俺とアストルフォの第四次聖杯戦争   作:裸エプロン閣下

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まずは謝罪を。すごく遅れました、ごめんなさい。
理由はあとがきで語ります。


死んじゃえよクソ野郎 byケイネス

 

「ソラウ、私は鼠に誅を下してくるよ」

 

 そう言い自信満々に月霊(ヴォールメン)髄液(ハイドラグラム)が入った水瓶を片手で持ち――重力軽減を掛けているからであってケイネスが力持ちなわけではない。ちなみに純粋な重さは百四十キロ近くある――入り口でこちらに一度翻る。

 

「心配などいらないよ。この私が化学などという下賤な物を扱う輩に負けるとでも?」

 

 こちらとしては目で罵倒の意をこれ以上ないくらい込めて語ってみたのだが、やはりケイネスは自分の都合のいい様に解釈してしまう。生まれてからこれまで失敗も間違いもない人生だったし、多少は大目に見て来たがここまで来るとあきれ果ててしまう。

 

「では行ってくるよ」

「ウン、イッテラッシャイー」

 

 呆れすぎて棒読みになってしまったがどうも上機嫌なケイネスは気づいていないのか、それともそれすらも好意的に解釈したのか分からないが気にすることなく行ってしまった。

 とりあえず、見えなくなったところでシンヴェルに連絡しようと私は携帯を手に取った。魔術師は色々言うが、やっぱり便利だと思う。

 

 

 ※※※

 

 

「…………むぅ」

 

 寝ている最中、着メロが寝室に響き渡る。音量は大したものではないが五感がそれなりに鋭い俺からすれば深い微睡から引きずり出すには十分だろう。

 

「はいはい……」

 

 本音を言えばもう少し寝ていたいが無視するのもあれだ。

 俺はヨーロッパ全土を動き回るのでナンパで番号を教えることはないし、魔術師関係の知り合いは大半が電話事態そもそも使わないため、俺の電話番号を知っている人間は極小である。欠伸をこぼしながら携帯を手に取る。

 

「はい、もしもし?」

『ケイネスが死亡フラグ建てたから助けてあげて』

「…………寝起きに唐突だなオイ」

 

 寝ぼけ眼の状態にこの一言は反応に困る。欠伸をこぼしながらだが、内容が無いようなので真面目に聞く。

 

『寝起きって……もう十一時前よ……』

「……時差だな」

 

 どおりで昨日抱いたアストルフォがいないわけだ。聖杯戦争で夜中も動き回るとはいえもう少し早く起きたい。まあ、昼を越えなかっただけましだと思おう。とりあえず時間も時間だし、さっさと着替えを始める。

 

「で、場所どこよ?」

『…………ガンバレ』

 

 そう言い電話が切れた。

 ……ガンバレ、ってお前、何をどう頑張ればいいんだよ。

 あまりにも投げやり過ぎる返事にため息をこぼしつつ着替えを終えて居間へ行く。居間のテレビにはもはや定番となりつつある昼ドラが流れており、それを眺めているアストルフォがいた。

 

「早速だが外行くぞ」

「はいはーい」

 

 自分でも突拍子もない発言だと思うがアストルフォは四の五の言わずにテレビを消してこちらへやって来る。どうも昼ドラは退屈しのぎで見ていただけらしい。ケイネスの件が終わったら本でも買って行こうと思いながら居間から玄関へ、そして玄関から外へ移った。

 外は冬だというのに暖かい風が吹いており、その陽気さに誘われたためか昨日までに比べると町を歩く人は多い。

 

「今日は何時もより早めに飯を食うぞ。何がいい?」

「いいの? それじゃあ朝ニュースでやってた寿司ってのが食べたい」

「寿司か。いいぞー」

 

 腹が減っては戦はできない。俺は結構カロリーを消費する人間で、飯を抜いたまま闘ったところで全力など出しきれない。それでも大抵の連中に負けることはないが小さな油断が命取りになりかねないのが戦争だ。それにケイネスが拠点を出たのがソラウが連絡してくる数秒あるいは数分前だ。さすがに数分で死亡などというバカな真似はしないだろう。

 

 

 ※※※

 

 

「ふむ……ここならちょうどいいだろう」

 

 拠点を出てから一時間ほど、人気のない一角の廃工場へ入りそう呟く。傍の蛇口を捻ると水が出た。ライフラインが通っているところからつい最近まで使われていたことを察する。それにさしたる疑問も覚えず見渡しのいい上階へ移動し、邪魔が入らない様念のため周囲一帯を覆う様に結界を張る。

