俺とアストルフォの第四次聖杯戦争   作:裸エプロン閣下

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なんかこの間一気に六千文字程度文字数が下がったけどなんだったんだろう。いまいち分からないけど特にどこか抜けてるわけでもない(と思う)し、まあいいかな。
あ、あとアンケートの結果4:1で知名度高いほうになりました。アンケート協力ありがとうございました!



よろしい、ならば戦争だ。 byアーチャー

「……ん?」

 

 朝、隣に誰もいないことに疑問を覚える。基本俺は寝る前に女を抱くので一人で寝ることは少ない。そこで昨日の事を思い返すと、昼に橙子を抱いて夜は何度も呼び止められて疲労一杯で寝たのだった。しかし抱いていないことを思い出すと途端にしたくなってきた。現金すぎるものだと思いつつもキングサイズのベッドから立ち上がる。

 

「あ、遅いよ。もう昼だよ」

 

 居間へ向かうとアストルフォがソファ(実家にある物と同じである)に寝転がってテレビで昼ドラを見ていた。六十年前に使われた家なのにテレビがある、という疑問はない。大方昨日の男が備えたのだろう。

 しかし、随分と長いこと寝ていたらしい。時計を見ればもう十時前だ。

 

「それは悪かった。今すぐに風呂に入ろう」

「うん、早めに……って、なんでボクも連れてこうとするの?」

「このままするには俺は汗臭いし、した後にまた風呂に入るのもあれなので両方やってしまえばいいと」

「なんでやることが前提なの!?」

「……? 嫌なのか?」

「そ、それは…………その……」

 

 いい加減しつこい様だがなんとも愛いらしい少女になったことやら。元が男と言われて誰が信じるだろうか。真名の秘匿という点でも役に立つし、数をこなせばステータスも多少あげられるし、令呪使って正解だったな。

 

「あ、そういう考えがあったの? てっきり欲望に任せてやったのかと思ってたけど……」

「無論それもないわけでは無いがな」

「へー。まあいいよ、それでどのくらい上がってるの?」

「大体1ランクくらい上がっているが、女性にした所為か1ランク下がったからプラスマイナスゼロだ」

「…………」

 

 こちらを咎めるかのような目で見て来るが無視。さほど重くないアストルフォを抱っこしながら浴場へ入る。まあ後はご愛嬌ということで。

 

 

 ※※※

 

 

「さて、それじゃあそろそろ本格的に聖杯戦争に取り組もうか」

「……最初にしてほしかったなぁ」

 

 少々疲れた感じのアストルフォ。まあ昨日やってない分やりまくったからな。あと結構可愛がったからね。自己満足だけのチャラい男は違うのだよ私は。

 

「監督役にマスター申告の報告ついでに現界したサーヴァントの数を聞いたところ六人とのことだ。残る一人も今日中に召喚されるんで正式な開始は明日だそうだ」

「あれ? 申告なんていつしたの?」

「昨日だ。冬木に着いた後に使い魔を飛ばしておいた。報告を聞いたのは風呂から出た時だが、さほど大きな変化はないだろう」

「へぇ、それじゃあ……」

「ああ、戦争だな」

 

 戦争がよーいドンで始まることなどない。他のマスターも既に動き始めているだろう。基本聖杯戦争は人の目に付きにくい夜に戦闘を行うため、今の時間はよほどのことがなければ戦闘にはならないと思うが、最低限の備えとして俺は白衣に赤い線が入った礼装<血戦の女神(ブラッドオプス)>を着ていく。

 

「とりあえず地形の把握にでも行こうか」

「そうだね! いろいろ見てまわりたいし!」

 

 ようやくお調子者の本性が出て来たのかはしゃぎまわる。一人で勝手にどんどん進むなよ、といい家を出る。魔術的な結界が敷かれているので鍵を掛ける必要は無い。

 

