「「オォ――!」」」」」

 

 

 フードをかぶった美少女専門カメラマンも部員の熱気に当てられフードをどけて高らかに叫ぶ。部員も呼応するように吠える。

 

 

「OK野郎ども! それじゃあさっそく行こうか、エントリー№1! Cクラスの――」

 カメラマン、間桐雁夜により狂宴の幕が上がる。

 

 

 

 ※※※

 

 

 期末テスト 数学

 

1から13までの数字が書かれた札を二枚引いて、二枚とも偶数になる確率を答えよ。

 

シンヴェル・ケイネスの答え

『15/78』

教師(雨生龍之介)のコメント

『coolな答え、正解だよ』

 

アストルフォの答え

『30/156』

教師(雨生龍之介)のコメント

『おや、『C』ではなく『N』でやっっちゃったかな? 残念ながらこの答えではcoolとは言えないね』

 

ディルムッドの答え

『偶数/全部』

教師(雨生龍之介)のコメント

『coolさの欠片もないね。補習を受けに来るように』

 

 

 ※※※

 

 

「――は田辺が二万で落札! それでは次、Bクラス、ソラウの生足写真!」

「五万だ!」

「ケイネス大人げないな」

「私のソラウに何人たりとも触れさせてたまるか」

「いつからなった……」

 

 部室に籠った暑さに俺たちはいつの間にか制服を脱ぎ袖をまくっていた。見れば他の者も同じような恰好で、中には学校指定のジャージの者もいる。今日は一日中テストなのでこれから部活の奴なのだろう。ちなみにうちの学校、影響さえ出さなければ部活のかけもちは二つまで可能である。本気で大会とかを目指している運動系は一本で通すし、色々やってみたいって言う文化系の人間に多い。ちなみに俺は夏まで野球部を掛け持ちしていた。エースで四番のセカンドで部長だった。かけもちが認められたのは正直意外。

 

「あまり金を使うな。後半で欲しい物が出ても金が足ら――「次はAクラス、アタランテのブルマ写真! 陸上部の練習で火照った体が実にエロォスッ!」「十万即決だ」「ハイ他にいませんね落札で構いませんね皆さん!」――なくなるぞ」

「二秒前の行動を振り返っていうんだなシンヴェル」

「いやだって、お前アタランテだぞ。しかもそれが汗で色っぽさが増強された物だったら余裕でいけるだろ。お前だってソラウだったらいけるだろ」

「愚問だな」

「分かってくれて何よりだよ」

 

 いい笑顔で同意を示してくれるケイネス。 

 今朝鞄に入れてきた通帳と財布の合計から現在の出費はおよそ二割程度。とりあえず七割までは許容するつもりだ。

 

「まだまだあるぞ! アストルフォの校庭でのパンチラsy「五万で」はい五万来ました! まだ出すぞという猛者はいるか!」

「ここにいるぞー! 五万二千だ!」「三千」「七千で!」「六万! これが限度だ!」

「七万だ」

「七万入りましたー! いない様なので打ち切ります! 部長本当にありがとう!」

 

 嘆く男たち。アストルフォは高等部で三指に入るほどの人気だからな。なお、一位はセイバー、二位はアタランテである。え、ジャンヌ? ジャンヌは家庭科の先生だよ。アイリさんは科学教師、舞弥さんは女子の体育です。

 

「……知り合いの写真は買いづらくないのか」

「だからこそ萌えるんだよ」

「……そうか」

 

「さぁ今度は初等部五年、イリヤの居眠り写真だ! このベストショット、二度と手に入らんかもしれんぞ」

「三万!」「三万八千ッ」「四万!」

「よく手に入れたよな。あれって教室だよな、しかも授業中」

「望遠レンズでも使ったのか? 執念がすごすぎるな」

 

 

 ※※※

 

 

 期末テスト 世界史

 

余こと、イスカンダルが死ぬまで交流を続けた家庭教師の名を述べよ。

 

シンヴェル・ケイネス・アストルフォの答え

『アリストテレス』

教師(イスカンダル)のコメント

『うむ、見事だ! 最も、こんな初歩の初歩間違えたら叩いておったがな』

 

ディルムッドの答え

『チャレンジ一年生』

教師(イスカンダル)のコメント

『一年生じゃないし、当時にあるわけないだろう! みっちり補習を受けさせてやる!』

 

ギルガメッシュの答え

『何故俺がそんなことを知らねばならぬ』

教師(イスカンダル)のコメント

『……やはり貴様とは相容れぬな、バビロニアの英雄王。成績には1とつけておくぞ』

ギルガメッシュのコメント

『おのれ雑種がぁぁああ!!』

 