 

 誰にも横槍を入れられることなく鮮やかに勝利してみせる、それが科学に手を染めた落伍者に対するケイネスの註罰。

 

 それはあまりにも相手を侮り過ぎている。

そのような愚は戦争、闘争を生業とするシンヴェルに衛宮切嗣。言峰綺礼や劣っていると自覚し始めたウェイバー、そして余裕がそもそもない間桐雁夜も決してしないミス。残る遠坂時臣も既に散々な目に会ったため戦争の本質を知り油断が徐々に薄れてきている。

 つまり未だにそんな甘い考えを持っているのはケイネスただ一人である。

 

「こんな物に頼った己の浅慮を悔いるのだな」

 

 そう言い手で弄ぶように持っていた発信器を投げ捨てるように落とし、月霊(ヴォールメン)髄液(ハイドラグラム)がそれを素早く解体する。

 

 そうして早速結界が何者かの接近を感知する。人数は二人、この場に来る理由を持つ魔術師など発信器を仕掛けた者しかいない。一番可能性が高かったのは自身の家にダイナマイトを仕掛け罠としたアサシンだが暗殺者なら態々姿を現すはずが無い。あと考えられるのはランサーかアーチャーのどちらかである。しかしケイネスにはどちらが相手でも負ける気はしなかった。

 

 ――化学などという下賤な物に手を染めた恥知らずに、私が負けるはずが無い。

 

「行け、バーサーカー」

 

 相手が入口へ近づくと同時に傍に侍るバーサーカーに命を下し、自身は動かない。元より語り合う気は無かった。ソラウに言った通り決闘ではなく誅を、鉄槌を下す訳であり、なればこそ語り合う気湧かなかった。聞くとしたら相手の後悔くらいだろう。

 

 闘争が始まったのを気配で察し、入り口から響き渡る激闘を感じ取る――――最中、突如として傍らの月霊髄液が主を守ろうと自律防御により最適な形状へと変形、飛来し狙撃弾を扇状の水銀が防ぐ。

 

(な――!? 結界の反応はおろか、魔術的な反応も無かったぞ!?)

 

 水銀が視界を塞ぐよう、扇状に広がっているため飛来した物体を把握できず、また銃声がなかったためそれが単なる狙撃だという事に即座に気付かず酷く狼狽する。そして相手は冷静さを取り戻す隙を与えるような人物ではなかった。

 

 

 バリン――と派手な音を立てて窓が砕かれ、そこから排気音を響かせながらバイクと、それに跨る魔術師殺し・衛宮切嗣がやって来る。

 この廃工場の周辺は建物が多く、それなりの速度でバイクを走らせば技量次第で入ることも可能だろうし、ケイネスの結界は区画に沿う様に張られ、なおかつ狼狽していたこともあり猛スピードで駆けるバイクを素早く察することが出来なかった。

 

 それでも――向けられるもの、『キャリコM950』がどういう物で、それを誰に向けているのかを察し、

 

 

 

月  霊、(ヴォールメンッ)髄  液(ハイドラグラム)ッ!」

 

 

 

 即座に防御を命じた。自律防御で既に適した形状へと変形を果たしていた彼の礼装は主の期待を裏切ることなく迫る凶弾をはじき落とし、素早く攻勢に転じて見せる。

 

Time alter(固有時制御)――double accel(二倍速)!』

 

 しかし相手も生半可な相手ではない。水銀の接近を視認、バイクから跳び両手で天井を押し上げるようにし、反動を利用しすぐさま着地。距離を取り再びキャリコの引き金を引き絞る。なおこのキャリコ、舞弥が所持していたものだ。

 

「小賢しい――二度も同じ手が通ると思うなよっ!」

 

 最初の狙撃と現在の斉射は全く違うのだがケイネスにはどちらも『低俗な行動』ということで一括りにされている。

 バイクを熱したナイフでバターを裂くが如く容易く切り伏せながら月霊髄液が難なく銃弾を防御する。五メートルほど先の切嗣に向けて攻撃を指示したところで間にあったバイクが炎上し、同時に二つの手榴弾が投げ込まれる。

 見たことはあれど対処の仕方を知らぬケイネスは水銀を膜のような形状へと変形させ手榴弾の爆風を防ぐ。その際通路が崩壊し、浮遊感がケイネスを襲うが水銀がすかさず六脚へと変形し主の落下を防ぐ。