「昨日は夜中ということもあって碌に回れなかったからな」

「だから今日は目一杯楽しもうか!」

「そうだな、とりあえずまずは飯だな」

「うん! 折角だしこの国の料理が食べたいよ」

 

 普段なら飯と言うとため息をつかれるのだが今回に限ってそんなことは無いようで、アストルフォも色々食べる気満々である。お金の方は気にする必要はないし、大丈夫だろう。

 早速俺たちは街に繰り出した。

 

 

 ※※※

 

 

「本当に……どこに入ってるの?」

「俺だって人間だよ。胃袋が広がってるのか、速攻で消化しているのか、それとも腸にまで入ってるのか。何にしろ、異次元に繋がってるってことはない」

「むしろしてたら驚きだけど、ありえそう」

 

 今シン――街中でマスターとかはヤメロと言われたので愛称として――が食べているのは幅一メートル程度で高さは三十センチほどの巨大なラーメンという物で、三十分以内に食べれたらタダというものらしい。正直大食いに長けた英霊でもなければ無理なんじゃないかな……と思う量を彼はまるで水を飲むかのような速度でどんどんと食べていく。しかもこれ、二杯目。一杯ならまだギリギリだけど、二杯は絶対人体に入らないでしょ。あ、そんなこと言ってる間に二杯目飲み干しました。スープもチャーシューも全部。最初の一杯は周りのお客さんも拍手で褒めてたんですが二杯目になるともうほとんど畏敬の念です。崇め奉るような目でシンを見てます。

 

「さて、次は……『五段お好み焼き』を食べに行こうか」

「まだ食べるの!?」

 

 周りはおおぉ……とか言ってるし、これすごく目立っちゃってるけど大丈夫なの? 聖杯戦争中だよねコレ?

 

「こちら中華『滔々(とうとう)』、とんでもねえ大食いが現れやがった! 俺たち大食い連合の名に懸けてなんとしてでも倒すぞ!」

 

 店長さんは店長さんで、何かしてるし、収拾突きそうにないや。唐突に頭に浮かんだ言葉が最善策を告げる。『諦めが肝心』と。

 

 その後、『五段お好み焼き』以外にも『超激辛黒カレー』や『牛一頭まるまるステーキ』に『山盛りそば』、『泰山激辛四川麻婆』など、他六点を食べてようやく朝&昼ご飯が終わった。夜は夜で食べるんだって。大食い連合の皆さんから『かかってこい! 我ら大食い四天王!』と書かれたパンフレットを貰った時の視線は全て征してみせんって感じの覇王の目だったから、多分夜も同じようなラインナップなんだろうな。

 

「さて、腹も膨れたし、そろそろ地形を確認するか」

「あ、覚えてたんだ」

「おいおい、まさか大食いに夢中になってて忘れてるとでも思ったか」

「うん」

「はっはっは、正直でよろしい」

 

 ゴツン、と頭に拳骨を落とされる、イタイ。サーヴァントのボクにでも通るんだから、結構強化してやったことが窺える痛さだ。

 

「ライダー、お前はあのビルの屋上からここら一帯をどのくらい把握できる」

 

 そう言い指を差すのは巨大なビルという建物。時計塔のように大きいそれの頂上は軽く五十メートルを超えるだろう。

 

「うーん……ちょっと難しいね。どこにどんなのがあるか分かる程度で、把握したって言えそうにはないね」

「俺の強化を掛けたらどの程度だ」

「それなら大丈夫だね、行こう」

 

 こういう時、シンの強化の魔術は本当に便利だ。サーヴァントの支援という意味では一番役に立つ魔術だろう。

 

「びゅーん、って飛んでく?」

「いや、普通に正面から行こう。使い魔はともかく、アサシンが潜んでたら分からないからな。あと目立つし」

「はーい」

 

 いろいろ困ることはあるけど、結構良いマスターだよ。シンは本当に。

 

 

 ※※※

 

 