 

 ※※※

 

「――さて、残りも少なくなってきたぜ! あと少し付き合ってく――」

「待てぇええええ!」

 

 宴も終盤、ラストスパートという時に部室の扉が大きな音を立てて開く。狂院かと思ったが、現れたのは全身黒色で、白い髑髏の仮面をつけていた。

 

「俺の名前は髑髏仮面! 今日からここはゴフッ!」

「口上のネタが分かったのでどついてみました」

「肝臓を狙うあたり鬼だな」

 

 口上で完全に無防備だったためか、意識を飛ばして膝から崩れ落ちていく謎の髑髏仮面とやら。床に顔面が叩きつけられる寸前に扉から再び現れた同じような二人に抱きかかえられる。

 

「二十四朗! しっかりしろ!」「二十四朗! 傷は浅いぞ」

「へ、へへ……ドジっちまったよ……」

 

 髑髏仮面こと二十四朗を腕の中で抱きながら必死に語りかける二人に胃液を垂らしながらも呟く二十四朗。てか二十四朗って……最低でも上に二十三居るのかよ。どんだけ張り切ったんだよお前らの両親。

 

「おのれ口上の最中を攻撃するとは! なんて卑劣な輩だ!」

「様式美をわきまえぬとは……それでも人間か!?」

「うるさいぞモブども」

「「モブ!?」」

 

 伸長はともかく、全く同じ顔をした奴が何人もいればそれはもう完全なモブキャラだろう。

 

「お、おのれ……っ、我らをモブ扱いなど……!」

「そんなことより、何しに来たんだ。こちらは忙しいんだ。用件があるならさっさと言え」

「おお、そうだった」

 

 モブの片割れの一人、Aが懐(というより腰)から取り出したのは書類である。

 

「これよりここは我ら『ハサンダンスクラ部』の部室となる! 即刻退去願ブッ!」

「イラついたので顔面を殴りつけました。本日二度目です」

「よくやったシンヴェル」

 

 仮面を散らせて先ほどの二十四朗と同じよう、膝から崩れ落ちていくモブAと、Aが倒れるのを止めようと動くBの二人。膝立ちになったところを脇を掴んで止める。

 

「き、貴様っ! 一度ならず二度までも!」

「そもそも『ハサンダンスクラ部』ってなんだよ。クラブじゃなくてクラ部なのがイラつく」

 

 怒り心頭のBがこちらに怒鳴って来るがそれより部活内容が気になった。

 

「書類を読め!」

 

 Aが持っていた書類を乱暴に押し付けられる。少々皺が着いたそれを広げる。

 

「えーと、なになに……『“ハサンダンスクラ部”とは高難易度のダンスをノーミスで“他愛なし!”と言いながら踊りきる部活動』って、舐めてんのかお前ら」

「これでも一応申請は通った! あとは部室さえあれば問題ないのだ!」

「よくこんなのが通ったな……」

「理事長(遠坂時臣)の前で実演したら『実に優雅だ。認めよう』と了承してくれたぞ」

 

 俺たちの時は何かとゴネた癖に……。舐めてんのかあの顎鬚。

 

「とにかく、こんな部活のために俺たち美女研の部室を明け渡すつもりはない。屋上か外でやるんだな」

「断る! 屋上は寒いし外はブレイクダンスをすると衣装が破けるのだ!」

「知らねーよ」

 

 書類を破り捨ててBと額をぶつけ合い討論する。

 

「その通りだ。これよりここは『セイバー研究部』になるのだからな」

「ッ! 何者だ!」

 

 再び扉が開く。やって来たのはモブと同じ顔をした男ではなく、改造制服の金髪。猛禽類を思わせる瞳にすべてを見下す余裕の表情。彼を知らぬものなどいない。その名は――ギルガメッシュ。

 

「そうだろう、時臣」

「左様でございます」

 

 そしてギルガメッシュに付き従う理事長・遠坂時臣。常に腰を下げ礼をしたままの姿はこの学園の長たる姿ではなかった。

 

「貴様――我がハサンダンスクラ部に何しに来た!」

「美女研だからな。で、どういうつもりだ時臣」

「呼び捨てにするな。今言った通りここを『セイバー研究部』とやらに変えることになるのだよ」

 

 対象を俺からギルガメッシュに変えたモブを放置して時臣と小声で会話をする。

 