 爆風が消えると同時に水銀の防御を解除し周囲を見渡す。爆撃でホテルを破壊した犯人だとあたりを着け、苛立ちを隠そうとしないケイネスが下の通路にいる切嗣を見つけ嫌悪感を隠そうともせず睨みつける。

 

「汚らわしいドブネズミめ。のこのこ私の前に出るとは……覚悟はいいな」

「覚悟? それを決めるのは僕じゃあない」

 

 ケイネスを見上げる切嗣は一瞬顔に嘲笑を浮かべ、鼻を鳴らす。

 

「――覚悟するのはこの後無様な姿を晒す時計塔の神童様だよ」

 

 片手間で十分と言わんばかりに懐から煙草を取り出し火を点ける。さすがに口を付ける様子はないが、元々沸点が低く、さらに苛立っていた状態のケイネスは即座に怒りで顔を赤く染め、

 

「私を誰だか知っていながらそこまで侮辱するか――もはや貴様には死すら許さん!」

 

 一方的な蹂躙を開始した。

 

 

 ※※※

 

 

 ――時は少々遡る。

 

 

 ※※※

 

 

「――待て、」

「え?」

 

 俺の独白に寿司(海老)を食べているアストルフォの手と口が止まるが気にしない。

 寿司(玉子)を口にしてふと思った。ケイネスは発信器でおびき寄せるつもりなのだろう。そこは別にいいし、人気のない区画だと言えどさすがにこう、何度も爆破は無理だし、常道的な方法だろう。

 

 

 

 

 しかし――ケイネス(あいつ)、発信器を拠点まで持って行っていないだろうな。

 

 

 

 

 考えた瞬間、ぶわっと嫌な汗が全身から噴き出る。寿司を一気にかっくらい茶と共に喉へ押し込む。それなりに美味しいものなのだが味わう余裕が無い。

 

「嫌、待て待て待て……あいつとてバカではない。発信器をそのまま拠点に持ち帰るわけが……」

 

 いかん、絶対とは言えない。手を拭い即座に携帯を取り出してソラウへ連絡を取る。万が一あいつが持ち帰っていたとしたら一番に危ないのは魔力供給を行っているソラウだ。

発信器を餌にさせてソラウからケイネスとバーサーカーを引き離し、ソラウが討たれればバーサーカーは消滅、そしてサーヴァントを持たないマスターなど一捻りだ。

 

コール音が異様に長く、あるいは遅く感じる。

 

「何? ケイネス見つかった?」

 

 ソラウは八回目のコールでようやく無事だと確信する。一先ず溜めていた息を吐きだし、問いを投げる。

 

「発信器か分からないけど何か持ち込んでたわね。結構小さなもの」

 

 ……やっぱりしてたよあの大馬鹿。

 苛立ちのあまりケータイの外装に皹を入れた後、居場所を聞いてすぐさま俺は駆ける。

 勘定は――一万円札を置いて立ち去る。明らかに足りないだろうが、しょうがない。

 

 

 ※※※

 

 

 人工の暴風が走る廃工場の手前。辺りはまるで爆撃を受けたかのような荒れっぷりとなっていた。その場にいるのは台風の目のバーサーカー、それを受け流すランサーとそのマスター・アイリスフィール。

 

「……向こうでも始まったみたいね」

「だな、しかし、おっとっと……戦闘しながらでもバーサーカーを、動かせるとは驚きだよ」

「ええ、本当に。これが時計塔のロード、神童エルメロイの実力ってことね」

「しかも同じ時計塔講師のロードがもう一人いるんだろう? 嫌になって来るぜ」

 

 そう言いながらランサーはバーサーカーの凶拳を受け流し腕に剣を突き刺す。あまりにも分厚すぎる筋肉に阻まれ有効打とは言えないが元々バーサーカー自体を打倒する気のないランサーからすればむしろ剣が抜けなくなるよりましな結果だった。

 

「まあ、向こうはライダー。直接戦闘には向いてないし、これよかマシかな」

「……だといいけど。ところで、大丈夫なの?」

 

 会話だけではなく、時折こちらの顔色を覗うようにこちらを見るランサー。戦闘最中のよそ事に少々不安になるアイリスフィール。相手を舐めているわけでは無いのは分かるのだが……。

 

「今回は長く保たせるだけだしな。それに狂化した相手との戦い方はセイバーとの時で学んだ」

 