 ビルの屋上から大まかに周囲の地形を把握した後、公園や学校など開けた空間に円蔵山や教会などの霊脈を一通り確認した後に、武装を揃えに一度邸宅まで戻ろうとしたところであからさまな気配を感じた。ただならぬ気、サーヴァントのもので間違いあるまい。

 

「露骨な誘いだね」

「マスターの意向もあるだろうがあれは戦闘狂だろう。戦いたくてうずうずしてるのが丸わかりだよ」

 

 今の時間帯はまだ六時と、人目が消えるには些か早い時間に思われるが、冬で火が落ちるのも早く、件の殺人鬼が蔓延っている為か既に都心へ行っても人はまばらにしかいない。

殺人鬼など聖杯戦争中であることを考えれば魂喰らいか、と思うがそれなら死体を放置する理由もないし、態々目立つように猟奇的に殺す必要はもっとない。無論異常な感性を持つ魔術師は――一般人でも同じだろうが――少なくない、が魔術師ならばこの地の管理者の遠坂に狩られているはずだ。となるとやはり魔術師ではないのだろう。どっちにしろ警察が早く見つけることを切に祈る。

 

「せっかく日本に来たのにこんなんじゃ気が滅入っちゃうし」

「全くだ」

 

 アストルフォと二人で愚痴をこぼしながら気配が発せられる方へ屋根を跳んで着実に距離を縮める。急ぐ必要はないが俺たちは最初のうちは戦わず偵察するつもりである為、早めに戦場となる場を見渡せる場を見つける必要がある。

 

「えー……。戦略としては分かるけど……」

 

 掻い摘んで『戦わない』ことを伝えるとやはりアストルフォは不満そうな顔をする。やはり英霊というべきか、戦いにかける誇りや矜持といったものはあるのだろう。特にアストルフォは騎士、そして一騎討ちは騎士の華だ。相手も名を馳せた英雄たちだし、心躍らないわけがない。

俺は足を止めてアストルフォと向き合い、目を合わせ、胸中の想いを吐露した。

 

「ライダー――いや、アストルフォ、お前は知名度や宝具はともかく、英霊としては弱いほうだ」

「……うん、知ってるよ。ボクはほとんどの戦いを宝具で切り抜けて来た。実際ボクは『触れれば転倒(トラップ・オブ・アルガリア)!』を手に入れるまではほとんど負けてばかりで、運が良かっただけだ」

 

 その通りだ。アストルフォは冒険者としては優れているが騎士としての地力は大したことはない。それは彼のステータスが如実に示している。思慮分別に関しては語るまでもない。だけど――

 

「――俺はお前を信じている。だから戦闘面はお前に任せる。代わりに戦略面は俺を信じて任せてくれ」

 

 互いに真剣な顔で見つめあったまま、明かりは月光しかないのにやけにはっきりと見える。数秒、あるいは数分、もしかしたら数十分かかったのかもしれない頃、アストルフォの顔に笑顔の花が咲く。

 

「――うん、分かったよ」

 

 今の間にいったい何を考えていたのか、とかその笑顔にはどういう意味があったのか、とかそんな疑問もなかったわけではないが、それ以上にアストルフォがあまりにも綺麗だったため少々見とれてしまう。だからか、その単純な言葉の意を理解するのに数秒もかかってしまった。いつもからかう側にいたため、いざ狼狽したりすると、顔には出していないものの、無性に恥ずかしくなった。

 

「ほら、行こうよ」

 

 しかも本人に自覚が無い。別にアストルフォは悪いわけでもなんでもないのだが……なんというかやり返したくなる。斜めの屋根を歩くアストルフォの足を払い、体勢を崩し転びそうになったアストルフォを俺はやさしく抱く。所謂お姫様抱っこというやつである。

 

「うわっ! ちょっと、降ろしてよ、恥ずかしいよ!」

 

 聞く耳など持たずにそのまま移動する。正直軽いアストルフォと言えど人一人を背負ったまま屋根を跳び移るのは結構力を使う。特に今は装備を纏っている為尚更だがまあそこは我慢。やはり俺はこういう感じのキャラじゃないとね。