「なんでそんなことをする必要があるんだよ。『セイバーファンクラブ』にでも入れればいいじゃないか」

「私もそうしたかったんだが……なんでも『この我にあのような雑種に混ざれというのか時臣ッ!』と言われてな……」

「雑種って……親衛隊のガウェインとランスロットのことか……。てかお前理事長だろ。どうにかおさめろよ」

「だって、下手なことしたら寄金が無くなっちゃうじゃん」

「寄金が何だ! 校訓に(のっと)って『常に余裕を持って優雅たれ』を実践しろ!」

「……シンヴェル君」

「なんだ」

「この世で一番大切な物は、お金なんだよ。金が無ければ宝石どころか食パンの耳だって買えないんだよ」

 

 ドヤる時臣をぶん殴る。ああ、なぜ今日はこんなにも人を殴るのだろう。

 

 

 

 ※※※

 

 

 期末テスト 英語

 

()内の語句を組み合わせて問いに合う様に文章を作りなさい。

1.私はあなたにこの本を読んでもらいたいのです。

(I/read/to/this/want/book/you/.)

シンヴェル・ケイネスの答え

『I want you to read this book.』

教師(言峰綺礼)のコメント

『普通に正解でつまらんな』

 

アストルフォの答え

『I want you to read this book』

教師(言峰綺礼)のコメント

『ピリオドが抜けていなければ正解だった。残念だったな』

 

ディルムッドの答え

『gb nit』

教師(言峰綺礼)のコメント

『まず頭が小文字だし、問題読んでないし、ピリオド抜けてるし、()内から選んでないし。突っ込みどころが一杯だが一番言いたいのはルーンをわざわざラテン文字に転写して“必滅”と書けるだけの頭があるなら普通に解いてほしいものだ。まあ、補習は確定だな』

 

 

 ※※※

 

 

「ふ、今回も大量だったな……」

「ああ、雁夜はいい仕事をしたよ」

 

 狂宴も終えて一休み。近場の珈琲店入り出された水で熱気で乾いた喉を潤す。ケイネスの言うとおりさすがは雁夜というべきか、かなりの出来栄えだった。

 ギルガメッシュ? セイバーの写真×5で帰ってもらいましたよ。

 ハサン? ギルガメッシュにやられてボロ雑巾状態だったので放り出しました。

 

「いい買い物をしたな……。私はブレンドを」

「ああ、大金出しても全く悔いはないな。俺はアイスコーヒーとロールケーキを」

 

 宴を回想しながらメニューも見ずに注文をする。割とよく通うのでパターンになりつつある。

 

「はい、ブルマン二つに特製チーズケーキでよろしいですね」

「よろしくねーよ」

「さらりと一回り高いものに変えるな」

 

 そして巨乳店員のフランシス・ドレイクが注文を高いものに変えようとするのもパターンに入っている。なおこの時に注意しないとガチで持ってくる。さすがフランシス、金に汚い。

 

「しかし部室を狙おうとする輩が沸いてくるとはな……」

「割と認知度高いんだな。私はどちらかというとそこが驚いた」

 

 うちの学校は小中高一貫してかなりの広さを誇るがそれでも生徒が多いため部室がある部活は少ない。酷い所だと校庭の隅の倉庫という場所もある。その点、うちは行き帰りが不便であることを除けばまあまあの部室だろう。

 

「いっそのこと増設すればよいものを」

「しょうがない。土地的に余裕もないし」

 

 周りには民家があるのでこれ以上土地を購入することが出来ないので部室を増やすとなったら校舎や寮の増築しかないわけだが、そうなるとプレハブや倉庫を作ったりするよりもかなり金がかかる。それに学校自体古いのでできるかどうかも不明瞭だ。そういう点を考えると地下しかないが、ボコボコと穴だらけにするわけにはいかない。

 

「ま、俺らが頭悩ませることじゃないな」

「それもそうだ」

 

「お待たせしましたー。ブレンドとアイスコーヒーにロールケーキです」

 

 やって来たコーヒーを口に入れて戦利品を眺める。学校に特別は要らない。日々を楽しむ、それだけでいいのだ。

 

 

 ※※※

 

 

 特別問題

 

年収220万円のT子さんは年収460万円のK君と結婚しました。月々の生活費を18万円とした場合、3300万円のマンションを買えるまで何年かかるでしょう。

 

全員の答え

『そこまでにしとけよタイガー』

藤村大河のコメント

『タイガーって言うなー!!』

 

ディルムッドの答え

『グラニアの事は、もう勘弁してください』

 


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