 などと言うがセイバーとバーサーカーでは全然違う。戦闘方法はもちろん、ランクも何もかも。しかしそのような事些細な問題だ、と言わんばかりに防いでいく。

 彼の宝具はあくまで大威力なだけ、スキルに到るまで磨き上げた技量こそがランサーにとって一番の切り札なのである。

 

「しかし……解せねえな」

「え……何が?」

「段々、力が強くなっている気がする」

「強く……? どういうこと?」

「そのまんまだよ。傷つけば傷つくほどに力が固さが速さが増す。明らかにおかしい」

 

 英霊はどれだけ力を持とうとそれを支えるマスターの魔力が無ければその力をふるえない。そして傷つけば傷つくほど、傷を治すためにマスターの魔力消費は増えていき、段々と戦闘に回す魔力は減っていく。そうでなくとも、大なり小なり、傷がつけば動きは少しずつ変わる。悪いほうに。

 

「訳が分かんねえな……。俺たち(えいれい)の戦いで出し惜しみなんぞ命取りでしかねえってのに……」

「もしかしたら、スキルか宝具の効果じゃないの?」

「妥当な判断だよなー……。こりゃあ切嗣に期待するか」

 

 

 ※※※

 

 

「猪口才な……逃げ隠れても無駄だという事が分からないかね?」

 

 声を張り上げ周囲一帯に響かせることで威圧感を与えようとしているであろうケイネスを尻目に、切嗣は焦る様子もなく、曲がり角の先の通路の真ん中で穏やかな動きをもってキャリコの弾倉を取り換える。切嗣は既に月霊髄液の自律探索が視覚、嗅覚、味覚以外――すなわち触覚か聴覚、あるいはその両方でこちらの位置を察知していること、そして自律攻撃が熱源が高いものを優先して狙う傾向があることも察している。無論、時と場合によるが、ケイネスが手動で指示しているとき以外は問題ない。

 

(一番良いのは三倍停滞で月霊髄液(やつ)を誤魔化してケイネスに仕掛けることだが……)

 

 つい昨日、言峰綺礼との戦いで三倍速を使ったため今はなるべく使いたくない方法だ。それに起源弾も数が限られているため、無駄撃ちはしたくない。といっても、聖杯に願いを叶えてもらえば起源弾など使う機会はないが……。

 

(起源弾の残弾は残り二十九発、数は問題じゃない。向こうが僕と舞弥みたいに、ある条件下で相手の居場所を察することが出来るのならば情報はなるべく漏らしたくない。特に向こうには存在科の講師がいるんだからな……)

 

 物質――概念の類にも有効だが――の存在を解明するという意味では存在科の講師たるシンヴェルを上回る魔術師はこの世にはいない。万が一知れたら起源弾はもう使えないだろう。

 

 もし自分以外に残るとしたらそれはシンヴェルか言峰綺礼のどちらかだと既に切嗣は予測している。魔術師としての腕ならばケイネス、遠坂時臣の両名の方が格上ではあるが、そもそも聖杯戦争は魔術師が腕を競うための物ではない。故にこの両名は切り捨てていい。間桐、外来の二人もサーヴァントの実力を考えると残るのは厳しい。

 

 故に起源弾は言峰が生きている限り遠坂に使うつもりはないし、ケイネスにもシンヴェルが生きている限りは使うつもりはない。

 

 現在の切嗣では綺礼、シンヴェルのどちらにも勝つことはできない。相手は素で銃弾を見切れる連中だ。四……いや五倍速に達すればば勝機は見いだせるがその後の命の保証はない。賭けるにしても些か分が悪すぎる。そんな人外連中を殺すのに一番いい方法は起源弾による奇襲で防御せざるを得ない状況に追い込むことだ。さすがにコンテンダーの銃弾は素手では止められないことは言峰綺礼の反応で確認済み、そして弾く、あるいは逸らすために魔術を使えば起源弾は魔術回路を完膚なきまでに破壊、相手は十中八九死に至る。仮に魔術を使用しない、あるいは死に至るほどではなかったにしろ勝機を見出すには十分すぎる。

 

「だから、こんなところで躓いていられない」

 

 曲がり角をほぼ直角に曲がってきた六脚の水銀とその上に立つケイネスがこちらへかなりの速さで迫ってくる。キャリコを掃射し再び距離を取る。

 

「逃がすかっ!」

 