 

「わー! わー!」

「ちょ、コラ! そんなに暴れると……ッ」

 

 腕の中のアストルフォが暴れる。当然跳躍中にそんなことをされれば足元が狂ってしまい、俺の足は瓦と共に屋根から滑り落ちてしまった。

 

 

 ※※※

 

 

「まったく、もう戦闘はじまってるぞ!」

「ゴメンゴメン、ってなんでボクが謝らなきゃならないの?」

「ライダーが暴れなければ地面に落ちて家主に催眠をかける手間が無かった」

「それは分かるけど……今シンが手に持っているのは?」

「酒と肴に決まってるだろ」

「それ買いに行ってたから遅れたんでしょ!」

 

 あの後、落ちた衝撃でやって来た家主に催眠をかけて普通に道路を走って向かっていたら、途中で酒屋を発見し『せっかく観戦するんだから買って行こう』と思って色々買ってたのだ。思いのほか店主が酒に詳しいから話し込んでしまったがそもそもの原因はアストルフォだと思うんだ。彼女が暴れなければそもそも酒屋を見かけること自体なかったんだから。

 

「酷い責任転嫁だなぁ……」

「でも間違ってないだろ。さて、ここならよく見えるな」

 

 露骨な誘いをしてきたサーヴァントがいたのは倉庫街、俺たちはそこから百メートルほど離れたデリッククレーンに座り、買ってきた酒と肴を広げて文字通り高みの見物をする。常人ならばいかに視力が良かろうとここから人を、ましてや超人の如き動きをする二人(・・)を鮮明に眺めることなど不可能だろうが強化した俺たちの目なら鮮明に、くっきりはっきりと見えている。

 

「ここなら特等席も見張れるしちょうどいい場所だろ」

「そうだね。本当に便利だよねその魔術」

 

 特等席――一番見やすい位置なのだが周りから見えやすいためあえて泳がすことにした。

強化の魔術に対する数少ない称賛を胸に、俺たちは役者から観客へと移る。聖杯戦争の凄さとやらを見せてもらおうか。

 

 

 ※※※

 

 

 いくつものコンテナが立ち並ぶ倉庫街。夜も遅く、殺人鬼が蔓延ることもあってもはや誰もいないはずの倉庫街。そこに二人のサーヴァントはいた。

 

 片や獣の毛皮を腰や腕に巻き、巨大な頭部を兜に被る巨体の男。男の身体は“筋肉質”やら“筋骨隆々”やら、そんな生半可な言葉では言い表せないほどの筋肉だった。“鋼の様”という比喩があるが、実際その鋼よりも強固な場合は、どのように言い表すのが適切なのだろうか。とにかく、巨体の男の力は一目瞭然、圧倒的といえるほどだった。丸太並みの太さの腕は、風切り音を周囲に響かせるほどの速さで拳と暴風をまき散らし、その腕以上の太さを誇る足は一歩踏みしめるたびに強固な大地を震動させ、その口から発せられる歓喜の叫びは、落雷にも匹敵する。これはもはや動く人型災害といっても過言ではないだろう。

 

 それに相対するのは銀色の軽めの軽装に海のように蒼い外套を着た、鋭い目つきをした金髪の青年で、相対する巨体に対しては細い体つきの男だ。決して弱いというわけでは無い。彼も巨体と同じ存在、常人の筋力では百倍しても埋まらぬほどの差がある。弓を持ち、剛腕の暴風の間隙を縫うようにして弓を番えては急所へ向けて矢を放っている。しかも相対する距離は五メートルも離れていない。わざわざ遠距離から攻撃ができる――否、遠距離攻撃を主とする兵装での近距離戦闘など、無謀も極まりないだろう。

 

 二人のどちらが優位かは互いのステータスを見れば一目瞭然、当然ながら巨体の男、バーサーカー――ではなく、金髪の青年、アーチャーであった。

 

「どうした愚民! 誘ったくせにその程度か!?」

「オォォォォォ…………!!」

 

 バーサーカーはその挑発とも取れる言葉に怒るどころか、笑みを浮かべる。動きは単調のままだが拳の速さをさらに上げていき、剛腕がアーチャーの頬のすぐ隣を通り抜けていく。本来理性を失っているバーサーカーに意思疎通はおろか、簡単な言葉すら理解出来ないはずだが、察しているのか感じているのか、このバーサーカーには最低限の交流は可能らしい。アーチャーは相変わらず猛禽類のような目と嘲笑を顔に浮かべているがなんだかんだで闘争は楽しんでいるようだった。やはりアストルフォと同様に、戦場(いくさば)において心を躍らせずにはいられないのだろう。

 

 突如としてバーサーカーの足が巨体に似合わぬ速度で動き、アーチャーの懐に入り両腕につかみにかかる。小細工を用いず、只々腕力にものを言わせていたバーサーカーがだ。

 

「甘いな愚民!」

 

 だというのにアーチャーはさして顔色を変えることなく、いたって冷静に、踏み込んできたバーサーカーの膝の上に足を乗せ一気に跳躍、脱出したアーチャーを見上げるバーサーカーの顔と首、そして急所に合わせて九本の矢が放たれ、命中する。

 

 しかし、有効なダメージを与えることが出来ない。眼球に口、額、心臓を狙った五本はまるで壁に当たったかのような音を立てて皮膚に弾かれ、柔らかい耳の根元に首を狙った四本は確かに貫いたが出血は浅く、すぐに抜かれ、治癒されていく。

 

 これまでバーサーカーの攻撃は一度としてアーチャーに命中していない。対してアーチャーの攻撃は幾度もバーサーカーに命中しており、その数三桁にもなるほどだ。しかしただの一矢もバーサーカーに致命傷を与えることはなかった。

 しかしそれもそうだろう。なぜならアーチャーの筋力はC、対するバーサーカーの耐久はA+――+というのは瞬間的ではあるが数値を倍加する希少なパラメータである――だ。いかにアーチャーの腕が立とうと純然たる力量差の前では歯が立たなかった。しかしそれはアーチャーが劣っているというわけでは無い。重ねて言うがバーサーカーは未だに拳の一発も当てることが出来ていないのだから。

 

「チッ、面倒だな」

「カハァァァァ…………」

 

 だが、このまま戦えば勝つのは確実にアーチャーだろう。[単独行動]を備えているアーチャーに比べてバーサーカーは燃費が激しい。序盤でありながら出し惜しみ無くバーサーカーを使ってきているのにも驚きだが、ここに到っても未だに魔力が尽きる予兆もない。この規格外のバーサーカーのマスターがどれだけ優れているかはよく分かるが、それとて無限ではない。このまま戦い続ければいずれ底を突くだろう。

 しかしアーチャーはバーサーカーを相手に戦うのには些か飽きていた。こちらは一撃喰らえば即死亡も無くはない一撃を避けながら地道に、地道に、地道に削っていくというのに相手は一撃当てればそれでいい。今はスキルと宝具でどうにかなっているがそれも絶対ではない為、無視したい気分だったがそれはそれで歯が立たず逃げたようで恰好が悪い。

 

 せめて、バーサーカーに傷といえる傷を通すか、うやむやにするか……と考えたところで周囲の気配に気づく。[気配察知]は持たないアーチャーだが、狩人の英雄である為普通のサーヴァントよりは感覚が鋭い。

 

「こそこそ隠れて覗き見とは趣味が悪いぞ愚民ども! 臆病者の謗りを望まぬ者はこの場に姿を見せろ!」

 

 先程のように挑発、ただし今度はより強く、酷く、高く叫んだ。バーサーカー以外に感じたサーヴァントの気配は三つ。[気配遮断]を持ったアサシンはさすがにアーチャーでも探れないし、キャスターは穴熊を決め込んでいるだろう。つまりこの場にその二体を除く全サーヴァントが早くも集まったのだ。