 主の意志を代弁して六脚の水銀が足首を切り落とさんと襲い掛かるが、あまりに単調な動き。軽やかな跳躍でいともたやすく躱し発煙筒を投げる。

 

「小賢しい。私の月霊髄液にこんなものが効くと――」

 

ケイネスは風と水の二重属性、風を起こすことなど容易い。そしてそもそも視覚を持たない月霊髄液。一見すれば切嗣の行動は全く意味のないものだ。即座に月霊髄液に防御を任せ煙を晴らそうとして。

 

「――ヌグゥ!!」

 

 その際に掲げた右腕を撃ちぬかれた。ケイネスにとっては信じられないことに、月霊髄液の守りも突破してだ。

 

「グ、フゥ……。おのれぇ……っ!!」

 

 銃弾で貫かれた右腕に治癒の魔術を掛け痛みを紛らわし即座に月霊髄液に攻撃を命令するが既に切嗣は逃げており、八つ当たり気味に周囲を切り裂いただけだった。

 

「魔術を競い合う事も出来ぬ下等種風情が……もはや塵も残さん……っ!!」

 

 右腕の傷を憎々しげに睨み、歯を砕かんばかりに噛み締め吠える。

 

 

 ※※※

 

 

「……退屈だわ。本は聖書しかないし、テレビはつまんない。携帯は話す相手がいない……」

 

 借りの拠点に使っている安宿――ケイネスからすれば――には娯楽になる物が碌になく、おまけにバーサーカーへの魔力供給で立ち歩くこともままならず、寝そべっていた。

 

(外に出たいけど危険だし……シンに何か頼もうかしら)

 

 居場所を聞いたという事はそう言う事だろう。発信器とやらを知らないソラウだが名前からある程度の想像はつく。というか、そんなあからさまな名称の物を軽々しく持ち込むようなケイネスの精神を疑う。シンが居なければ多分一番最初に脱落していたのではないだろうか。

 ……断固として断るべきだった、と今更ながらに思うソラウ。

 

『すみません』

 

 気が沈み半ば本気で帰ろうかと思案していると部屋と廊下を仕切るドア(鍵付)がノックされ、感情を抑えた声が響く。昼を少し過ぎた微妙な時間帯であることに疑問を覚えつつも這うようにドアの方向へ向かい――動きを止めた。

 ケイネスが発信器を持ち込んでいる以上、ここに自分がいるというのはバレてもおかしくないだろう。だとしたらこのドアの先にいる者は敵ではないのだろうか。相手はホテルごと自分たちを始末しようとしたほどだ。実際戦う事のない自分を殺しに来てもおかしくない。むしろ、人質として使うのではないか。

 

 そう思うと途端に身体が震え、ドアの先が恐ろしく感じた。幸い返事はしていない。寝たふりでやりすごそうと震えを必死に抑えてギュッと瞳を閉じる。ドアの先からカチカチ、コツコツとありきたりな物音が、人の営みの音が聞こえてくる。普段は気にすることのないそんな些細なことにまですこし過剰な反応をしてしまう。床を伝って激しく脈打つ心音すら聞こえてしまわないか不安になってくる。

 

 瞳を閉じて震えること数十秒、居ないと悟ったのか遠ざかっていく靴音が耳に入る。

 完全に聞こえなくなったところで溜めていた息を吐きだし、緊張で固まっていた身体もほぐされていく。

 

「でも結局誰だったのかしら……? ルームサービスなんて頼んでないし……」

 

 魔力供給で碌に動けない体を振える両手足で起こしドアの前まで近づき、もう一度耳を澄まして完全にいなくなったかを探る。その手の業は何一つ持っていないソラウは物音程度でしか判断できない。人が完全にいないことを確認してドアを開ける。

 

「――あ」

 

 その直後、激しい衝撃を受けて気を失うこととなった。

 

 




もう一度言います。ごめんなさい。
遅れた理由ですが、ゲームやっていたことはもちろんですが、今年から受験生ですので今まで以上に執筆の時間が圧迫されることになりました。
特に私は推薦受験なので、小論文の講座やら模試の受験など、様々なものを受けなければならなくなりました。

これからもこんなペースになりますが、投げ出すつもりはないので今後ともよろしくお願いします。

タイトル名元ネタ
7話:今際の国のアリス
8話:はたまたドリフターズ
9話:エアマスター
10話:連続エアマスター
11話:魔法少女まどかまぎか
12話:進撃の巨人。アニメ化おめでとう。

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