 

 

 ※※※

 

 

「おや、ばれたか」

「みたいだね。これって出たほうがいいよね」

 

 寝転がるのをやめてアストルフォの膝に乗せた頭を持ち上げる。その際に見たアストルフォの顔は喜色に満ちている。俺が膝枕してもらっていたことを含んでも遮二無二飛んでいかなかったあたり学習したのだろう。理性と一緒に先ほどの話の事が蒸発してなくてよかった。

 

「言っても構わん。あれのステータスはお前とほぼ同等だ。それにあのタイプ、一度応じなかったら今後も是が非でも手を結ばないだろう。ただし――」

「ただし?」

「――真名を喋らない。宝具を勝手に使わない。迂闊に前に出ない。守れるか」

「うん、守ってみせるよ!」

 

 見せる笑顔はやはり花のように美しい。容姿は変わってないのにこれだ、色男というのも納得だ。今は女だから……色女?

 

「それなんか娼婦みたいで嫌だ」 

「俺も同じこと思った」

 

 とりあえずしばし様子見をしていたら……赤いマントに騎士鎧を着たセイバー? が銀髪美女と共に現れたので俺たちも出る。正直誰も出なかったら出る気は無かったが現れた以上はしょうがない。クレーンの先からコンテナへ、コンテナからコンテナへと移り五人――バーサーカーとセイバーのマスターを加えて。姿を見せてないのはバーサーカーのマスターも一緒だが、アーチャーのマスターはいないだろう――の前に姿を見せる。

 感想はやはりそれぞれ違う。アーチャーは期待はずれなのか不機嫌そうに鼻を鳴らすし、セイバー自身は首を傾げて、そのマスターはあら、といった感じだ。おそらく英霊にしては可愛らしい、と思ったのだろう。まったく、気が合うな。ちょうど対面するように立つ銀髪の美女に携帯を出しながら近づいていく。

 

「そちらの美しいお嬢様、よろしければ電話番号でも交換しませんか?」

「「(うわっ、速攻口説きに行った! 逆にすごい!)」」

 

 うるさいライダー、セイバー。

 

「えっと、ごめんなさい。私は既に夫がいるので……」

 

 あくまでやんわり、しかし明確な拒絶を示してくる。やはり淑女とはこうあるべきだね。

 

「(いや、その人携帯使えないから)」

 

 だからセイバーうるさい。

 

「それは失礼した。では代わりにお名前を教えていただけないでしょうか。私はシンヴェル。シンヴェル・ストルフォス・クラムベルクです」

「それなら。私はアイリスフィール、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。アインツベルンのマスターです」

「へぇ、アインツベルンの……」

 

 意外といえば意外だ。資料には九年ほど前にアインツベルンへ渡った魔術師殺し(メイガス・マーダー)がマスターの可能性が高い、と報告を受けていたし、俺もあり得るかと思ったが……。まあ何にしろ、令呪を見るまで確定とは言えんが。

 ちょっと失敗したかな。紳士らしく手の甲にキスでもすれば確認できたな。

 

「戦場で敵の女口説くって、ロマンはあると思うけど実際にやってるのみるとすごいよな。悪い意味で」

「ボクも友人が似たようなことやったけど、あの時は帰還命令無視するし、全裸で街へ繰り出すしで大変だったよ。でも正直こっちの方が大変……」

「うわぁ……ご愁傷様だなそりゃ」

 

 ていうかお前ら意気投合しすぎだろ。この短時間で何があった。

 

「ふん、残る一人は帰ったか。英霊にも値せぬ臆病者め」

 

 そしてスルーのアーチャー。バーサーカー? ああなんか冬眠中の熊みたいに寝転がってるよ。少し離れた倉庫の屋根のところでなんか怒鳴り声が聞こえる。おそらくバーサーカーのマスターだろう。なんかすごい聞き覚えがあるんだけど……ケイネスかな?

 本当にあいつなら拠点は豪華な場所だろうし、あとで足取り追って会いに行くとしよう、あとついでに夜食を奢って貰うか。

などと考えていたら――。

 

『誰が臆病者だゴラァ!! 死んで償えこの糞センスが!!』

 

 突如アーチャーの背後に現れた銀髪の男が剣を振り下ろす。それは柄が黄金で、どこか聖なる光を放っていたが……持ち手の所為でなんかいろいろ台無しである。だが俺はそんなことより、その男が着ていた鎧がアストルフォの物にどこか酷似していたことが気になった。

 

「――このぉ! 愚民がぁ!」

 

 霊体化を解くよりも早く罵倒していた為アーチャーはなんとか避け、反転して一気に三矢放つが、男の持つ剣が難なくそれを切り伏せる。あの技量、あちらがセイバーと見たほうがいいだろうか。ならばアイリスフィールのサーヴァントはランサーかな。

 

「貴様……楽に死ねると思うなよ……愚民ッ!!」

「こっちのセリフだこのバカが! こいつで切り刻んでやるよ!」

 

 相対して五秒と経っていないにも拘らず、一気に険悪になる二人。いつの間にかバーサーカーは消えている、霊体化させたのだろう。霊体化する際には隙が生まれるし、良い判断だと素直に思う。

 

「この距離は危なそうだな。少し下がったほうがよさそうだ」

「ええ……」

 

 マスターの俺たちは被害が届かない場所まで下がる。ランサーはアイリスフィールに被害が来ない様、前に立ち己を暴風に晒す。アストルフォは俺よりも身長が小さいので同じようなことは出来ないので隣に立つ。

 

「(ねえ、シン)」

 

 アーチャーたちの戦闘が本格的に開始されて数秒くらいしてアストルフォがこちらに念話をしてきた。この実体化を好むお調子者がわざわざ口ではなく思考で語りかけた来た事には意外だ。

 

「(お前が念話とは意外だな。なんだ?)」

 

 これから話すことはよほど重要なのだろうか。このタイミングで話しかけてきたことを考えるとセイバーのことで間違いはないだろう。

 

「(ボク、あのセイバーの真名知ってるよ)」

「(何っ!)」

 

 自制をかけてポーカーフェイスを何とか保つ。真名とはそれほど驚愕に値することなのだ。アイリスフィール――いや、アインツベルンにばれない様に自身の対魔力を強化する。アストルフォには『魔法万能攻略書(ルナブレイクマニュアル)』があるから大丈夫。

 

「(でかしたぞ! それで、セイバーの真名は!?)」

「(真名は……その……)」

 

 少し口籠らせて、

 

「(ローラン。ボク達シャルルマーニュ十二勇士の筆頭……)」

「(……何?)」

 

 まさか、生前の知り合いだとは思わなかった。

 

 

 ※※※

 

 

<サーヴァント>一部項目解放

 

【CLASS】セイバー

【マスター】?

【真名】ローラン

【性別】男性

【身長・体重】182cm・81kg

【属性】混沌・善

【ステータス】筋力:A 耐久:A 敏捷:B 魔力:C 幸運:B 宝具:?

【クラス別スキル】

[対魔力]:A

A以下の魔術は全てキャンセル。

事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。

 

[騎乗]:B

騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、

魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

 

【固有スキル】

[激情]:C

ある条件下で一時的に狂化と同等の効果を発揮する。

知性を失いやすく程度の低い挑発にも乗ってしまい、奇想天外な行動をとる。

有り体に言ってしまえばすぐキレる。

狂化した際、真名が“?”に変化し様々なランクに変化が生じる。

 

[勇猛]:B

威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。

また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

 

【CLASS】アーチャー

【マスター】?

【真名】?

【性別】男

【身長・体重】173cm・73kg

【属性】混沌・悪

【ステータス】筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:A 幸運:C 宝具:?

【クラス別スキル】

[単独行動]:A

マスター不在でも行動できる。

ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。

 

[対魔力]:B

魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。

大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

 

【固有スキル】

[狩人の直感]:B

直感と同等のスキル。

戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。

敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。

相手が[野生の本能]を持つ場合、1ランクアップする。

 

【CLASS】ランサー

【マスター】アイリスフィール?

【真名】?

【性別】男

【身長・体重】190cm・88kg

【属性】秩序・善

【ステータス】筋力:B 耐久:A 敏捷:B 魔力:B 幸運:E 宝具:?

【クラス別スキル】

[対魔力]:C

第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。

大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

 

【固有スキル】

[心眼(真)]:B

修行・鍛錬によって培った洞察力。

窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。

逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

 

[戦闘続行]:B

瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

 

【CLASS】バーサーカー

【マスター】?

【真名】?

【性別】男

【身長・体重】229cm・205kg

【属性】混沌・狂

【ステータス】筋力:A+ 耐久:A+ 敏捷:A+ 魔力:B 幸運:B 宝具:?

【クラス別スキル】

[狂化]:EX

全てのパラメータを2ランクアップさせるが大半の理性を失いマスターの命令も聞かず、令呪すらも無視する可能性がある。

?は?の?となった英霊の為、最高峰のランクを持つ。

 

【固有スキル】

[野生の本能]:B

自然界に生きる獣に近い危機管理能力と生存本能。

闘争の気配がある地点を瞬時に察知する。

また、相手の攻撃に対して回避判定を得る。

 

[勇猛]:A

威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。

また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

ただし、現在は狂化している為、能力を発揮できない。

 

 




>女性にした所為か一段階下がったから
分類:サーヴァント
実際に下がるかどうかは不明。そんなことは慎二でもしないだろうし。ただ男から女になるんだから、多少動きが変になったりはすると思う。

大食い連合
分類:冬木市
大食いや激辛&激甘などチャレンジ的な食べ物を行う店の連合。この手の組合が超大食いに遭遇した場合は参加を拒否するかとことんやり続けるかの二択である。冬木市の場合は後者である。


セイバーが怪我した時アイリスフィールが治癒掛けてたし、魔術攻略本も支援系は防がないと思う。

あと、今回書かれたスキルはあくまで一部であってすべてではありません。特にアーチャー、結構ありますよアイツ。


 おまけ 元セイバーステータス

【CLASS】セイバー
【マスター】誰もいませんよ……?
【真名】スヴァフルフラーメ
【性別】男
【身長・体重】191cm・89kg
【属性】混沌・中庸
【ステータス】筋力:A 耐久:B 敏捷:C 魔力:B 幸運:D 宝具:A+
【クラス別スキル】
[対魔力]:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

[騎乗]:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。

【固有スキル】
[カリスマ]:B
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。

[神性]:A
オーディンの血を引くスヴァフルラーメは最高の神性を誇る。

[呪い]:A
ティルフィングの毒を浴びる彼にはティルフィングのランク以下の呪いを受けず、精神干渉魔術を安全にシャットアウトする。

【宝具】
『勝利と破滅をもたらす黄金の剣』ティルフィング
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大補足:1人
祝福と呪いの剣。スヴァフルラーメが二人の小人に作らせた『黄金の柄で』『錆びることもなく』『鉄をも容易く切り裂き、』『狙ったものは外さない』剣であり、持ち主の筋力、耐久、敏捷をワンランク上げる。
さらに三回のみだが『劣勢にある時、優劣を逆転させる』という能力を備えている。この能力は己が劣勢にあればあるほど強力になる。
しかし同時にこの宝具は『剣が鞘から抜かれるたびに必ず誰かの命を奪わなければならず』『三度宝具を使用したら持ち主に破滅が訪れる』という呪いがかかっている。
ティルフィングの呪いはいかなるすべを以てしても回避は不可能である。

性格:勝利厨

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